TRIP REPORT

TOKYO ONSEN HIKING #12 | 高川山・泰安温泉

2021.06.16
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TRAILS編集部crewの根津による『TOKYO ONSEN HIKING』、第12回目。

今回の温泉は、山梨県は都留市 (つるし) にある『泰安 (たいあん) 温泉』。

温泉という名前はついているが、明治時代から地元の人に親しまれてきた、歴史ある「銭湯」だ。


スタート地点の田野倉駅と登山口の間にある桂川。

TOKYO ONSEN HIKINGのルールはこれ。

① TRAILS編集部 (日本橋) からデイ・ハイキングできる場所
② 試してみたいUL (※1) ギアを持っていく (※2)
③ 温泉は渋めの山あいの温泉宿がメイン (スーパー銭湯に非ず)

都留市というと、南側の道志エリアにある山々がメジャーだが、今回はあえて北側の山域に足を運んでみることにした。

高川山 (標高976m) は、秀麗富嶽十二景にも選ばれているため、絶景も期待できるに違いない。


富士急行線に乗って、富士山には行かずに途中下車。


今回乗車する「富士急行線」は、大月〜河口湖をむすぶ路線だ。僕もこれまで何度も利用したことがあるが、富士山目当てのことが多く、途中下車することはほとんどなかった。

ある意味、このエリアは僕にとっての空白地帯でもあり、いつか訪れてみたいと密かに思っていたのだ。


田野倉駅〜泰安温泉までのコースタイムは、約5時間20分。高川山から近ヶ坂峠 (ちがさかとうげ) までは、ほとんどが破線ルートで、道も不明瞭なので要注意。


富士急行線「田野倉駅」。駅前に自販機あり。歩いて10分のところにコンビニもある。

ちょうどいい山と温泉はないものだろうか……といろいろ調べてみて見つけたのが、高川山と泰安温泉だった。

スタートは、田野倉駅。下車する人はまばらで、僕のほかはジャージ姿の小学生か中学生が2〜3人いたくらいだった。

桂川をわたり、中央高速道路をくぐり、30分ほどで登山口へとたどり着いた。


中央自動車道をくぐる。なんだかアメリカのトレイルのよう。


そよ風が吹き抜ける尾根を、つたうように歩いていく。


登山道に入るとしばらくは上り坂だ。勾配もそこそこあり、つづら折りになっているところもある。

今朝の天気予報によると、今日の予想最高気温は30℃だ。へばってしまわないように、つとめてゆっくり歩くようにした。


登山口からは鬱蒼とした樹林帯がはじまる。

ふと前方を見やると、巨大な岩が鎮座していた。岩場でもないのになぜかここにだけ巨岩がある。看板には、弁慶岩とだけ書かれていた。

突如として現れる、巨大な弁慶岩。

さらに進むと、また巨岩が見えてきた。岩の下には観音様の石仏が数体立ち並んでいる。端っこの石碑には馬頭観音と彫られていた。昔から使用されていた道なのか信仰の道なのかはわからないが、この道はただの登山道ではないのかもしれない。


馬頭観音に手を合わせて、安全祈願。

馬頭観音を過ぎると、尾根に出た。

歩いていると、サーッサササーーッという葉擦れの音が聴こえてくる。普段、気にもとめないような、この柔らかで不規則な音が、ことのほか気持ちよく感じられた。

風が通り抜ける尾根道だからこそ味わえるBGM。新緑も美しかったが、僕は景色以上に、このそよ風が作りだしている空間に心地よさを感じていた。


高川山へとつづくこの尾根道こそが、今回のハイライト。


ミニマムなULギアのセットで、お手軽ランチ。


高川山の山頂は、これまでの樹林帯からは想像できないほどの展望で、360度のパノラマが広がっていた。

山頂でランチをとろうと思ってはいたものの、ハンモックに適した木がなく、陽射しも強かったので、もうちょっと進むことにした。


高川山 (標高976m) の山頂からの眺め。残念ながら、正面に見えるはずの富士山は雲で覆われていた。

ほどなくしてちょうどいいスポットがあったので、ランチをとることに。真夏日ということもあり、僕は、サクッと食べてハンモックで昼寝! と決めていた。

今回は手の込んだ料理はせずお湯をわかすだけ、そう思ってクッカーとストーブはミニマムなセットにした。

クッキングギアは、すべてEVERNEWのもの。クッカーはTi 570Cup、ストーブはTi Alcohol Stove、五徳はチタン十字ゴトク。

クッカーは、『EVERNEW / Ti 570Cup』(エバニュー / チタン570カップ)。無駄を排除したフタ無しのULクッカーで、重量は55g。

ストーブは、『EVERNEW / Ti Alcohol Stove』(エバニュー / チタンアルコールストーブ)。中央部と側面の両方から炎がでる高火力モデルで、重量は34g。エバニューで統一したことで、相性も抜群だった。

ストーブはシンプルな構造ながら火力が強く、五徳を組み合わせると、大きめのポットにも対応できる。

食事のあとは昼寝タイム。今回使用したハンモックは、『COCOON / Ultralight Hammock』 (コクーン / ウルトラライト・ハンモック)。

重量が240gと軽量ながら、全長が325cmと長く、幅も148cmと少し広めなので、寝たときにゆとりがあるのがいい。僕はサイドスリーパーなのだが、横向きになってもこのハンモックは圧迫感がなく快適なのがうれしい。


COCOONのUltralight Hammockは、リッジラインが付いているのも特徴。今回は、手ぬぐいとキャップをかけておいた。

あとは温泉まで下山するのみ。とはいえ、行程としてはあと2時間近くあるので、行動食として持ってきたTRAILS INNOVATION GARAGEのトレイルミックス『MYOM (Make Your Own Mix)』で、さらにチャージ。今回は、暑い日にピッタリのミネラル豊富なベリー系を中心にチョイスして持ってきた。

食欲をそそるドライフルーツをたくさん入れた『MYOM (Make Your Own Mix)』。


明治4年開業。地元の人に愛されている、憩いの場としての銭湯。


高川山からの下山ルートは、想像以上に不明瞭だった。山と高原地図 (昭文社) を見ると、高川山から近ヶ坂峠 (ちがさかとうげ) は破線ルート。特に、向峠から近ヶ坂峠の区間は倒木やザレ場もあるので、体力や地図読みに自信のない人は、無理して突っ込まないほうがいいだろう。

一方で、下り基調の尾根歩きは気持ちよく、歩きごたえもあるので、ある程度の登山経験がある人にとっては、達成感が味わえる。


破線ルートの尾根を軽快に下っていく。

ラストの近ヶ坂往還は、江戸時代に、絹の道として甲府と谷村 (やむら) を結ぶ交易の道として栄えたそうだ。当時、辺りには霊泉が湧いていて、「近ヶ坂温泉」は湯治場としてもにぎわったという。

もしかして、泰安温泉はそれと関係があるのかも……そんなことを思いながら、温泉へと向かった。


富士急行線「谷村駅」から徒歩3分。


料金は大人430円。定休日は、第1・3月曜日。

4代目のご主人いわく、泰安温泉は明治4年開業とのこと。その昔、近くに泰安寺というお寺があり、それが名前の由来になっている。ちなみに現在、近ヶ坂温泉は源泉しか残っておらず、特に関係はないようだ。

1階に休憩室があるのだが、2階にはさらに大きな休憩室があり、ここでカラオケを楽しむことができる (現在はコロナのためあまり使用していないとのこと)。

隣接するお蕎麦屋さん「錦」(にしき) から出前もとれるそうで、メニューも置いてあった。いわゆるお風呂だけが目的の銭湯ではなく、ここでのんびり過ごすことができる場所なのだ。だからこそ、地元の人からも憩いの場として親しまれているのだろう。


2階の大広間ではカラオケを楽しむことができる。

もともと製材屋さんということもあり、お湯を薪 (まき) で沸かしているのも特徴のひとつ。薪で沸かすと、お湯が柔らかい、カラダの芯まで温まる、という人も多いそうで、これ目当てで来る人もいるのだとか。


泰安温泉こだわりの薪ボイラー。

僕も、薪で沸かしたお風呂にじっくり浸かった。隣には、生薬 (薬効を持つ植物の葉や茎、根を用いた薬) の入った薬湯もあり、何往復かしているうちに、1日の疲れがサーッと引いていった感じがした。


浴場は、こぢんまりとしていて落ち着く雰囲気。この隣に薬湯があり、神経痛や疲労回復などの効能があるとのこと。

次に来るときは、もっと早い時間からおじゃまして、出前も頼んでのんびり過ごしたいと思う。


下山後に目にした、田んぼに映る山々。

いい意味で銭湯らしくない銭湯というか、なんだか親戚の家みたいな印象を受けた。

ハイキング後にのんびりくつろぎたい、そんな人にはうってつけだ。

さて、次の『TOKYO ONSEN HIKING』はどこにしよう。

※1 UL:Ultralight (ウルトラライト) の略であり、Ultralight Hiking (ウルトラライトハイキング) のことを指すことも多い。ウルトラライトハイキングとは、数百km〜数千kmにおよぶロングトレイルをスルーハイク (ワンシーズンで一気に踏破すること) するハイカーによって、培われてきたスタイルであり手段。1954年、アパラチアン・トレイルをスルーハイクした (女性単独では初)、エマ・ゲイトウッド (エマおばあちゃん) がパイオニアとして知られる。そして1992年、レイ・ジャーディンが出版した『PCT Hiker Handbook』 (のちのBeyond Backpacking) によって、スタイルおよび方法論が確立され、大きなムーヴメントとなっていった。

※2 実は、TRAILS INNOVATION GARAGEのギャラリーには、アルコールストーブをはじめとしたULギアが所狭しとディスプレイされている。そのほとんどが、ULギアホリックの編集長・佐井の私物。「もともと使うためのものなんだし、せっかくだからデイ・ハイキングで使ってきてよ!」という彼のアイディアをきっかけにルール化した。

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WRITER
根津 貴央

根津 貴央

1976年、栃木県宇都宮市生まれ。幼少期から宇宙に興味を抱き、大学では物理学を専攻。卒業後、紆余曲折を経て広告業界に入り、12年弱コピーライター職に従事する。2012年に独立し、かねてより憧れていたアメリカのロングトレイル「パシフィック・クレスト・トレイル(PCT/総延長4,265km)」のスルーハイクのために渡米。約5カ月間歩きつづける。2014年には「アパラチアン・トレイル(AT/総延長3,500km)」の有名なイベント「Trail Days」に参加し、約260kmのセクションを歩く。同年より、グレート・ヒマラヤ・トレイル(GHT)を踏査する日本初のプロジェクト『GHT Project(www.facebook.com/ghtproject)』を仲間と共に推進中。2018年、TRAILSに正式加入。2024年よりTRAILSのHIKING FELLOWに就任。著書に『ロングトレイルはじめました。』(誠文堂新光社)、『TRAIL ANGEL』(TRAILS) がある。

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