TOKYO ONSEN HIKING #10 | 矢ノ音・陣谷温泉
TRAILS編集部crewの根津による『TOKYO ONSEN HIKING』、第10回目。
今回の温泉は、陣馬山のふもと、栃谷 (とちや) 集落にひっそりと佇む『陣谷温泉』。
陣馬山の「陣」と栃谷の「谷」をあわせたこの温泉は、きっとこの山域に根ざした温泉なのだろう。
相模湖駅から歩きはじめて20分くらいの地点から。相模湖や相模原の山々が見える。
TOKYO ONSEN HIKINGのルールはこれ。
① TRAILS編集部 (日本橋) からデイ・ハイキングできる場所
② 試してみたいUL (※1) ギアを持っていく (※2)
③ 温泉は渋めの山あいの温泉宿がメイン (スーパー銭湯に非ず)
この陣馬山一帯は、都心からアクセスが便利で、デイハイキングはもちろんトレイルランニングにも人気のエリアだ。
それもあって、ついついピストンで都心側に戻りがちだが、今回のように反対側に降りてみると、あらたな出会いが生まれる。こんなところに、こんな温泉があったのか! そんな驚きと発見に満ちたハイキングとなった。
神社の端っこから登山道がはじまる。
当初は、陣馬山経由で温泉に降りていくルートを、なんとなくイメージしていた。でも、この辺りを歩いたことのあるTRAILS編集部crewの小川が、「矢ノ音 (やのね) あたりは広葉樹が多くてハンモックにもうってつけ!」なんて言うものだから、がぜん気になってしまった。
しかもただの地名だと思って矢ノ音を調べてみると、標高633mの山で、藤野15名山のひとつでもあったのだ。
相模湖駅〜陣谷温泉までのコースタイムは3時間。陣谷温泉〜藤野駅は徒歩で約50分。バスも運行しているが本数は少ないので要確認。
相模湖駅の駅前には、喫茶店も多いので、モーニングを食べるのもおすすめ。また、与瀬神社の手前にコンビニ (セブンイレブン) があるので、そこで必要なものは購入できる。
相模湖駅を出ると、駅前にはバスのロータリーが広がっていた。ハイカーや観光客らしき人もちらほらいたが、みんな石老山 (せきろうさん) 方面に向かうバスに乗るようだった。
僕は踵 (きびす) を返し、登山口へとつづく舗装路を西へと進んだ。地図上では、与瀬 (よせ) 神社が登山口になっているようだった。
低山とは思えない明るさと開放感。
てっきり登山道のわきに神社があると思ってたのだが、神社の境内をつっきって山へと入っていくようだった。
相模湖駅から国道20号 (甲州街道) を10分ほど歩き、そこから右に折れて与瀬神社へと入っていく。
せっかくだからと、まずは安全祈願から。かたわらに無人のおみくじコーナー (1回200円) があった。今日の運勢を占うべく引こうと思ったのだが、あいにく小銭を持ち合わせていなかった。まあ入れなくてもバレないか……というやましい気持ちも浮かんだが、バチが当たると思い踏みとどまる。
与瀬神社には、日本武尊 (ヤマトタケルノミコト) が祀られている。
この境内のすみっこから登山道がはじまっていた。この木々に囲まれた神社の雰囲気からして、しばらくは陽の当たらない樹林帯をもくもくと歩くんだろうと思っていた。
それがだ。早々に、陽がさんさんと降りそそいできた。
少し登ったところにある展望スポット。相模原の町並み、相模湖、石老山などが一望できる。
べつに樹林帯が終わったわけではない。最初に言っておくと、今回のルートは最初から最後までずっと樹林帯だ。なのに、めちゃくちゃ明るいのだ。
スタート直後の登りがひと段落すると、休憩用のイスとテーブルがあって、そこからは相模湖と、石老山をはじめとした相模原の山々が一望できる。
途中、大明神山の周辺はスギがメインの樹林帯だが、それを抜けて尾根にとりつくと広葉樹にかわり、あたりがパーッと開ける。
この尾根がまためちゃくちゃ気持ちいい。道標には「矢ノ音まで300m」と書かれていたが、そんなこと言わずに1kmでも2kmでもつづいてほしいと切に思ったほど。
ここの標高は600m程度だが、気分的には標高1,000mくらいの稜線を歩いている感じだった。
シンプル、軽量、美しいULギアで、のんびりランチ。
たしかにこれはハンモックには最高だな! 僕はやや興奮気味に、ベストポイントを探しながら歩く。
もはや張り放題といった雰囲気だったが、そのなかでもスペースが広く、寝たときの眺めが良さそうなところを見つけ、そこにハンモックを設営することにした。
WARBONNET OUTDOORSのTraveler Single。重量は318g。この景色と馴染むカラーリングも良い。
今回のハンモックは、『WARBONNET OUTDOORS / Traveler Single』(ウォーボネット・アウトドアーズ / トラベラー・シングル)。
ハンモックキャンピングのためのハンモックブランドだけあって、寝心地と使い勝手が抜群。リッジラインに小物類もかけておけるし、このまま1泊したいくらい。
できるだけ、なにもせずにのんびりしたかったので、TRAILS INNOVATION GARAGEのトレイルミックス『MYOM (Make Your Own Mix)』を頬張りながら、小一時間ほど包まれていた。
今回は、MYOMもランチの一部にしようと考えていたので、ナッツ類のなかでも特にカロリーの高いピーカンナッツを多めにした。
ハイカロリーのピーカンナッツをたっぷり詰めた『MYOM (Make Your Own Mix)』。
さて、今回のクッキングギアはというと、まず前提としてメイド・イン・ジャパンをテーマにしてみた。たまには日本製にこだわってみるのもいいじゃないか、と思ったのだ。
まっさきに思いついたのは、『Sanpo’s Fun Lite Gear / sanpo CF stove』(サンポズ・ファン・ライト・ギア / サンポ CF ストーブ) だった。
作り手であるサンポさんは、日本を代表するアルコールストーブ・ビルダーのひとりであり、TRAILS編集部とも長い付き合いの仲間でもある。そんなサンポさんの代表作のひとつが、これなのだ。
空き缶とカーボンフェルト (CF) を用いた、五徳とセットのアルコールストーブ。CFがロウソクやアルコールランプでいう芯になるので、着火も簡単だし、燃焼も安定していて扱いやすいのがいい。しかも、消化蓋がついていていつでも消化できるため、燃料もムダにならないというスグレモノ。
ストーブは、Sanpo’s Fun Lite Gearのsanpo CF stove (重量50g)。クッカーは、Jindaiji Mountain WorksのHillbilly Pot 550 (重量80g)。
これに合わせるクッカーとして選んだのが、『Jindaiji Mountain Works / Hillbilly Pot 550』(ジンダイジ・マウンテン・ワークス / ヒルビリー・ポット 550)。
パッと見は洗練されていて今風だが、実はビールの空き缶ポットのオマージュでもある。以前この連載記事でも、ミニブルデザインのハイネケンの空き缶ポットを紹介したが (詳しくはコチラ)、そんな古き良きULを意識したアルミ製クッカーなのだ。ハンドルレスの潔いデザインは、スタッキングにも便利。今回はお湯を沸かすだけだったが、そもそも炊飯も想定して作られているので、次回はごはんも炊いてみたい。
sanpo CF stoveは、カーボンフェルトにアルコールを染み込ませて使用。付属の消化蓋を使えば、好きなタイミングで消化できる。
たっぷり休んだあとは、温泉目指して気持ちのいい尾根を下っていく。あまりにも素晴らしい道だったので、いつの間にか僕は走りはじめていた。
真新しい檜風呂は、香り豊かで、まさに極楽。
下山道が終わりに近づくと、栃谷集落が見えてくる。相模湖駅をスタートして、山を越えてたどり着いたこの地域に、いったいどんな温泉があるのだろうか。
舗装路に出るとすぐのところに、大きなゲート看板が。昭和の温泉街を彷彿とさせる懐かしい看板だ。それをくぐった突き当たりに、お目当ての陣谷温泉がある。
この集落に住むご夫婦で営んでいるというこの温泉宿は、開業して50年ほど経つという。
このあたりにまだ舗装路がなかった頃に、陣馬山の登山者に食事を提供しはじめたのがきっかけで、その後、旅館業も手がけるようになったとのこと。
コロナの影響は大きかったそうだが、これを機にと、2020年の春に古くなってきた檜風呂を総入替えして、一新させたとのこと。
そのため、浴槽の檜はとても美しく、肌ざわりもよく、浴場は華やかな檜の香りでいっぱいだった。
実は、絶景檜風呂としても有名で、知る人ぞ知る温泉でもある。日帰り入浴の料金は1,000円。不定休なので平日は要連絡。
また、根っからの囲碁好きのご主人は、旅館業を営むに当たって、囲碁ルームを作りたい! という夢があったそうで、それも実現させたのこと。
今では、企業、大学などの囲碁・将棋サークルの合宿やイベント、大会なども、この囲碁ルームで開催されているそうだ。
僕は、囲碁も将棋もてんでダメなのだが、絶景檜風呂からあがって1局打つ、そんな贅沢な楽しみ方も、いつかやってみたいものだ。
明るく開放的な山歩きを楽しみ、そして栃谷集落の温泉宿でのんびりする。デイハイキングながらも、秘境の旅感が存分に味わえた1日だった。
都心からこの山域に来たら、ピストンではなく栃谷集落側におりるべし!
これが今回の学びだ。さて、次の『TOKYO ONSEN HIKING』はどこにしよう。
※1 UL:Ultralight (ウルトラライト) の略であり、Ultralight Hiking (ウルトラライトハイキング) のことを指す。ウルトラライトハイキングとは、数百km〜数千kmにおよぶロングトレイルをスルーハイク (ワンシーズンで一気に踏破すること) するハイカーによって、培われてきたスタイルであり手段。1954年、アパラチアン・トレイルをスルーハイクした (女性単独では初)、エマ・ゲイトウッド (エマおばあちゃん) がパイオニアとして知られる。そして1992年、レイ・ジャーディンが出版した『PCT Hiker Handbook』 (のちのBeyond Backpacking) によって、スタイルおよび方法論が確立され、大きなムーヴメントとなっていった。
※2 実は、TRAILS INNOVATION GARAGEのギャラリーには、アルコールストーブをはじめとしたULギアが所狭しとディスプレイされている。そのほとんどが、ULギアホリックの編集長・佐井の私物。「もともと使うためのものなんだし、せっかくだからデイ・ハイキングで使ってきてよ!」という彼のアイディアをきっかけにルール化した。
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