TRIP REPORT

TOKYO ONSEN HIKING #08 | 御岳山・山香荘

2020.08.28
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TRAILS編集部crewの根津による『TOKYO ONSEN HIKING』、第8回目。

今回は、山の上にある温泉。

武蔵御嶽神社へとつづく参道に立ち並ぶ歴史ある宿坊のひとつ、『山香荘』(さんこうそう) だ。

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JR青梅線・古里 (こり) 駅から歩きはじめてすぐのところを流れる多摩川の眺め。

TOKYO ONEN HIKINGのルールはこれ。

① TRAILS編集部 (日本橋) からデイ・ハイキングできる場所
② 試してみたいUL (※1) ギアを持っていく (※2)
③ 温泉は渋めの山あいの温泉宿がメイン (スーパー銭湯に非ず)

御岳山の山頂 (標高929m) にある武蔵御嶽神社の参拝もからめた、温泉ハイキング。

真夏の太陽がジリジリと照りつけていましたが、山岳信仰の空気を感じながらの、心静かなデイハイキングとなった。


登山口からつづく登りは、修行のよう。


御岳山なんてケーブルカーに乗ればあっという間だ。でも、ハイキングするならどこがいいんだろう。

地図を眺めて見つけたのが、JR青梅線・古里 (こり) 駅からのルート。山頂までのコースタイムは2時間半と、かなりお手軽な感じだ。

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コースタイムは、古里 (こり) 駅〜御岳山までが2時間半。御岳山〜軍畑 (いくさばた) 駅までが2時間35分。トータル5時間5分。

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古里駅からすぐのところにコンビニ (セブンイレブン) があるので、食料や行動食はそこでゲット。今回は、暑さ対策として飲み物をいつも以上に買いこんだ。

平日だったものの、みんな夏休みなのか電車はそれなりに人が乗っていた。でも、古里駅から2つ手前の御嶽駅でほとんど人は下車し、古里駅で降りたのは僕も含めて数名ほどだった。

舗装路を足早に歩き、照りつける太陽から逃れるように登山口へ。

でも、日陰の樹林帯に入ったら入ったで蒸し暑い。しかも、思っていた以上に勾配がきつく、ちょっとした修行のようだ。

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御神木の飯盛杉。現在の樹木は2代目で、樹齢は百数十年、スギ2本、サワラ1本からなる。

登りの途中に、飯盛杉 (めしもりすぎ) という御神木が立っていた。御岳山といえば、古くから山岳信仰の対象として名高い。僕は、すでにその世界に足を踏み入れた感じがした。


山を登りきると町が現れる、という不思議。


標高が840mくらいになると、ようやく登りが終わり、なだらかな尾根に出た。あたりの植生も、序盤はずっとスギ林だったが、しだいに落葉広葉樹が増え、木漏れ日が気持ちいい。

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大塚山の手前にある尾根は、歩きやすく、さっきまでの暑さを忘れてしまうほど。

少し暑さが落ち着いたところで、毎度おなじみの行動食TRAILS INNOVATION GARAGEのトレイルミックス『MYOM (Make Your Own Mix)』を取り出して、休憩することにした。

正直なところ、コースタイム2時間半だったら飲み物だけで平気だと思っていた。でも、この暑さもあって、思った以上に僕は疲れを感じていた。そのため、ちょっとつまむつもりが、気がつくと『MYOM』をほとんど平らげてしまっていた。

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オーガニック100%のトレイルミックス『MYOM』。今回は、熱中症予防を考えてマグネシウムを含むパンプキンシードを多めに入れてきた。

やっと登山道を登りきる。すると標高850mの山上に現れたのは、いたって普通の住宅街。まるで登山口に入る前の町に戻ってきたかのようだった。

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山を登りつめたと思ったら普通の住宅街が出てきて、不思議な感覚におそわれた。

なんだかとても不思議な感じだ。ケーブルカーを使ったとしたら、きっと標高の高い町に来たくらいの感覚だったのだろう。

でも僕は、がっつり山を登って来たのだ。町を背にぐんぐん山深いところへと進んで来たのだ。そしてようやくたどり着いたのが、町だったのだ。

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武蔵御嶽神社。古くから山岳信仰の霊場として知られ、多くの人が参拝するためにここまで登ってきた。

家並みを抜け、長い階段を登り、御岳山の山頂へ。そこには、武蔵御嶽神社が鎮座していた。

江戸時代に盛んだった御岳詣 (みたけもうで) をしている気分になりながら、僕は心静かにお参りをした。


300年近い歴史をほこる御師の家にある、古代檜風呂。


お参りも済ませ、いよいよ今回のお目当てである『山香荘』へ。

見るからに歴史と風情を感じる佇まいだ。

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宿坊が立ち並ぶ中、山香荘はたくさんの緑に包まれ、異世界感にあふれている。

玄関を入ると、明るく広々としたラウンジが広がっている。家具や調度品はレトロモダンな印象だが、聞けば、建物自体は完全木造建築の300年近い歴史をほこる建物とのこと。

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ラウンジは広く、開放的で、美しい調度品がたくさん。

大正4年に建て替えたそうで、以来、いろいろ手を加えているそうだが、食事処だけは大正4年のままとのこと。

その食事処に入ってみると、奥に立派な御神殿があった。

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御師の家であることを感じさせる御神殿。毎年、御岳詣のためにたくさんの人が訪れるそうだ。

19代目のご主人、鈴木伊織さんに話を聞くと、「もともと御師の家だったので、御神殿があるんです。御岳詣に訪れる講の方々が、昔はもちろん今でもここにいらっしゃるんですよ」とのこと。

ここは、ただの温泉宿ではないのだ。

お風呂は、御岳山の湧き水を利用した、ラジウム泉。一番の特徴は、古代檜の浴槽だ。

ここに使われている木は、古代檜と呼ばれる神木ともいうべき貴重なヒノキ。一般のヒノキとはまったく異なり、優れた森林浴作用があるらしい。

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オール古代檜のお風呂。ヒノキの香りに包まれながら、ラジウム泉にじっくり浸かる。

お風呂も最高だったが、実はこの山香荘は、作家・浅田次郎さんの母親の実家でもあり、ファンの人にとっては聖地とのこと。しかも、ここを舞台にした著書もあるので、それを読めばさらに山香荘を楽しむことができるというわけだ。

日帰りでは味わい尽くせないほど魅力の詰まった宿だった。


湯あがりに、ULギアで優雅な午後を味わう。


今回は下山ルートのほうが時間がかかるため、お風呂上がりにULギアで休憩を取ることにした。

この季節に一気に下山すると、また汗まみれになるので、のんびり帰るのがちょうどいい。

まずはコーヒーブレイクから。ストーブは、TATO GEAR (タトギア) の 「AB-13 Hybrid MAX Stove」(AB-13 ハイブリッド・マックス・ストーブ)。

なんとこれ、燃焼中もアルコール補充ができるというスグレモノなのだ。これなら、アルコールが足りなくてお湯が沸き切らなかった! なんて失敗もない。

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TATO GEARの「AB-13 Hybrid MAX Stove」は、見るからにユニークなアルコールストーブ 。重量はたったの23gだ。

クッカーは、VARGO (バーゴ) の「Ti-Lite Mug」(チタニウム・ライト・マグ)。750mlの大容量ながら重量111g (実測) と軽量で、たくさんのお湯が沸かせるので、オーバーナイトやカップルでのハイキングにも使えそうだ。

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クッカーは、VARGOの「Ti-Lite Mug」。無駄のないシンプルなデザインが美しい。

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「AB-13 Hybrid MAX Stove」は火力も充分。燃焼中にアルコールを補充できるので、すごく便利だ。

今回は、時間に余裕があったのでドリップコーヒーを入れて飲むことにした。ドリッパーは、VARGO (バーゴ) の「Titanium Travel Coffee Filter」(チタニウム トラベル コーヒー フィルター) だ。

チタン製のコーヒーフィルターを作るなんて、さすがはバーゴ。耐食性が高く匂い移りがないので、美味しいコーヒーを飲むことができる。

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VARGOの「Titanium Travel Coffee Filter」は、重量36g。内側と外側の二重の網目構造になっていて、ろ過機能に優れている。

コーヒーを堪能した後は、ハンモックでの昼寝タイム! 今回使用したのは、WARBONNET OUTDOORS (ウォーボネット・アウトドアーズ) の「Blackbird」(ブラックバード)。

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WARBONNET OUTDOORSの「Blackbird」は、バグネット付きのハンモック本体の重量が446g。虫の心配がいらないのはもちろん、幅も広めで、窮屈感がなく寝心地がいい。

バグネット付きなので、虫の多いこの季節にピッタリ。しかも、このハンモックは斜めに寝やすい独特の形状をしているため、すごく寝心地がいいのが最大の特徴だ。実際、僕もこのままずっと寝ていられそうだった。

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ラストは、傾きはじめた太陽に照らされながら、トレイルからロードへ。

今回のTOKYO ONSEN HIKINGは、山岳信仰の対象である御岳山を存分に楽しむことができるルートだった。

観光地としても人気のエリアではあるが、御岳山のディープさ、ハイキングコースとしての魅力を、あらためて実感した。

さて、次の『TOKYO ONSEN HIKING』はどこにしよう。

※1 UL:Ultralight (ウルトラライト) の略であり、Ultralight Hiking (ウルトラライトハイキング) のことを指す。ウルトラライトハイキングとは、数百km〜数千kmにおよぶロングトレイルをスルーハイク (ワンシーズンで一気に踏破すること) するハイカーによって、培われてきたスタイルであり手段。1954年、アパラチアン・トレイルをスルーハイクした (女性単独では初)、エマ・ゲイトウッド (エマおばあちゃん) がパイオニアとして知られる。そして1992年、レイ・ジャーディンが出版した『PCT Hiker Handbook』 (のちのBeyond Backpacking) によって、スタイルおよび方法論が確立され、大きなムーヴメントとなっていった。

※2 実は、TRAILS INNOVATION GARAGEのギャラリーには、アルコールストーブをはじめとしたULギアが所狭しとディスプレイされている。そのほとんどが、ULギアホリックの編集長・佐井の私物。「もともと使うためのものなんだし、せっかくだからデイ・ハイキングで使ってきてよ!」という彼のアイディアをきっかけにルール化した。

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WRITER
根津 貴央

根津 貴央

1976年、栃木県宇都宮市生まれ。幼少期から宇宙に興味を抱き、大学では物理学を専攻。卒業後、紆余曲折を経て広告業界に入り、12年弱コピーライター職に従事する。2012年に独立し、かねてより憧れていたアメリカのロングトレイル「パシフィック・クレスト・トレイル(PCT/総延長4,265km)」のスルーハイクのために渡米。約5カ月間歩きつづける。2014年には「アパラチアン・トレイル(AT/総延長3,500km)」の有名なイベント「Trail Days」に参加し、約260kmのセクションを歩く。同年より、グレート・ヒマラヤ・トレイル(GHT)を踏査する日本初のプロジェクト『GHT Project(www.facebook.com/ghtproject)』を仲間と共に推進中。2018年4月、TRAILSに正式加入。著書に『ロングトレイルはじめました。』(誠文堂新光社)、『TRAIL ANGEL』(TRAILS) がある。

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