TRIP REPORT

TOKYO ONSEN HIKING #06 | 日の出山・つるつる温泉

2020.06.12
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TRAILS編集部crew根津による『TOKYO ONSEN HIKING』、第6回目。

今回は、この連載のなかでもTRAILS編集部 (日本橋) からいちばん近く、そして気軽に行ける場所ではないだろうか。

JR武蔵五日市駅にほど近い『つるつる温泉』だ。

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金比羅尾根からは、関東平野が一望できる。

TOKYO ONEN HIKINGのルールはこれ。

① TRAILS編集部 (日本橋) からデイ・ハイキングできる場所
② 試してみたいUL (※1) ギアを持っていく (※2)
③ 温泉は渋めの山あいの温泉宿がメイン (スーパー銭湯に非ず)

新型コロナウイルス感染症に関する緊急事態宣言が解除され、東京の山も、ふもとの駐車場やビジターセンターをはじめ徐々に再オープンするところが増えてきた。

今回は『つるつる温泉』の営業再開という知らせを聞き、その隣にある『日の出山 (ひのでやま) 』へ向かうことに。

ただ、この予断を許さない状況下において、ハイカーはできる限りの情報収集と事前準備をすることが当然のマナー。

ということで、目的地にかかわる4つ(都道府県 → 山岳団体 → 役所 or 観光協会 → 事業者)の方針を、ウェブサイトや電話で確認し、しっかり理解した上で出発した。

▼ 東京都
▼ 山岳四団体(日本山岳・スポーツクライミング協会、日本勤労者山岳連盟、日本山岳会、日本山岳ガイド協会)
▼ 日の出町観光協会
▼ つるつる温泉


駅から歩きはじめるも、ふと気づけば山の中にいる不思議。


灯台もと暗し、とでも言ったらいいのか。こんな近場に、山も温泉も楽しめるところがあった。

もちろん知ってはいたんだけど、あまりに身近すぎたせいか、すっかり見落としていたのだ。

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全行程のコースタイムは5時間 (山と高原地図)。ゴール後は、つるつる温泉からJR武蔵五日市駅までバスで20分。バスの運行は、平日と土日祝で異なるため事前に要チェック。

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JR武蔵五日市駅にて。構内にコンビニがあるため、ここで食料や飲料をひと通り揃えることができる。

なにがいいって、まず駅から歩きはじめられること。バスの時間を気にしないでいいっていうのは、けっこうなメリットだと思う。

朝からバタバタしなくてもいいし、なんなら、ちょっと寝坊したってへっちゃらなのだ。

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五日市小学校は校庭もめちゃくちゃ広く、ここが東京とは思えないくらい。

武蔵五日市駅をスタートしてから10〜15分は、五日市散歩。五日市小学校の前で、校庭にあるジャングルジムに目がとまる。久しぶりに立派なジャングルジムを見た気がして、なんだか懐かしい気持ちになった。

そんな風景に気をとられていると、あたりがやけに緑豊かに……「あれ?」っと思ったら、そこはすでに山の中だった。

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ふと気づくと、僕はすでに山の中にいた。

ここには登山口の標識もなく、町と山の境界線がない。この、いつの間にか山に入っている感じがとても不思議でおもしろかった。


緑のトンネルがつづく長い尾根道をゆく。


金比羅山 (こんぴらさん) の直前にあらわれたのは、立派な鳥居と御本殿。これが琴平 (ことひら) 神社だ。

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厳かな雰囲気につつまれた琴平神社。近くには巨岩と祠も鎮座している。

ここに来るまで「ツキノワグマに注意!」という貼り紙をいくつか目にして、マジか!? と若干ビビっていたこともあり、安全祈願をしておいた。

さらに進んでいくと、あたりは眺望のない樹林帯に。でも、鬱蒼とした感じや閉塞感はまったくなく、むしろすがすがしい。

それは、日の出山へとつづくこの金比羅尾根が、すばらしかったからだ。まさしく尾根道! という感じの一本道で、新緑の木々に抱かれた緑のトンネルのようだった。

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金比羅尾根は、走りたくなるようなシングルトラックがつづいていた。

金比羅尾根は長く、琴平神社から日の出山まではコースタイムで2時間40分。蒸し暑かったこともあり、たびたび休憩をとった。

行動食は、頼れる相棒、TRAILS INNOVATION GARAGEのトレイルミックス『MYOM (Make Your Own Mix)』。

今回は、汗で失われるミネラルを補給すべく、亜鉛やマグネシウムなどを多く含んだパンプキンシードを多めに入れてきた。

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緑色の種が、オーガニックのパンプキンシード。控えめな味なので、他のナッツやドライフルーツと一緒に食べるのがおすすめ。


ULギアで、ULクッキング。


ついに、日の出山の山頂 (標高902m) に到着。

朝から快晴だったものの、頂上に着いたら雲が立ち込めてきた。にわか雨でも降ってくるんじゃないか? と思うくらいだったので、頂上にある東屋でランチをとることに。

今回持ってきたストーブ&クッカーは、Ultralight Outfitters (ウルトラライト・アウトフィッターズ) のBeercan Esbit Stove System (ビアカン・エスビット・ストーブ・システム) 。

ULの黎明期であったゼロ年代半ば頃に、BPL(※)のフォーラムで話題となったストーブシステムだ。

※ BPL (Backpacking Light / バックパッキングライト) : ULハイキングの情報を発信する米国のウェブサイト。ハイカーが集う各種フォーラム (掲示板) では、グラム単位でのきりつめた軽量化のアイディアなども盛んに議論されていた。

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Ultralight OutfittersのBeercan Esbit Stove Systemの総重量は157g。アルコールストーブを組み合わせることもできるが、今回はより軽量化を意識して固形燃料にした。

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ポットと燃料受けの部分の距離感が絶妙で、燃焼効率も高い。

ストーブとクッカー、さらには風防、ゴトクまでセットになっている、オールインワン。準備段階で、どれとどれを組み合わせようか? とあれこれ悩むことなく、サッと手にとって山に向かえるのがいい。

しかも、風防もポットに最適化された形状なので、燃焼効率もすこぶる良い。固形燃料1個で約500ccの水を沸かすことができる。

せっかくULかつシンプルなギアを使うのだから、食事もULに! と思い、年始にアメリカのトレイルを歩いた時に買って食べずじまいだったマルちゃんラーメン (95g) をチョイス。

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ランチは、アメリカで買ったマルチャンラーメンのライムシュリンプフレーバー。いったいどんな味がするのか?

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思った以上にライム味でクセが強い! ちなみに、この縦型ポットの場合、Backpacking LightのLong Handled Titanium Spoon (11g) がとても使いやすい。

食事をした後は、ハンモックポイントをハンティングしながら、ゆっくりと山頂から下山。ちょうどいい場所を途中で見つけて、ハンモックを取り出す。

使用したのは、KAMMOK (カモック) のMantis UL (マンティスUL)。これまたストーブ同様、オールインワンセット (ハンモック+バグネット+タープ) として優れたハンモックシステムだ。

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KAMMOKのMantis UL。バグネットが着脱可能なのが嬉しい。より軽量化を図るのであれば、バグネットを外すことで311gとなる。

オールインワンのハンモックといえば僕も愛用しているHENNESSY HAMMOCK (ヘネシーハンモック) が代表的だが、KAMMOKのMantis ULは、タープもバグネットも取り外すことができる構造になっているのが特徴だ。虫が気になる時は装着して、より開放感を味わいたい時は外せばいい。

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タープとバグネットも含めた総重量は961g。各パーツが取り外せるため、これひとつあればいろんなシーンで楽しめる。

日差しを避けながら、ゆっくり休みたい! となれば、専用のタープをセットすればこの通り。もうこのまま1泊したいくらいの気分だった。タープがあれば雨や夜露を心配しなくてもいい。休憩道具としてだけではなく宿泊道具として楽しめるハンモックなのだ。


肌がつるつるになる、という温泉へ。


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下山ルートは、新緑が美しい極上のトレイルだった。

下山ルートも雰囲気の良いトレイルがつづいていたこともあり、気持ちよく一気にくだっていざ温泉へ。

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6/1 (月) に営業を再開したばかりの『つるつる温泉』。現在 (6/12現在) は、人数制限を実施しながらの営業とのこと。営業時間は、10:00〜20:00 (最終受付 19:00)。

今回の温泉は、日の出町にある『つるつる温泉』。

支配人補佐の宮岡さん曰く、「温泉が湧いて施設の名前を決める時に、アルカリ性の泉質で肌がつるつるになるため、町長が『つるつる温泉』と命名したんです」とのこと。

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2つある大浴場のうちのひとつ『美人の湯』。この時期はとにかく新緑が美しく、眺めているとついつい長風呂になってしまう。

実際に入ってみると、肌がつるつるすべすべになるのが実感できる。名前に偽りのない、正真正銘の『つるつる温泉』なのだ。

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露天風呂も2つあり、こちらは『ひのき風呂』。ヒノキの香りと、この開放感が魅力。

ちなみに、緊急事態宣言が解除になり、東京都のロードマップがステップ2に移行したことを受け、この温泉も6/1 (月) に営業を再開したばかり。

3カ月にわたり営業を自粛してきて、しかもその間も再開に向けて温泉の質を維持すべく努力しつづけてきただけに、温泉を運営している方々も、ようやくここまで来ましたと嬉しそうな表情だった。

でも、新型コロナウイルスは収束したわけではなく、東京アラートも発令されたばかり。宮岡さんもかなりの心配と不安を抱いていた。

そのため、お客さんには来てほしい一方、施設で掲げている「入館に際してのお願い」(詳しくはHPを参照のこと) をぜひともご理解いただきたいとのこと。

館内の混雑回避のため、人が多いときは入場制限をしているので、いつもよりも時間に余裕を持って、ゆっくり行くようにしたい。

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ルートも温泉もすばらしく心からおすすめしたいが、新型コロナウイルスが収束していない今は、なるべく少人数で行くべきだろう。

今回のTOKYO ONSEN HIKINGは、この新緑の季節に、新緑を存分に楽しむことができるトレイル&温泉だった。

しかも、温泉の支配人補佐の宮岡さんは、元トライアスリートで、現在はマラソン (時々トレイルラン) を楽しむランナーでもあり、登山者にもとても好意的でフレンドリーな方。なので、また遊びに行きたいと思う。

さて、次の『TOKYO ONSEN HIKING』はどこにしよう。

※1 UL:Ultralight (ウルトラライト) の略であり、Ultralight Hiking (ウルトラライトハイキング) のことを指す。ウルトラライトハイキングとは、数百km〜数千kmにおよぶロングトレイルをスルーハイク (ワンシーズンで一気に踏破すること) するハイカーによって、培われてきたスタイルであり手段。1954年、アパラチアン・トレイルをスルーハイクした (女性単独では初)、エマ・ゲイトウッド (エマおばあちゃん) がパイオニアとして知られる。そして1992年、レイ・ジャーディンが出版した『PCT Hiker Handbook』 (のちのBeyond Backpacking) によって、スタイルおよび方法論が確立され、大きなムーヴメントとなっていった。

※2 実は、TRAILS INNOVATION GARAGEのギャラリーには、アルコールストーブをはじめとしたULギアが所狭しとディスプレイされている。そのほとんどが、ULギアホリックの編集長・佐井の私物。「もともと使うためのものなんだし、せっかくだからデイ・ハイキングで使ってきてよ!」という彼のアイディアをきっかけにルール化した。

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WRITER
根津 貴央

根津 貴央

1976年、栃木県宇都宮市生まれ。幼少期から宇宙に興味を抱き、大学では物理学を専攻。卒業後、紆余曲折を経て広告業界に入り、12年弱コピーライター職に従事する。2012年に独立し、かねてより憧れていたアメリカのロングトレイル「パシフィック・クレスト・トレイル(PCT/総延長4,265km)」のスルーハイクのために渡米。約5カ月間歩きつづける。2014年には「アパラチアン・トレイル(AT/総延長3,500km)」の有名なイベント「Trail Days」に参加し、約260kmのセクションを歩く。同年より、グレート・ヒマラヤ・トレイル(GHT)を踏査する日本初のプロジェクト『GHT Project(www.facebook.com/ghtproject)』を仲間と共に推進中。2018年4月、TRAILSに正式加入。著書に『ロングトレイルはじめました。』(誠文堂新光社)、『TRAIL ANGEL』(TRAILS) がある。

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