TRIP REPORT

TOKYO ONSEN HIKING #05 | 浅間嶺・たから荘

2020.04.03
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TRAILS編集部crewの根津による『TOKYO ONSEN HIKING』、第5回目。

実は、この連載がはじまる前から、いつか行ってみたいと思っていた檜原村(ひのはらむら)にある温泉宿があった。

5回目にして、その時がきた。『蛇 (じゃ) の湯温泉 たから荘』だ。

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時坂 (とっさか) 峠へとつづく道。

TOKYO ONEN HIKINGのルールはこちら。

① TRAILS編集部 (日本橋) からデイ・ハイキングできる場所
② 試してみたいUL (※1) ギアを持っていく (※2)
③ 温泉は渋めの山あいの温泉宿がメイン (スーパー銭湯に非ず)

東京都檜原村にある浅間嶺 (せんげんれい) をメインにした今回のルートは、アップダウンの少ないトラバース道が長くつづきます。

ランナーズハイならぬハイカーズハイ状態で歩ける、最高に気持ちいいトレイルでした。



時坂 (とっさか) 峠への登りは、隠れ里の散策みたい。



檜原街道の数馬周辺をとおったことがある人なら、知っているはずだ。通り沿いにある、ひときわ目を引く茅葺き屋根の古民家を。

僕はずっと、この『蛇の湯温泉 たから荘』をからめたハイキングがしたいと思っていた。

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スタート地点の払沢の滝入口バス停までは、JR武蔵五日市駅からバスで22分。全行程のコースタイムは5時間20分 (山と高原地図)。帰りは、数馬バス停からJR武蔵五日市駅まで60分。バスの本数は少ないので要チェック。

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払沢の滝入口バス停はスペースも広く、トイレも併設されている。

払沢 (ほっさわ) の滝入口バス停からスタートし、まずは時坂 (とっさか) 峠を目指して登っていく。

どんな山であろうとも、最初は樹林帯の登りをがんばって登って……と相場は決まってるのだが、ここはちょっと違う。家と家をつなぐ生活道を歩いてゆくのだ。

舗装路も通じているのだが、歩くのはそこじゃない。おそらく昔から使われていたであろう、つづら折りの山道をたどっていく。

それは登山やハイキングの感覚というよりは、山里に暮らす人がちょっとした用事で隣の家をたずねにいくかのようだった。

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斜面に建てられた民家と、それぞれをつなぐ道。



江戸と甲州をつなぐ古甲州道。山梨まで歩いて行けそうな気がした。



この道は、浅間尾根に沿ってつけられている。時坂峠にある看板にはこう記されていた。

「江戸と甲州を結ぶ要路となっていたこともあります。昭和の初め頃までは檜原の主産物である木炭を積んだ牛馬が帰りには日用品を積んでこの道を通っていました」。

また、江戸時代に甲州街道ができるまでは、「古甲州道 (ここうしゅうどう) 」と呼ばれ、武田氏と北条氏の戦の道としても重要だった。

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古の道を気持ちよく歩く。後ろに見えるのは檜原中学校。

そんな昔の名残だろうか、道端には石仏や馬頭観音などがたくさんあって、気分はさながら昔の商人。このまま山梨まで行ってしまいそうな感じすらした。

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古道を感じさせる風情ある石段を歩いていく。

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道のいたるところに石仏があった。

実は今回のルート、コースタイムが5時間20分と、デイハイキングにしてはちょっと長め。しかも天気もバツグンに良く、汗もかきそうだったため、毎度おなじみの行動食TRAILS INNOVATION GARAGEのトレイルミックス『MYOM (Make Your Own Mix)』は、ナッツよりもドライフルーツを多めにした。

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ここ最近のマイブームは、このオーガニックの白イチヂク。甘さと酸味のバランスが絶妙。



天空の尾根で、ULギアを使いながらのんびり過ごす。



この日は雲ひとつない快晴で、浅間嶺からは南に富士山、北に奥多摩の山々を、一望することができた。

この浅間嶺でのハンモックは、僕史上3本の指に入るくらい気持ち良かった。こんなに開放感あふれる稜線でハンモックが張れるところなんて、そうそうないんじゃなかろうか。

使用したハンモックは、WARBONNET OUTDOORS (ウォーボネット・アウトドアーズ) の Traveler Single (トラベラー・シングル)。リッジライン付きなので、小物をかけられるのが便利。僕は汗に濡れたキャップをかけておいた。

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WARBONNET OUTDOORSのTraveler Singleの重量は318g。幅が広く寝心地がバツグンだ。

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浅間嶺から眺める奥多摩の山々。山というよりは、なんだか生き物のようで、まるで巨大な恐竜の背中みたいだった。

クッカーとバーナーは、TRAILS編集長の佐井が長年愛用しているセットを借りてきた。かなり年季の入った佇まいだったので、いつか使ってみたいと思ってたのだ。

どんなセットかというと、Minibulldesign (ミニブルデザイン) のHeineken pot (ハイネケン・ポット)に、T’s Stove (ティーズストーブ) のSide B (サイドビー) と Highland Designs (ハイランド・デザイン) のQuatro Stove (クアトロストーブ) を組み合わせたもの。

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ハイネケンのビール缶を利用したMinibulldesignのポットは、たった34g。実際は、ポットのまわりに断熱材としてグラスファイバー製のウィック (芯) を巻いて使用する。

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T’s StoveのSide Bは、9g。土台に使用したHighland DesignsのQuatro Stoveは、18g。もちろんいずれも単体で使用できる。

もちろんSide B単体でも充分使えるのだが、実はこれ、Quatro Stoveにシンデレラフィットすることでも知られていて (あくまで偶然)、組み合わせると、接地面が広がって安定感がグッと増すのだ。

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ゴトクが要らないサイドバーナー式。シンプルかつ火力も強いのが魅力だ。



その昔、蛇が傷を癒したという秘湯へ。



浅間嶺までで、すでにかなりの満足感にひたっていた僕だったが、ふたたび歩きはじめて驚いた。

ここから西へとのびる道が、もうすこぶる良いのだ。

なにがって、アップダウンが少ないトラバース道がひたすらつづいていくのだ。歩くのがめちゃくちゃ楽しい。いつまでも歩きつづけられそうだ。

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アメリカのトレイルを彷彿とさせる長いトラバース道は、どこまでも歩いて行きたくなる。

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猿岩。看板には「サルの手形のついた大きな岩。手の形は、よく探せばわかるよ!」とあったが、ついぞ見つからず。

もはやランナーズハイならぬハイカーズハイ状態だったので、気がつけば山を降りて、『蛇の湯温泉 たから荘』の前にいた。

ご主人の小林悠二さんは、なんと13代目。聞けば、この兜 (かぶと) 造りの母屋は、江戸中期に建てられたもので、300年以上の歴史があるとのこと。もともとは小林家の住まいだったが、祖父の代で民宿を手がけはじめ、父の代で増築して本格的に旅館業をスタートさせたそうだ。

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兜造り(かぶとづくり)と呼ばれる構造で、4階建。茅 (かや) の上にスギとヒワダの皮を敷いているのが特徴のひとつ。「日本秘湯を守る会」の会員でもある。

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兜造りの母屋の1階は、現在、休憩所として使用している。

温泉は、小林さんの祖父が近くの源泉をひいてきて、「その昔、大蛇が河原に湧くこのお湯で傷を癒した」という言い伝えがあったことから、『蛇の湯温泉』と名付けたとのことだ。

泉質は強アルカリ性 (PH値 10) ということもあり、肌がすべすべになる感じがした。そして窓からは、南秋川源流の絶景も味わえる。

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男湯、女湯ともに同じ間取り。明るくとても開放的。日帰り入浴の料金は大人1,000円。営業時間は10〜18時 (最終受付 17時)。不定休ゆえ事前に電話確認を。

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温泉からは、南秋川の渓谷美も楽しめる。

地のものにこだわった山菜料理や、ご主人が打つ十割そばもおすすめらしいので、次回は宿泊してじっくり味わいたい。きっと、日帰りではわからない、江戸からつづく家の歴史や文化も体感できるはずだ。

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沢沿いの道は木漏れ日が美しく、休憩にぴったり。

今回のTOKYO ONSEN HIKINGは、温泉はもちろん浅間嶺の西側の道がことのほか素晴らしく、僕の日本のお気に入りトレイルリストに加えておこうと思う。

さて、次の『TOKYO ONSEN HIKING』はどこにしよう。

※1 UL:Ultralight (ウルトラライト) の略であり、Ultralight Hiking (ウルトラライトハイキング) のことを指す。ウルトラライトハイキングとは、数百km〜数千kmにおよぶロングトレイルをスルーハイク (ワンシーズンで一気に踏破すること) するハイカーによって、培われてきたスタイルであり手段。1954年、アパラチアン・トレイルをスルーハイクした (女性単独では初)、エマ・ゲイトウッド (エマおばあちゃん) がパイオニアとして知られる。そして1992年、レイ・ジャーディンが出版した『PCT Hiker Handbook』 (のちのBeyond Backpacking) によって、スタイルおよび方法論が確立され、大きなムーヴメントとなっていった。

※2 実は、TRAILS INNOVATION GARAGEのギャラリーには、アルコールストーブをはじめとしたULギアが所狭しとディスプレイされている。そのほとんどが、ULギアホリックの編集長・佐井の私物。「もともと使うためのものなんだし、せっかくだからデイ・ハイキングで使ってきてよ!」という彼のアイディアをきっかけにルール化した。

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WRITER
根津 貴央

根津 貴央

1976年、栃木県宇都宮市生まれ。幼少期から宇宙に興味を抱き、大学では物理学を専攻。卒業後、紆余曲折を経て広告業界に入り、12年弱コピーライター職に従事する。2012年に独立し、かねてより憧れていたアメリカのロングトレイル「パシフィック・クレスト・トレイル(PCT/総延長4,265km)」のスルーハイクのために渡米。約5カ月間歩きつづける。2014年には「アパラチアン・トレイル(AT/総延長3,500km)」の有名なイベント「Trail Days」に参加し、約260kmのセクションを歩く。同年より、グレート・ヒマラヤ・トレイル(GHT)を踏査する日本初のプロジェクト『GHT Project(www.facebook.com/ghtproject)』を仲間と共に推進中。2018年4月、TRAILSに正式加入。著書に『ロングトレイルはじめました』(誠文堂新光社)がある。

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