TOKYO ONSEN HIKING #07 | 丹波天平・三条の湯
TRAILS編集部crew根津による『TOKYO ONSEN HIKING』、第7回目。
今回は、連載初の山小屋にある温泉へ。
山の中腹、標高1,103mにひっそりとたたずむ『三条の湯』だ。
TOKYO ONSEN HIKINGのルールはこれ。
① TRAILS編集部 (日本橋) からデイ・ハイキングできる場所
② 試してみたいUL (※1) ギアを持っていく (※2)
③ 温泉は渋めの山あいの温泉宿がメイン (スーパー銭湯に非ず)
withコロナの今、山に行くにも、温泉に行くにも、さまざまな注意が必要だし、配慮も求められる。
この時期にまずやるべきは、訪れる先の方針やルールに則って行動すること。
三条の湯の場合、ホームページやFacebookページで、新型コロナウイルスの対策および利用者に対するお願いを明記している。
今回は事前にそれらをチェックし、理解した上で訪れた。
人と自然の深いかかわりが感じられる道。
三条の湯というと、東京からだと雲取山の帰りに立ち寄る人が多いかもしれない。
でも今回はどこのピークを踏むこともなく、三条の湯こそが最大の目的地なのだ。
全行程のコースタイムは7時間55分 (山と高原地図)。奥多摩駅からスタート地点の親川バス停まではバスで39分。ゴール地点のお祭バス停から奥多摩駅まではバスで41分。
奥多摩駅からバスに揺られること約40分。僕は親川バス停を降り、すぐそばにある登山口からスタートした。
ずいぶん山深いところまで来たが、登山口の近くには民家があり、石仏と祠があり、スギの植林地帯も広がっている。
人の気配やぬくもりが感じられ、山奥というよりは里山らしい里山だなと思った。
登山道沿いにはスギの木がキレイに立ち並び、なんだか歩く人の滑落を防いでくれているかのような気がした。
石垣と木造家屋が今なお残る、高畑集落。
30分ほど歩くと、突然、前方に古びた建物があらわれた。
最初は、使われなくなった小屋かと思った。でも、近づいてみると人が住んでいたと思われる家だった。
現在は廃村となった高畑集落には、今も複数の家屋が残っている。
ここは、現在は廃村になってしまった高畑集落である。
廃墟だけ見るとちょっと不気味に思う人もいるだろう。でも、僕はそんなことはなかった。
というのも僕は、この集落の人たちが往き来していたであろう生活道を、人の気配を感じながらずっと歩いてきた。それを思うと、懐かしさや温かさすら感じるのだ。
雨に濡れた木々はとても瑞々しく、梅雨のハイキングも悪くない。
しばらく歩いて急登がひと段落すると、落ち葉でフカフカのエリアになった。歩くのがより楽しくなってきたが、梅雨の真っ只中ということもあり、ハンパない湿度の高さ。こまめな水分補給と栄養補給が大事だと思い、頻繁にTRAILS INNOVATION GARAGEのトレイルミックス『MYOM (Make Your Own Mix)』を食べた。
今回は、この蒸し暑さを想定して、酸味のあるドライフルーツを多めに入れてきた。
マンゴー、白いちぢく、ゴールデンベリー、クランベリーなど。すべて100%オーガニック。
ULギアで味わう丹波天平(たばでんでいろ) 。
開放感あふれる広い台地のような、丹波天平。
今回は、ここで早めの昼休憩をとった。
持参したハンモックは、SEA TO SUMMIT (シートゥサミット) のUltralight Hammock Single (ウルトラライト・ハンモック・シングル)。
SEA TO SUMMITのUltralight Hammock Singleは、ツリーストラップ込みでたったの220g。同ブランドオリジナルのバックルのおかげで、セッティングも簡単。
ハンモック本体は、世界最軽量クラスの155g。ツリーストラップと合わせても220gしかない。
軽さはもちろんだが、今回チョイスしたポイントは、メッシュの素材。通気性がバツグンでとにかく涼しい。こんなジメジメした梅雨にピッタリだった。
つづいてクッキングギア。今回はすべてチタン製で統一してみた。
軽量かつ優れた強度を持つチタン製のギアをチョイス。風防は、T’s stoveのTi風防 (21.8g) 。
クッカーは、VARGO (バーゴ) のTitanium Travel Mug (チタニウム・トラベルマグ)。容量は450mlで、重量は65g。ドライフードであれば、これだけの容量あれば事足りるし、マグとしても使えるのでカトラリーも少なくて済む。
VARGOのTitanium Triad Multi-Fuel Stoveは、多機能ながら30gと軽量で、ゴトク一体型なのも便利。
ストーブは、これまたVARGOのTitanium Triad Multi-Fuel Stove (チタニウム・トライアド・マルチフューエルストーブ)。
その名のとおり、アルコール、固形燃料、燃料ジェルという複数の燃料が使用できるストーブだ。
都塵 (とじん) を洗い落としてくれる、山小屋にある温泉。
サオラ峠からは、山塊の東斜面をしばらくトラバースしていく。このルートには沢が多く、それまでと比べると段違いに涼しい。水の補給も頻繁にできるし、顔や手足を浸してリフレッシュできるのもいい。
ずっと樹林帯だったが、急に目の前がパーッとひらけ、そこにあらわれたのが三条の湯だった。
1950年に開業した三条の湯。新型コロナウイルスでしばらく休業していたが、6/1に営業を再開した。テント場もあわせて100名以上の収容人数を誇るが、現在は最大40名までに制限している。
ここの温泉は200年以上も前に、鹿が傷を癒していたことから「鹿の湯」として親しまれていた歴史ある温泉だ。
山小屋としては、1950年に開業。今回は、3代目の木下浩一 (ひろひと) さんと小屋番の山岸周平さんがもてなしてくれた。
南向きで日当たりがいい食堂は、山に関する本はもちろん、三条の湯の歴史を学べる資料もたくさん。
ここは環境負荷の少ない山小屋営業が特徴でもあり、水力発電、バイオトイレ、EM菌 (有用微生物群) によるゴミ処理をはじめ、さまざまな取り組みをしている。
木下さんの言葉を借りるなら、「自然との上手な付き合い方」の実践だ。木下さんはとても温和で親しみやすく、話がおもしろい。
つい先日、テント場のとなりにワサビ田を開墾! これができるのも、キレイな沢があるからこそ。
環境への取り組みに関しても、聞けば答えてくれるが、アピールする感じはまったくない。
というのも、山小屋というのは登山者にとって「心地よさ」がいちばん大事であり、初代からつづく「都塵を洗い落とす」場でありたいという、強い思いがあるからだという。とにかく押し付けるようなことはしたくないそうだ。
温泉は、源泉10℃の鉱泉を、水力発電と薪で沸かしている。泉質は、単純硫黄冷鉱泉。日帰り入浴の料金は600円。
実際、僕も訪れてみて、温泉はもちろん人も建物も雰囲気もすべてが心地よかった。
予定よりも長居してしまったが、おかげですっかり都塵を洗い落とすことができた。
後山林道は傾斜もなだらかで、気持ちよく走ることができる。僕は、林道は歩くより走るほうが楽しめると思っている。
あとは、後山 (うしろやま) 林道で下山するのみ。三条の湯で身も心も軽くなった僕は、一気に駆け下りた。
今回のTOKYO ONSEN HIKINGは、自然の豊かさにくわえて、人の温かさに触れることができるルートだった。
三条の湯は今回のように日帰りでも十分楽しめるが、あまりに居心地がいいので、訪れた人はきっとみんな「泊まりたい!」と思うはずだ。
さて、次の『TOKYO ONSEN HIKING』はどこにしよう。
※1 UL:Ultralight (ウルトラライト) の略であり、Ultralight Hiking (ウルトラライトハイキング) のことを指す。ウルトラライトハイキングとは、数百km〜数千kmにおよぶロングトレイルをスルーハイク (ワンシーズンで一気に踏破すること) するハイカーによって、培われてきたスタイルであり手段。1954年、アパラチアン・トレイルをスルーハイクした (女性単独では初)、エマ・ゲイトウッド (エマおばあちゃん) がパイオニアとして知られる。そして1992年、レイ・ジャーディンが出版した『PCT Hiker Handbook』 (のちのBeyond Backpacking) によって、スタイルおよび方法論が確立され、大きなムーヴメントとなっていった。
※2 実は、TRAILS INNOVATION GARAGEのギャラリーには、アルコールストーブをはじめとしたULギアが所狭しとディスプレイされている。そのほとんどが、ULギアホリックの編集長・佐井の私物。「もともと使うためのものなんだし、せっかくだからデイ・ハイキングで使ってきてよ!」という彼のアイディアをきっかけにルール化した。
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