TRAILS環境LAB | 松並三男のSALMON RIVER #14 鮭漁のオフシーズンの今、鮭川村で取り組んでいること
文・写真:松並三男 構成:TRAILS
What’s TRAILS環境LAB? | TRAILSなりの環境保護、気候危機へのアクションをさまざまなカタチで発信していく記事シリーズ。“ 大自然という最高の遊び場の守り方 ” をテーマに、「STUDY (知る)」×「TRY (試す)」という2つの軸で、環境保護について自分たちができることを模索していく。
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『TRAILS環境LAB』の記事シリーズにおいてスタートした、松並三男 (まつなみ みつお) くんの連載レポートの第14回目。
松並くんは一昨年パタゴニアを退職し、山形県鮭川村に家族で移住した。そして鮭川村の鮭漁の現場で、「鮭」をテーマに環境問題に取り組んでいる。この連載を通じて、僕たちも環境保護の「STUDY」を深めていく。
鮭漁のシーズンは毎年10月からということで、現在はちょうどオフシーズンだ。前回は、そのオフシーズンの取り組みのひとつとして「鮭の新切りの加工場づくり」を紹介した。今回は、いま鮭川で最盛期を迎えている「鮎漁」と、「シーズンインに向けた取り組み」を取り上げる。
松並くんは、鮭川を遡上する川鮭のライフサイクルや魅力、文化を、より多くの人に知ってもらうことが、川鮭の価値向上、そして環境問題への関心度の向上には欠かせないと考えている。
それを実現するための構想中のアクションもいくつか教えてくた。
現在、鮭川は鮭漁のオフシーズン。松並くんがいま取り組んでいることとは?
暑い時期は、源流での渓流釣りが気持ちいい!
こんにちは! 松並です。夏の暑い時期はやはり渓流が最高です。深い緑のトンネルと冷たい水、歩いているだけでも気持ちのいい季節です。
アブに囲まれながらの真夏の源流。魚のテンションはMAX状態なので、よく釣れます。
東北の源流では、アブが大量発生するのであまり人が入らなくなる季節ですが、写真のように肌を出さないようにすればさほど気になりません。ルアー、フライ、テンカラ、なんでもよく釣れるので、僕にとっては楽しい季節です。
鮭漁のオフシーズンに行なわれる鮎漁。
さて、本題です。現在、鮭についてはオフシーズンまっただ中ということで、前回は鮭の加工場についての進捗を紹介しました。今回は、鮭漁師たちのオフシーズンの川の楽しみ「鮎止め漁」と、僕がいま進めている鮭漁のシーズンに向けた新しい企画についてレポートしていきます。
まずは、「鮎止め漁」から。
鮭川村の鮭漁師のほとんどの人は、8~10月初旬までは鮎漁をしています。「鮎止め漁」とは、川に杭を打ち、単管を這わせ、河原の柳を刺して簡易的な堰をつくり、一時的に鮎を足止めしたところに刺し網を投げるという漁法です。
「鮎止め漁」は、鮭川では代表的な漁法です。
群れにあたると一投で100匹以上獲れることもあります。回遊する鮎を見つけられる目と網を投げる技術が必要なため、熟練が必要な漁法でもあります。
僕が参加している鮎止め漁のグループには80~90代の人も数人います。毎日楽しそうに川に入っていく屈強さがかっこよすぎて、僕もこんな風に生きたい! と思える先輩たちです。
一緒に活動させてもらっている鮭川村の鮭漁師のみなさん。今年も鮭シーズンが近づいてきました。
鮭川は水質も環境もいいので美味しい鮎が獲れるのですが、そのほとんどが自家消費で、市場に出ないこの地特有の食文化です。
自然豊かな川は、鮭だけでなく、鮎もたくさん上る。
鮎の存在は、鮭と同じく、その川の豊かさを意味しています。つまり、鮭がたくさん上ってくる川は、鮎もたくさん上ってきます。
僕は、ここ鮭川村で、鮭を通じて豊かな自然環境を残していくことに取り組んでいますが、それは鮭だけではなく、鮎をはじめとした他の魚にも良い影響を与えることになるのです。
昨年の大漁の日。鮎を、みんなで獲り、みんなで分けるのがこの地の文化。
鮭川では、秋に、産卵をひかえて成熟した錆鮎 (さびあゆ。錆のように黒っぽくなることからこう呼ばれています) を好んで獲る人が多くいます。
その背景には、錆鮎は脂が少なく保存性が高いため、これを炭火で焼いて干した「焼き干し」という食文化があります。ここ鮭川では、鮎も、鮭と同じように冬のタンパク源として重宝されてきたのです。
鮎は1年で一生を終える魚で、鮭と同じく川と海を行き来する魚です。川で生まれた稚魚は河口付近の海まで下り、ある程度まで成長するとふたたび川を遡上し、川の苔 (こけ) を食べて成熟します。
鮎の回遊をじっと待ちます。獲り尽くすことのないよう、投げる網の大きさや網目のサイズにも決まりがあります。
日本在来の鮭のライフサイクルを知っていますか?
つづいて、鮭漁のシーズンに向けた新たな取り組みについて紹介します。
鮭川の鮭にはストーリーがあります。川で産まれ、厳しい生存競争にさらされながらアラスカまで旅をし、大きく育ってふたたび生まれた川に戻ってきた精鋭たちです。
毎年秋に遡上してくる川鮭。
「鮭」は誰もが知っている身近な魚でありながら、実際に市場に出ている「鮭」はそのほとんどが脂ののった海外からきた養殖鮭です。以前は僕自身もそうでしたが、日本在来の鮭のライフサイクルや味は、ほとんどの人が知らないのではないかと思います。
でも、それを知る人が増えれば、この魚を食べることの意味や価値はきっと変わってくるはずです。
では、どうしたら多くの人にこの鮭のストーリーを知ってもらえるのでしょう? まずは現場を訪れてもらい、見て、触れてもらうということが一番です。答えは現場にしかないという僕の考え方は、学生の頃から今も変わりません。
川鮭は、産まれた川から海へ下り、餌を求めてアラスカ周辺まで1万km以上の旅をする。そして2~8年ほど (大多数が4年) で産まれた川に戻り、産卵し、その一生を終える。
そこで、コロナ禍で人をたくさん集めるイベントが難しい状況下でもできることとして考えたのが、鮭の遡上のピークとなる11月の1カ月間を丸ごと鮭を考えるイベントとする「さけがわサーモン月間」プロジェクトです。
1カ月間という期間を設けることで、小人数で分散して鮭川村を訪れてもらうのが狙いです。基本的にはすべて野外活動なので、最小限の接触で現場を見ることができます。
野生の鮭が集まるエリアを泳ぐ「サーモンスイム」などを企画中。
期間中は、体験を通じて楽しみながら鮭を知ることができる企画も予定しています。僕個人としては、『鮭 × 〇〇』というかたちで、さまざまなものと鮭を絡めてみようと考えています。
鮭が泳ぐ川を、鮭と一緒に泳ぐサーモンスイム。
構想段階中の企画としては、1つは「サーモンスイム」。人工孵化を行なっている場所より上流部の、野生の鮭が集まるエリアで泳ぎます。
膝くらいの水深の場所で静かに待っていると徐々に鮭が近づいてきます。ウェットスーツ、ソックス、グローブ、ヘッドキャップといったサーフィンでいう真冬の装備が必要ですが、手が届きそうな距離で野生の鮭を見ることができます。
昨年は魚好きのタイバーと一緒にトライしましたが、楽しくて体が冷え切るまで泳いでしまいました。冷え切った後の温泉がまた最高です。
夏に鮭川をSUPで下りました。秋は鮭の遡上もたくさん見ることができます。
もう1つは「鮭川下り」。SUP、カヤックと両方やりましたが、野生の鮭を見ながらゆったり下ることができます。パックラフトも面白いのではないかと思います。大きな岩などがない穏やかな中流域なので、初心者でも安心して楽しめます。紅葉も素晴らしい時期なので、天気が良ければ絶景も楽しめます。
いずれにせよ、現地での体験はコロナウイルスの感染状況次第ではありますが、11月時点のルールの範囲内で、可能な限りやってみたいと考えています。
外遊びを楽しみながら鮭川の鮭の現場を体験してもらい、現代の食生活のなかで忘れられつつある鮭という食材の背景を知ってもらえたら嬉しいです。
大人も子どもも、鮭川の鮭を、まずは実際に見て触れてもらい、一緒に考えていけたら嬉しいです。
今回のレポートで、鮭がたくさん上ってくる鮭川の豊かな自然環境は、鮎にとっても絶好のフィールドであることがわかった。松並くんの鮭をテーマにした取り組みは、他の生き物にとっても大きなメリットがあるようだ。
さらに、鮭漁のシーズンインに向けて、今年は漁だけではなく新たな体験プログラムも企画している松並くん。11月にどんな企画が実現するのか楽しみだ。
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