TRAILS 環境LAB

TRAILS環境LAB | 松並三男のSALMON RIVER #13 鮭漁師たちが受け継いできた食文化を残すための、鮭の加工場づくり

2021.07.23
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文・写真:松並三男 構成:TRAILS

What’s TRAILS環境LAB? | TRAILSなりの環境保護、気候危機へのアクションをさまざまなカタチで発信していく記事シリーズ。“ 大自然という最高の遊び場の守り方 ” をテーマに、「STUDY (知る)」×「TRY (試す)」という2つの軸で、環境保護について自分たちができることを模索していく。

* * *

『TRAILS環境LAB』の記事シリーズにおいてスタートした、松並三男 (まつなみ みつお) くんの連載レポートの第13回目。

松並くんは一昨年パタゴニアを退職し、山形県鮭川村に家族で移住した。そして鮭川村の鮭漁の現場で、「鮭」をテーマに環境問題に取り組んでいる。この連載を通じて、僕たちも環境保護の「STUDY」を深めていく。

松並くんは、鮭川村の地域おこし協力隊になって、今年で3年目。今年度で任期満了となることもあり、集大成を見せようと頑張っている。

そのひとつが、「鮭の新切り (ようのじんぎり)」の加工場づくり。仲間の自宅を自らで改装して、加工場につくりかえようとしている。

加工場づくりは、鮭川村の伝統的な保存食である「鮭の新切り」を、後世に残していくインフラを整える取り組みだ。

「鮭の新切り」をつくる場がなくなると、鮭川村で鮭漁を続けること自体が困難になる可能性もある。鮭漁師がいなくなることは、つまり川の価値を知る人がいなくなってしまうことを意味する。そんな問題意識から、DIYでの加工場づくりに着手した。


鮭の新切り (ようのじんぎり)。軒下に干して、寒晒しをしているところ。


鮎の友釣りに初挑戦!


こんにちは! 松並です。まずはいつもの近況報告から。

つい先日、鮎の「友釣り」に挑戦してきました。この釣りは、9mほどの1本竿でおとりとなる鮎を操作して鮎の付き場 (川魚の産卵する場所) に送り込みます。

そして、鮎が自分の縄張りを守ろうとして追い払おうとしたときに針が掛かるという、鮎の習性を利用した独特の釣り方です。


ただいま、鮎の友釣りにハマっています。

世界でも日本でしか行なわれていない独特の漁法で、奥が深くて歴史のある釣りです。餌でも疑似餌でもなく、長い1本竿で犬の散歩のようなイメージで鮎を泳がせる操作は他の釣りにはない感覚。そのシンプルさと魚との一体感が楽しすぎてあっという間に時間が過ぎていきました。

最近はおしゃれな若手鮎師も多いようで、今回僕のトライをサポートしてくれた先生は山形の若きイケメン鮎釣り名人、柏倉悠太さん。


僕の鮎釣りの師匠である柏倉悠太さんと。

彼は幼少期より鮎釣りにはまり、鮎釣り歴は20代にしてすでに10年以上の大ベテラン! 水産関係の仕事をしながらシーズン中はほぼ毎日どこかで鮎を釣っているという、根っからの鮎師です。

ルアーやフライの釣りももちろん楽しいのですが、日本にはまだまだおもしろい釣りがたくさんありますね。山形は海も川も楽しめる最高のフィールドです。


地域おこし協力隊である僕の、最終年度のミッションについて。


さて、本題です。今回は、僕の今の仕事の集大成のひとつについてレポートします。

僕は現在、総務省の地域おこし協力隊制度を利用し、「鮭川村の鮭川の鮭の利活用」をミッションに掲げて村役場に所属して仕事に取り組んでいます。

鮭漁のオフシーズンは、村のPRやイベントサポートなどをしつつ、10月からの鮭漁に向けて準備や勉強、情報交換などをしています。

今年度はこの制度の最終年度となる3年目で、この3年の集大成のひとつとして「鮭の加工場の完成」を掲げています。

任期終了後も鮭川の鮭を伝えていくために、どうしても必要な施設だと考えているので、今回はその経緯や進捗をレポートします。


仲間の自宅の一部を「鮭の新切り (ようのじんぎり)」の加工場に改装。



鮭の新切りは、鮭川の鮭漁師たちが受け継いできた大切な食文化。ちなみにこの人は、鮭漁師の大先輩、八鍬孝利 (やくわたかとし) さん。

鮭川村の伝統的な保存食「鮭の新切り (ようのじんぎり)」については、これまで何度か紹介してきました。

塩蔵 (塩づけにして保存すること) により塩分濃度が高く、乾燥させることで水分量も40%以下になります。そのため、食中毒などの菌が繁殖する可能性が低く、これまでの食品衛生法上では届け出の必要のない「珍味」というカテゴリーでした。

特に資格がなくても販売することができたため、これまでは漁師たちが各々の自宅で製造し、近隣の産直施設やふるさと納税の返礼品として販売してきました。

あまり多くは出回らない商品ではありますが、この地に残る貴重な食文化として、鮭漁師たちが大事に受け継いできたものです。雪深い内陸の独特な気候風土と塩だけで熟成させた鮭の独特な味わいは、この地ならではの味わいです。


2021年6月1日に食品衛生法が改正され、あらたな対応が必要になりました。

しかし、今年6月からの食品衛生法の改正に伴い、鮭の新切りを販売するためには「水産製品製造業」の許可が必要になりました。食品関連の資格としてはそこまでハードルの高いものではないのですが、資格をとるための登録料や、専用のシンクや手洗い場の設備の準備など、それぞれの自宅で製造するにはちょっと厳しい条件です。

そこで立ち上がったのが、#10の記事『川鮭の伝統保存食「鮭の新切り」の新しい食べ方』で紹介した、若手鮭漁師の矢口春己さんです。

村の鮭文化を後世につないでいきたいという熱い思いを持ち、自宅の一部を鮭の加工場として「水産製品製造業」の許可を取得することを決めました。


鮭文化を後世につなぐため、若手鮭漁師の矢口春己さん (左) が自宅の改装を決意しました。


加工場は、鮭漁の文化をつないでいくために必要な場所。


加工場を整備するうえで重要な前提は、そもそも鮭川の鮭漁師たちは、儲けるために鮭を獲っているわけではないということです。

今の時代まで世襲制で鮭漁が存続できたのは、この地に残る鮭文化を継承するためであり、この地に根付いた百姓の秋の楽しみでもあったからです。

僕は、個人的にはその要素を大事にしたいと考えています。だからこそこの加工場は、鮭川の鮭漁師たちが漁を継続するために必要かつ無理なく出せる出荷分を、きちんと価値をつけて販売していくべきです。そして、ここ鮭川においては、それが鮭漁の文化を後世につないでいくために重要だと考えています。


春巳さんの住居の離れにある加工場の外観。この建物の一室を改装中です。

鮭漁の現場は、鮭川に限らずどこも高齢化や設備の老朽化などで深刻な担い手不足にあります。鮭を獲る人がいなくなれば、それは川を見る人がいなくなるこということ。つまり、川の価値を知る人がいなくなってしまうということです。

そうした事態を避けるためにも、きちんと出荷できる道筋を残していくことが重要なのです。


「秋までに本当にできるんだべか? いや、やるしかない!」


矢口さんの自宅に作ろうとしている加工場がどんなところかというと、床がコンクリートでガレージのような雰囲気のところです。

これを書いている今は、まだ改装作業が始まったばかりで、写真はもともとあった壁を剥がし、残った釘を取り除いているところです。


手作り、手探りの加工場づくりがスタート! 二人でコツコツつくっていきます。

これから8月にかけて、傷んだ柱の補強、隙間の穴埋め、壁貼り、床塗り、水道やシンクなどの設置などを行なっていきます。

加工場といっても、鮭の新切りを作るにあたって必要なのは、、鮭をさばいて塩を漬けることくらい。なので、設備としては必要最低限を予定しています。二層式のシンクと作業台、手洗い場、保管用の冷蔵庫など、イメージ的には昔ながらの商店街の魚屋さんといった感じです。

鮭の新切りはもともと冷蔵庫がない時代からの保存食なので、塩分濃度や水分量の観点からも腐敗する可能性は限りなく低い食品です。でも、より安全で安定した品質を目指すうえでは今回の改正は良い機会となりそうです。


冷蔵庫がない時代からの保存法。たっぷりの塩で漬けるので、菌が繁殖することはほとんどありません。

加工場が完成すれば、これまでの「珍味」よりも製造できる製品の幅が広がるため、新しい食べ方の可能性が広がります。

個人的に楽しみなのは、活き締めした鮭の新切りを半生で薄づくりにしたものを作ることです。これまでは水分量の関係で「珍味」としては扱えない食べ方でしたが、加工場によってこの新商品づくりにもチャレンジできそうです。


「鮭の新切りの半生薄づくり」は、個人的にイチオシの食べ方です。これを炙って食べるのですが、お酒が止まりません。

加工場のオーナーとなる春己さんは会社員なので、作業はおもに仕事をあがってからの夜に一緒に進めています。お互い「秋までに本当にできるんだべか? いや、やるしかない!」と、地道に進めていますので、また進捗を報告していきます。


鮭川の鮭の魅力や文化を、もっとたくさんの人に伝えていきたい。


加工場づくりにくわえて、今年度のもうひとつの大きなテーマが「鮭川の鮭に関する発信力の強化」です。

鮭川の鮭のバックグラウンドをより多くの人に伝えるため、鮭漁の現場をつなぐオンラインイベントやクラウドファンディングなども準備を進めています。

鮭漁のシーズンインとともに鮭に関する発信が盛りだくさんになるはず。これについても今後レポートしていきたいと考えていますので、ご期待ください。


鮭川の全景。原始の地形が残る本当に素晴らしい川です。山形の鮭シーンをもっともっと知ってもらいたいです!

地域おこし協力隊の最終年度を迎え、ラストスパートをかけている松並くん。

10月に鮭漁がスタートするまではオフシーズンゆえ、現在は、加工場づくりや、情報発信に積極的に取り組んでいる。

加工場ができることで、伝統的な食文化を残していくだけではなく、松並くんが取り組んできた「川鮭の新しい食べ方」も進むはずなので、加工場の完成を楽しみに待ちたいと思う。

WRITER
松並三男

松並三男

1983年、神奈川県生まれ。大磯町という海や川に恵まれたエリアで生まれたこともあり、幼少期から虫取りや魚釣りに夢中になる。中高と海釣り (ルアー) にハマる。その頃、海で大量のゴミを目にしたことをきっかけに環境に興味を抱き、日本大学生物資源科学部に入学。海洋環境学の研究に没頭する。卒業後は就職せず、海岸清掃と釣り中心の日々。その後「もっと海を良くしたい」という思いが強くなり、パタゴニアに入社。約10年にわたりさまざまな店舗で勤務する。2019年、川鮭と環境問題の関連性に注目し、それを追求すべく、山形県鮭川村に移住。鮭川村の地域おこし協力隊として働きながら、鮭をテーマに活動している。リアルタイムな活動は、鮭川村地域おこし協力隊 Facebookページより。https://www.facebook.com/sake.kyouryokutai Photo by Mitsuru Itabashi (バシフォト)

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