TRAILS 環境LAB

TRAILS環境LAB | 松並三男のSALMON RIVER #12 数字で振り返る、鮭の遡上量と発眼卵放流

2021.06.09
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文・写真:松並三男 構成:TRAILS

What’s TRAILS環境LAB? | TRAILSなりの環境保護、気候危機へのアクションをさまざまなカタチで発信していく記事シリーズ。“ 大自然という最高の遊び場の守り方 ” をテーマに、「STUDY (知る)」×「TRY (試す)」という2つの軸で、環境保護について自分たちができることを模索していく。

* * *

『TRAILS環境LAB』の記事シリーズにおいてスタートした、松並三男 (まつなみ みつお) くんの連載レポートの第12回目。

松並くんは一昨年パタゴニアを退職し、山形県鮭川村に家族で移住した。そして鮭川村の鮭漁の現場で、「鮭」をテーマに環境問題に取り組んでいる。この連載を通じて、僕たちも環境保護の「STUDY」を深めていく。

松並くんはちょうど先日、いつもお世話になっている国立研究開発法人「水産研究・教育機構」の鮭の専門家、飯田真也さんに会いに行ってきました。そこで飯田さんから、鮭にまつわる最新データをヒアリングしたそうです。

1つは、鮭の遡上量の数字。歴史的不漁と言われた一昨年と比べ、2020年度の鮭の遡上量はどうだったのか。

もう1つは、発眼卵放流 (はつがんらんほうりゅう) の最新情報に関する数字。「生残率」や「回帰率」、またこの方法の作業効率などから、松並君がチャレンジしている放流方法を科学してきたようです。

今回は、そんな川鮭にまつわる数字から、レポートしてもらいます。


川を遡上してきた鮭。


会津桐を用いたルアーづくりに、どハマり中。


こんにちは! 松並です。今回は、鮭の話の前に、遊びを通じてできるフィールドを守るアクションをひとつ紹介します。自作している会津桐のルアーについてです。

一番大きな目的はプラスチックルアーからの脱却です。プラスチックルアーを水中に投げ入れることは、海にプラスチックゴミを捨てているのに近い感覚があり、これが自分のなかでは課題だと感じていました。


プラスチックではなく、会津桐でルアーを作ります。

使用する木材は軽くて加工しやすい海外産のバルサ材が一般的です。僕もまずはバルサ材で作りはじめましたが、徐々に国産材でルアーを作れないかと考えるようになりました。

調べてみると、国産材では桐が一番バルサに近いことがわかりました。そこで前職のパタゴニア時代に出会った会津の製材所で働く友人に相談し、会津桐をルアー制作用に加工して提供してもらったところ、これが思った以上に素晴らしかったのです。


会津桐の調達元、木工職人として会津の製材所で働く岩淵良太くん。スキーと山を愛する男で、僕のルアーづくりには欠かせない存在です。

色も塗らず、木にアルミテープをはるだけですが、市販品と同じ感覚でストレスなく魚は釣れます。作るプロセスも最高に楽しいので、ルアー釣りをする方にはぜひトライしてほしいです。


鮭の最新情報を入手すべく、鮭の専門家を訪ねました。


さて、本題の鮭の話です。今回は、国立研究開発法人「水産研究・教育機構」の鮭の専門家、飯田真也さんに、鮭に関する話を聞きに行ってきました。


鮭の最新情報を専門家から聞くために、新潟まで行ってきました。

飯田さんは、発眼卵放流 (※1) のことで僕がいつも相談している研究者です。幼少期から釣りが大好きで、小学生の時に「鮭が産まれた川に戻ること」を知って感動したことをきっかけに水産系の大学へ進学し、そこから現在まで20年以上、鮭の増殖手法に関する研究をしてきた鮭のスペシャリストです。

現場に通いこむスタイルの研究の話がいつも本当におもしろくて、僕にとっては頼れる兄貴です。

※1 発眼卵放流:受精後の卵に黒い眼が見えはじめる「発眼卵」の段階で川に埋め戻していく人工孵化の方法のこと。従来の手法と異なり、稚魚まで育てる必要がないため、コストと労力の削減が大きなメリット。しかし松並くんが、この方法に取り組む一番の理由は別にある。実用化にあたり、野生魚と同じプロセスで稚魚が育つ必要があるため、豊富な餌や水質のいい河川環境が前提となる。つまり、この取り組みは「魚がたくさん住める、自然豊かな川」を守っていくことにつながるのだ。


群馬県出身の43歳の研究者、飯田真也さん。

今回は、そんな飯田さんから聞いた情報をもとに、2020年を振り返るべく、鮭の遡上量、発眼卵放流の生残率と回帰率、そして未来につながる新しい放流方法についてレポートしていきます。


2020年における日本の鮭の「遡上量」は、僕が住む山形県が好調でした。


まずは、昨年の日本全体の鮭の「遡上量」についてですが、その前に「漁獲量」との違いを説明しておきます。

#04の記事で書いた鮭の「漁獲量」は、主に市場で出回っている海で獲れた鮭の量を示しており、「遡上量」とは、川を遡上してきて孵化事業のために水揚げされた鮭の量を示すものです。

傾向としては漁獲量と連動するのですが、今回はあくまで僕が関わっている孵化事業の結果として「遡上量」についてレポートします。


川を遡上してきた鮭は、人工孵化事業のために捕獲されます。

全体的には、歴史的不漁と言われた一昨年と変わらず厳しい状態でした。特に東北太平洋側の遡上量は一昨年と同様だったようです。それに対して日本海側は遡上量が比較的安定していて、なかでも好調だったのが山形県でした。

好調の理由は、山形県内の遡上量の9割を占めている月光川水系の遡上量が多かったことです。その月光川水系には3つの鮭の孵化場があるのですが、ひときわ多かったのが「桝川」(ますかわ) という川でした。


2020年の遡上量は、日本全国のなかでも山形県が特に好調でした。

現地にいないため正確にはわからないのですが、鳥海山の麓にある月光川水系は、豊富な湧水の恩恵を受け、年間を通して水質や水温が安定しており、鮭が育つための条件がいいんです。さらに桝川では、4年前に人工孵化場の大規模なリニューアルがあり、最新の設備と孵化事業者の努力が遡上量につながっている可能性も高いと思われます。


発眼卵放流の「生残率」は、5年間の平均が75~98%、2020年は85%。


次に、発眼卵放流の生残率 (卵が稚魚に育つまでの割合) についてです。鮭における発眼卵放流は、全国的にはまだまだ実験段階の方法ですが、徐々にではありますが発眼卵放流のデータが蓄積しはじめているのです。

ちなみに「生残率」とは、発眼卵で川に戻した鮭たちがちゃんと育っているのか? を示す数字で、バイバートボックス (※2) という箱を用いて算出します。

生残率の詳しい算出方法については#08の記事、僕が鮭川でトライした結果については#11の記事をご覧ください。

※2 バイバートボックス:ウィットロック・バイバートボックス (WVB:Whitlock Vibert Box) のことで、2人の研究者の名前が箱の名前になっています。自作品はそれを模倣したものなので、正確には「ハッチェリー・ボックス」または「インキュベーター・ボックス」といった呼び方になるかもしれませんが、一般的にはバイバートボックスと呼ばれているため、こちらで表記しました。


放流した発眼卵がどのくらいの割合で稚魚まで育つか。それが生残率です。

飯田さんが日本海沿岸の河川で実施した調査によると、ここ5年間で算出した年ごとの平均生残率は75~98%となっており、2020年は平均で85%とのことでした。

従来の人工孵化事業よりもコストや労力をかけないこのやり方で、これくらいの確率で稚魚が育つのであれば、増殖手法としては優れていると考えられます。


「回帰率」は、まだ結果が出ておらず調査中です。


もうひとつ、発眼卵放流が有効であることを証明するための重要なファクターが、放流した鮭がきちんと川に戻ってくるのか? を示す数値「回帰率」です。


受精後に黒目が見えはじめて安定した状態が、発眼卵です。

細かい算出方法は割愛しますが、簡単に言うと、発眼卵放流した個体に標識をつけ、川に戻ってきた鮭を調べ、どのくらいの割合で標識のある魚がいるかを算出するというやり方です。

飯田さんは2016年からこの調査を開始し、大多数が回帰すると思われる4年目の2020年の結果に期待していたのですが、残念ながら調査したサンプルの中に標識魚は確認できなかったとのことでした。


鮭川とその支流となる泉田川。回帰率の結果を、こうした自然の川の存在価値を高めることに繋げていきたいです。

とはいえ、まだまだ調査ははじまったばかりで、2016年に10万尾だった標識魚を徐々に増やしているらしく、2020年は初年度の5倍以上の54万尾の標識魚を放流しているそうです。

無事に回帰してくれたら、2022〜2023年あたりには結果が見えてくるだろうとのことでした。この結果が出れば、いよいよ日本の鮭の人工孵化事業が、自然の川をより活かした方法にシフトするきっかけになるかもしれません。発眼卵放流の「回帰率」がどのような結果となるのか、非常に興味深く、良い結果を期待したいところです。


現在実験中の新しい放流方法は、作業効率がこれまでの20倍以上!


今回の飯田さんの話で特に興味深かったのは、発眼卵放流の作業効率をあげる新しい放流方法についてでした。


これまでの放流方法は、川底に穴を掘り、塩ビパイプで卵を流し込み、パイプを抜く、というやり方。

この新しい放流方法についてはまだオープンにできないのですが、これまでの放流方法の作業効率が「約1万尾」(4人で1時間実施した場合) だったのに対し、今回実験した新しい方法では「約24万尾」(4人で1時間実施した場合) だそうです。

つまり、同じ労力で20倍以上の数を放流することができたわけです。鮭川の例年の放流数が100万尾なのですが、作業する人が4人いればたった4時間で終わってしまうのです。実用化できれば、非常に有効な放流方法となるでしょう。


まだまだ解明されていないことが多いからこそ、鮭はおもしろい。


現場から研究のアイデアが生まれ、研究は現場の存在意義につながっていきます。

飯田さんとはお互い釣りと魚が大好きなことが共通しているので、いつも魚の話が止まりません。先日の帰りがけの会話が印象的で、高齢化で若い人たちが鮭の現場にいなくなっているという話になったとき、飯田さんはこう言いました。

「っていうかさ、なんでみんな鮭やらないんだろうね? すごくおもしろいのにね」


ベテラン中心の鮭漁の現場。

ちなみに、鮭の増減については水温上昇などの影響がよくフォーカスされますが、複雑なライフサイクルをもつ魚種のため、いずれもはっきりした要因はわかっていないようです。なにかと言い切れないことが多いのです。

とはいえ、この複雑さ、未解明な部分の多さが鮭のおもしろいところでもあり、生態も、歴史も、食べ方も、とにかく奥が深い魚です。だからこそ、多くの人に知ってほしいし、鮭の現場にもっと若手が入ってくれることを願い、引き続きトライしていきたいと思います!


鮭は、とにかくおもしろい魚です。2021年も、いろいろトライしていきます。

鮭の研究者から最新情報を聞いたことによって、これまで試行錯誤をしながら実験してきた「発眼卵放流」の有用性を確かめることができた松並くん。

あらためて鮭の奥深さを実感し、彼の活動の勢いも、さらに加速しそうだ。

昨シーズンの経験と学びを活かして、また秋以降にはじまる次のシーズンにどんなトライをしていくのか。これからのレポートにも注目したい。

WRITER
松並三男

松並三男

1983年、神奈川県生まれ。大磯町という海や川に恵まれたエリアで生まれたこともあり、幼少期から虫取りや魚釣りに夢中になる。中高と海釣り (ルアー) にハマる。その頃、海で大量のゴミを目にしたことをきっかけに環境に興味を抱き、日本大学生物資源科学部に入学。海洋環境学の研究に没頭する。卒業後は就職せず、海岸清掃と釣り中心の日々。その後「もっと海を良くしたい」という思いが強くなり、パタゴニアに入社。約10年にわたりさまざまな店舗で勤務する。2019年、川鮭と環境問題の関連性に注目し、それを追求すべく、山形県鮭川村に移住。鮭川村の地域おこし協力隊として働きながら、鮭をテーマに活動している。リアルタイムな活動は、鮭川村地域おこし協力隊 Facebookページより。https://www.facebook.com/sake.kyouryokutai Photo by Mitsuru Itabashi (バシフォト)

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