TRAILS 環境LAB

TRAILS環境LAB | 松並三男のSALMON RIVER #08 この冬の川鮭チャレンジ、進捗レポート

2021.01.29
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文・写真:松並三男 構成:TRAILS

What’s TRAILS環境LAB? | TRAILSなりの環境保護、気候危機へのアクションをさまざまなカタチで発信していく記事シリーズ。“ 大自然という最高の遊び場の守り方 ” をテーマに、「STUDY (知る)」×「TRY (試す)」という2つの軸で、環境保護について自分たちができることを模索していく。

* * *

『TRAILS環境LAB』の記事シリーズにおいてスタートした、松並三男 (まつなみ みつお) くんの連載レポートの第8回目。

松並くんは一昨年パタゴニアを退職し、山形県鮭川村に家族で移住した。そして鮭川村の鮭漁の現場で、「鮭」をテーマに環境問題に取り組んでいる。この連載を通じて、僕たちも環境保護の「STUDY」を深めていく。

松並くんの住む鮭川村では、昨年11月に鮭の漁期が終了した。実は松並くんにとっては、12月からの冬が本格的な実験のシーズンとなる。

今シーズンに獲れた川鮭を使って、「食べ方」と「増やし方」の実験が進んでいる。食べる鮭として忘れられた川鮭の、あたらしいレシピ開発。漁獲量が減る鮭を、野生の力を使いながら孵化させて増やす方法。これが2大テーマだ。

与えられた答えがないなかで続ける、リアルな試行錯誤。今回は、そんな松並君の最新の状況をレポートしてもらった。

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赤い屋根が鮭の孵化場で、横を流れるのが発眼卵放流を実施した泉田川。水源は画面奥にうっすら見える神室連峰で、水質も地形も素晴らしい川。


贅沢としか言いようがない、山形移住2年目の冬のルーティーン


遅ればせながらではありますが、あけましておめでとうございます! 松並です。

ここ山形県鮭川村における最近のアクティビティといえば、もちろん “雪” がらみです。昨年はまったくと言っていいほど雪が降らなかったので、神奈川からここに移住して2年目にしてようやく雪深い冬を迎えることができました。

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週末は、娘と一緒に雪遊び。豪雪地の冬を楽しんでいる。

スノーボードは自宅から30分ほどで行けるローカルスキー場「グリーンバレー神室」がお気に入り。ほとんど地元の人だけのとても平和なスキー場ですが、リフト1本でちょうどいい斜度のコースが3本あり、パウダーも圧雪もなかなか楽しめます。

リフト券が安いうえに、これを買うと隣接する温泉が100円で入れるという贅沢としか言いようがないルーティーンを毎週楽しんでいます。移住2年目の僕にとっての豪雪地の冬は、大変さよりも楽しさが圧倒的に上回っています。


今冬のチャレンジ #1 野生の力を使った、川鮭の新しい「増やし方」。


去年の11月30日に鮭漁が終了してからは、これまで書いてきた川鮭の「増やし方」と「食べ方」について、試行錯誤の真っただ中にいます。今回は、この2つについての進捗と新しい発見をレポートさせていただきます。

まずは、昨年11月の記事「#06 自然豊かな川を守るための鮭の育て方の模索」 (詳しくはコチラ) で説明させてもらった「発眼卵放流」について。これに関しては昨年12月21日に、鮭の孵化場の前を流れる泉田川にて実施することができました。

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黒い眼が見えはじめている卵たち。この段階で川に埋め戻すのが「発眼卵放流」。一方、孵化後、春までエサを与えて稚魚まで育てるのがこれまでの人工孵化事業。

「発眼卵放流」について、簡単におさらいすると……日本の鮭資源の造成は1980年以降、稚魚まで育てて放流する人工孵化事業を主軸としてきましたが、一定の放流数に対して2010年くらいから漁獲量が減り続け、現在はピーク時の3分の1以下まで落ち込んでいます。

この結果から、野生魚の価値が見直され始めていて、人工孵化の手法にも変化が求められています。そんな人工孵化の新しい手法のひとつとして、野生の力に着目した手法が「発眼卵放流」です。


発眼卵放流のチャレンジ =「自然豊かな川」を守り続けるチャレンジ


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発眼卵放流を行なった場所のひとつ (今年1月中旬に撮影)。とにかく雪が深い。

発眼卵放流ができる川の条件は、野生の鮭が好む産卵場所とほぼ同じです。卵が孵化するためには卵が酸欠にならないようにすることが重要ですが、具体的には「瀬」と呼ばれる水深が浅くて流れが速く、砂が少ない玉砂利の場所がベストとされています。

反対に深くて流れが緩やかな場所は「淵 (ふち)」と呼び、こちらは砂なども堆積しやすく産卵には適さないものの、鮭をはじめ魚たちにとってカラダを休めるための重要な地形です。

自然の地形が残る川にはこの「瀬」と「淵」が交互に存在するのですが、今回放流を行なった泉田川は、まさにその条件を満たす地形の変化に富んだ川です。

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適正地と思われる場所など数カ所で、発眼卵放流を実施した。

この方法では、卵の段階で放流するため、孵化した後は野生の鮭と同じ条件で育っていくことになります。つまりこれは、エサが豊富にある自然の河川環境の存在が前提です。僕にとっては、この取り組みの結果、魚がたくさん住める河川が増えていくことこそが、一番の狙いでもあります。

今年はこの取り組みの第一歩として、発眼卵放流における「生残率」(河川でどれくらい孵化できたか)を算出してみることにしました。


自然の川でどれくらい孵化できるか? 結果が出るのは3月の予定。


生残率を算出する目的は、この川が適正地かどうかを確かめることです。

バイバートボックス (※) というボックスを用いて算出するのですが、日本水産研究機構の鮭の研究者の方からアドバイスをいただきながら、虫かごを改造して自作しました。

※ バイバートボックス:ウィットロック・バイバートボックス (WVB:Whitlock Vibert Box) のことで、2人の研究者の名前が箱の名前になっています。自作品はそれを模倣したものなので、正確には「ハッチェリー・ボックス」または「インキュベーター・ボックス」といった呼び方になるかもしれませんが、一般的にはバイバートボックスと呼ばれているため、こちらで表記しました。

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これが自作のバイバートボックス。網の虫かごと園芸用ネットを利用して製作した。

このボックスに発眼卵を入れて川に埋設していきます。

孵化した稚魚は卵の栄養を使い切るまではボックス内で過ごすため、天敵から襲われることもありません。そして卵の栄養を使い切るとエサを求めて水面に向けて浮上するため、その段階でボックスの隙間を抜けて自然界へ旅立っていくという仕組みです。

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バイバートボックスの設置風景。生存率については、3月上旬以降に結果がわかる見込み。

生存率の算出方法は単純で、たとえば発眼卵を100個いれたボックスが、春になってすべて孵化してからっぽになっていれば、生残率は100%ということになります。このボックスを使うことで卵の段階での減耗が起きないため、河川環境が発眼卵放流に適正かどうかを確かめることができます。

この記事を書いている1月中旬の段階では水位は安定していて問題なさそうです。今はまだ浮上前の段階のため、無事に旅立ってくれることを願うだけです。この結果については、3月上旬以降に報告できると思うのでご期待ください。

さて、次に川鮭の「食べ方」についての進捗です。


今冬のチャレンジ #2 脂の少ない川鮭に「こめ油」を合わせて食べてみる。


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「鮭の新切り (ようのじんぎり)」の半生薄造り。冷蔵、冷凍せず塩と水と雪深い気候で熟成させて約2カ月。しっとりと熟成した濃厚な鮭の旨味は、たった一切れでもすごい衝撃。日本酒との相性も抜群。

12月の記事「#07 食べる魚として「忘れられた」川鮭の食べ方の試行錯誤」(詳しくはコチラ) では、川鮭の基本的な身質の特性と活き締めの効果などを書きました。

それを経てここ最近は、伝統的な郷土食「鮭の新切り(ようのじんぎり)」の旨味を再認識しつつ、相性抜群の素晴らしい食材との出会いがあったので、その最新情報について紹介させていただきます。

川を遡上してきた鮭は脂が少ないため、油を使った料理と相性がいいということは前回の記事にも書きました。そこでポイントになるのは、どの油と合わせるか? です。

どの油でも美味しく食べることはできるのですが、ごま油やオリーブオイルなどは油自体の香りが強すぎて鮭の個性が薄まる印象があったりと、いろいろ悩んでいた時に見つけたのが国産の「こめ油」でした。

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オイル煮や唐揚げはかなり美味しい。油との相性はいいとして、どの油と合わせるかが問題だった。

一番魅力を感じたのは、原材料が国産の米ぬかのみということです。米ぬかは精米時に発生する副産物で、米が主食である日本では毎年かならず大量に発生します。

そして米ぬかには米の栄養成分のほとんどが含まれており、遺伝子組み換えなどの心配もないため、これを使わない手はないと考えました。

圧搾した油の味は癖が少なく素材の味を活かすことができ、米ぬか由来の栄養成分は油にも多く含まれています。考えてみれば、米と魚を主食にしてきた日本人の味覚からすれば、白米や日本酒同様に、こめ油だって魚との相性がいいはずなのです。


2月に「こめ油」メーカーの協力のもと、レシピ開発がスタート!


調べてみると、偶然にも三和油脂株式会社という「こめ油」の大きな生産工場が山形県天童市にあることがわかったため、実際に見学に行くことにしました。

ありがたいことに、創業者の山口社長から直接こめ油の特徴、歴史、製造方法から市場規模や動向などを1日かけて教えてもらい、こめ油の魅力は高まるばかり。

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国産の米ぬかのみで作られた山形生まれの「こめ油」。米と鮭が合わないわけがない!

さらに、工場見学時にこめ油で揚げた鮭を持ち込んで社長に食べてもらったところ、「これはおもしろい!うちでも試すから鮭を持ってきてくれ」と声がけいただき、思いがけず鮭のレシピ開発に協力してもらうことになりました。

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「こめ油」の工場見学へ。原材料は米ぬかのみで、ここでは圧搾して油を抽出するとのこと。米の栄養のほとんどが米ぬかにあることも知り、「こめ油」に大きな可能性を感じた。

2月上旬にこの会社のテストキッチンにて、栄養士や油のプロたちと鮭のレシピを一緒に考える予定です。

もしかするとかなり美味しいレシピが生まれてしまうかも……すごく楽しみです!

発眼卵放流とあわせて、これについてもまたレポートしていきたいと思います。

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鮭川村の伝統的な保存食「鮭の新切り (ようのじんぎり)」と一緒に。

雪景色の川のなかに入り、体を浸しながら新しいチャレンジをする松並くんの近況は、なんともたくましさを感じさせてくれるレポートだった。

記事にも書いてあったように、松並くんは2月上旬にテストキッチンにて、こめ油を用いた川鮭のレシピ開発を行なう予定だ。

次回の記事では、その詳細をレポートしてもらうので、みなさんお楽しみに。

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WRITER
松並三男

松並三男

1983年、神奈川県生まれ。大磯町という海や川に恵まれたエリアで生まれたこともあり、幼少期から虫取りや魚釣りに夢中になる。中高と海釣り (ルアー) にハマる。その頃、海で大量のゴミを目にしたことをきっかけに環境に興味を抱き、日本大学生物資源科学部に入学。海洋環境学の研究に没頭する。卒業後は就職せず、海岸清掃と釣り中心の日々。その後「もっと海を良くしたい」という思いが強くなり、パタゴニアに入社。約10年にわたりさまざまな店舗で勤務する。2019年、川鮭と環境問題の関連性に注目し、それを追求すべく、山形県鮭川村に移住。鮭川村の地域おこし協力隊として働きながら、鮭をテーマに活動している。リアルタイムな活動は、鮭川村地域おこし協力隊 Facebookページより。https://www.facebook.com/sake.kyouryokutai Photo by Mitsuru Itabashi (バシフォト)

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