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TRAILS環境LAB | 松並三男のSALMON RIVER #07 食べる魚として「忘れられた」川鮭の食べ方の試行錯誤

2020.12.18
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文・写真:松並三男 構成:TRAILS

What’s TRAILS環境LAB? | TRAILSなりの環境保護、気候危機へのアクションをさまざまなカタチで発信していく記事シリーズ。“ 大自然という最高の遊び場の守り方 ” をテーマに、「STUDY (知る)」×「TRY (試す)」という2つの軸で、環境保護について自分たちができることを模索していく。

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『TRAILS環境LAB』の記事シリーズにおいてスタートした、松並三男 (まつなみ みつお) くんの連載レポートの第7回目。

松並くんは昨年パタゴニアを退職し、山形県鮭川村に家族で移住した。そして鮭川村の鮭漁の現場で、「鮭」をテーマに環境問題に取り組んでいる。この連載を通じて、僕たちも環境保護の「STUDY」を深めていく。

10月10日にスタートした今シーズンの鮭漁も、11月30日で漁期を終えた。漁期の50日間、松並くんは毎日、鮭川村の鮭漁の現場に通いつづけた。

鮭を通じた環境保護の取り組みのひとつが、食べる魚として「忘れられた」川鮭の美味しい食べ方を見つけることだ。

昨年に考えた食べ方のアイディアを、今年はがんがん実践する年。今回は、トライ & エラーのリアリティをそのまま伝えてもらうことにした。

そんな松並くんが興奮気味に、「禁断の旨味が見えたかもしれません」と連絡をくれたのは11月末のことだった。どうやら、美味しい食べ方を模索しているなかで、一筋の光が見えたようだ。

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試作のひとつ、鮭の照り焼きタルタルソースがけ。



ウェットスーツを着て、鮭と泳いでみた。



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鮭と泳ぐべく、知人と一緒に川へ。名付けてSALMON SWIMMING!

こんにちは松並です。毎度のことながら近況報告から。鮭中心の日々の中で、魚好きの知人から「鮭と泳ぎたい!」というリクエストがあり、ウェットスーツを着て川 (水温9℃) を流れてみることにしました。

鮭が定位する場所で低い姿勢で石につかまってじーっと待っていると、徐々に鮭が集まってきて、手の届く距離で見る野生の鮭に、寒さを忘れて見入ってしまいました。

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石になったつもりでじーっと待っていると、鮭が徐々に寄ってきてくれた。

1時間ほどの入水で芯まで冷え切ったあとは、そのまま近所の「羽根沢温泉」へ直行。山形県内は全市町村に温泉がある温泉王国のため、外遊びからの温泉はもう最高です。



漁の現場で行なう「活き締め」という処理方法について。



以前の記事で、食べる魚として「忘れられた」川鮭について、書かせていただきました (詳細はコチラ)。僕は「美味しく食べよう、獲るならば」というスタンスで、人口孵化後の鮭の命を無駄にしないために、食べ方の模索をはじめました。

今回は、川鮭の美味しい食べ方について、僕の具体的なチャレンジをお見せしようと思います。今年のトライ & エラーのなかで、いくつか希望をもてる調理方法が見えてきたのです。

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受精させるため、雄の精子を絞る。日本では遡上した鮭の多くが、人の手で命を繋ぎ、最期を迎える。

ある魚の食味をベストの状態で扱うことを考えた時に、生きている間に行なう処理を「活き締め」といいます。「活き締め」は、脳死、血抜き、神経締め、という3つの処理を基本的に行ないます。

脳死は、頭を叩くか脳天を針で刺すなどで脳の機能を停止させる処置のこと。血抜きは、心臓が動いているうちにエラ (人でいう肺) を切って自らの血圧により血を抜くこと。神経締めは、簡単に言うと魚の神経を破壊することで身のエネルギー消費を抑え、死後硬直を防ぐことを指します。

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心臓が止まる前にエラを切る「血抜き」。特に重要なプロセスだ。

活き締めの3つの処理のうちで重要度をあげるとすると、血抜きが最重要な処理ということは確かだと思います。仮に血抜きをせずに他の処理だけ施したとしても、魚の身には臭みの原因となる血がまわってしまい、生臭い切り身になってしまいます。



「活き締め」で、川鮭が美味しくなるのではないか? というアイディア。



鮭川の鮭漁の現場に関して言うと、僕にとって初年度となる昨年の段階では血抜き、神経締めを行なう人は誰もいませんでした。

「活き締め」をしないから食べられないというわけではありません。ただ、血のまわった鮭はやはり生臭みが強く、地元でも「川鮭は生臭い」という声も少なくありませんでした。

調理方法についても、未処理なことで発生する生臭みを、後からいかに消すかという足し算の調理法が多かったのです。

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鮭川の鮭漁メンバーのなかでも、「血抜き」をする人が増えてきた。

そもそも、良いとされている「活き締め」が、なぜ鮭漁の現場で行なわれていなかったのか? それは、「活き締め」が手間のかかる作業であり、地魚やブランド魚などの、手間をかける価値のある美味しい魚を、さらに美味しく食べるために行なう処理、という常識があったからだと思います。市場価値の低い川鮭にそれを施す必要性も見出せなかったし、現場での作業負荷も増えてしまうという背景もあったでしょう。

でも僕は、「これだ!」と思ったのです。川鮭にこれまで行なってこなかった「活き締め」を施すことで、生臭さも解決され、新たな価値が生まれると考えたのです。

実際、特に血抜きの効果は大きく、これによりシンプルな味付けでも臭みを感じない状態になることは昨年の段階で気づきました。今年は漁期前から鮭漁メンバーに血抜きの効果に関する資料を配るなどしているうちに、現場でも血抜き処理をする人が増え、効果を実感している人も増えてきました。



さらに「神経締め」にもトライして旨味が落ちないようにした。



僕自身はさらにもう一歩前に進んでみることにしたのですが、それが「神経締め」という一手です。

脳死、血抜き処理は、比較的昔から知られていたのですが、神経締めが言われはじめたのは比較的最近ではないでしょうか。

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神経締め後の鮭は美しい。

魚の神経は、人間でいう脊髄の位置で、頭から尾まで背骨の上にあり、これをステンレス線で破壊することにより、身に余計な信号が送られなくなります。

実際にこの処理をすると、スッと魚の緊張が解けていくのがわかり、逆立った鱗がフワッと緩み、目や体の輝きが、まるで水中で魚を見るときのような美しい姿になります。つまり、死後硬直を防ぐことで鮮度を保つことができるのです。

こうした「活き締め」は魚が死んでしまうとできないため、水揚げの現場でしかできません。これをスピーディーに行なうことは、結局は魚をいかに苦しませずに素早く命を絶つかということであり、現段階ではこれが素材の旨味の最大値と思われます。



遡上で傷だらけになった川鮭の「見栄え」の現実。



鮭を塩漬けし、寒晒しにする「ようのじんぎり (鮭の新切り)」という伝統的な保存食については、以前の記事でも紹介しました。2020年は、この伝統的な手法に習いつつ、これまでされてこなかった活き締め処理をきちんと行ない、シンプルに塩のみを使った旨味の熟成を見極めようと考えていました。

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鮭川村の伝統的な保存食「鮭の新切り (ようのじんぎり)」。

ところが、鮭漁がはじまりあらためて気づいたのが、伝統食では見栄えの悪い傷だらけの鮭が多いことでした。活き締めで食味が上げると言っても、傷だらけでヒレのすり切れた鮭の塩漬けは、やはり見栄えも悪く厳しい……という現実に直面しました。

「命を無駄にしない」ということを考えると、傷の入った鮭なども含めて使い切る方法も必要だと考えるようになったのです。

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傷だらけになってしまった鮭は、伝統食としても活用しにくい。

そこで、伝統食でも価値がつけられず厄介者扱いされる傷物の雄や、採卵後の雌の活用を模索するため、漁協で協力してくれる人たちから処理を引き受けることにしました。

漁協の組合員でもこうした鮭は使い切れずに困っていた人も多いため、結果的にはかなりの数を引き受けることになりました。引き受けた鮭はすべて丁寧に「活き締め」していくので、多少傷があっても皮をひいてしまえば身質は同じです。

漁期中はこれを真空パックして冷凍保存していき、レシピは漁期後にじっくり考えていくことにしました。

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活き締めした鮭の身は、とても美しい。



鮭の魚醤。鮭を余すことなくすべて使い切る工夫。



鮭を調理する際、3枚おろしにしていく中で発生する問題は、頭や骨、ハラミなどの使えないパーツがでることなのですが、これはすべて魚醤にすることにしました。

魚醤はその魚のタンパク質をアミノ酸まで分解させて漉しとる旨味調味料のため、これにより、鮭を余すことなくすべて使い切る道筋が見えはじめました。

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魚醤の仕込みがスタート! 重さは80kg。

川を遡上した鮭の切り身は、感覚的には鶏肉に近いような身質です。唐揚げ、オイル煮といった油を足す料理との相性がいいことは間違いありません。

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鮭の唐揚げ。活き締めにより臭みはまったくなく、低脂質で高たんぱく。食感や味わいは、鶏肉に似ている。

さらに味付けについてはまだオープンにできないのですが、ある方法でシンプルかつ旨味の最大値を引きだせることが見えはじめています。世に出すべく準備を進めていますので、これはお楽しみです。

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鮭の燻製とキノコを米油と塩コショウで炒めたもの。

最後に、1匹ずつ丁寧に活き締めを行なっていく中で感じているのは、この魚たちが最期に見たのは僕、というどうしようもない罪悪感です。悲観的になっているわけでないのですが、命を扱うことへの強い責任感を感じています。この鮭をきちんと食べきることは、現代社会で失われつつある大事な感覚を取り戻すための第一歩だと思います。

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これまで、幾度となく、いろいろな調理法を試してきた。

鮭で魚醤をつくってみるというアイディアには、僕たちもびっくりしたし、さっぱりした川鮭を唐揚げにするというのも、実に美味しそうだ。

いずれも、鮭の現場に深く入り込んで生活しているからこそ出てきたアイディアであることが、ひしひしと伝わってくる。

松並くんが鮭川村に移住して2年にわたり取り組んできたことが、徐々にカタチになりはじめている。ゆくゆくは商品化をして、あたらしい川鮭の価値をつくっていきたいと考えているという。

TRAILSでも、詳細情報をオープンにできるようになったタイミングで、あらためてその全貌をレポートしてもらう予定だ。

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WRITER
松並三男

松並三男

1983年、神奈川県生まれ。大磯町という海や川に恵まれたエリアで生まれたこともあり、幼少期から虫取りや魚釣りに夢中になる。中高と海釣り (ルアー) にハマる。その頃、海で大量のゴミを目にしたことをきっかけに環境に興味を抱き、日本大学生物資源科学部に入学。海洋環境学の研究に没頭する。卒業後は就職せず、海岸清掃と釣り中心の日々。その後「もっと海を良くしたい」という思いが強くなり、パタゴニアに入社。約10年にわたりさまざまな店舗で勤務する。2019年、川鮭と環境問題の関連性に注目し、それを追求すべく、山形県鮭川村に移住。鮭川村の地域おこし協力隊として働きながら、鮭をテーマに活動している。リアルタイムな活動は、鮭川村地域おこし協力隊 Facebookページより。https://www.facebook.com/sake.kyouryokutai Photo by Mitsuru Itabashi (バシフォト)

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