パックラフト・アディクト | #51 タンデム艇のABC 〜ギアレビュー ② Explorer42 vs Oryx vs Forager(徹底解剖編) 〜
文・構成・写真:TRAILS
この夏のTRAILSの特集記事としてスタートした、パックラフトのタンデム艇 (2人艇) をフィーチャーした企画。全7回の総力特集だ。
第6回目の今回は、前回に引き続き『ギアレビュー②』として、タンデム艇のモデル比較をお届けする。
前回の記事では、タンデムのモデルによる大きさや形状の違いを紹介した。しかしタンデム艇といっても、実はモデルによってシート形状が異なり、乗り方や楽しみ方のスタイルもかなり違いがあるのだ。
今回の記事では、それぞれのシートを徹底解剖しながら、モデル別のスタイルの違いを紹介していきたい。シートや乗り方の差異は、ALPACKA RAFTのウェブサイトでも十分には理解しづらいところなので、TRAILS編集部もメーカーに直接問い合わせたり、自分たちで独自に調べて検証したりした。シートの深堀りはマニアックではあるが、かなり貴重な情報になるはずだ。
比較するのは、前回同様、ALPACKA RAFTの代表的なタンデム・パックラフトである、Explorer42 (エクスプローラーフォーツー)、Oryx (オリックス)、Forager (フォレジャー) の3モデルだ。
左から、Classic (S / Alpaca)、Explorer 42、Oryx、Forager。TRAILS INNOVATION GARAGEにて撮影。
モデルによって、「シート形状=乗り方」がかなり異なる。これがスタイルの違いを生む。
まずは、各モデルのシートを並べて比較してみた。
ぱっと見で形状がまったく違うことがわかる。
一番左がスタンダードであるシングル艇のClassic (S / Alpaca)のシート。隣のExplorer 42は、シングル艇のシートが長くなって、前に乗る人のシートと一体になっている。Oryxは、前席と後席それぞれにシートがある。Foragerは、前席用のシートがひとつ。
それぞれのシートを正面から見てみると、Oryxのシートの独自性が際立つ。椅子のように膝を直角にして座ることができる高さであり、これによりカヌースタイルの漕ぎ方ができるようになっているのだ。
Explorer 42は、シングル艇のClassicとほぼおなじ高さのシート。Foragerは、それよりも少し高いシートになっている。
Classic / スタンダードなシングル艇のスタイル
前回の記事と同様、まずは比較の基準となる、シングル艇『Classic (S / Alpaca)』のおさらいをしてみよう。
現行モデルのClassicは、写真のようにU字型の大きなシート。お尻の部分が少し高さのあるクッションとなり、舟のなかで前に足をつっばる姿勢をとりやすくなっている。
ちなみに、旧モデルは真ん中がヘコんでいる形状だったが、現行版は大きなフラットなクッションのような形状になっている。これにより漕ぐ際の、体の安定感がさらに向上した。
SUL (スーパーウルトラライト) タンデム『Explorer 42』
ALPACKA RAFTのラインナップのなかで、最軽量のSUL (スーパーウルトラライト) タンデム艇であるExplorer42。舟の形状自体も、シングル艇のClassicが長く伸びたような形をしている。
シートの形状も、後席の人は、シングル艇と同じ乗り方ができるシートになっている。両サイドに足を入れられるスペースがあり、そこに足を入れることで、安定した姿勢で舟を漕ぐことができるようになっているのだ。
長く伸びているシートの先端が、前席の人が座る部分になっている。SULのサイズだけあって、前席のシートはミニマムな大きさになっている。
また旧モデル (2015年購入モデル) では、現在のような前席と後席が一体型のシートではなく、セパレートタイプであった。旧モデルでは、後席の人が足を固定する場所が作りづらかったのだが、その点が最新モデルのシートでは改善され、足を置き、固定しやすいスペースができている。
カヌースタイルのフラットウォーター向けタンデム『Oryx』
クラシックカヌーで旅するような、タンデム艇らしいメロウな旅が実現できるOryx。フラットウォーター向けのULタンデムとして、前回の記事でTRAILS編集部からもオススメしたモデルだ。
Oryxのプロダクト上の最大の特徴ともいえるのが、この独自のシート形状だ。これを初めて見たときは、僕らも度肝を抜かれた。これによりパックラフトでありながら、カヌースタイルの漕ぎ方、乗り心地を実現できるようになっているのだ。
座面の高さが40.5cmで、これはダイニングチェアと同じくらいの高さであり、足をリラックスして地面につくことができる。ClassicやExplorer 42と比べても、座った際の視線の位置が高くなるので、漕ぐときの見晴らしは格別。この圧倒的な視界の広がりは、まるでトラディショナルなカヌーの旅のような、これまでにない異次元のパックラフティング体験を与えてくれる。
また後席の人は、足を前席のシートの下に潜り込ませ、固定できるようになっている。これも、安定した姿勢で漕ぐことができる、形状的な特徴となっている。
ちなみに、後席は、その形状から「マッシュルーム・シート」と、ALPACKA RAFTは名付けている。
ホワイトウォーター向けタンデムの『Forager』
セルフベイラー (自動排水機能) が付いた、ホワイトウォーター向けのタンデム艇であるForager。ALPACKA RAFTのタンデムのラインナップのなかで、最も大きく、かつタフなモデルである。
ウェブサイトだけを見ていると、一番乗り方が想像しづらいのがこのモデルかもしれない。なにせ、タンデム艇なのに、シートが1つだけしかない。
Foragerには2パターンの座り方がある。 1つは、メロウなところを漕ぐときに、後方の人はスターン (船尾) のチューブの上に座り、前の人がこのシートの上に座るパターン。もう1つのパターンでは、激しいホワイトウォーターを漕ぐときなどに、前の人も後ろの人も、フロアに直接座る (膝立ちのような姿勢) 。その際に真ん中のシートは、座るためでなく体が滑って動かないように支える「しきり」のように機能する。
Foragerは、フロア全面が大きなインフレータブル・マットになっている。
そのためフロアに直接座っても、そのクッション性で体をサポートしてくれるのだ。このフロアのマットは、着脱できる仕様になっている。
Foragerの舟底に搭載されている、セルフベイラー (自動排水機能)。
Foragerの舟底には、両サイドにドレインホール (水抜き穴) が1列ずつ並んでいる。これが、セルフベイラーという自動排水機能だ。
セルフベイラーがあると、ダウンリバーで波をかぶった際、水が穴から抜けていき船内に水がたまることがない。そのため、特にホワイトウォーターでは重宝する。
穴があいているため、当然、下からの水は少なからず入ってくる。ただし、水面以上になることはなく、かつ喫水 (きっすい:船体が沈む深さ) も浅いので、支障はない。床の内側にはインフレータブル・マットも敷き詰められているので、乗っている人がびしょ濡れになることもない。
今回は、タンデム艇のモデル比較の詳細編として、シートの形状にフォーカスしながら、各タンデム艇の乗り方やスタイルを紹介した。シートに関する情報を、ここまで深掘りした記事は、世界初ではないかと思う。
次回は、この全7回の特集の最終回。ラストは、「ギアレビュー③」として、パドルやドライバッグ、バックシート (背もたれ)、バックパックなど、タンデム艇の周辺ギアをお届けする。
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