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パックラフト・アディクト | #51 タンデム艇のABC 〜ギアレビュー ② Explorer42 vs Oryx vs Forager(徹底解剖編) 〜

2021.09.03
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文・構成・写真:TRAILS

この夏のTRAILSの特集記事としてスタートした、パックラフトのタンデム艇 (2人艇) をフィーチャーした企画。全7回の総力特集だ。

第6回目の今回は、前回に引き続き『ギアレビュー②』として、タンデム艇のモデル比較をお届けする。

前回の記事では、タンデムのモデルによる大きさや形状の違いを紹介した。しかしタンデム艇といっても、実はモデルによってシート形状が異なり、乗り方や楽しみ方のスタイルもかなり違いがあるのだ。

今回の記事では、それぞれのシートを徹底解剖しながら、モデル別のスタイルの違いを紹介していきたい。シートや乗り方の差異は、ALPACKA RAFTのウェブサイトでも十分には理解しづらいところなので、TRAILS編集部もメーカーに直接問い合わせたり、自分たちで独自に調べて検証したりした。シートの深堀りはマニアックではあるが、かなり貴重な情報になるはずだ。

比較するのは、前回同様、ALPACKA RAFTの代表的なタンデム・パックラフトである、Explorer42 (エクスプローラーフォーツー)、Oryx (オリックス)、Forager (フォレジャー) の3モデルだ。


左から、Classic (S / Alpaca)、Explorer 42、Oryx、Forager。TRAILS INNOVATION GARAGEにて撮影。


モデルによって、「シート形状=乗り方」がかなり異なる。これがスタイルの違いを生む。



 
まずは、各モデルのシートを並べて比較してみた。

ぱっと見で形状がまったく違うことがわかる。

一番左がスタンダードであるシングル艇のClassic (S / Alpaca)のシート。隣のExplorer 42は、シングル艇のシートが長くなって、前に乗る人のシートと一体になっている。Oryxは、前席と後席それぞれにシートがある。Foragerは、前席用のシートがひとつ。


 
それぞれのシートを正面から見てみると、Oryxのシートの独自性が際立つ。椅子のように膝を直角にして座ることができる高さであり、これによりカヌースタイルの漕ぎ方ができるようになっているのだ。

Explorer 42は、シングル艇のClassicとほぼおなじ高さのシート。Foragerは、それよりも少し高いシートになっている。


Classic / スタンダードなシングル艇のスタイル



 
前回の記事と同様、まずは比較の基準となる、シングル艇『Classic (S / Alpaca)』のおさらいをしてみよう。

現行モデルのClassicは、写真のようにU字型の大きなシート。お尻の部分が少し高さのあるクッションとなり、舟のなかで前に足をつっばる姿勢をとりやすくなっている。

ちなみに、旧モデルは真ん中がヘコんでいる形状だったが、現行版は大きなフラットなクッションのような形状になっている。これにより漕ぐ際の、体の安定感がさらに向上した。


 


SUL (スーパーウルトラライト) タンデム『Explorer 42』



 
ALPACKA RAFTのラインナップのなかで、最軽量のSUL (スーパーウルトラライト) タンデム艇であるExplorer42。舟の形状自体も、シングル艇のClassicが長く伸びたような形をしている。

シートの形状も、後席の人は、シングル艇と同じ乗り方ができるシートになっている。両サイドに足を入れられるスペースがあり、そこに足を入れることで、安定した姿勢で舟を漕ぐことができるようになっているのだ。

長く伸びているシートの先端が、前席の人が座る部分になっている。SULのサイズだけあって、前席のシートはミニマムな大きさになっている。

また旧モデル (2015年購入モデル) では、現在のような前席と後席が一体型のシートではなく、セパレートタイプであった。旧モデルでは、後席の人が足を固定する場所が作りづらかったのだが、その点が最新モデルのシートでは改善され、足を置き、固定しやすいスペースができている。


カヌースタイルのフラットウォーター向けタンデム『Oryx』



 
クラシックカヌーで旅するような、タンデム艇らしいメロウな旅が実現できるOryx。フラットウォーター向けのULタンデムとして、前回の記事でTRAILS編集部からもオススメしたモデルだ。

Oryxのプロダクト上の最大の特徴ともいえるのが、この独自のシート形状だ。これを初めて見たときは、僕らも度肝を抜かれた。これによりパックラフトでありながら、カヌースタイルの漕ぎ方、乗り心地を実現できるようになっているのだ。

座面の高さが40.5cmで、これはダイニングチェアと同じくらいの高さであり、足をリラックスして地面につくことができる。ClassicやExplorer 42と比べても、座った際の視線の位置が高くなるので、漕ぐときの見晴らしは格別。この圧倒的な視界の広がりは、まるでトラディショナルなカヌーの旅のような、これまでにない異次元のパックラフティング体験を与えてくれる。

また後席の人は、足を前席のシートの下に潜り込ませ、固定できるようになっている。これも、安定した姿勢で漕ぐことができる、形状的な特徴となっている。

ちなみに、後席は、その形状から「マッシュルーム・シート」と、ALPACKA RAFTは名付けている。


ホワイトウォーター向けタンデムの『Forager』



 
セルフベイラー (自動排水機能) が付いた、ホワイトウォーター向けのタンデム艇であるForager。ALPACKA RAFTのタンデムのラインナップのなかで、最も大きく、かつタフなモデルである。

ウェブサイトだけを見ていると、一番乗り方が想像しづらいのがこのモデルかもしれない。なにせ、タンデム艇なのに、シートが1つだけしかない。

Foragerには2パターンの座り方がある。 1つは、メロウなところを漕ぐときに、後方の人はスターン (船尾) のチューブの上に座り、前の人がこのシートの上に座るパターン。もう1つのパターンでは、激しいホワイトウォーターを漕ぐときなどに、前の人も後ろの人も、フロアに直接座る (膝立ちのような姿勢) 。その際に真ん中のシートは、座るためでなく体が滑って動かないように支える「しきり」のように機能する。

Foragerは、フロア全面が大きなインフレータブル・マットになっている。

そのためフロアに直接座っても、そのクッション性で体をサポートしてくれるのだ。このフロアのマットは、着脱できる仕様になっている。


Foragerの舟底に搭載されている、セルフベイラー (自動排水機能)。



 
Foragerの舟底には、両サイドにドレインホール (水抜き穴) が1列ずつ並んでいる。これが、セルフベイラーという自動排水機能だ。

セルフベイラーがあると、ダウンリバーで波をかぶった際、水が穴から抜けていき船内に水がたまることがない。そのため、特にホワイトウォーターでは重宝する。


 
穴があいているため、当然、下からの水は少なからず入ってくる。ただし、水面以上になることはなく、かつ喫水 (きっすい:船体が沈む深さ) も浅いので、支障はない。床の内側にはインフレータブル・マットも敷き詰められているので、乗っている人がびしょ濡れになることもない。


 
今回は、タンデム艇のモデル比較の詳細編として、シートの形状にフォーカスしながら、各タンデム艇の乗り方やスタイルを紹介した。シートに関する情報を、ここまで深掘りした記事は、世界初ではないかと思う。

次回は、この全7回の特集の最終回。ラストは、「ギアレビュー③」として、パドルやドライバッグ、バックシート (背もたれ)、バックパックなど、タンデム艇の周辺ギアをお届けする。

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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