TRAILS 環境LAB

TRAILS環境LAB | 松並三男のSALMON RIVER #15 2021年の鮭川村での鮭シーズンがスタート

2021.10.27
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文・写真:松並三男 構成:TRAILS

What’s TRAILS環境LAB? | TRAILSなりの環境保護、気候危機へのアクションをさまざまなカタチで発信していく記事シリーズ。“ 大自然という最高の遊び場の守り方 ” をテーマに、「STUDY (知る)」×「TRY (試す)」という2つの軸で、環境保護について自分たちができることを模索していく。

* * *

『TRAILS環境LAB』の記事シリーズにおいてスタートした、松並三男 (まつなみ みつお) くんの連載レポートの第15回目。

松並くんは一昨年パタゴニアを退職し、山形県鮭川村に家族で移住した。そして鮭川村の鮭の現場で、「鮭」をテーマに環境問題に取り組んでいる。この連載を通じて、僕たちも環境保護の「STUDY」を深めていく。

2021年、今年も鮭のシーズンが始まった。松並くんにとっても、鮭川村に移住して3度目のシーズン。今までの試行錯誤を結果につなげる、ある意味集大成のシーズンとなる予定である。

ところが、今年のシーズンは、鮭がなかなか上がってこないという不穏なスタート。近年、さまざまな魚種で歴史的不漁という言葉が飛び交うなか、今年の鮭の遡上はどうなるのか。

鮭の現場の大先輩たちは、毎年のようにいまも試行錯誤を繰り返し、漁の仕掛けに少しずつ工夫を加えてアップデートし続けている。そんな先輩の姿にも、あらためて感動した松並くん。

そんな取り組みも含めて、鮭川村の鮭の現場からのレポートをお楽しみください。


2021年の鮭シーズン、ついにスタートです!


子どもが寝たあとに、近所の公園でスケートをする日々。


こんにちは! ついに鮭シーズンがはじまりましたが、まずは近況報告から。最近、スケートボードを本格的に再開しました。近所の同世代のお父さんたちと、子どもが寝たあとにビール片手に集まり、近所の公園で夜な夜ないい汗かいています。


なまったカラダに鞭打ちながら楽しんでます。

それぞれの娘と息子が同級生のスケーター親父たち。鮭川村は楽しい村です。スノーボードで繋がった仲間たちで、レールを作ったりボックスを作ったり、わいわい楽しんでいます。

みんな10代にハマっていた人たちで、レベルも衰えもだいたい同じくらいなので、夢中だったころの横乗りの自由な雰囲気が楽しい今日この頃です。


鮭川村に移住してきて、3度目の鮭の遡上シーズンを迎える。


さて、本題です。10月9・10日で鮭を獲るためのウライの設置があり、僕にとって移住後3回目の鮭シーズンがはじまりました。

3シーズン目となると、作業の流れもおおよそ見えてきました。一緒に作業する大先輩たちの個性がわかってきたこともあり、写真の通り気持ち的にもリラックスしたかたちでシーズンを迎えました。今回は、そんな3回目のシーズンスタート序盤戦の状況をレポートします。


大好きな鮭川の大先輩たち。この地の百姓は優しく、強く、かっこいいです。

鮭川では、ウライ (アイヌ語で「簗 (やな)」を意味する) と呼ばれる仕掛けを設置して、人工孵化を目的に鮭を獲ります。大先輩たちの感覚だけで、何もない河原に杭を打ち、砂利を積んで作られます。川の地形は毎年違うので、経験ありきの職人技です。

1〜2年目は、よくわからずに言われたところを手伝うだけでした。でも3年目ともなると、次に必要な作業や、ウライがどんな状態だと鮭が効率よく上がるのか、イメージがわくようになってきました。


ウライは、何もない川原に重機で設置されます。長年の経験で培ってきた、感覚が頼りです。


鮭の現場の大先輩たちも、毎年、試行錯誤を続けている。


たとえば、ウライの前にあるこの板。これは、鉄板のようなものを重機で地面に刺し、石を積んだものです。魚がウライに向かって最後に通過するこの部分は、僕が見てきたこの3年だけでもさまざまな試行錯誤がありました。


2019年のウライ。ウライの前方のちょっとした工夫で、魚の入り方が変わってくるのです。

振り返ると、1年目はここに鉄板が敷かれていて、それを魚が嫌がって入らないのではないかという話をしていました。

そこで2年目にその鉄板をなくしたところ、水が集まって流れが強くなりました。そうすると石が流され、川底が掘られて深くなり、鮭がそこに溜まってウライに入らないという状況になってしまったのです。

そして今年、これまでの課題解決のためのアクションがこのカタチです (下の写真)。写真ではわかりにくいですが、鉄の杭を使って、床止め (とこどめ・河川の勾配を安定させるために、設置される構造物) みたいなものを設置しています。


2021のウライの設置風景。重機で杭の高さを調整中。大先輩たちの試行錯誤に終わりはありません。

鮭の現場の大先輩たちの知恵と経験から生まれた策で、僕自身は詳細はよくわかりません。でも、これによって自然な雰囲気の川底でありながら、川の流れで川底が掘られてしまうこともないという状態になったのです。

なるほど! 3年目となると、こうした工夫が説明されずとも見えるようになり、勝手に感動していました。

他にもウライの高さなども若干調整されているなど、ちょっとした変化があるのですが、説明が長くなりすぎるのでここでは割愛します。とにかく、3年目の僕の浅めの視点なりに「うん!これなら鮭入りそう!」というのが、今年の鮭川のウライなのです。


2週間たって上がった鮭はほんの数匹。今年の鮭の遡上量はいかに?



毎朝見る気持ちのいい朝焼け。ただ、いかんせん鮭がなかなか上がってきません。

そんなウライに期待を膨らませてスタートした今シーズンも約2週間たちましたが、なかなか鮭が入りません。

鮭は、雨が降って水位が上がると一気にたくさん上がってくるのですが、今年は雨が多くて水位も高く、上がってもおかしくないコンディションにも関わらず、ぽつぽつとしかウライに入りません。

雨のあと、数十匹入ってもおかしくないような好条件下でも数匹だけ。やはり少ないのでしょうか。事実、県内の他の河川からも、みんな「今年は少ないなぁ」という声ばかり。


雨のあと、数十匹入ってもおかしくないような好条件下でもたった数匹だけ。やはり今年は少ないのでしょうか。

鮭川でも現段階では川を泳ぐ鮭の姿がとにかく少ないといった印象です。例年だとピークは11月なのでまだわかりませんが、シーズン通して少ない可能性が高まってきました。

さまざまな魚種で歴史的不漁という言葉が飛び交う、近年の日本の水産業の現状からすると、鮭川の鮭だけが増えるというのはないのかも知れません。

それでは寂しい気もしますが、僕にはただ鮭たちの帰りを祈り、待つことしかできません。サーモン、カムバック!


少ないなかで帰って来てくれた5.5kgのカッコいい雄。このありがたい魚は、大先輩の神棚に飾られたあと、美味しく食されたそうです。

鮭の現場の大先輩たちも、毎年同じやり方を続けるのではなく、少しずつやり方を変えていることに、松並くんもさらなる探究心を刺激されたようだ。

松並くんにとっても集大成的な3年目のシーズン。まだまだ上がってこない鮭が、今後どうなっていくのか。シーズンははじまったばかりなので、これからに期待したい。

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松並三男

松並三男

1983年、神奈川県生まれ。大磯町という海や川に恵まれたエリアで生まれたこともあり、幼少期から虫取りや魚釣りに夢中になる。中高と海釣り (ルアー) にハマる。その頃、海で大量のゴミを目にしたことをきっかけに環境に興味を抱き、日本大学生物資源科学部に入学。海洋環境学の研究に没頭する。卒業後は就職せず、海岸清掃と釣り中心の日々。その後「もっと海を良くしたい」という思いが強くなり、パタゴニアに入社。約10年にわたりさまざまな店舗で勤務する。2019年、川鮭と環境問題の関連性に注目し、それを追求すべく、山形県鮭川村に移住。鮭川村の地域おこし協力隊として働きながら、鮭をテーマに活動している。リアルタイムな活動は、鮭川村地域おこし協力隊 Facebookページより。https://www.facebook.com/sake.kyouryokutai Photo by Mitsuru Itabashi (バシフォト)

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