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井原知一の100miler DAYS #10 | 走る生活(東海自然歩道FKT)

2021.11.12
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文・写真:井原知一、ショー・コバヤシ 構成:TRAILS

What’s 100miler DAYS? | 『生涯で100マイルを、100本完走』を掲げる、日本を代表する100マイラー井原知一。トモさんは100マイルを走ることを純粋に楽しんでいる。そして日々、100マイラーとして生きている。そんなトモさんの「日々の生活(DAYS)」にフォーカスし、100マイラーという生き方に迫る連載レポート。

* * *

トモさんの暮らしを「走る生活」「食べる生活」「家族との生活」という、主に3つの側面から捉えていきながら、100マイラーのDAYSを垣間見ていこうというこの連載。

第10回目のテーマは、「走る生活」です。

今回は、2021年10月にチャレンジした『東海自然歩道FKT』(※1) を紹介してくれます。

トモさんは、以前から長距離FKT (Fastest Known Time:最速踏破記録) に興味があったものの、目標レースが立て込んでいて挑戦には至っていませんでした。

しかしコロナの影響でレースはことごとく中止に。そこで、チャレンジする機会が巡ってきました。

大阪の箕面 (みのお) から東京の高尾まで、距離にして約1,100km。トモさんにとっても、この距離を走り続けるのは人生初です。

この壮大なチャレンジの前後で、トモさんはどんな走りをしていたのでしょうか。トモさんが、日々の「走る生活」を語ってくれました。

※1 東海自然歩道FKT:東海自然歩道の最速踏破記録チャレンジ。東海自然歩道は、東京都八王子市高尾の「明治の森高尾国定公園」から大阪府箕面市箕面の「明治の森箕面国定公園」まで、11都府県約90市町村にまたがる長距離自然歩道。今回のトモさんの設定ルートは、東海自然歩道の最短ルートであり、奈良県を除いた10都道府県の約1,100km。


ペーサーの仲間たちと、楽しそうに走るトモさん。


東海自然歩道FKT:初日から足のトラブルに悩まされる


目標は、全行程1,100kmを12日間で走破することでした。プランとしては、1日に16時間行動し、残りの8時間を休息、準備、セルフケア、食事に費やすこと。1日の距離は、区間ごとのプロファイルの違いもありますが、70〜80kmを考えていました。


右足の痛みに耐えながら、走り続けた。

結果としては、残念ながら400km超でのDNF (Do Not Finish) となってしまいました。

以前から抱えていた右足の後脛骨筋 (こうけいこつきん ※2) の痛みが初日に出てしまい、そこをかばうことで右臀部への痛み、右ハムストリングへの痛み、右シンスプリント (※3) の痛み、最終的には右前脛骨筋の炎症へと発展。日に日に症状が転移し、悪化していきました。

4日目からは完全に歩きモードになり、7日目の朝にはシューズも履けないくらいに足が腫れ上がり、やめる決断をしました。

でも、足の痛みを除けば、とにかく楽しかったです。走りながら、約50年前に東海自然歩道が作られたことを考えたり、昔はこの道が人々の生活路だったことを想像したりして。とにかく、気持ち良かったです。

大好きな仲間にサポートしてもらい、天気も終始好天に恵まれ、FKTを達成する上で環境的には申し分がなかっただけに、悔しいですね。

※2 後脛骨筋 (こうけいこつきん):足首にある筋肉。
※3 シンスプリント:すねの部分の骨膜の炎症であり、かなりの痛みを伴う。脛骨過労性骨膜炎とも呼ばれる。


京都では、大浦さんをはじめ、ピラティス・ヨガスタジオ「Nadi kitayama」のSATORUくんたちがサポートしてくれた。


【走る生活 (その1):レース2〜3カ月前】 未知のチャレンジに向けてハードな練習をこなす


FKTの3カ月前は、かなり走り込んでいました。全行程1,100kmを12日間で走破する計画だったので、1日80km、16時間行動を想定していました。それを10日間以上続けるなんて経験したことがなかったので、その不安を打ち消すためにも、10時間くらいの練習を連続でやるように心がけました。


高尾の林道での走り込み。

8月末には、奥信濃100という100kmのレースに出場しました。でも、レース後に足の痛みが出てきて、それ以降は練習量が一気に下がってしまったんです。

そのため、本番のペース (無理しすぎず、ゆるすぎず) を想定して、距離と累積標高が似ている場所で走ったり歩いたりする練習を増やしました。


100milerのレジェンドでもある月岡さん (右) とも一緒に練習した。月岡さんは、84歳にして100mileを走り続けており、トレイルランニング界のレジェンドとして知られる。


【走る生活 (その2):レース1〜3週間前】 本番が近づくにつれて不安が募る


足の調子が良くならず、週1回だった鍼治療も週2回に増やしました。そんな状況でも、自分がコーチをしているランニングクラブの練習では、万全に走れるように調整してこなしていました。


鍼治療の先生には、かなりお世話になった。

ただ、かなり焦っていましたね。本来であれば、こんなに素晴らしいチャレンジは楽しみでしようがないのに……。

この足の状態だと、きっとベストも出せないし、途中から痛みが出てしまったらどう付き合っていけば良いのか。不安ばかりが頭の中をぐるぐるとかけめぐっていました。


【走る生活 (その3):レース直後】 娘のさくらと愛犬の散歩へ



右足が浮腫んでパンパンに。

東海自然歩道FKTのチャレンジが終わった直後は、シンスプリントが原因で足が驚くほど腫れて (通常時の1.5倍くらい) いたので、1週間は完全に休みました。鍼治療にも、2日に1回のペースで通っていました。

8月に犬 (名前はオレオ) を飼い始めたこともあり、娘のさくらと一緒に散歩に出かけることが多かったですね。


娘のさくらと一緒に、愛犬オレオの散歩。

また、ちょうどさくらが全国小学校クライミング大会に出場するタイミングでもありました。いい結果が出せなかったのですが、かなり悔しかったようで、直後から地元のクライミングジムで練習に打ち込んでいました。その姿を見て、自分も頑張らないと! と刺激をもらいました。


【走る生活 (その4):レース3週間後】 バランスの良いカラダを作るべく、リハビリに専念


少しずつですが走れるようになったのですが、ケガをした右足だけ浮腫んでいる状態が続いていました。


徐々に右足の腫れが引いてきたものの、まだまだ治療が必要。

現在わかっていることは、昨年末に自転車事故で骨折をしたのですが、ちゃんとリハビリをせずに、走れるから大丈夫だと思って走っていたことが影響していること。

腕が上がりづらかったり、首を回しにくかったり、疲労が抜けづらかったりと、部分的な違和感があったのに、そのメッセージを無視して練習を続けてしまったんです。その結果、今回のケガが治りにくい状況になってしまったようです。


お世話になっている、パーソナルトレーニング&治療院に通う日々。

現在は、とにかくリハビリをしている状況です。カラダの左右差をなくすべく、家でもセルフケアやストレッチを入念に行なっています。

カラダのバランスが整ったら、3月の目標レースに向けてしっかりとトレーニングをしていきたいと思っています。


高尾の山から見た景色。徐々に練習も再開していく予定だ。

トモさんがケガで100マイルをリタイアするなんて、初耳でした。そのくらい、トモさんはケガをしないイメージがあったし、何があろうとも持ち前のポジティブさで乗り越えてしまう人だと思っていました。

そんなトモさんが、まさかのトラブルでDNF。でもその直後に、トモさんはリベンジすることを誓っていました。それは悔しさからというよりは、東海自然歩道に魅力を感じ、そこを走る楽しさを実感したからこそでした。

そして今、トモさんはこれまで以上に自分のカラダと向き合い、リハビリに専念しています。次のレースは来年3月とのこと。さらに進化したトモさんを見ることができるはずです。

TRAILS AMBASSADOR / 井原知一
現在の日本における100マイル・シーンにおいてもっともエッジのた立った人物。人生初のレースで1位を目指し、その翌年に全10回のシリーズ戦に挑み、さらには『生涯で100マイルを、100本完走』を目指す。馬鹿正直でまっすぐにコミットするがゆえの「過剰さ(クレイジーさ)」が、TRAILSのステートメントに明記している「過剰さ」と強烈にシンクロした稀有な100マイラーだ。100マイルレーサーではなく100マイラーという人種と呼ぶのが相応しい彼から、100マイルの真髄とカルチャーを学ぶことができるだろう。

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井原知一

井原知一

1977年、長野県生まれ。アメリカの大学を卒業後、仕事を転々とした末、2007年にスポーツ商社に転職。同企業のダイエット企画がきっかけでトレイルランニングに出会う。当時31歳。すぐさま夢中になり、トレイルラン2年目でOSJ (アウトドア・スポーツ・ジャパン) のシリーズ戦全戦を完走。3年目にはSFMT (信越五岳トレイルランニングレース) で8位。初めての100マイルは、2010年に自ら企画した草レースTDT(ツール・ド・トモ)。以降100マイルの魅力にとりつかれ、『生涯で100マイルを、100本完走』を掲げて走るようになる。つねにチャレンジしつづけることをモットーとし、90歳での100マイル完走も目標のひとつ。走ることの素晴らしさを広め、人生を変えるきっかけづくりのために、ポッドキャスト『100miles, 100times.』や、自ら立ち上げた『Tomo's Pit』を通じてコーチングも手がけている。

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