TRAILS REPORT

ロングトレイルTOPICS #05 | PNTスルーハイキングに向けた最新情報(2022 Feb)

2022.03.11
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TRAILS編集部が取材やリサーチで集めた情報を中心に、ロングトレイルの最新情報や注目すべきトピックを発信する『ロングトレイルTOPICS』(全5回)。最終回の今回は、TRAILSでも連載記事があるPNT (パシフィック・ノースウエスト・トレイル) 編。

TRAILS編集部が、PNTA (PNTの運営組織) のエグゼクティブ・ディレクターであるジェフ・キッシュに取材を行ない、2022年2月時点での最新情報を聞いた。

ジェフは、TRAILSのアンバサダーでもあり、PNTに関する連載記事 (詳しくはコチラ) も書いているので、そちらもぜひチェックしてほしい。

PNTは、アメリカとカナダの州境付近、ワシントン州、アイダホ州、モンタナ州の3州をまたぐ1,200mile (1,930km) のロングトレイル。

スルーハイクにおけるルールは、例年どおり。

PNTA (PNTの運営組織) のエグゼクティブ・ディレクターであるジェフ・キッシュ。PCTおよびPNTのスルーハイカーでもある。

—— 編集部:2022年のスルーハイクにおいて、例年と比較してルールの変更点はありますか?

 
ジェフ:「ルールは例年と変わりありません。すべてのエリアにおいて、クマ対策用のフードストレージのレギュレーションも変更はありません。パーミット (許可証) に関しても例年どおりです」

PNTのスタート地点 (東端) は、グレイシャー国立公園にあるベリー・リバー・トレイルヘッド。

—— 編集部:スタート地点へのアクセスは通常通りですか?

 
ジェフ:「例年どおりです。ただ、モンタナ州のイースト・グレイシャー・パークからトレイルヘッドまで車で行くのは少し大変かもしれません。

ほとんどのハイカーはヒッチハイクをしていますが、スタート地点までグレイシャー国立公園内をハイキングすることも可能です。ここはPNTのハイライトのひとつであり、公園内でのハイキングは非常に楽しいのでおすすめでもあります (詳しくはコチラの記事を参照)」

この冬の厳しい天候により、トレイルのコンディションが悪い可能性がある。

この冬の悪天候により、倒木もたくさんある。

—— 編集部:今年のスルーハイカーが、特に気をつけるべきことはありますか?

 
ジェフ:「アメリカ北西部はこの冬、例年にない厳しい天候に見舞われました。そのため、メンテナンス・クルーがそれほど稼働しないシーズン初めは、トレイルのコンディションが悪い可能性があります。

また、歴史的な洪水と大雪の影響で、倒木が多く、路面が崩れていたり、さらには道路が流失しているケースもあり、ハイカーが町へ移動するのに支障をきたすかもしれません」

トレイルに関する最新情報は、PNTAのウェブサイトのアラートページを参照。https://www.pnt.org/pnta/know-before-you-go/plan-your-trip/trail-alerts/

国境を越えてカナダ側に入ることは違法。

PNTは、アメリカとカナダの国境に沿っており、少し歩けばカナダに入れてしまう箇所もある。

—— 編集部:特に、アメリカ国外からのハイカーが気をつけるべきことはありますか?

 
ジェフ:「カナダとの国境に近いため、PNTのほぼ全域がアメリカ国境警備隊の管轄になっています。

ハイカーは、国籍に関係なく、つねに身分証明書を携帯する必要があります。国外からのハイカーは、パスポートなどをいつでも提示できるようにしておくべきでしょう。

またPNTには、カナダ国境まで歩いて行ける場所や、国境を越えて往復できる場所が数カ所あります。PNTAは、ハイカーにこのようなことをしないようにアドバイスしています。いくら僻地であったとしても国境はつねに監視されていて、越えることは違法になります」

クマがPNT全域に生息しているため、フードストレージは必須ギア。

PNTが通るエリアは、アメリカで絶滅危惧種となっているグリズリーの生息域でもある。

—— 編集部:PNTは、ジェフのトリップ・レポートにもあったように、手つかずの自然が多く残っていて、野生動物もたくさんいます。そういった動物に関して注意は必要ですか?

 
ジェフ:「モンタナ州とアイダホ州、そしてワシントン州最東部に、グリズリーが生息していますが、モンタナ州以外で遭遇することはないと思います。ただし、全域にブラックベアが生息しています。

クマに関するもっとも深刻な問題は、ハイカーの安全よりも、クマを人間や人間の食べ物に慣れさせないようにすることです。

アメリカにおいて、グリズリーは絶滅の危機に瀕しています。ですが、もしグリズリーが人間の食べ物を知ってしまい人間にとって危険な存在になれば、政府は彼らを殺すことになるでしょう。そのため、人間の食べ物にアクセスできないようにクマを守ることが非常に重要なのです。

PNTではフードストレージとしては、ウルサック (Ursack ※1) を使用するのが一番いいと思います。なぜなら、ウルサックであれば各エリアのルールも遵守できますし、ベアキャニスターより軽くてバックパックに収納しやすく、木の幹に縛ればいいので高い位置の枝に吊るす必要もないからです」

※1 ウルサック (Ursack):ベアキャニスターの代替品として使用できる、クマ対策用のフードストレージ。ベアキャニスターに比べて軽量かつ折り畳み可能であり、IGBC (アメリカ連邦政府グリズリーベア委員会) の認定も受けている。生地には、UHMW (超高分子量ポリエチレン) を採用しているため引き裂き強度および耐摩耗性が高く、クマに引き裂かれることがない。https://ursack.com/

クマ対策に欠かせないフードストレージに関する情報は、PNTAのウェブサイトで要チェック。https://www.pnt.org/pnta/know-before-you-go/plan-your-trip/food-storage-pnt/

高性能のN-95マスクかKN-95マスクの着用を推奨。

町の行き来で利用する車など、密閉された乗り物に乗る際はマスクを着用すること。

—— 編集部:ここ最近は、オミクロン株が猛威を振るっています。

 
ジェフ:「オミクロン株の感染は、PNT周辺の人口の多い地域ですでにピークを迎えており、人口の少ない地域でも3月中にピークを迎えると予想されています。

新しい亜種が出現しない限り、ハイキングシーズンが始まる頃には、北西部全域でコロナウイルスの感染者が少なくなっている可能性があります。

一部の施設では、ワクチン接種の証明 (最新のブースター接種を含む可能性あり) が必要となる場合もありますが、現在PNTのいずれの州でも、企業に対してワクチン接種状況の証明を義務づけることはしていません。

ただし、モンタナ州とアイダホ州の接種率は、他の州に比べて低いので、ハイカーは注意が必要です。ワシントン州のワクチン接種率はかなり高いです。ハイカーは、そういった場所ごとの状況に応じて、自分自身を守るための方法を考えておくべきでしょう」

トレイルのメンテナンス・クルーもマスクを着用。おすすめのマスクは、高性能なN-95かKN-95。

—— 編集部:ハイカーがコロナの感染を防ぐためにすべきことはありますか?

 
ジェフ:「PNTでコロナに感染する可能性がもっとも高いのは、トレイルヘッドまでの電車や町への行き来の際の乗車など、密閉された乗り物で移動するときです。幸い、いったんトレイルに入れば、乗り物を利用することなくPNTの全行程を移動することができます。

お願いしたいのは、マスクをつねに携帯することです。できればN-95 (※2) かKN-95 (※3) が望ましいです。感染リスクがある状況ではこれらを使用してください。

現在アメリカでは、レストランではテーブルに着くまで着用を求められるのが一般的です。飲食時は外すことができますが、他人の近くを歩くときはふたたび着用しなければなりません。

また、ウェイターと話をする際にもマスクの着用が求められます。ほとんどのレストランでは、暖かい季節にはお客様に屋外の席を提供するようにしています。これはもっとも安全な対策です」

※2 N-95マスク:アメリカ合衆国労働安全衛生研究所 (NIOSH) のN95規格をクリアし認可された、微粒子対応マスク。北米の一般的な通販サイトで購入可能。

※3 KN-95マスク:中国の規格 (内容は、NIOSHのN95規格と同等) をクリアし認定された、微粒子対応マスク。

手つかずの自然が残るPNTを楽しむためにも、今回ジェフが語ってくれたアドバイスを実践することが重要だ。

2022年スルーハイキングのシーズンが始まる前に、『ロングトレイルTOPICS』として全5回で、現在のアメリカにおけるロングトレイルの最新状況をお伝えしてきた。

これらはいずれもTRAILS編集部が、アメリカ3大ロングトレイルをはじめとしたトレイル団体に取材して得た情報や、TRAILSのAmbassadorであるリズから得た現地のリアルな情報だ。

コロナ関連の追加費用の用意。医療体制の逼迫も考慮しリスクのある行動は控えること。またトレイルエンジェル宅のクローズやATのシェルターの閉鎖を前提とした旅のプランニングの必要性など、きわめて具体的かつ実践的な旅の情報をお届けできたのではないかと思う。

これらの情報は、今年、アメリカのトレイルを歩く人はもちろん、来年以降に海外のトレイル・トリップを予定している人にとっても有益な情報になっている。今後も『ロングトレイルTOPICS』として、また最新情報をお届けしていく予定なので、今後の動きもまたチェックしてみてほしい。

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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