パックラフト・アディクト | #57 オランダのスワルム川で、バイクラフティング
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(English follows after this page.)
文・写真:コンスタンティン・グリドネフスキー 訳・構成:TRAILS
この川は、コンスタンティンが、オランダの野生の川を探しているときに見つけた、いつかは漕いでみたいと思っていた憧れの川のひとつ。
今回コンスタンティンは、このスワルム川をバイクラフティングで旅をすることにした。パックラフトと組み合わせて使うために購入した、愛車のブロンプトンを持ち出し、いざオランダ南部、ドイツとの国境付近を流れるスワルム川へ。
スワルム川の美しい景色と合わせて、今回のバイクラフティング・レポートをお楽しみください。
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憧れのスワルム川でバイクラフティング。自然と笑みがこぼれるコンスタンティン。
オランダで最も美しい川。
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序盤は、のどかな風景が広がる。
スワルム川は、オランダ南部にある人の手が加えられていない自然のままの小さな川です。ドイツのヴェークベルクという町の南に水源があり、マース川に到達するまでの45kmを流れます。
最後の12kmはオランダ国内を流れ、幾重にも蛇行しながら、自然のままの流れがかなり残っています。しかしドイツでは、多くの部分が人の手の入った運河になっています。
そのためオランダにおいては、スワルム川は、ほとんと人の手が加えられていない、最も美しい自然河川 (※) のひとつと言われています。それを見てみたいという気持ちもありました。
スワルム川のことを知ったのは8年以上前、オランダで野生の川を探していたときでした。
オランダの有名な冒険雑誌に、この川でのパックラフトによるマイクロアドベンチャーの記事が載っていたのです。その記事は、オランダの有名な冒険家、ヨランダ・リンシューテンが書いたもので、スワルムを「オランダで最も美しい川」と表現していました。
それ以来、何度もこの川を漕いでみたいと思っていましたが、実際に漕ぐ機会はありませんでした。
というのも、住んでいるところから遠いこともあるのですが、この川は、春〜夏の期間は漕ぐことが禁止されているからです (10月1日〜3月31日までの日の出から日没までしか漕ぐことができない)。
※ 自然河川:原始河川 (げんしかせん) とも呼ばれ、天然のままでダムや堤防などの人の手が加えられたものがない河川のこと。反意語は人工河川で、これは人為的に開削され、流量が調節されている灌漑水路や運河などを指す。
行きはパックラフト、帰りは自転車を使用する日帰りバイクラフティング。
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スタート地点近くの駐車場にて。ここから自転車で川まで向かう。
でも昨年10月、ついにそのチャンスがやってきたのです。
妻と娘をアイントホーフェンの空港に送り、そこから妻の実家に行くためにポーランドに飛ぶことになった時のこと。
どうせ朝早くからオランダの南部に行かなければならないのだから、この機会を利用して、この地域でいくつかのことをやってみようと考えました。そのひとつが、スワルム川のパックラフティングだったのです。
ドイツとの国境からスタートして、スワルム川がムーズ川に流れ込む地点まで、それなりの距離がありますが、そこを漕ぐつもりでした。
時間に余裕があればゴール地点から歩いて帰りたいところでしたが、そこまで時間もなかったので、ブロンプトンという折りたたみ自転車を持って行って、バイクラフティングによるマイクロアドベンチャーにしよう考えました。
この自転車は、何年も前にパックラフトと組み合わせて使うために、あえて購入したものです。
ブロンプトンの利点は、小さく折りたためること、そしてパクラフトの船首に簡単に取り付けられることです。車や公共交通機関と組み合わせたり、単体で使ったりと、何度も使っています。
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ドイツとオランダの国境付近からスタートして、ゴール後は自転車で駐車場まで戻る。
そして10月18日、アイントホーフェンの空港で家族に別れを告げた私は、私の生徒たちがお世話になったリンブルフの小さな町を訪れ、その後、車で川沿いにあるスワルメンという町に向かいました。
地図によると、車を停めるのに最適な場所は、町のすぐ外にある野外プールの近くでした。実は、ここがスタート地点としての候補のひとつでした。
ドイツとオランダの国境からスタートするつもりが……。
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国境からは川に入ることができず、別のスタート地点を設定。
でも私がしたかったのは、ドイツとの国境まで自転車で行き、そこからスタートすることでした。そして、それをやってみることにしたのです。
国境に着いたとき、川への明確な道はなく、藪をかき分け、有刺鉄線を飛び越えなければいけませんでした。自転車ではちょっと無理でした。
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川の流れも緩やかで序盤は快調。
その代わりに、私は数百メートル戻って脇道に入り、スワルム川にかかる橋にたどり着きました。この橋は、旅を始めるのにうってつけの場所でした。後で気づいたのですが、そこはヨランダ・リンシューテンがマイクロアドベンチャーを始めた場所でもありました。
川幅は5mほどで、それほど深くはなく、流れもあります。水は底が見えるほどきれいでした。水温はかなり高かったので、最初はドライスーツを着るべきかどうか迷いました。
自転車を積んでいるため、倒木をくぐることができない場所もあった。
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森の中に入ると、倒木だらけ。
川の最初の部分は森を通っていくのですが、森には倒木がよくあり、私はすぐに遭遇しました。
倒木は、普段であれば何の問題もありません。というのも、2年前にポーランドのロブジョンカ川をパックラフティングした際に、水に足をつっこむことなくそのような障害物を乗り越える方法を学んでいたからです。
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普段であればくぐり抜けるが、今回は自転車があったのでそれができなかった。
しかし、今回はパックラフトに自転車を括りつけていたので、そのようなアクロバティックな操作はかなり難しくなり、水の中に立つことを余儀なくされました。
自転車によって舟自体の高さもかなり高くなり、木が40~50cmほど川から垂れ下がっているときは、普段なら木の下をくぐるところを、持ち上げなければならないこともありました。
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たまたま遭遇した瀬。これまでずっとメロウだったが、ちょっとしたスリルも楽しむことができた。
複数の倒木のほかに、まったく予想していなかったサプライズ的な瀬もありました。小さなものでしたが、それでもこの旅に楽しいアクセントを加えてくれました。
また、川には小さな歩道橋や自動車橋がいくつも架かっていました。そのうちの2つの橋の下にはジオキャッシュ (宝探しゲームのポイント) があり、水の中に入らなければ届かないので、隠れ場所としてピッタリでした。
川を下りながら、中世の城跡ウーボルグ城を発見。
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森を抜け、田園地帯を越え、町へと入っていく。
森に覆われたスワルム川の川岸は徐々に畑に変わり、スワルム川の名前の由来となった町に入ると住宅が建ち並ぶようになりました。
中心部では、川はより運河化され、古い水車小屋や大きな近代的な製紙工場の横を流れています。そのすぐ下には、ビーバーの痕跡が残っていました。
高速道路と鉄道の2つの巨大な橋の向こう側には、意外な発見がありました。それは、中世の城跡であるウーボルグ城です。
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中世の城跡であるウーボルグ城を見ることもできた。
案内板によると、この城は1300年頃に建てられたようですが、15世紀末から廃墟となっていて、国内では最も古い城跡のひとつだそうです。
私が面白いと思ったのは、その城が赤レンガでできていることでした。今でもオランダのどこでも見られる赤レンガとほとんど同じものです。オランダは粘土が多く、天然石が採れる場所がほとんどないのです。
自転車で、おとぎ話の世界を通り抜ける。
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終盤、時計を見るとすでに3時間が経過し、計画していた行程を漕ぐのは無理だと判断した。。
7.6kmを漕ぐのに3時間近くかかり、予定の3分の2も漕いでいないことに気づきました。疲れてきたし、家までロングドライブもあるので、私はここでやめることを決め、荷物をまとめて自転車で帰ることにしました。
帰りは城跡を通り、鉄道橋と高速道路橋をくぐり、町の中心を通りました。橋のすぐ後ろに、今日最後の驚きが待っていました。
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ゴール後、自転車で戻っている時に見つけた、ユニークな個人宅。
サイクリングコースは、おとぎ話に出てくる家、城、小屋、廃墟などで埋め尽くされた庭のある個人宅の横を通るのです。とても見ごたえがあって、娘に見せるには絶好の場所だと思いながら、しばらくのあいだ見とれていました。
そして今度ここに来たら、またスワルム川を漕いで、今回自分ができなかったことをやり遂げることができるかもしれないと思いました。
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歴史ある景観のなかを自転車で走って帰ってくるのは気持ちよかった。
日本ではほとんど紹介されることのない、ドイツとオランダの国境付近にある小さな河川、スワルム川。
自然の豊さはもちろん、このエリアの街並みや中世の城跡など、歴史が感じられる景観もすごく印象的だった。
ヨーロッパのローカルの川を知ることができるコンスタンティンのレポートは、すごく貴重だ。次はどんな川を紹介してくれるのか楽しみだ。
TRAILS AMBASSADOR / コンスタンティン・グリドネフスキー
コンスタンティン・グリドネフスキーは、ヨーロッパを拠点に世界各国の川を旅しまくっているパックラフター。パックラフトによる旅を中心に、自らの旅やアクティビティの情報を発信している。GoPro Heroのエキスパートでもあり、川旅では毎回、躍動感あふれる映像を撮影。これほどまでにパックラフトにハマり、そして実際に世界中の川を旅している彼は、パックラフターとして稀有な存在だ。パックラフトというまだ新しいジャンルのカルチャーを牽引してくれる一人と言えるだろう。
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(英語の原文は次ページに掲載しています)
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