パックラフト・アディクト | #55 ポーランドのべウナ川、結婚記念日のパックラフティング・デート
(English follows after this page.)
文・写真:コンスタンティン・グリドネフスキー 訳・構成:TRAILS
TRAILSのアンバサダーであるコンスタンティンが、2022年の最初のレポートで紹介してくれるのは、自分たちの結婚記念日を祝う夫婦みずいらずのデート・トリップ。
子どもができてから、初めての夫婦だけでのパックラフティング・トリップに出かけることにした、コンスタンティンとマルタの2人。お祝いの日の旅に選んだのは、ポーランド出身の妻のマルタさんの地元にある、自然保護区のなかに流れる緑豊かなベウナ川。
タンデム艇 (2人乗り艇) での、夫婦だけのメロウなワンデイ・トリップ。2人だけのささやかなお祝いの旅のレポートを、お楽しみください。
結婚記念日に、夫婦だけのパックラフティング・トリップへ。
2021年8月10日、妻のマルタと私はポーランドのポズナン (※1) の中央駅にいました。ベウナ川でのデイ・パックラフティングをするためです。ただ、今回は「いつもと違う」ことをしようと思っていました。
「いつもと違う」というのは、この旅が私たちの結婚記念日を祝うためのもので、しかも娘が生まれてから初めて、私たち2人だけで過ごすからです。
今回の旅の行き先は、数日前まで2人とも知らなかった川で、急遽決めた場所でした。この川は、偶然の出会いがきっかけで知ったのです。
この旅の2日前に、私たち家族3人は、ポズナンのワルタ川で短いパドリング・トリップをしていました。そこは川幅が広く静かで、5kmの短い距離を1時間ちょっとで下りました。テイクアウトポイントで、アルパカラフトのタンデム艇 (2人乗り艇) であるオリックスを乾かし、空気を抜いていると、「これはパックラフトですよね?」と若い男性に声をかけられました。
彼はパックラフトをやっている人で、2〜3年前に舟を買って、ベニス (私が1週間前に漕いだ場所です) をはじめ、面白そうな旅をいくつもしていました。いつも私のために新しい川を探してくれる妻は、この近くでおすすめの川はないかと彼に尋ねました。「ベウナ川はもう行った?」と彼は聞いてきました。いや、まだですと答えると、「電車で簡単にアクセスできる小さな川だよ」と教えてくれました。ちょうどマイカーが故障していた私たちは、まさにそういう川を探していたのです。
大人だけのパックラフト・デートに選んだのは、妻の出身地の美しい川。
家に帰った後に、この川の情報を調べてみたところ、なかなか面白いことがわかりました。全長118kmのワルタ川の支流で (うち1つは私もパックラフティングした経験があります)、ヤンコフスキー湖からワルタ川河口までの113.5kmを漕ぐことができるのです。
しかし、すべてのエリアが面白いというわけではありません。上・中流域では低地の川で、12の湖を通り、草原や森、畑の間をゆったりと曲がりくねって流れています。このセクションのパドリングコースは、水量が少ないため、大変だし体力も必要で、ほとんどが春にしか利用できません。
一方、ロゴズノからはじまる下流域のコースは1年中楽しめます。しかも、この川のなかでもっとも面白そうで、変化に富んだ場所でもあります。ベウナ川は山間の川で、ノテッカの森の東の境界にもなっています。森と牧草地のなかを絵のように美しく蛇行する川でもあります。そして、自然環境を守るため、この下流域には3つの水上自然保護区が設けられています。
また、私の妻の出身地であるグレーター・ポーランド (ヴィエルコポルスカ) でもっとも美しくバリエーションに富んだカヌールートのひとつであるとの情報もありました。しかも、実はベウナ川の河口は彼女が育った町から北へ25km弱のところにある、オボルニキという町にあるのです。
「まさかこんな川があったなんて。私はこの川の存在を初めて知ったわ」と彼女が言ったので、じゃあ行ってみよう! となったのです。ちょうどその翌日は、私たちの7回目の結婚記念日でした。その日は先約があって無理でしたが、翌日なら空いているし、行けそうな気がしました。
さらに嬉しかったのは、このトリップが、娘のヘレナが生まれてから初めて、夫婦2人だけで行く旅行だったことです。たとえていうなら、「Just the two of us」という有名な歌 (※2) と同じです。
「パパとママは大人だけのデートに行くのよ。いい子だから、おばあちゃんと一緒にいてね」と妻は娘に説明しました。驚いたことに、ヘレナは素直にそれを受け入れてくれました。そして、私たちは出発しました。
電車の駅から歩いて、スタートポイントまでアクセスできる。
今回のプランは、ロゴズノ駅から徒歩1.5kmのルダというスタート地点まで行き、そこから行けるところまで漕ぐというものでした。
正直なところ、ベウナ川がワルタ川に流れ込むオボルニキまで行きたかったのですが、川の速度がどれくらいあるのか、くわえて水量が十分にあるのかどうかもまったくわからなかったので、計画を柔軟に調整しながら下ることにしました。このフレキシブルなところが、パックラフトのいいところでもあるのです。
40分ほど鈍行列車に揺られてロゴズノに到着しました。私たちはスーパーマーケットで食料を調達して、1kmほど離れた隣村のルダにあるプットインポイントまで歩きました。私たちが選んだ場所は、カヤックツアーの出発点としてよく使われる場所でした。
小さな桟橋、重ねられたレンタルカヤック、会社の事務所がある建物、屋根付きのシェルターと焚き火台が置かれたキャンプ場がありましたが、周囲には足跡がありませんでした。
対岸には古い工業用水製造所の建物があり、別の会社がカヤックツアーの出発点として使っていました。実際、10代の娘2人を連れた父親のために、2人乗りのカヤックを準備している人たちがいました。
40分ほどで準備を整え、パックラフトデートに出発しました。
浅瀬や古い堰 (せき)、倒木などを、なんとかクリアーしながら進んでいく。
川幅は5〜6mで、水深は浅く、水は澄んでいました。小魚が泳いでいるのも見えます。流れはありますが、それほど強くはありません。
カーブの部分や、曲がりくねった流れ、浅瀬などのおかげで、このエリアはとても美しい景観になっていました。時折、水が少なすぎて、石の上を通る際に、擦れてパックラフトが「歌っている」のが聞こえました。
パックラフトから降りて、押して越えなければならないこともありました。それでも、ふたたび水の上に出られるのが嬉しかったです。しかも私たち2人だけで (Just the two of us)。
数kmほど下ると、古い堰 (せき) のコンクリート構造物の跡にたどり着き、そこでまた立ち往生しました。とにかく水位が低かったのです。
堰堤 (えんてい) のすぐ後で、先に出発していたお父さんと娘さん2人に追いつきました。どうやら私たちと同じ問題を抱えているようでした。
このタイミングで、電車の駅に近いところで「早々に切り上げる」のは、得策ではないのではないかと思いはじめました。
幸い、私たちはそのまま進み、徐々に川が深くなり、もうスタックすることなくパックラフトで通過できるようになりました。補足ですが、いくつか倒木があったので、パックラフトを持って運ばなければならなかった場所もありました。
たくさんの魚が泳ぐ、自然保護区の美しい川。
さらに数km進むと、ベウナ川の最初の自然保護区に到着しました。ここは川の流れが速く、川底には赤い海藻がびっしりと生えていました。
そしてかなり序盤から、さまざまな種類の魚を目にすることができました。「まるで水族館のなかを泳いでいるみたい。今度はヘレナも一緒に連れてきたいね。きっと楽しめるはずよ」と妻が言いました。
全体的には10℃台後半の暖かい日でしたが、あるタイミングで、太陽が消えて雨が降りはじめました。すぐに気温が下がり、持ってきた服を全部着なければならなくなりました。でも、この雨は典型的な夏の雨で、1時間ほどで太陽が現れたのでラッキーでした。
18時頃、小さな水力発電所とダムに到着し、そこで数百m、ポーテージ (※3) することになりました。私たちが再乗艇した反対側には、古い製粉所があって「農村産業における製粉と水利施設に関する博物館」も併設されていました。
その周辺には、ベウナ川での漁業を物語る数々の遺物や案内板がありました。それによると、この川には20種類ほどの魚が生息しているそうです。イワナやサケの稚魚を放流して個体数を増やしたり、ブラウントラウトを導入する試みがなされていることもわかりました。だから、私たちが見た魚はその成果だったのかもしれません。
結婚記念日のデート・トリップは大成功。
最後の数kmは、時間との戦いでした。コバヌフコで降りれば、川からすぐのところに鉄道の駅があります。でも、もう日が暮れ始めていたので、そこまで漕ぐのは無理だとわかりました。そこで、ロジノボの近くで終えることにしました。
この辺りの川岸はすごく高く、しかも雨上がりだったこともあってぬかるんでいました。そのため、上の道路にたどり着いたとき、私たちはまるで幸せな豚のカップルのようだったと思います。
妻が電車の時間を調べたところ、次の電車が来るまで30分もないことがわかりました。それを逃すと、次は2時間以上待たなければなりません。そのため、身支度をする暇もなく、さっさと荷物をまとめて、駅までの2.5kmを走りました。そして電車が到着するわずか数分前にたどり着くことができました。
今回の結婚記念日の「いつもと違う」1日を振り返ってみると、間違いなく大成功だったと感じました。またやってみようと思います。妻のマルタも笑顔で、こう言ってくれました。「またすぐに、なにか記念日があったっけ?」
出発時刻にギリギリセーフ! 無事に電車に乗ることができた。
今回、コンスタンティンがレポートしてくれた旅は、実にパックラフト・アディクトらしいお祝いの旅だ。こういう旅にパックラフト・タンデム艇 (2人乗り艇) をチョイスするのも、コンスタンティンらしい。
今年はどんな旅をするのか。また次のトリップ・レポートを楽しみに待ちたいと思う。
TRAILS AMBASSADOR / コンスタンティン・グリドネフスキー
コンスタンティン・グリドネフスキーは、ヨーロッパを拠点に世界各国の川を旅しまくっているパックラフター。パックラフトによる旅を中心に、自らの旅やアクティビティの情報を発信している。GoPro Heroのエキスパートでもあり、川旅では毎回、躍動感あふれる映像を撮影。これほどまでにパックラフトにハマり、そして実際に世界中の川を旅している彼は、パックラフターとして稀有な存在だ。パックラフトというまだ新しいジャンルのカルチャーを牽引してくれる一人と言えるだろう。
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(英語の原文は次ページに掲載しています)
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