HIKING ESSAY

フォロワーゼロのつぶやき 中島悠二 #24 白へ

2022.05.25
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<フォロワーゼロのつぶやき> 中島君(写真家)による、山や旅にまつわる写真と、その記録の断面を描いたエッセイ。SNSでフォロワーゼロのユーザーがポストしている投稿のような、誰でもない誰かの視点、しかし間違いなくそこに主体が存在していることを示す記録。それがTRAILSが中島君の写真に出会ったときの印象だった。そんな印象をモチーフに綴られる中島君の連載。

#24「白へ」

家から車で近所、富岡駅の裏にある砂浜におりていくと、枯れたすすきのあいだから浜の上に座礁した船が見えてくる。津波で離れたところから流れてきたらしい。近づくと思ったよりでかい、全体が錆びて茶色くなっている。鳥がたまにとまるくらいで、こないだは犬の散歩がよこをとおった。
何年もこのままでいて、いつまでそうしているのだろう、波が繰り返しよせるのを、拒むことなく受けいれるのみ。

船と書いたが、今はもう船ではなく、かつては船だった。どれだけ働いていたのか。疲れは隠せないが、いまは朗らかな、引退。
「おつかれさま」。
「……」。

目指す方向はなくなって、とりあえず砂の上に落ちついた、鉄のカタマリ。
社会から指をさされる、有用性や意味から解放されて、<元船>はとうとう特別な位置についた。透明といいたくなるような、存在感がきわだっている。

人も馬も渡らぬときの橋の景 まこと純粋に橋かかり居る (斉藤史)

こんな短歌を思いだした。

 

 

自分もこうなれたら。この身体の、せまいうつわをからにして、簡単な肉のまま浜辺にすわらせておきたい。植物のたたずまいを参考に、風にゆれたらきもちいい。

歩くことは、そのうちに自分の色が薄まってきて、白か、あるいは透明に近づいていくこと。何の役にもたたないで、走ったりして力をいれず。野良犬みたいに、空気をよまない。平然とひとびとの前をよこ切る能力。あらゆる境界線をこえていくのだ、いまなら誰とでもはなせるきがする、うなぎみたいにやわらかいから。

そうか、さっきの短歌は、歩く人だったのか。まるで歩いている人が、疲れてみちばたに腰をおろしたときに目にはいった光景。せわしない日常から脱落した、気の抜けた視線で世界をながめなければ、橋はそのようにみえてはこない。

「世界は徒歩で旅する人に開かれる」とはヘルツォーク。

橋が、自分は等価になる。

 

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WRITER
中島悠二

中島悠二

写真家。
1981年 神奈川県川崎市生まれ。
福島在住。

写真の大学を卒業後、建築の教育現場のスタッフとして5年、その後フリー。静かな活動。ようやく最近インスタはじめる。2014年に歩いたジョンミューアトレイルがきっかけで、LONG DISTANCE HIKERS DAY(ハイランドデザイン & トレイルズ主催)にスピーカーとして参加。

TRAILS編集部のクルーとは、同時代的な感性で意気投合。その後、いままで公式に発表されてこなかった山や旅の写真を中心に、トレイルズでの連載を開始する。
WEB: www.sunagomikusa.info

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