LONG DISTANCE HIKER #15 丹生茂義 & 清田勝 | ハイキングバディとの旅
話・写真:丹生茂義、清田勝 取材・構成:TRAILS
What’s LONG DISTANCE HIKER? | 世の中には「ロング・ディスタンス・ハイカー」という人種が存在する。そんなロング・ディスタンス・ハイカーの実像に迫る連載企画。
何百km、何千kmものロング・ディスタンス・トレイルを、衣食住を詰めこんだバックパックひとつで歩きとおす旅人たち。自然のなかでの野営を繰りかえし、途中の補給地の町をつなぎながら、長い旅をつづけていく。
そんな旅のスタイルにヤラれた人を、自らもPCT (約4,200km) を歩いたロング・ディスタンス・ハイカーであるTRAILS編集部crewの根津がインタビューをし、それぞれのパーソナルな物語を紐解いていく。
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第15回目に紹介するロング・ディスタンス・ハイカーは、丹生茂義 (にゅう しげよし) a.k.a. Time zone さんと清田勝 (きよた まさる) a.k.a. Not Yet さん。
シゲさんとマサルくんは、二人ともアメリカ3大トレイル (PCT, AT, CDT) をすべてスルーハイキングしたトリプルクラウナーである。
TRAILSとは2017年末に出会い、翌年2月に『LONG DISTANCE HIKERS DAY』(※1) に登壇。以来、毎年参加してくれている。ATを終えて帰国した際も、TRAILSのGARAGEに二人して泊まったりと、僕たちもハイカー仲間として付き合いつづけている。
この二人がトリプルクラウナーであること以上にユニークなのは、2017年にパシフィック・クレスト・トレイル (PCT ※2) で偶然出会いともに歩き、その翌年の2018年にアパラチアン・トレイル (AT ※3) も一緒に歩いた、ハイキングバディであることだ。実現はしなかったものの、コンチネンタル・ディバイド・トレイル (CDT ※4) を一緒にスルーハイキングしようと目論んでもいた。
1つのトレイルでハイキングバディとなる仲間と出会うことはよくあるが、海外のトレイルを、2本目以降も一緒につるんで歩く日本人ハイカーは珍しい。
シゲさんとマサルくんにとって、ハイキングバディと旅するロング・ディスタンス・ハイキングの魅力とは? 二人の出会いから現在までをたどることで、その魅力に迫った。
PCTでの偶然の出会いから、ハイキングバディとしての旅がはじまる。
—— 根津:二人とも2017年にPCTを歩くまでは、面識すらなかったんだよね?
清田:「そうですね。PCTのオレゴン州とワシントン州の境にあるカスケードロックス (※5) という町で会ったんです。トレイルエンジェルの家に行ったら、シゲさんがいました」
—— 根津:どんな感じで、一緒に歩き出すことになったの? 最初から意気投合という感じ?
丹生:「いやそういうわけじゃなく。進む方向が同じだから、なんとなく一緒に歩きはじめた感じですね」
清田:「出発のタイミングが一緒だったんで、とりあえず行きますかーっていうくらいで」
—— 根津:アメリカのトレイルをスルーハイキングしていると、同じペースのハイカーと出会って、しばらく一緒に歩くっていうのはよくあることだよね。でも、1つのトレイルで一緒に歩いた仲間はみんなそれぞれいたとしても、次のトレイルも一緒に行くバディがいるかというと、それは珍しいよね。
清田:「カナダの国境が近くにつれ、いろいろ考えるわけです。僕は日本に帰っても特にすることは決まっていなくて、ぼんやりとアメリカ3大トレイルのことは頭にあって。でも、こんなのまたやる意味あんのかな? と思ったりもしていて。
そんなタイミングで、ある小高い丘でシゲさんと話したことを今でも鮮明に覚えているんです。シゲさんが左側、僕が右側にいてカナダのほうを眺めていて。あれ、国境じゃね? と」
丹生:「最初は国境ってわかんなくて。でも、防火帯をみて、国境じゃね? あそこがゴール? ってなって」
清田:「そこで、やっぱり僕はまだ歩きたいと思って、シゲさんに『来年、AT行きますわ!』って言ったんです」
丹生:「僕はまだ確定はしていませんでしたが、心の中では次はATだとは思っていました」
—— 根津:PCTのゴールが具体的に視野に入ったときに、二人とも次の年にATを歩くことを心に決めたんだね。
2本目のATは別々にスタートしたが、ようやく後半で追いつきともに過ごす。
—— 根津:結局、翌年の2018年に二人ともATをスルーハイクした。スタートしたのは、シゲさんが4月後半で、マサルくんが5月初旬でした。
清田:「3週間くらい離れていたので、先にシゲさんがゴールするかなぁと思っていました。でも僕のペースが速かったこともあり、終盤、バーモント州で追いついたんです。シゲさんと会ったのは、とあるトレイルエンジェルの家でした」
—— 根津:PCTの時と同じように、そこからまたしばらく一緒に歩いたと。二人で歩く楽しさ、魅力を、どの辺に感じているのかな?
丹生:「思い出の共有ができる、っていうのはありますよね。たとえば景色ひとつとっても、同じ場所でも朝昼晩とまったく違う表情を見せるので、一緒にいる人とじゃないと同じ景色は見れないわけです。それを共有できるのはいいですよね」
清田:「シゲさん、覚えている景色とかあるんですか?」
丹生:「カウボーイキャンプ (※5) したとこ」
清田:「あぁ、そうっすね。ニューハンプシャー州のマウント・ラファイエット。あれは良かった」
丹生:「あれは良かった」
—— 根津:どんなカウボーイキャンプだったの?
丹生:「PCTとは違って、雨の多いATではカウボーイキャンプはほとんどできなくて、ATで唯一のカウボーイキャンプがそこだったんです」
清田:「ほぼ山のピークだったので、もともと泊まる予定じゃなかったんです。泊まれるほどの水も持ってなかったし。でもどうしてもここで寝たくなって、水場を探しにちょっと谷沿いを下りていったら、わずかですがポタポタと滴るしずくがあって。数十分かけて2リットルくらい溜めたんです」
丹生:「天気も良くて最高でした」
清田:「特にこれといった話をしたわけでもなく、二人で寝ながら自生しているブルーベリーを食べてました。遠くには折り重なる山々が夕日とともにどんどん色が変わっていって。徐々に星も出てきてものすごくキレイだったんです」
年齢はぜんぜん違うけど、中学の同級生みたいな感覚。
—— 根津:3本目のCDTは、AT後にTRAILSのGARAGEで、二人で一緒に歩いたら面白いよねっていう話をしたんだよね。たた残念ながら実現せず、マサルくんはATの翌年2019年に、シゲさんは2021年に歩いた。
清田:「PCTもATも一部のセクションしか一緒に歩いていないから、CDTは一緒にスタートして一緒にゴールしたらオモロイやろなと思っていたんですよね」
丹生:「自分も行くつもりだったんですが、歯痛が酷くて手術をすることになってしまったこともあり、2019年は断念したんです」
—— 根津:でも2020年には、日本国内のトレイルを一緒に歩いたりと、その後もハイキングバディとしての関係は続いているね。
清田:「アメリカ人のハイカーって、たとえば同じ年にPCTを歩いたハイカー同士が、3年後にもう一回集合してAT歩こうぜ! そのあとCDTをこの年に歩こうぜ! っていう感じで、仲間たちと一緒にトリプルクラウンをやったりするじゃないですか。その感覚に似てるかもしれないですね」
—— 根津:アメリカのロングトレイルの場合、同じ年に歩いたハイカーを『Class of ○○○○』と称したりするけど、まさに二人はクラスメイトというわけだ。
清田:「PCT、ATは実際にクラスメイトですけど、それ以前に、中学の同級生みたいな感覚はありますね。そのくらい居心地がいい。まあシゲさんは自分より10も年上ですけど」
丹生:「僕も一緒にいてラクですね。マサくんはしっかり者なんで。10歳年下のお兄ちゃんみたいな感じです (笑)」
清田:「じゃあ10歳年上の弟っすね (笑)」
—— 根津:最高のロング・ディスタンス・ハイカー・ブラザーズだね (笑)。最後に、次のロング・ディスタンス・ハイキングの予定は?
清田:「2023年の3月からアリゾナ・トレイル (AZT ※6) をスルーハイクするつもりなんです。あ、シゲさん、アリゾナ行く?」
丹生:「じゃあ、行こっかなー (笑)」
This is LONG DISTANCE HIKER.
『 クラスメイトならではの
相性とノリと勢い 』
アメリカなど海外のロングトレイルをスルーハイクするというのは、行くタイミング、旅の費用の準備、仕事の調整など、各ハイカーの個人的な事情に大きく左右される。いくら仲の良い友だちだとしても、そうそう一緒に行けるものではない。
しかし、シゲさんとマサルくんは、そんなハードルをものともせず、アメリカも地元のひとつくらいの感覚で、ロング・ディスタンス・ハイキングの旅へと出かけていってしまう。
Take it easy. そのスタンスは、まるでアメリカで出会った現地のロング・ディスタンス・ハイカーのようだ。
根津貴央
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