AMBASSADOR'S

井原知一の100miler DAYS #16 | 走る生活(Doi Inthanon Thailand by UTMB)

2023.02.15
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文・写真:井原知一 構成:TRAILS

What’s 100miler DAYS? | 『生涯で100マイルを、100本完走』を掲げる、日本を代表する100マイラー井原知一。トモさんは100マイルを走ることを純粋に楽しんでいる。そして日々、100マイラーとして生きている。そんなトモさんの「日々の生活(DAYS)」にフォーカスし、100マイラーという生き方に迫る連載レポート。

* * *

トモさんの暮らしを「走る生活」「食べる生活」「家族との生活」という、主に3つの側面から捉えていきながら、100マイラーのDAYSを垣間見ていこうというこの連載。

第16回目のテーマは、「走る生活」です。

今回は、2022年12月に走り、64本目の100mile完走となった『Doi Inthanon Thailand by UTMB (ドイ・インタノン・タイランド・バイ・ユーティーエムビー)』(以下、ドイ・インタノン ※1) を紹介してくれます。

UTMBシリーズ戦の中でもアジアを代表するレース。12月かつドイインタノン山 (標高2,565m) のピークを踏むコースということもあり、寒さを心配していたトモさんですが、実際行ってみたら日中は30℃を超える暑さで杞憂におわったようです。

国際レースということもあり、世界各国からランナーが集まり、トモさんも100mileはもちろん他の出場者とのコミュニケーションも楽しんだとのこと。

そんなタイの100mile前後の、トモさんの日々の「走る生活」とは?

※1 Doi Inthanon Thailand by UTMB (ドイ・インタノン・タイランド・バイ・ユーティーエムビー):タイ北部、ドイ・インタノン国立公園で開催されるトレイルランニングレース。もともと2020年2月に「Ultra Trail Thailand」として開催され、2022年から「UTMBワールドシリーズ」のレースに加わることになった。100mile、100km、50km、20kmのカテゴリーがあり、トモさんは今回100mileに出走。累積標高は10,045m、制限時間は48時間。


事前情報ではヒルが多いと言われていた、ドイ・インタノン。

Doi Inthanon Thailand by UTMB:タイの山間部らしいワイルドなトレイル

制限時間は緩めな48時間ですが、テクニカルなトレイルだったり、冬の時期に暑い気候だったり、累積標高も10,045mだったりと、走力はもちろん強いメンタルを必要とするレースでした。

アップダウンも多く、特に登りは、日本だったらつづら折りでしょ! というところも直登でしたね。倒木もかなりあって、くぐる? 乗り越える? と迷うくらいのも多く、なかなかワイルドなトレイルでした。


フィジカルもメンタルも求められるトレイルだったが、素晴らしい景色もたくさんあった。

ただキツイだけではなく、タイの最高峰・ドイインタノン山 (標高2,565m) から見える景色や、海外から参加している選手とのコミュニケーションもすごく楽しみました。

ドイ・インタノンの目標のひとつは、しっかり完走してUTMB (※2) に申し込むためのポイントをゲットすることでした。レースの結果はタイムが29時間19分12秒、順位が総合22位と、現状のコンディションを考えると、納得いく結果でした。

※2 UTMB (ウルトラトレイル・デュ・モンブラン):2003年にスタートした、ヨーロッパアルプスの最高峰モンブランを取り巻くフランス、スイス、イタリアにまたがる山岳地帯を走るトレイルランニングレース。トレイルランナー憧れの大会でもある。


海外ランナーとのコミュニケーションも、レースの楽しみのひとつ。

【走る生活 (その1):レース2週間前】 レース2週間前に約300kmを走りつづけて優勝

ドイ・インタノンの2週間前にバックヤードウルトラ東京大会 (※3) を走り、300km近くを走って優勝しました。

普通であればレース2週間前にこんなに走ることはありません。でも、10月にバックヤードウルトラの日本代表監督をした際、選手たちにこのレースのアドバイスができないことが心苦しかったんです。やっぱり自分も走らないとダメだ。そう思って、急遽11月のこのタイミングで走ることにしたんです。

※3 バックヤードウルトラ:Backyard Ultra Last Samurai Standing東京大会のこと。「距離6,706mのコースを1時間以内に走る」、これを最後の1人が残るまで継続するレース。


バックヤードウルトラ東京大会では、見事優勝!

さらにドイ・インタノンの10日前には、ANSWER4のランニングクラブの週末練で高尾を走りました。5日前には、バークレーマラソンズ (※4) 対策として、奥武蔵マウンテンオリエンテーリングにも参加しました。

※4 バークレーマラソンズ (Barkley Marathons):アメリカ・テネシー州のフローズンヘッド州立公園で毎年3月に開催されている耐久レース。「世界一過酷なレース」とも呼ばれている。1986年に第1回目が開催。以来、36年間で完走したのはたった15人。エントリー方法も公開されておらず、謎の多いレースでもある。トモさんは、2017年、2018年、2022年に出場してDNF (Do Not Finish)。


ランニングクラブのみんなとの練習風景 (高尾にて)。

【走る生活 (その2):レース直前】 練習をセーブして疲労を抜くことに専念

とにかく、ドイ・インタノンに向けてこれ以上疲労が蓄積しないよう心がけました。

バックヤード後は練習会やイベントごとが多かったのですが、それ以外の日は、受け持っているランニングクラブの練習とリカバリーランしかしないことに決めて、それを徹底しました。


紅葉がキレイな高尾。疲労が蓄積しないよう、走り過ぎないようにした。

たくさん睡眠もとりましたが、疲労はそれだけでは抜けないので、週2回マッサージや鍼灸院でケアをしてもらいました。

あと温泉やサウナも有効的に使って、疲労回復以外にもタイの暑い環境に備えるための暑さ順応もしました。


ランニングクラブでのナイトラン。

【走る生活 (その3):レース直後】 走り続けるために、フィジカルトレーニング以外の時間を大事にする

ドイ・インタノンを走り終えて、2022年のレースがすべて終わりました。

ただ翌月 (1月末) に香港のレースが控えていたので、まずは疲労を抜くこと、ランニングが好きだからこそランニングを一旦頭から外すこと、家族との時間を作ることという、走るためかつ今後も走り続けられるための生活をしていました。


愛娘のさくらと愛犬オレオと高尾散策。

ランニングは心身一体のスポーツです。だからこそ、身体以外のところもしっかりと練習 (メンテナンス) しなくては楽しめないし、パフォーマンスも上がりません。そのため、フィジカル的なところ以外に力を注いでいました。

走ることに関する主な練習は、毎週木曜日のランニングチームの練習と、月例の練習会、自分が主宰するTOMO’S PITの忘年合宿、あとはジョグが多かった感じです。


レース後は家族でいろいろなところにも出かけた。家族とのかけがえのない時間があるからこそ、100mileも頑張ることができる。

【走る生活 (その4):レース2週間後】 次のレース (約200mile) に向けた準備

香港のレースに向けた練習 (調整) を行なったのが、レース3週間前でした。そしてレース10日前からは、テーパリング (トレーニング強度を減らし本番にピークに持っていくための調整) の期間でした。


ランニングクラブの仲間とのラン。2022年にかなり追い込んだので、次のレースに向けてはいかに調整するかがポイントだった。

この香港のレースは、距離が約200mile (320km) といつもの倍だったので、フィジカル以外の要素がかなり重要で、戦略、食べ続けること、睡魔対策、サポートクルーとの作戦や連携、Aプランがダメだった時のBCDEFプランの想定など、ウルトラ (※5) で起こりうるハプニングに対してのあーしたらこう、こうなったらこう、あーなったらこう、といったことをよく考えました。

あとは過去のこのレースの動画コンテンツ (映画、YouTube) など見てモチベーションを上げていました。

※5 ウルトラ:ウルトラランニング (長距離レース) のことで、ロードであれば100km、トレイルであれば100mile (160km) を指すことが多い。


オレオと一緒に散歩しながら、香港のレースのシミュレーションを繰り返した。

レース2週間前に、急遽別のレースに出場して300km近く走って優勝。そして本番の100mileも難なく走りきってしまったトモさん。

そんなクレイジー過ぎるくらい走りまくっていながらも、走り続けるためにもラン以外の時間が大事だと言い、レース後は家族との時間もたっぷり楽しむのがトモさんらしい。

次の100mileはどんな走りを見せてくれるのか、また楽しみだ。

TRAILS AMBASSADOR / 井原知一
現在の日本における100マイル・シーンにおいてもっともエッジのた立った人物。人生初のレースで1位を目指し、その翌年に全10回のシリーズ戦に挑み、さらには『生涯で100マイルを、100本完走』を目指す。馬鹿正直でまっすぐにコミットするがゆえの「過剰さ(クレイジーさ)」が、TRAILSのステートメントに明記している「過剰さ」と強烈にシンクロした稀有な100マイラーだ。100マイルレーサーではなく100マイラーという人種と呼ぶのが相応しい彼から、100マイルの真髄とカルチャーを学ぶことができるだろう。

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井原知一

井原知一

1977年、長野県生まれ。アメリカの大学を卒業後、仕事を転々とした末、2007年にスポーツ商社に転職。同企業のダイエット企画がきっかけでトレイルランニングに出会う。当時31歳。すぐさま夢中になり、トレイルラン2年目でOSJ (アウトドア・スポーツ・ジャパン) のシリーズ戦全戦を完走。3年目にはSFMT (信越五岳トレイルランニングレース) で8位。初めての100マイルは、2010年に自ら企画した草レースTDT(ツール・ド・トモ)。以降100マイルの魅力にとりつかれ、『生涯で100マイルを、100本完走』を掲げて走るようになる。つねにチャレンジしつづけることをモットーとし、90歳での100マイル完走も目標のひとつ。走ることの素晴らしさを広め、人生を変えるきっかけづくりのために、ポッドキャスト『100miles, 100times.』や、自ら立ち上げた『Tomo's Pit』を通じてコーチングも手がけている。

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