ツール・ド・トモ (T.D.T) | 100mileのグループラン (井原知一の100miler DAYS 番外編)
文:根津貴央 写真:根津貴央, 井原知一 構成:TRAILS
『100miler DAYS』の連載をいつも届けてくれているトモさん。そんなトモさんが自分自身で立ち上げた勝手100mile「ツール・ド・トモ 」(T.D.T ※1) が、2022年5月21・22日に開催された。
今回は、このT.D.Tを『100miler DAYS』の番外編としてお届けしたい。
T.D.Tとは、トモさんが2010年にはじめた100mileイベント。100miler DAYSの連載でも何回か登場しているので、ご存知の読者もいるだろう。
なぜ今回T.D.Tかというと、実は先日、ヴィーガン (完全菜食) フードブランドの「ULTRA LUNCH」を手がけているドミンゴさん (詳しくはコチラ) が選手として出場し、そのペーサー (伴走者) をわたくし、TRAILS編集部crewの根津が務めてきたからだ。
かねがねトモさんや仲間から聞いていたT.D.Tを身をもって味わい、あらためて、ただの100mileではないことを実感した。いまやアメリカだけではなく、国内でも100mileレース (草レースも含む) が増え、認知度も高まってきた。ただ、他の100mileとは一線を画しているのが、このT.D.Tである。
一体なにがどう違うのか。T.D.Tとはなんなのか。実際に走ったからこそわかったことも含めて、その本質をここで解き明かしたいと思う。
T.D.T (ツール・ド・トモ) は壮大なグループラン!
T.D.Tは、ツール・ド・トモという名前からもわかるように、トモさんが立ち上げたイベントである。
きっかけは今から12年前の2010年。当時、日本には100mileのレースはなく、100mileを走るための情報がぜんぜんなかった。トモさんは、海外の100mileレースへの出場を考えていたこともあり、事前に同じ距離を走りたいとずっと思っていた。
くわえて、当時トモさんは、トレイルランの仲間たちと、人がビックリするようなことにチャレンジすることを楽しんでいた。アイツまたクレイジーなことやったな! じゃあオレは今度これをやる! じゃあ私はあれをやる! といった具合に、刺激しあって走りまくっていた。そのひとつが、T.D.Tだったのである。
2010年、2011年とプライベートなチャレンジとしてやってみたら、まわりのトレイルランナーたちから、自分も走りたい! という声が多数寄せられた。そこで2014年からイベント化することになった。
今も変わらない、T.D.Tの一番の特徴は、レースではなく『グループラン』であることだ。そもそもこの100mileは、トモさんが仲間とはじめた遊び。トモさん曰く「競争ではなく共走」。その初期衝動を貫いているのだ。
グループランといえば、仕事終わりや休日に、仲間とおしゃべりしながら軽くジョグする、くらいのイメージである。ところが、T.D.Tは100mileのグループラン (しかも制限時間は24時間!)。壮大すぎるグループランなのだ。
ドミさん&根津の実走録 (その1) 高水山の試走
このT.D.Tに、ULTRA LUNCHのドミンゴさん (以下、ドミさん) が参加することになった。実はドミさんにとっては3回目のチャレンジ。これまで2回はDNF (Do Not Finish) だっただけに、三度目の正直、というわけだ。
過去2回の反省を生かし、ドミさんも通称ドミ練 (ただ単にドミさんの練習という意味。TODAY’S BEER RUNのゆうき君がレギュラーメンバー。根津も時々参加) を通じて、かなり走り込んできた。
レース1週間前には、3人 (ドミさん、ゆうき君、根津) でT.D.T唯一のトレイルセクションである高水山も試走した。
試走では、なんとレジェンド月岡さん (※2) にも遭遇!
前方から笑顔で走って下りてくる人がいるなぁと思っていたら、御年84歳の月岡さんだったのだ。レジェンドですら抜かりなく試走をしているのだ。しかも、気温と湿度の高さにやや苦しめられていた僕たちとは打って変わって、表情は笑顔。
それを見たら、「負けてられない!」「言い訳なんてできない!」と、僕たちも気合が入った。
ドミさん&根津の実走録 (その2) スタート直前に交わされる誓いの言葉
T.D.Tの本番当日を迎え、僕たちはスタート&ゴール地点である羽田空港近くの大鳥居 (旧穴守稲荷神社大鳥居) の前にいた。
ドミさんは、時折やや緊張した表情を見せることはあったが、しっかり練習してきたこともあってか、自信があるようにも見えた。
RD (レースディレクター) であるトモさんによるブリーフィングが行なわれたあと、選手 (総勢25名) が、大鳥居の下に集まった。
いよいよスタートの瞬間。と思いきや、とある儀式がはじまった。
トモさん:「T.D.T中に私がたとえ怪我をしても」
選手一同:「T.D.T中に私がたとえ怪我をしても」
トモさん:「もしくはロストしても」
選手一同:「もしくはロストしても」
トモさん:「はたまたハンガーノックになったとしても」
選手一同:「はたまたハンガーノックになったとしても」
トモさん:「全て自業自得です」
選手一同:「全て自業自得です」
トモさん:「アーメン!」
選手一同:「アーメン!」
サポーターや応援に駆けつけてきたまわりの人から、拍手がわきおこった。
この誓いに関して、トモさんはこう言っていた。「よくレースで、エイドがダメだったとかコースマーキングがなかったとか、文句をいう人がいます。でも僕は、個人的には自己責任だと思っているんです。決して意地悪とか責任を取りたくないとかではなく、それが100mileの面白さだからです。そういったことを身をもって体験して成長して欲しいんですよね」
誓いを交わした25名が、11:00ちょうどにスタートを切った。
ドミさん&根津の実走録 (その3) スタートから69km地点で合流
ペーサーである僕は、最初からドミさんと一緒に走るわけではない。ペーサーは、高水山の麓に位置する青梅鉄道公園の駐車場 (69km地点) からの合流となっている。
僕は、早めに現地入りして、ドミさんが来るのを待ち構えていた。前回のT.D.Tでは、ドミさんは最後尾でここに到着。しかもすでに満身創痍の状態で、もはや走れるような状態ではなく、ゆっくり歩くので精一杯だった。果たして今回は……
選手が徐々にたどり着きはじめていた。ほどなくして、Answer4のコバくん (詳細はコチラ) 率いる10人くらいの集団が現れた。そこに、ドミさんもいた!
ドミさん元気そうじゃないですか! と声をかけると「Yo!Yo!Yo!」となんだがゴキゲンな様子。
灼熱地獄で熱中症になりかけた選手もいたなか、69kmも走ってこの元気があるなら、ドミさん、今年はもしかしたらもしかするかも! そんなことを思いつつ、僕はドミさんと一緒にトレイルへと入っていった。
ドミさん&根津の実走録 (その4) 100mileの魔の手が忍び寄る
高水山の登りも、Answer4のコバくん率いる集団で進んでいった。ドミさん以外の選手のペーサーも加わったことで、集団はさらに大きくなった。
選手は、すでに69kmも走ってきていることもあり、当然疲れはたまってきている。でも、談笑しながら和気あいあいとキツイ登りを進んでいく姿は、これぞまさしくグループラン! といった感じだった。
しかし、2時間ほど進んだあたりで、ドミさんの足取りが重くなってきた。つまづくことも多くなり、「自分が思っているほど脚が上がってねぇんだなぁ……」と時々つぶやくようになった。
無理して潰れてしまっては元も子もないので、集団から離れることを決断して少しペースを落とす。ドミさんの表情からは笑顔が消えていた。でも、まだまだ時間はある。ゆっくりでも前に進んでいけば大丈夫だ。ドミさんを叱咤激励しつつ、一緒に進み、ようやく折り返し地点である高水山常福院 (高水山の山頂にある寺院) にたどり着いた。
目の前には、光り輝くお堂があった。驚くことに、今回、常福院の方のご好意で、特別にライトアップしてくれていたのだ。しかも、来た人全員に御守りが配られ、甘酒も振るまわれた。
これほど嬉しいサプライズはない。僕たちは元気をもらい、気を入れ直して復路へと向かうことにした。常福院で全選手を待ち構えていたトモさんも、「ドミさん、行けますよ! 頑張ってください!」と力強く送り出してくれた。
気力は復活した。しかし、ドミさんの体は思うようには動かなくなっていた。徐々にペースが落ち、立ち止まることもしばししば。すでに脚は棒のようになっていて、言うことをきかない。すると意識も徐々に遠のくように……。
ややふらつきながらもなんとか高水山を下山して、青梅鉄道公園の駐車場に戻ってきたが、時はすでに遅し。もはや制限時間の24時間でゴールすることは不可能だった。この時点で、DNF (Do Not Finish) することを決断した。約90km地点にて、ドミさんのT.D.Tは終了となった。
身をもって実感した、グループランとしての100mile
残念ながら、ドミさん&根津は、100mileを走り切ることができなかった。三度目の正直ならず。また次のチャンスを待ちたいと思う。
ペーサーの僕は、前回につづいて2回目のT.D.T参加となった。思うような結果は得られなかったが、あらためてグループランとしてのT.D.Tの魅力を実感することができた。
参加するまでは、グループランとはいっても、あくまで建前でしょ? なんだかんだみんな順位やタイムを意識して競い合ってるんじゃないの? という思いもあった。
でも実際は、正真正銘のグループランだった。グループランたらしめているのは、トモさんはもちろん選手一人ひとりのスタンスもそうではあるのだが、復路の青梅鉄道公園をスタートできるのは午前1時、という時間制限があるのも大きい。足切りならぬ足止めだ。こんなルール、初めて聞いた。
また、ユニークなルールのひとつに、ネガティブな発言をしたら即失格! というものがある。ルールブックには「脚が攣った時に『攣った』とは言わずに『脚が熟成した!』と言いましょう。脚を捻った時に「捻挫した」とは言わずに『可動域広がった』と言いましょう」といったポジティブ変換した表現例が列挙されている。
だから、いくらしんどい時でも、誰ひとりとしてネガティブなことを言うことがない。このポジティブなグルーヴが、さらにT.D.Tをグループランたらしめているのだ。
トモさんは、「楽しいことをやっていると、まわりに楽しい人が集まってくるんですよ」と言っていた。だからT.D.Tは、回を重ねるごとに、走りたいと思う人、ペーサー、サポーターが増えているのだろう。
ここだけの話、僕も選手として走ってみたくなった。
グループランとはいえ、100マイルを24時間以内に完走するのは、過酷で、誰もができることではない。
にもかかわらず、みんな楽しげに走り、毎年出走者が後を絶たないだけではなく、年々サポーターも増え続けている。
なぜこんなに盛り上がっているのか不思議に思う人もいるだろう。でも、その理由はきっと、このイベントが競争ではなく共走であり、レースではなくグループランであるからなのだろう。
つい先日、次回 (2023年5月) のT.D.Tにドミさんが出場することが決まった。僕もまた、ペーサーとして走るつもりだ。次こそ、四度目の正直だ。
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