TRAILS REPORT

アメリカにおける大雪の年のスルーハイキングTIPS|by リズ・トーマスのハイキング・アズ・ア・ウーマン#41

2023.11.10
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(English follows after this page.)

文: リズ・トーマス 写真:リズ・トーマス, ジョン・カー, TRAILS 訳・構成:TRAILS

TRAILSのアンバサダーである、リズの連載。今回は、大雪の年にスルーハイキングするために必要なことは?というのがテーマだ。

今年 (2023年) は、シーズン前から「Big Snow Year」というニュースが、アメリカを歩こうとするハイカーの間で大きな関心事となった (TRAILSではLONG DISTANCE HIKIERS DAYでも事前にレポート ※1)。今回の記事では、今年のような大雪の年にロング・ディスタンス・ハイキングをするためのTIPSを、リズがレポートしてくれる。

アメリカのロングトレイルにおけるスルーハイキングは、一般的には雪のない季節を狙って実行する。しかし今年のように、大雪により否応なく旅のプランに影響を受けるケースは今後もあるだろう。

スルーハイカーの中には、雪の知識や積雪期のハイキングスキルがほとんどない人もいる。今回リズがレポートしてくれるTIPSは、そのようなハイカーにとって貴重な備えとなってくれるはずだ。

※1 LONG DISTANCE HIKERS DAY:「LONG DISTANCE HIKERS DAY 2023 イベントレポート① | NEW YEAR TOPICS」においても、2023年が異例の積雪量となり、同時に渡渉の危険性が大きく増すことをレポートしている。詳細記事はコチラ


PCTとJMTの交差するセルドン・パス。大雪の年はこのような景色に。

2023年、アメリカは大雪の年だった。

2023年はシエラネバダ山脈で例年の300%の積雪がありました。コロラド・トレイル (CT ※2) とコンチネンタル・ディバイド・トレイル (CDT ※3) 沿いのロッキー山脈も、大雪の年でした。春が寒かったこともあって、いずれの山脈の雪も溶けませんでした。

結果、パシフィック・クレスト・トレイル (PCT ※4) とジョン・ミューア・トレイル (JMT ※5) のスルーハイカーたちは、雪が深く、雪解け水が激しく流れる川に直面することになりました。

そこで今回、海外から訪れるスルーハイカーのために、PCT、JMT、CT、CDTの積雪状況や必要なスキルについてのTIPSをいくつか紹介します。

※2 CT:Colorado Trail (コロラド・トレイル)。コロラド州のウォータートン・キャニオンからデュランゴまで続く、486mile (782km) のロングトレイル。山岳地帯を通るトレイルで、高地ならではの景色が魅力のひとつ。標高も比較的高く、標高4,000mを超えるところもある。

※3 CDT:Continental Divide Trail (コンチネンタル・ディバイ・トレイル)。メキシコ国境からニューメキシコ州、コロラド州、ワイオミング州、アイダホ州、モンタナ州を経てカナダ国境まで、ロッキー山脈に沿った北米大陸の分水嶺を縦断する3,100mile (5,000km) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。

※4 PCT:Pacific Crest Trail (パシフィック・クレスト・トレイル)。メキシコ国境からカリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州を経てカナダ国境まで、アメリカ西海岸を縦断する2,650mile (4,265㎞) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。

※5 JMT:John Muir Trail (ジョン・ミューア・トレイル)。アメリカ西部のヨセミテ渓谷から米国本土最高峰のホイットニー山まで、シエラネバダ山脈を南北に貫く211mile (340㎞) のロングトレイル。ハイカー憧れのトレイルで、「自然保護の父」として名高いジョン・ミューアが名前の由来。

TIPS1:危険と思われる区間はいつでもスキップできることを知っておくこと。


PCTでヨセミテ北部のベンソン・パス。

今年、PCTを北上するスルーハイカーの多くが、シエラ南部のケネディ・メドウズで一旦ストップすることを選びました。しばらく休んだのちに、オレゴンなど雪の少ないエリアまでスキップして、ふたたびトレイルを歩き始めました。

また、夏に山々が雪解けしたあと、秋になってからPCTのシエラエリアをハイキングするために戻ってきたハイカーもいました。

多くの海外からのハイカーは、今年がスルーハイキングの一度きりのチャンスだと考えているようです。でも、できる範囲で長くハイキングし、より安全なコンディションになってからまたハイキングに戻ってくることを、歩き出す前に計画する。それこそがよりベターな判断です。

TIPS2:行く前に練習し、講習を受けること。


この写真は雪が少ない年のシエラネバダだが、それでも雪のなかを歩くことはある。

大雪の年にハイキングに行くことがわかっているのなら、行く前に講習を受け、ピッケルの使い方、ウィルダネス (原生自然) での応急処置、川を安全に渡る方法などのスキルを身につけましょう (雪が少ない年でもやるべきことです)。

経験豊富なハイカーやインストラクターと一緒に行動することで、危険な状況下で何をすべきかをカラダに覚え込ませ、自信をつけることができます。

TIPS3:行く前にトレイルのコンディションをチェックすること。


PCTAの積雪情報 https://www.pcta.org/2011/updated-pct-snow-information-for-july-4th-259/

各トレイルには、雪の状態、沢の深さや流れの速さ、今後の天候などをチェックするための多くの資料が公開されています。これらのデータをもとに、大雪エリアに入るかどうかを判断しましょう。

TIPS4:大雪エリアをハイキングする場合は、グループで行くこと。


適切な装備とスキル。そしてグループでの行動を。
グループの全員が、ピッケルなどの適切な装備と、それを使う技術や経験を持っている必要があります。グループの全員が同じ技術レベルでなくても構いませんが、全員がお互いの経験レベルに違和感がないようにしましょう。

英語で話すことが苦手であっても、危険を感じたり、助けが必要だと感じたりしたときに、どのように他の人に知らせればよいかを確認しておきましょう。

TIPS5:つねに適切な地図を持つこと。


より安全な判断ができるようにエスケープルートが載っている地図を。

エスケープルートが記載された紙地図 (※6)を入手しておきましょう。今年のPCTスルーハイカーの多くは、シエラを歩き切れると思って歩き始めました。でも、数日から1週間ほどトレイルを歩いた後、何人かはそれが困難で、恐ろしく、危険であることに気づきました。

フォレスター・パスを越えたノースバウンダー (北上するスルーハイカー) たちは、インディペンデンス・パスを越えてオニオン・バレーでシエラから出ました。これは素晴らしく賢い決断です。

また、PCTやJMTの周辺のトレイルの地図も持っていくと、より安全な決断をするための選択肢が増えます。

※6 紙地図:Far Outなどのスマホアプリの地図では、トレイルの本線だけが表示され、周辺のトレイルが表示されないケースがある。そのため、エスケープルートとなる周辺のトレイルの情報も掲載された、紙地図を携行ことが重要となる。また雪による寒さでスマホのバッテリーが切れるリスクという観点からも、紙地図はエスケープの際のバックアップとなりうる。

TIPS6:他の人に行程表を共有し、inReachを携帯すること。


inReachは現在は必須装備のひとつとなってきている。
自分たちのグループが雪の多い地域に行くことを、家族をはじめ他の人に知ってもらうことが大切です。

一緒にいるのは誰なのか、いつ携帯電話が使えるようになるのかを確認しておくこと。inReach (※7) または双方向の衛星通信機を携帯し、緊急時の使い方を知っておきましょう。

※7 inReach:GARMIN (ガーミン) が開発・販売している衛星通信デバイス。携帯電話の電波が届かないエリアでも、双方向通信が可能でSOS発信機能も搭載されている。最新機種の「inReach Mini 2」は、小型&軽量で、重量は100g。TRAILSでは、「ロングトレイルTOPICS #07 | PCT&ATスルーハイキングに向けた最新情報(2023 Feb)」では、PCTAにインタビューし、inReachの利用増加とともに、適切な利用方法や自身のナビゲーションスキルの重要性をレポートしている。詳細記事はコチラ

TIPS7:必ず他の人と一緒に渡渉すること。


PCTとJMTにあるベア・クリークは、大雪の年にもっとも怖い渡渉のひとつ。

グループがバラバラになった場合は、全員が川に来るまで待ち、一緒に渡渉しましょう。お互いにつかまることで、より安全に渡渉するさまざまなテクニックがあります。

TIPS8:渡渉する際は朝まで待つこと。


危険を感じたら無理に渡渉をしない。

一般的に、川は早朝に渡るのが一番安全です。というのも、夜の気温はそれほど高くないため、雪が早く溶けることがなく増水しにくいからです。雪解け水量がもっとも多くなるのは、暖かい午後のあとです。

小川のほとりでキャンプをし、朝まで待って渡るのは恥ずかしいことではありません。その日は可能な限り長くハイキングすることになるかもしれませんが、安全のためにはそれをやるだけの価値があります。

TIPS9:雪用の装備を準備すること。


スノーハイキングの適切なギアを持つ。

大雪の年には、一日中雪の中をハイキングすることになるかもしれません。足を暖かく保つために、防水シューズと防水ソックスを検討しましょう。

防水ソックスを履く場合は、シューズのサイズを大きくしましょう。また、雪上キャンプが必要になることもあるので、防寒具、特に断熱性の高いスリーピングパッドを用意しましょう。

小川や沢が雪に覆われていることもあります (コンチネンタル・ディバイド・トレイルでは特にそうです)。

ストーブを持たずにハイキングする場合は、途中でストーブをピックアップしてください。飲み水を確保するために雪を溶かす必要があるかもしれません。雪の状態によっては、スノーシューやスキーの用意もおすすめします。

TIPS10:いつもよりゆっくり進むことを意識すること。


歩くスピードが遅くなる前提でのプランを。

深い雪のなかを歩くのは、乾いた地面を歩くよりもはるかにスピードが遅くなります。毎日同じ距離を歩くことはできません。補給までの時間が長くなっても大丈夫なように、十分な物資、特に食料を持参するようにしてください。

最後に、今回のトピックについて、私が作成した長めの資料をひとつ紹介します。

参考:3人のスルーハイカーによる動画


https://www.treelinereview.com/learn-skills/thru-hike-in-a-big-snow-year

最後に、今回のトピックについて、私がモデレーターをした動画をひとつ紹介します。大雪の年にPCTとCDTを歩いた3人のスルーハイカーによる動画です。ハイカーたちは、ハイキングのTIPSをはじめ、どのようにハイキングしたか、どのようなギアを持っていったかについて話しています。

また、大雪の年にハイキングに出発する前に学んだ技術や、どのように準備したかについても語ります。

後半ではもしまた大雪の年にハイキングをすることになったら、何を知っていればよかったか、何か違うことをするかについて話してくれています。


大雪の年には、いつも以上に適切な情報収集、ギア、そしてスキルが求められる。

日本において、大雪の年のスルーハイキングTIPSを、これほど要点をおさえ、且つ簡潔にわかりやすくレポートした記事は、これまでほとんどなかっただろう。

アメリカのトレイルを歩く日本人ハイカーが増えている今、スタートする前にこのような記事の内容を知ることがより求められているのだろ。最高のロング・ディスタンス・ハイキングにするための準備を万全にしてもらいたい。

TRAILS AMBASSADOR / リズ・トーマス
リズ・トーマスは、ロング・ディスタンス・ハイキングにおいて世界トップクラスの経験を持ち、さまざまなメディアを通じてトレイルカルチャーを発信しているハイカー。2011年には、当時のアパラチアン・トレイルにおける女性のセルフサポーティッド(サポートスタッフなし)による最速踏破記録(FKT)を更新。トリプルクラウナー(アメリカ3大トレイルAT,PCT,CDTを踏破)でもあり、これまで1万5,000マイル以上の距離をハイキングしている。ハイカーとしての実績もさることながら、ハイキングの魅力やカルチャーの普及に尽力しているのも彼女ならでは。2017年に出版した『LONG TRAILS』は、ナショナル・アウトドア・ブック・アワード(NOBA)において最優秀入門書を受賞。さらにメディアへの寄稿や、オンラインコーチングなども行なっている。豊富な経験と実績に裏打ちされたノウハウは、日本のハイキングやトレイルカルチャーの醸成にもかならず役立つはずだ。

(English follows after this page)
(英語の原文は次ページに掲載しています)

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Liz Thomas

Liz Thomas

2011年にアパラチアン・トレイルを女性の最速タイムで踏破した記録(当時)を持っていることで知られている。彼女はトリプルクラウンを達成しただけでなく、米国に15以上あるトレイルでのスルーハイクを経験し、今まで15,000マイル以上ものトレイルを歩いてきた。また、彼女はその経験をロング・ディスタンス・ハイキングのコミュ二ティに還元することにも熱心で、American Long Distance Hiking Assosication-West(ALDHA-West)のバイスプレジデンドも務めている。彼女がハイキングを本格的に始める前は、イエ-ル大学の森林環境学部で環境科学の修士課程を修了し、彼女が手がけた、ロング・ディスタンス・ハイキング・トレイルとその保護およびコミュニティに関するリサーチは、名誉あるDoris Duke Conservation Fellowshipの賞を受けた。スポンサーはAltra, Gossamer Gear, Probar, Vermont Darn Tough socks, Mountain Laurel Designs, Sawyer filters, Montbellで、アンバサダーとして活躍している。
http://www.eathomas.com/

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