ベンチュラのブリュワリー・スルーハイキング (後編)|by リズ・トーマスのハイキング・アズ・ア・ウーマン#40
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文: リズ・トーマス 写真:リズ・トーマス, シャウント・サラベルト 訳・構成:TRAILS
TRAILSのアンバサダーである、リズの連載。今回のテーマは、ベンチュラの町での、ブリュワリー (ビール醸造所) をめぐるアーバン・ハイキング。これは最高のハイキングにならないはずがない。
ベンチュラといえば、パタゴニア本社がある場所として認識している人が多いだろう。ベンチュラは、サーフィンやクライミングが楽しめるアウトドアの町として有名だが、それだけでなくクラフトビールのブリュワリーの町としても知られているのだ。
またリズはオフシーズンのトレーニングも兼ねて、町を長く歩く「アーバン・ハイキング」を過去に何度も実践してきた (※1)。今回は「アーバン・ハイキング」 と「クラフトビールのブリュワリー」を組み合わせた旅だ。
ちなみにリズによると、TRAILSの「TODAY’S BEER RUN」(※2) にインスパイアされて、これを自分の住むカリフォルニア州でやったら?と考えて、この旅が生まれたとのことだ。
ベンチュラの町を、3日間で60mile (約97km) をハイキングし、14ヶ所のブリュワリーをめぐった「ベンチュラ・ブリュワリー・スルーハイキング」。今回は、旅作家の友人をバディとした2人でのアーバン・ハイキング。
今回の後編は、DAY2のベンチュラのダウンタウンを中心にしたハイキングと、DAY3のローカル・トレイルのレポートをお届けします。
※1 アーバン・ハイキング:リズは過去にはロサンゼルスの町を6日間かけてスルーハイキングする「インマン300」というルートを旅したり、いろいろな町でアーバン・ハイキングをひとつのコンセプトをとして実践している。詳細は、以下の記事を参照:https://thetrailsmag.com/archives/3285
※2 TODAY’S BEER RUN:TRAILSの連鎖記事のひとつ。走って、至極の一杯となるクラフトビールを飲む。ただそれだけのきわめてシンプルな企画。アメリカのトレイルタウンのマイクロブルワリーで、ハイカーやランナーが集まってビールを楽しむみたいに、自分たちの町を走って、ビールを流し込む。毎回、ナビゲーターのユウキ君が紹介してくれたおすすめのお店、おすすめの一杯を紹介している。 最新回は「TODAY’S BEER RUN #11 | 里武士・馬車道 (馬車道)」https://thetrailsmag.com/archives/56639
DAY2はベンチュラのダウンタウンを中心にアーバン・ハイキングをする。
ブリュワリーの営業開始前に、ベンチュラのローカルの山をハイキング。
ベンチュラのダウンタウンには、数ブロック圏内にたくさんのブリュワリーがあるので、2日目はホテルを起点にループして戻ってくるルートで歩くことにしました。
ベンチュラの町を3日間で60mile (約97km) ハイキングし、14ヶ所のブリュワリーをめぐった。DAY1はベンチュラの郊外、DAY2はダウンタウンを中心にハイキング。DAY3はダウンタウンから北へ向かって、トレイルをハイキングしてオーハイでゴール。
DAY2の詳細MAP。この日はベンチュラのダウンタウンを中心に歩く、ループ状のルート。
ほとんどのブリュワリーは昼になるまでオープンしないので、午前中は植物園やスペイン伝道所 (カトリックの布教施設)、遺跡をめぐり、そしてローカルの山のハイキングを楽しみました。
ハイキングの後に今日最初の一杯を飲むために、「アナカパ・ブリューイング (Anacapa Brewing)」のあるメインストリートを歩いていきました。
パンデミックの時期は、ベンチュラの町は道路を閉鎖し、各レストランはもともと駐車場だった場所に屋外のテラス席を作りました。結果として新しくつくられた屋外テラスは、お客さんを呼び込む役割を果たしたので、町はこの屋外テラスの大通りをそのまま残すことにしたそうです。
ベンチュラのローカルの山をハイキングするリズ。
一番のお気に入りのベンチュラ・コースト・ブリューイング。
「ベンチュラ・コーストブリューイング (Ventura Coast Brewing)」は、ベンチュラで私が最も好きなブリュワリーの1つです。
このブリュワリーの名前は、チャネルアイランドにある島の名前からとられたものです。私はベンチュラの町で一番おいしいIPAは、このブリュワリーのIPAだと思っています。
ベンチュラ・コーストブリューイングには、最高のIPAのラインナップがある。
私たちはビールと、余っていたフィッシュタコスを、植物に囲まれた屋外テラスでいただきました。このテラスからは、ベンチュラのダウンタウンにある、有名な壁画を眺めることができます。
ブリュワリーをめぐりながら、友人であり、私にとってアーバン・ハイキングのメンター (助言者・相談者) でもある、ボブ・インマン (※3) が教えてくれた建築の記事を読んでいました。
この歴史地区は、世界初の都市型モールをはじめ、イタリアンルネッサンスからマヤ・リバイバル、アールデコまで、さまざまな建築様式の建物があります。
※3 ボブ・インマン:リズがロサンゼルスの町をアーバン・ハイキングした際に、そのルートはイルマンがリストアップしたロサンゼルスにある300の階段を通ることから「インマン300」と名付けられた。詳細は、以下の記事を参照:https://thetrailsmag.com/archives/3285
フルイド・ステイト・ブリューイングで食べたカチャブリ。
私のお気に入りのアールデコの建物は、現在「フルイド・ステイト・ビアガーデン (Fluid State Beer Garaden)」という、高級なタップバーのお店になっています。
フルイド・ステイトには、地元のビールはあまり置いていないのですが、最高のものだけを厳選した、素晴らしい料理を提供しています。この店で私たちは「カチャプリ」という、ジョージアのチーズ入りパンを注文しました。
私も一緒に歩いたシャウントも、この旅で食べたものの中で一番おいしいと思った食べものが、このカチャブリでした。
ダウンタウンではブレイクをはさみながら、アーバン・ハイキングを楽しむ。
ブリュワリーめぐりの間に立ち寄ったローカルの書店「ハウス・オブ・ブックス」。
私たちは少しお腹を休憩させるために、バンク・オブ・ブックスへと向かいました。床から天井まで楽しい発見がたくさんある、ベンチュラにあるローカルの書店です。
ダウンタウンにある6つのブリュワリーは、いずれも徒歩2mile (約3km) 圏内の近さにあります。なので、私たちはペースを上げすぎないようにするため、「プロスペクト・コーヒー・ロースターズ (Prospect Coffee Roasters)」でコーヒータイムをとりました。
トランスミッション・ブリュワリーで、ワード・ゲームで遊びながら飲む。
次に向かったのは、「トランスミッション・ブリュワリー (Transmission Brewery)」です。このブルリュワリーは、かわいいバンガローの並びを眺めながら、ガレージのドアを開けて中へ入っていきます。店内ではゲームをしながら、オハイ・ピクシー(Ojai Pixie)の白ビール「ピーリン・アウト (Peelin’ Out)」を飲みました。
ベンチュラビーチに向かい、夕日の時間にはチルな時間を過ごす。
DAY2の後半は、ベンチュラのビーチ近くを歩き回った。
ビーチサイドを歩きたいと思った私たちは、「メイドウエスト・ブリューイング (MadeWest Brewing)」の1日目に訪れたのとは別の店舗に向かいました。このブリュワリーの隣には、私がベンチュラで一番おいしいと思うフィッシュタコスの店もあります。
ここにはアメリカで一番長い木製の桟橋があって、メイドウエストのお店は、その桟橋の上にあります。おいしい食事とおいしいビールを飲みながら、デッキから夕日を眺めることができるのです。
ビーチサイドのチェアで休憩をする。
ビーチをもう少し歩いた後、ダウンタウンに戻り「トパトパ・ブリューイング (Topa Topa Brewing ※4)」で「Nitro Ube stout」を、昨日に続きもう一杯飲みました。
この日の最後は「リーシュレス・ブリューイング (Leashless Brewing)」で、夜の時間を過ごしました。リーシュレス・ブリューイングは女性が経営するブリュワリーです。グルテンフリーのビールを専門としており、ずっとビール、チーズブレッド、タコスを楽しんできた体には、とてもやさしいビールでした。
※4 トパトパ・ブリューイング:この記事の前編では郊外のトパトパの店舗を訪れずれている。このダウンタウンにある店舗は、パタゴニアの社員が仕事帰りに立ち寄るお気に入りのお店。またTRAILSのSTOREでも、トパトパのクラフトビールを取り扱っている (2022年11月時点ではSOLD OUTだが今後再入荷予定)。
DAY3、ベンチュラ・リバー・トレイルをハイキング。
3日目は、ビーチの近くあるボードウォークのトレイルから歩き始める。
今回の「ベンチュラ・ブリュワリー・スルーハイキング」の最終日は、もっともチャレンジングな日でした。
国立のレクリエーション・トレイルであるベンチュラ・リバー・トレイルの13mile (約21km)を含む、計18 mile (約29km)を海から山まで歩いていくルートです。私たちは河口から出発し、川の源流があるオーハイの町まで川を遡るようにして歩きました。
オーハイ・バレーは、オレンジやアボカドの果樹園がたくさんある美しいエリアです。周りは山々に囲まれています。LAから1時間の場所にあり、多くのセレブリティがこのあたりを、山の保養地としていて、町にはとても高級感があります。
このあたりの山には絶滅危惧種であるカリフォルニアコンドルが生息しているため、ハイカーを含め、何千エーカーもの面積が立ち入り禁止となっています。しかし、それがオーハイ・バレーの魅惑的な雰囲気をさらに高めているのです。
道中で気になって立ち寄ったART CITY。
ベンチュラを出発した後、トレイルに「岩に注意」と書かれた奇妙なモニュメントを見かけました。私たちは気になって、中に入ってみることにしました。
庭に案内されると、その中は、岩、ガラス、海の漂着物、金属などでできた、車くらいの大きさのいろんな形の彫刻がたくさん並んでいました。
ここは「アートシティー・スタジオ」という、野外アートを集めた場所で、アーティストたちが、普通のアートスタジオではできないような、大きなサイズやとても重量のある彫刻作品を、展示したり、制作している場所だったのです。
オーハイ・バレーの山あいのトレイルを進む。
ベンシュラのダウンタウンを出て、オーハイ・バレーのある町の北へと歩いていく。
次に訪れたのは、このハイキングの最後のタコスストップである「ウエスト・ベンチュラ (West Ventura)」です。
メキシコからの移民が多いこの地域は、ベンチュラで有名なタコス街道の一部でもあります。おそらくタコスのお店の中で最も有名な「タケリア・ベンチュラ・ドナ・ラクエル (Taqueria Ventura Doña Raquel)」に立ち寄り、これから食べるピクニック用のランチを調達しました。
トレイル沿いでのランチ休憩。
川沿い6mile (約10km) ほどハイキングした後、静かな水辺でランチ休憩を取りました。木々に囲まれ、周りには葦が生い茂り、あたりでは鳥がさえずっている場所です。
アーバン・ハイキングで、これほどまでに自然が多く、ピースフルな気分になれる場所を歩けることに驚きました。
ベンチュラ・リバー・トレイルは山のふもとを登っていくトレイルです。このトレイルは、乗馬をする人や、サイクリスト、ハイカーなどが利用します。町に近づくと、道なばたでレモネードを売っている子どもに出会いました。暖かい日だったので、冷たい飲み物はとてもありがたかったです。
オーハイの町までつながっている、オーハイ・バレー・トレイル。
ベンチュラ・リバー・トレイルは町の中心部が終点になっています。最後の目的地である「オーハイ・バレー・ブリュワリー (Ojai Valley Brewery)」は、その数ブロック先にあります。私たちは歩いた距離と道中で見たものに満足しながら、外の庭で最後のビールを楽しみました。
ベンチュラの町をハイキングする楽しさ。
今回の旅のゴールの、オーハイの町。
ベンチュラ・ブリュワリー・ハイキングの魅力のひとつは、のんびりとした町であることです。
観光地でありながら、観光客でごった返すこともなく、土産物屋が軒を連ねるような場所もありません。ベンチュラは地元の人のたまり場のようなところで、この町を訪れる人にも、その空間をシェアすることを歓迎してくれます。
観光客がベンチュラですることは、地元の人たちがしていることと同じなのです。つまり、ハイキング、サーフィン、自転車、そしてビールを飲むことです。
「ベンチュラ・ブリュワリー・スルーハイキング」を満喫したリズと、今回の旅のバディであるシャウント・サラベルト。
パタゴニア創業の場所でもあるベンチュラの町を、3日間で60mile (約97km) をハイキングし、14ヶ所のブリュワリーをめぐった「ベンチュラ・ブリュワリー・スルーハイキング」。いつになくご機嫌かつレイドバックなムードのリズの様子から、この旅がまちがいなく最高のものだったことが伝わってきた。ベンチュラの町へ行くときには、きっとこのレポートを読み返すことになるだろう。
TRAILS AMBASSADOR / リズ・トーマス
リズ・トーマスは、ロング・ディスタンス・ハイキングにおいて世界トップクラスの経験を持ち、さまざまなメディアを通じてトレイルカルチャーを発信しているハイカー。2011年には、当時のアパラチアン・トレイルにおける女性のセルフサポーティッド(サポートスタッフなし)による最速踏破記録(FKT)を更新。トリプルクラウナー(アメリカ3大トレイルAT,PCT,CDTを踏破)でもあり、これまで1万5,000マイル以上の距離をハイキングしている。ハイカーとしての実績もさることながら、ハイキングの魅力やカルチャーの普及に尽力しているのも彼女ならでは。2017年に出版した『LONG TRAILS』は、ナショナル・アウトドア・ブック・アワード(NOBA)において最優秀入門書を受賞。さらにメディアへの寄稿や、オンラインコーチングなども行なっている。豊富な経験と実績に裏打ちされたノウハウは、日本のハイキングやトレイルカルチャーの醸成にもかならず役立つはずだ。
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(英語の原文は次ページに掲載しています)
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