TRAILS REPORT

TRAILS CARAVAN in NZ 2016 #2 / ロング・ディスタンス・ハイキング with KIDS

2016.04.22
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子どもができたら、海外で一緒に長い歩き旅をしたい。その旅の場所として選んだニュージーランド。TRAILS CARAVAN(トレイルズ・キャラバン)連載の第2回の内容は、小さな子どもを連れてゆくロング・ディスタンス・ハイキング。

きっと4歳になったばかりの息子にとって、この2週間の旅で得た体験と情報は、ものすごく彼の脳を刺激して、身体にしみ込んだんだと思う。だっておじいちゃんおばあちゃんは、帰国した孫の顔を見て開口一番、「すっかり顔が大人になって、いきなり子どもじゃなくなっちゃったみたいで寂しい」と言ったほどだ。

すっかり大人になった自分たちだって、長い旅の経験は、すべての感覚を変え、新たに人生の過ごし方や、新たな生活のあり方を想像するきっかけを与えてくれる。長い旅がおわった後、もはや旅の前の自分はいない。それが小さな子どもにとっては、それはもっともっと大きな変化で、大人が知り得ないようなインスピレーションが、小さな子どもの頭の中には渦巻いているんだと思う。

このトリップ・レポートを読んだことがきっかけで、子どもを連れて海外トレイルに行ってみよう、家族で自然の中での旅にでかけてみよう、という人たちが増えてくれると嬉しい。

僕らのトリップに途中からジョインしてくれた、フォトグラファーのケイタ君の写真と一緒にレポートをお楽しみください!

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Photo: Keita Yasukawa

Photo: Keita Yasukawa

■ JOURNEY MAP: ニュージーランド南島を巡る旅
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■ 初めての海外ハイキング・トリップのはじまり
– Arthur’s Pass National Park, Goat pass track(アーサーズ・パス国立公園 、ゴート・パス・トラック)

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Arthur’s Passは、ニュージーランドの南アルプスの北の端に位置する峠。有名な山岳観光地でもあり、中心のArthur’s Villageの近くからはショーウォークのコースも整備されている。

4歳になったばかりの子なんだから、昼寝はしたくなっちゃうし、歩けるスピードや距離だってやっぱり限度がある。この最初のトレイルでは、みんながそのことを体感をもって、きちんと知ることができたトリップとなった。

僕たちが最初のトレイルとして選んだのは、Goat Pass track(ゴート・パス・トラック)という名のトレイル。初日は距離が9.5km、標高差400mを登り、標高1070mにあるハット(*1)を目指す。ただ思ったよりもアップダウンは多く、渡渉も何本もしなくてはいけない。そして、子どもは思ったよりもはるかにハイテンション。それはそうだ。見るもの触れるものすべてが新しく、どこで遊んでもよし、という自然の中。おまけにいつものパパとママに加えて、ここぞとばかりに遊んでくれるパパとママと友達まで一緒なんだ。

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この最初のトレイルで僕たちは3つのことを学んだ。

「時間は標準コースタイムの1.5倍〜2倍」

最初の目的地のハットまで、結局、コースタイムの約2倍の時間がかかった。標準コースタイムが4〜5時間だったが、朝9時に出発して、到着したら19時。ニュージーランドは日が長く、21時頃まで明るいことは知っていたものの、ちょっとひやひやする時間だった。子どもの道草は歓迎すべきだし、調子よく歩いていても途中でぱたっと止まったりもする。コースタイムの2倍は見込んだ上で、少し余裕がある工程が望ましいと感じた。

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地図を見るのもハマってしまい、何度も現在地確認するために立ち止まる。


「大好きなおにぎりは日本から持参。定番の麺類は現地調達でOK」

子どもは、大好きなおにぎりは、いつでもちゃんと食べてくれる。なので、アルファ米、のり、塩は日本から準備して持って行った。一方、嬉しい誤算だったのは、旅のテンションの高さによって、普段は食べないものも、周りのみんなが食べていれば一緒に食べてくれること。これでニュージーランドで現地調達したドライフードでも、この先の目処を立てることができた。特にラーメンの即席麺や、パスタ系のドライフードは、よく食べてくれた。離乳食のときから麺類に馴染んでいるからか、こどもは麺との相性がよい。

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おにぎりは鉄板。どんなときでも食べてくれるし、これでモチベーションも回復してくれる。 Photo: Keita Yasukawa


「子どもをおんぶするときは、残りのメンバーで荷物分担」

子どもをおんぶするときに、パパの荷物を残りの3人で分担することができて、かなり負担を分散できた。今回は軽量さとかさばらないことを重視して、おんぶひもを使ったのだが、それでも子どもをおんぶしながら他の荷物も持つのは苦しい。それが、残りの荷物は全部他の3人で、分担できてしまえることを確かめることができた。これもULギアをベースにしているから、できたことだ。これでパパは子どもおぶるだで済むので、負担を最小限に抑えられる。ちなみにこの時の子ども体重は17kg。もうしっかり重いです。

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子どもが歩けなくなったら、おんぶひもで背負って歩く


■ファミリー・ハイカーも多い陽気な海岸トレイル
– Abel Tasman Coast Track(エイベル・タスマン・コースト・トラック)

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今回の旅で唯一のグレートウォーク。ハットやキャンプサイトも丁寧に整備されており、子連れのハイカーにもやさしい。

Arthur’s Passでのファースト・トリップを終えた僕らは、ハイエースのミニバスを北東に走らせ、Abel Tasman Coast Track(エイベル・タスマン・コースト・トラック)へと向かう。その途中にあるWestport(ウエストポート)という小さな街で、バックパッカーズ・ホテルに立ち寄った。長居はできなかったが、かつて炭鉱の街として栄えたエネルギーを、今も彷彿とさせる雰囲気。ピンクや黄色や緑などのポップな色づかいのポップな街並みは、今回の旅で印象に残った街のひとつとなった。子どもも、街に降りて、アイスクリームにありつくことができてご満悦だ。

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途中のWestportで泊まったバックパッカーズ・ホテル。トレイルと街をつなぎながらトリップを続ける。

次に歩いたAbel Tasman Coast Trackは、ロンリープラネットによると、9つあるグレート・ウォークの中でも最も美しいトレイルと紹介されている。それが妥当かはわからないが、抜群に綺麗なエメラルドグリーンの海を眺めながら、原生林の森とGold sandと呼ばれる黄金色のビーチとを、くねくねと縫うように歩くトレイルは、開放感があり陽気なトレイルだ。

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Photo: Keita Yasukawa

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このトレイルは高低差も少なく、ハットだけでなくキャンプサイトも含め、かなりこまやかにトレイルが整備されている。なので、子どもを連れて歩くのにも向いているトレイルだ。実際に子連れのファミリー・ハイカーにもたくさん出会った。僕らが2日目に泊まったAnapai bay(アナパイ・ベイ)のキャンプサイトは、人気のあるAbel Tasmanのトレイルの中でも穴場的な場所で、人気のないビーチを目の前にテントを張ることができた。僕らの他にいたのは、海外から来たハイカーの青年一人だった。ちょっと変わった香りのする、ヒッピーっぽい風貌の青年だった。

この日の夜にビーチで見た、海に映る月明かりの美しさは忘れられない。他には誰もいない夜の海に、水平線の向こうからずっと一筋に水面に反射する月明かり。子どもも「すごいね。すごいね。」って言っていたけど、ちゃんと覚えていてくれるだろうか、この景色を。
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■ 谷あいの湖から、ゴールド・メドウの原野に
– Mavora Walkway(マヴォラ・ウォークウェイ)

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NZに開通したロング・ディスタンス・トレイルであるテ・アラロアの一部でもあるMavora Walkway。 Photo: Keita Yasukawa

Abel Tasmanの陽気な海岸トレイルを後にして、今度は思い切り南島の中を南下していく。目指すは約1000km離れたMavora lake(マヴォラ・レイク)。途中でHanmer Springs(ハンマー・スプリングス)に寄ってパックラフトのショート・ダウンリバーを楽しんだり、Lake Tekapo(レイク・テカポ)のホリデーパークでキャンプをしたりと、わいわいやりながら緩やかに南を目指す。

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今回の旅のヴィークルであるハイエースのミニバス。こいつでロードを3000km以上は走った。 Photo: Keita Yasukawa

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Lake Tekapoのホリデーパーク。オールドスクールなキャンピングカーで旅を楽しんでいる人もたくさんいた。 Photo: Keita Yasukawa

Mavora Walkwayのスタート地点は、Mavora lakeの湖畔にあるキャンプサイトの端にある。ここはキャンプサイトと言っても、人工物はほとんどなく、湖畔の原っぱや森の中で、おおらかにキャンプができる。子どもも遮るもののない原っぱを自由に走り回り、そこらじゅうに転がる動物のフンだとかにえらい興奮していた。

このキャンプサイトが、このトリップで最後の野営だった。途中のクイーンズタウンで調達してきた肉や野菜でミニBBQをして、この旅でずっとお世話になっているニュージーランドのオーガニックワインも、この日は多めに空けた。小さな宴のような雰囲気で、夜を過ごした。NZの天気も祝福してくれて、この日の夜空には、無数の星が瞬いていた。

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Mavora lakeのキャンプサイト。 Photo: Keita Yasukawa

Mavora Walkwayの歩き出しは、しばらく湖の脇のトレイルを歩いていく。途中までは4WDも通れるダートロードになっているが、湖と森と山のコントラストが気持ちいい。ここのトレイルもアップダウンが少なく、子どもが歩くのに適している。ただこの日は陽射しがやけに強かった。ふと温度計を見ると、35℃近くまで気温が上がっていた。子どもにも水分補給と塩分のある食べものを与えるよう気をつける。長旅の効用か、子どもの方にも仲間を配慮するような仕草が生まれているのが、たくましかった。

途中、10kmまで歩いたところで、子どもの足はとまった。暑い中、ここまで自分で歩けたから、もういいかな。残りの6kmは、またおんぶして歩いた。おんぶされると、途端に子どもは眠りに落ちた。パパの汗まみれの背中で。

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Photo: Keita Yasukawa

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Photo: Keita Yasukawa

ここから先は4WDでも推奨されていないルートになっており、原野の雰囲気が一気に増してくる。山あいの大きな平原に流れる川。一面に広がるゴールドメドウの景色。周りは人気のトレイルに近接したエリアだが、ここのトレイルは辺境感を感じさせてくれる。

僕らのこの日のゴールは、boundary hutというハット。2段ベット2つに、水道があるだけの、質素でこじんまりしたハットだ。本当は翌日にこの先のさらに谷あいを奥へ入っていく道を行きたかった。でも子どもの体力では厳しい。子どもが自分で歩けることという前提で考えて、明日は来た道を戻るコースをとることにした。

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Golden meadows(金色の草原)が印象的なMavoraのトレイル。夕陽に照らされるとほんとうに輝いてみえて恍惚とする。 Photo: Keita Yasukawa

このハットのすぐ脇に川に降りられるところがあり、みんなで川に入る。強い陽射しでほてった体に、水の冷たさが本当に気持ちよい。真夏の一杯目のビールに匹敵する、体のしびれ方だ。

翌日、ピストンで来た道をまた戻っていく。トレイルを歩く最後の日、と嚙みしめる思いもあったが、朝の出発が早かったため、子どもはパパの背中で眠ったままだ。子どもが目覚めたときは、この日の行程の半分以上は過ぎていた。そこで遅い朝食兼おやつの時間をとり、残りの道は子どもに自分の足で歩かせた。

ずっと続くと思っていた旅も最後。Mavora lakeの昨日のスタート地点まで戻ってきた。想定よりも早めに着いたので、「もうひと遊び!」と勢いこみ、パックラフトを膨らませる。子どもがちぎれるようなテンションで、パックラフトに乗り、湖の中に手を突っ込んでみたり、大声でシャウトしたり、自分でパドルを漕いでみたり、、と、、あれ??漕ぐ手が止まった。そう思ったら、子どもはパドルを握りしめたまま、最後はパットラフトの上で寝ちゃってた。

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旅の最後にMvora lakeでパックラフト。青い舟に乗っている子どもは、もう遊び疲れて眠っている。 Photo: Keita Yasukawa

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See you somewhere on the trail! Photo: Keita Yasukawa


次回の連載は、このトリップに持っていったギアにフォーカスした内容をお届けします。

(*1)ハット(hut): ニュージーランドの山小屋。ニュージーランドでは国に紐づくDOC(環境保護局)が全国950以上のハットを管理している。事前にハット・チケットを購入しておく必要があり、グレートウォークのハットは事前予約が必要。

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TRAILS CARAVAN 2016#1 / トレイルズ・キャラバン2016 #1 – パックラフティング・ジャーニー in ニュージーランド

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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