ヘキサトレック (Hexatrek) | #02 ギアリスト編 by Beyoncé(class of 2023)
文・写真:Beyoncé 構成:TRAILS
毎年、多くの日本人ハイカーが海外トレイルを歩きに行く。スルーハイキングだったり、セクションハイキングだったり、ソロだったり、カップルだったり……それぞれが思い思いのスタイルでロング・ディスタンス・ハイキングを楽しんでいる。
そんなハイカーたちのロング・ディスタンス・ハイキングのリアルを、たくさんの人に届けたい。できれば、それぞれの肉声が伝わるような旅の記録、レポートを紹介することで、読者の方々にその臨場感や世界観をよりダイレクトに感じてほしい。
そこで、ハイカーが自らのロング・ディスタンス・ハイキングの体験談を綴る、ハイカーによるレポートシリーズをスタートさせることにした。
今回は2023年に開通間もないフランスのヘキサトレック (Hexatrek) をスルーハイキングした、トレイルネーム (※1) Beyoncéによる、第2回のレポート。
スルーハイキングに向けたギアの準備編をお届けする。
Beyoncé’s ギアリスト for ヘキサトレック
Hexatrekで選んだギアは、2022年にPCT (※2) で使ったギアをベースにした。ギアの買い替えにはコストがかかるし、「まだ使える」かつ「愛着のある」ギアが多くあったので、なるべくあるものでギア準備を進めていった。
また、PCTでは標高3,000-4,000m級の高山地帯を通過したが、今回のHexatrekでは高くて標高3,000m程度。両者は緯度も大きく変わらず、スタートした時期も大体同じ。そのため、ギアをアップデートする必要性はあまりなく、PCTで使ったギアのスペックであれば特に問題はないだろうと思った。
今回もトレイル上での写真撮影や動画撮影をすると決めていたので、ある程度の撮影機材によるバックパックの重量化は否めないと思った。
そこで他のギアの軽量化を検討したが、そもそもPCTの際にわりと自分の中で軽量化できていたし、前述したように何よりギアの買い替えにはコストがかかる。もし、ハイキング中にバックパックが重すぎて耐えられないと判断した場合は、その時にギアの取捨選択をすれば良いだろうと考えていた。
歩く:HIKING GEAR
Hexatrekでは村や町に下りることが多く、食料をパンパンに詰め込む必要がない。また、PCTのようにベアキャニスター (食料保管用のキャニスター) を携行する必要もない。そこでバックパックはPCTのものからサイズダウンを図り、45Lから40Lに変更した。
バックパックはYamada packsをチョイス。「腰荷重」でバックパックを背負うことを強みにしているブランドで、PCTで実際に使ってみてその背負い心地に満足した。今回のHexatrekもYamada packsで歩くと意気込んで、作り手であり友人でもある山田さんに相談。その時ちょうど私がPCTで使ったバックパックから問題点を洗い出し、グレードアップしたバックパックを製作中とのことで、そのバックパックを使わせてくださいと直談判した。
底部に外付けスリーピングパッド用のバンジーコードのアドオン、背面フレームの太さや素材を変更し耐久性の向上、背面パッドの厚みの調整、その他諸々の細かな箇所がアップデートされていた。バックパックの総重量は810gと、腰荷重バックパックでは軽いほうで何の問題もなかった。
完成後、山田さんによる熱あるバックパックのフィッティングをしていただいた。その結果、「このバックパックなら、(PCTのときのように) 再び長く歩くことができる」と思った。それと同時に「このバックパックと一緒にスタートし、ゴールしたい」という気持ちが芽生え、Hexatrekの楽しみがまた一つ増えた瞬間だった。
ウェアに関しては、シャツスタイルが好きなので、PCTと同様Aclimaのタンクトップ (Woolnet Singlet) とpatagoniaのシャツ (Self Guided Hike Shirt) を採用。前者はウールのメッシュアンダーで通気性も保温効果もある。Hexatrekでは湿度が高いエリアを歩くことも想定していたので更なる活躍を期待した。後者は素材の強度が高く、クラシックな見た目が好きだった。
あと無理やりだが、フランスを意識したカラーコーディネートで、シャツは白 (実際はグレー), ショーツは赤、シューズは青 (写真はグリーンだがスタート時は青)にした。
寝る:SLEEPING GEAR
野営方法としてはテント一択だった。高山地帯ではタープを張れないかもしれないし、湿気が多いエリアではカウボーイキャンプもできない。家畜系の動物 (牛、馬、羊、山羊、ロバ) やマダニなどに襲撃されず、落ち着いて寝るにはどうしたらいいのかと考え、消去法的にテントになった。
シェルターは自立式か非自立式で迷ったが、PCTで使った非自立のZpacksのDuplex tentを採用した。テント本体の重量が600gと軽量かつ設営も楽だったからだ。またトレッキングポールをテントポールとして代用することができ、一つのギアに二つの役割を持たせ、荷物を減らすことにつながるのも理由の一つだ。
また、前室にはシューズやバックパックを置くスペースが十分にあり、雨を想定した時に雨除けにもなると想定できた。そうなると、雨の中お湯を沸かしたりするときにこのスペースを活用できるし、テント素材が引火するリスクも減る。Duplex tentは二人用のためパッキングの際に少しかさ張るが、パッキングできないほどではないし、それより利点の方が多かった。
寝袋はmont-bellのダウンハガー800 #2を採用。かなり使い込んでいたので保温能力に不安があったが、快適温度0℃、使用可能温度-5℃と寒いエリアを過ごすのに十分なスペックだった。また、足先までジップが開き、容易に足を出し入れするのが個人的に良い睡眠につながっていたことも踏まえ、引き続き使うことにした。もし使い物にならなくなったら、現地調達を検討していた。
スリーピングマットはこれまではロール式のマットを使っていたが、パッキング時にかさ張り、またマットに丸めた跡がつくのが嫌でNemoの蛇腹式のものを採用。180cmの長さは自分にとってオーバースペックだったので、90cmと25cmに切って持って行った。90cmは肩からお尻が収まる長さ、25cmは足先の冷えを想定してふくらはぎから踵が収まる長さとした。また、25cmの方は歩いているときはバックパックの背面フレームの上にパッキングし、クッション材として利用するつもりだった。
食べる:COOKING GEAR
クッカーとカップを選ぶにあたって、①袋ラーメンやパスタが食べられるサイズ、②コーヒーを飲む、③スタッキングが可能、の3点を重要視した。それにあたって、新たにクッカーを買うことはせず、今持っているもので何とかできないかと考えていた。
ToaksのTitanium Pot 750mlで食事はできるが、コーヒーを飲むには一度ポットを洗う必要があり、手間が生じる。また、EVERNEWのTi 400FD Cupを使ってコーヒーを飲めるが、ポットとカップがうまくスタッキングできない。
そこで、電動工具でポットのハンドルと金具を撤去し、ポットをカップにはめ込むようにしてみると、うまく収まった。そこから110サイズのガス缶、プリムスのP-116 Femto Stove、カトラリー、食器吹き用のバンダナの順でポットに入れると、コンパクトにスタッキングできた。このスタッキングしたクッカーセットはPCTでも使用した。
エマージェンシー・その他:EMERGENCY GEAR & OTEHRS
私は身体がかなり固いので、登山やハイキングではよく膝部や足部をよく痛める。そうした時には、テーピングやサポーターで対策はせず、痛み止め薬で済ますことが多い。今考えるとあまり利口ではないが、Hexatrekでは痛み止め薬しか持って行かなかった。
また、PCTでは4,000km以上歩いたが、その時に一度も靴擦れや水ぶくれの症状に見舞われることがなかった。さらにHexatrekに履いていくシューズと靴下はPCTと同じ顔触れだったので、それらの対策は不要と考えた。
コンタクトレンズ (ワンデー) については、ハイキング日数より少し多めを想定して120日分持参した。ツーウィークのコンタクトレンズは、毎日洗浄が必要なので私の中では論外。PCTでは、コンタクトレンズを幾つかのトレイル上にある郵便局に事前に送っていたが、フランスではその点の勝手が分からず、荷物紛失や遅延のリスクがあっては困ると思い、全てバックパックに詰め込んだ。
その他、冒頭でも言ったが、欠かせないギアの一つに撮影機材がある。写真撮影用のカメラと動画撮影用のGopro (HERO 9)だ。
カメラは荷物がか張らないミラーレス一眼のOLYMPUS OM-D E-M10 Mark IIIを採用した。Goproは自撮り棒とともにファニーバッグに収まりが良かった。その結果、撮影機材だけで1kgを超えてしまったが、旅のシーンをどうしても残しておきたいという想いが強く、持って行くことに抵抗はなかった。
今回は、Hexatrekをスルーハイキングするにあたってのギアリストを紹介してもらった。次回は、リサプライ (食料やギアの補給) やアクセスのプランニングについてのレポートをお届けする予定だ。
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