TRIP REPORT

パシフィック・クレスト・トレイル (PCT) | #04 トリップ編 その1 DAY0~DAY11 by Teenage Dream(class of 2022)

2024.08.02
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文・写真:Teenage Dream 構成:TRAILS

ハイカーが自らのロング・ディスタンス・ハイキングの体験談を綴る、ハイカーによるレポートシリーズ。

今回は2022年にパシフィック・クレスト・トレイル (PCT) をスルーハイキングした、トレイルネーム (※1) Teenage Dreamによるレポート第4回。

今回はいよいよトリップ編。これからトリップ編は全8回でレポートしていく。今回は、トリップ編その1として、スルーハイキングのスタート前夜から、歩き出した最初の11日間のレポートをお届けする。

ロング・ディスタンス・ハイキングにおける「トレイルライフの日常」が詰まったレポートをお楽しみください。

※1 トレイルネーム:トレイル上のニックネーム。特にアメリカのトレイルでは、このトレイルネームで呼び合うことが多い。自分でつける場合と、周りの人につけられる場合の2通りある。


パシフィック・クレスト・トレイル (PCT:Pacific Crest Trail)。メキシコ国境からカリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州を経てカナダ国境まで、アメリカ西海岸を縦断する2,650mile (4,265㎞) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。

LONG DISTANCE HIKERS DAY。(DAY0)


LONG DISTANCE HIKERS DAY2022の会場。

アメリカ出発前夜、偶然にもTRAILSとHighland Designs (Hiker’s Depot) が主催する「LONG DISTANCE HIKERS DAY (以下、LDHD)」が東京の三鷹にて開催されることを知り、行ってみることにした。

この年は、それまで2月頃に開催していたが、コロナの影響で4月からの開催になったみたいだ。LDHDでは直前の前情報と、コロナ直後に出発するハイカー同士での情報交換ができた。

でも2021年のコロナ禍で出発したハイカーはいなかった。そもそもこんな大規模にパンデミックになったのは100年前のスペイン風邪以来で、それぞれの国の状態は未知数だった。行ってみないとなにもわからないということが、むしろこれも旅だと思えた。


出国の成田空港。フェンス越しに小さく妻の姿が見える。

空港まで妻が見送りに来てくれた。飛行機から外を見ると、妻の姿が見えた。そこに自分がヒッチハイク用にデザインした手ぬぐいの「TO TRAIL」という文字が小さく見えた。飛行機は10人ぐらいしか乗っていない。1列1人の状態だ。3列のシートをベットのようにして寝た。

アメリカへ向かう場合は、夜に向かって飛行機が飛ぶ。つまり時間が戻る方向になるから少し不思議な感覚だった。アメリカ上空は砂漠が広がって見えた。これから歩く場所に不安な気持ちとワクワクが混在する。


不安とワクワクが混在しながら、アメリカに到着。

スラム街の激安ゲストハウスに泊まり、電車とバスを乗り継いでサンディエゴのトレイルエンジェル (※2) の家に向かった。そこには20人ぐらいのハイカーがおり、その中で差別用語を使うハイカーと出会ってしまい、PCTへの印象は最悪となった。

こんな気持ちで次の日に歩き出さなくてはいけないのか。もうすでに帰りたい。

10年ほど憧れ続けていたPCTは変わってしまったのか?もう憧れのPCTは存在しないのか。いろんな気持ちが沸き立って寝られなかった (一緒に居た別のハイカーのイビキも爆音で煩かった)。

※2 トレイルエンジェル:ハイカーをボランティアでサポートしてくれる人のこと。たとえば、自宅やガレージを開放して宿泊スペースや食事を提供してくれたり、トレイルヘッドまでの送迎をしてくれたりする。

出発地点のモニュメントで晴れぬ思い。(DAY1〜2)


PCTの出発地点のモニュメントの光景。

早朝4時、トレイルエンジェルの車に乗ってメキシコ国境へ出発した。到着するとすでにPCTA (PCTの管理運営団体) のボランティアの方?が受付をしていた。受付では野糞の説明を受けた。PCTのロゴのストラップをもらいバックパックにつけた。確かにPCTハイカーだと一目でわかるからトレイルエンジェルもハイカーを見つけやすくていいのかもしれない。

モニュメントにはたくさんのハイカーが群がっている。前日の嫌なハイカーもいるので嫌なハイカーが出発してから記念撮影をした。

嫌な気持ちがグルグルと頭から離れず、全く歩く気持ちがない。PCTは有名になりすぎてしまったのかもしれない。有名になって経済的な旨みがあってやっと継続できるようになるとは思うが、このようなハイカーが多いなら歩きたくない、と思っていた。

メキシコの本当の国境の鉄格子を触った。空からヘリコプターのホバリングする音が聞こえる。お腹が痛くなって近くの草むらに野糞をした。

本当にPCTがはじまったのか?わからぬままとりあえず歩き出した。この日は一番最初の大きな峠の開けた場所でカーボーイキャンプをした。


かつてPCTのキックオフ・パーティが開催されていた場所に立つ。

次の日、峠を降りて湖にたどり着いた。大きな湖の周りはキャンプ場になっていてPCTのキックオフ・パーティー (ADZPCTKO:Annual Day Zero Pacific Crest Trail Kick Off) の会場だった場所だ。しかしキックオフ・パーティは10年以上前に廃止された。

何かで見た大きな岩にハイカー達が乗っている記念写真が強く印象に残っていた。少し外れて探し歩いていると、大きな岩が見えた。探していた岩だ。

誰もこの場所には来ない。忘れ去られたのか?今の自分には1人が良いし心地がいい。三脚を立てて写真を撮った。1時間ぐらい居たかもしれない。のんびり朝ごはんを食べて気持ちが整った。PCTがついに始まった気がした。

ティーンエイジドリーム。(DAY3〜6)


PCTの出発直後の荒野の景色。

最初の街のジュリアンで補給を済ませて再出発をした。

トレイルは荒野でサボテンとアガベが生えて、いかにもカラカラな砂漠というようなトレイルだ。太陽は体を焼いて水分が枯れていくのがわかる。嫌な感覚でとにかく辛い。でもこれを体験したかった。水はみるみると消えていく。

ワーナースプリングという街のガソリンスタンドで二回目の補給をすることにした。スキップするハイカーも多いがコーラが飲みたい。コーラを飲んでダラダラとしていると。トレイルエンジェルのおじさんが「シャワー浴びたいやつはついてこい!」とその場にいたハイカーに呼びかけてくれた。


ハイカーと一緒にキャンプした、小学校のグラウンド。

ついていくと小学校のグラウンドのシャワールームだった「今日はここでステルスキャンプしていいぞ!」といかにもその場のおじさんの独断だろうという雰囲気だったが青春な雰囲気で泊まることにした。

みんなで酒を買いに行き、晩御飯をアメリカンフットボールの観客席で食べ、酒を飲んで騒いだ。

こんなに良いハイカーもいるんだと思った。

「ここ学校でしょ?これがティーンエイジドリームだね!」と言ったらみんながドッと笑った。

次の日には僕のトレイルネームをみんながつけてくれた。「お前はティーンエイジドリームだ!」とケイティペリーの「ティーンエイジドリーム」を歌ってくれた。

夢だったPCTを歩いている境遇と重なるトレイルネームがとてもしっくりきた。

ハイカーと一緒に民泊を借りて最初のゼロデイ。(DAY7〜11)


ハイカーと一緒に民泊で借りたロッジ。

初日が悪かっただけに今の出会いが際立ってよく見えた。2022年に歩いたPCTハイカーは学校のクラスメイトのように接することが多い。若い子は20歳から、上は70歳まで年齢層は幅広いがみんなが同じクラスメイトで同じように接する。お互いにリスペクトをするが、日本語のようにややこしい敬語は無いし。みんな平等な感覚が、すごく居心地がよかった。

砂漠のトレイルの途中にマイクズプレイスというPCTハイカーを支援している別荘?離れ?のようなところがあり、巨大な貯水タンクがある。そこで給水をしたのだが、到着をすると昨日小学校で仲良くなったハイカーがいて、昨日と同じように語り合った。

この時から足が少し痛みが強くなってきた。恐れていた足底筋膜炎になりつつあるみたいだ。揉んだり冷やしたりをなるべくしたいが、冷却は水がなくてできない。とにかく使ったガス缶をマッサージボールのようにして揉んだ。

みんなで話し合い次のアイドリィワイルドという街で、Airbub (民泊のマッチングサービス) で泊まるとこを借りて、みんなでゼロデイにして遊ぼうという話になった。


ハイカーと一緒に別荘のなかでパーティをしてゼロデイを過ごす。

その時には足がパンパンに腫れ上がり歩くことができなくなっていた。「街に降りたら冷凍ビーンズを買うといいよ」とフリーライダーというハイカーがアドバイスをしてくれた。ビーンズを使うところがアメリカンだ。足を冷やすとみるみると腫れが引いていき楽になった。

借りた別荘はジャグジー付き、広々としたロッジではじめての体験だった。みんなでタコスパーティをしてゼロデイを満喫した。

しかし足は本調子では無い。歩く速度が全く違うのでトレイルに戻ったら、このメンバーとはもう会えないかもしれない。


ハイカーとタコスパーティを楽しんだ夜。また明日からトレイルへ戻る。

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子どもの頃から父と一緒にロボットコンテストに出場するほどのモノづくり好きで、機械加工やレザークラフトに夢中になる。大学時代には自転車で日本一周をしながら登山もし、卒業後はアウトドア総合メーカーへ就職。プロダクトデザイナーとしてさまざまなプロダクト開発に携わる。2021年に独立し、アウトドアメーカー『MIYAGEN Trail Engineering』を創業。同時に、念願だったパシフィック・クレスト・トレイル (PCT) をスルーハイキング。

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