ヘキサトレック (Hexatrek) | #04 トリップ編 その1 DAY0~DAY14 by Beyoncé(class of 2023)
文・写真:Beyoncé 構成:TRAILS
ハイカーが自らのロング・ディスタンス・ハイキングの体験談を綴る、ハイカーによるレポートシリーズ。
今回は2023年に開通間もないフランスのヘキサトレック (Hexatrek) をスルーハイキングした、トレイルネーム (※1) Beyoncéによるレポート。
今回の第4回は、いよいよトリップ編。これからトリップ編は全8回でレポートしていく。今回は、トリップ編その1として、スルーハイキングのスタート前夜から、歩き出した最初の14日間のレポートをお届けする。
ドイツからフランスへ。(DAY0)
ヘキサトレック開始2日前。入国審査に少し手間取ったが、無事にドイツのフランクフルト国際空港に到着。ロストバゲージもなく一安心だ。
空港から鉄道に乗ってフランスに入国し、スタート地点の町ヴァイセンブルクまで行っても良かったのだが、ヴァイセンブルクにガス缶があるか不安だった。そこで、ちょうど中間地点にあるドイツの街マンハイムに立ち寄り、アウトドアショップでガス缶を購入した。
翌日、再び鉄道に乗りヴァイセンブルクに到着。町は大して大きくないが中心地には教会や噴水があり、小川に架かる橋の欄干には彩りのある花が置かれている。ヘキサトレックでは町へ降りる頻度が多く、これから先、何度もこのような魅力的な町を訪れることができるのか、と思うとワクワクしてきた。
リサプライは苦戦した。プロテインバーなどの買いたい食料がなく、パッケージもフランス語表記でカロリーやタンパク質の計算がややこしかった。一時間半ほどスーパーマーケットで粘りホテルへチェックイン。
ホテルの部屋では終始グダグダしていた。煙草を吸いに玄関へ行くのも億劫で、なんとなくやる気が出てこない。「まあ焦らずじっくりいこう」と自分に言い聞かせた。
ロングトレイルに慣れるまでには時間がかかる。(DAY1〜3)
明確なスタート地点は町の中心地から約3km北に向かった先にある、ドイツとフランスの国境だ。ホテルから歩いて向かい、昼過ぎにスタート地点に到着。
進む方向にはワイン畑が広がり、そばにはヘキサトレックのエンブレムが印字された百葉箱のようなものが置いてあった。今回はどのような旅になるのかと期待を膨らませ、一通り写真と動画撮影をしてから、日差しの強い中を出発した。
林道とロード歩きを交互に繰り返し、標高500mほどの小高い丘にあった、眺めが良いポイントでテント泊。
2日目以降も、林道とロード歩きが続いた。随所に現れる城跡にも最初は感動して足を止めて少しの間鑑賞していたが、三度目あたりから飽きてしまい素通りをした。身体がまだロングトレイル仕様になっておらず、膝や足の甲が痛み始め、城跡を鑑賞する余裕がなかったこともあるが‥。3日目にして早々に痛み止めを服用した。
序盤は水の確保に苦労した。補給ポイントと決めていた噴水が故障していたり、水場が枯れたりしていたからだ。仕方なく次の村にあるグロサリーストアで水を買おうと思ったのに、行ってみるとそもそもグロサリーストアがない (2年前に閉店したらしい)!さすがに頭にきて、古い情報しか載せていないヘキサトレックの地図アプリに罵声を浴びせた。
水の在処を探しながらフラフラ歩いていると、「Hiker+Biker」のサインがある家を発見。モニークという女性が歩み寄ってきて「ハイカーなの?水はいる?ボトルちょうだい、水入れてくるから」と立て続けに話しかけてきた。その後もパンケーキや隣人が摘んだフレッシュサラダなどをいただき、屋外ベッドで仮眠を取らせてもらった。思いがけないトレイルエンジェルだった。ありがとう。
ヘキサトレックを歩き終えて気づいたのだが、これが最初で最後のトレイルエンジェルだった。
失敗した結果‥。(DAY4〜8)
スタート地点から100kmほど歩き、サヴェルヌという町に到着。早速リサプライをしにスーパーマーケットへ向かうが何故か閉まっていた。どうやらフランスではスーパーマーケットは日曜営業していないらしい。
一旦ビバークできる場所へ移動するのも面倒だったので、町のユースホステルで一泊することに。余計な出費と滞在になったが、疲れた身体を療養する良い機会だった。
翌日にリサプライを済ませ、三日連続となる痛み止めを服用し、ハイキング再開。スタートした時からだが、町を離れると林道をずっと歩く。670kmあるこのセクション1は、比較的低山をあるくためこのような道が多い。「ああ、早くアルプスを歩きたいな」と何度も現実逃避した。
6日目にして初の景勝地、滝を発見。水の流れる音に癒された。しかし、その後すぐに茂みの多いエリアに入り景色を拝めなくなり、心の中でクレームを入れた。
夕方前、自分のミスだがトレイルから少し離れた水場で水を補給するのが嫌で、その地点をスキップしてしまった。そのせいで、予定よりも先を歩く羽目になり、道路沿いのホテル兼レストランでコップ一杯だけの水をいただいた。それでは足りなかったので、隣の家の住民に声をかけて「水をください」とお願いすると、水とコーラをくれた。ありがとう。トレイルエンジェルといい、フランス人は親切な人が多い。
その後数日は林道、ロード、城跡がランダムに現れる中を歩いて行った。
未だに慣れずメンタルが落ちていく。(DAY9〜14)
9日目にしてうんざりしていた林道やロード歩きに対して、「これもロングトレイルの一つ」だと割り切ることができてきた。未だに慣れてはいないが。
リボヴィレという町でリサプライをした。その後キャンプ場へ行き、シャワーと洗濯を有料で利用させてもらった。その間、何故かモバイルバッテリーの充電がうまくできず、手間が掛かり、キャンプ場で無駄な足止めを食らった。
良くも悪くも、そのおかげで翌日はいつもより早く行動ができ、総アップダウンが3,000m以上あったものの、40km以上歩くことができた。さらに翌日も同じようなアップダウンの中40km歩いたが、その夜中、急に体調が悪くなり嘔吐と下痢をした。一気に胃の中が空っぽになってしまった。
げっそりしたまま12日目を迎えた。
さらに不運なことに、次の水場にあった蛇口をひねっても水が出ない。いよいよマズいっていう時に、牧草地で通りかかった若い女性に地図アプリにない水場を教えてもらって、難を逃れた。
牧草地と林道を下り、タンという歴史的な町に着いたが明らかに体調が優れないのでホステルで一泊した。記憶はあまりないが、当時の彼女に電話で弱音と愚痴を吐きまくったのは覚えている。
一晩寝ると、体調は幾分良くなった。しかし、歩いているのにお腹が減らず食事を受け付けない。水だけでも取らないといけないと思ったが、再び水場に水がない、水場の蛇口から水が出ない問題。これまでのうっぷんが溜まりに溜まって「オレを殺す気か!」と暴言を吐いた。
食事を食べてもまた吐くんじゃないかという恐怖と、次の水場はまた水がないんじゃないという恐怖と闘いながら、これまで400km以上歩き切った。
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