TRIP REPORT

アパラチアン・トレイル (AT) | #06 トリップ編 その3 DAY18~DAY26 by Daylight(class of 2022)

2024.09.20
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文・写真:Daylight 構成:TRAILS

ハイカーが自らのロング・ディスタンス・ハイキングの体験談を綴る、ハイカーによるレポートシリーズ。

2022年にアパラチアン・トレイル (AT) のスルーハイキングにトライした、トレイルネーム (※1) Daylightによるレポート。

全8回でレポートするトリップ編のその3。今回は、ATのDAY18からDAY26までの旅の内容をレポートする。

※1 トレイルネーム:トレイル上のニックネーム。特にアメリカのトレイルでは、このトレイルネームで呼び合うことが多い。自分でつける場合と、周りの人につけられる場合の2通りある。


アパラチアン・トレイル (AT: Appalachian Trail)。アメリカ東部、ジョージア州のスプリンガー山からメイン州のカタディン山にかけての14州をまたぐ、2,180mile (3,500km) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。今回は、中間地点のハーパーズフェリーがスタート地点。北端まで歩いた後、公共交通機関等でスタート地点に戻り、南端を目指す。

教会の宿泊所にドネーションで泊まる。(DAY18)


建物の一部がハイカーのために開放されている教会。

この日のゴールである、デラウェアウォーターギャップというトレイルタウンにある教会の宿泊施設 (Church of the Mountain Hiker Center) に着いた。この教会は一部がハイカーのために開放されており、ドネーション (寄付) で宿泊ができる。名簿に名前を記載するだけで自由に利用でき、シャワーや調理場もある。

6時過ぎに到着し疲れていたので、買い出しは翌日にして、まずシャワーを浴びた。その後、夕食を作った。それを食べ終わる頃に、ピザを食べに行ったハイカー達が戻ってきて、余ったピザを頂いた。遅れてエバ (Eva) さんというハイカーが入ってきた。彼女とはその後何回も会うことになる、重要人物となる。


ハイカーボックスで偶然見つけた硬めのインソールに交換。

ほとんどの宿にはハイカーボックスという、ハイカーが使わなくなった道具や食料を入れる箱があり、そこから必要なものは自由に持ち出すことができる。

路面が岩で凸凹なところが多く、トレランシューズのソールでは足への突き上げがキツいと思い購入を検討していた。そうしたら、ハイカーボックスの中に超硬いインソールがあり、使うことにした。教会だけに奇跡だと思った。

体重計があったので測ると9kgぐらい痩せていた。これ以上は痩せては筋肉まで失ってしまう。カロリーを摂ることが重要だと思った。そろそろ靴も買い替える頃だと思い、ハイカーに助言してもらいローカットの登山靴をAmazonで購入した。Amazonは郵便局の局留めは使えないので、送り先は次の宿泊先だ。


この教会の先で、ペンシルベニア州を過ぎて、ニュージャージー州に入る。

毎日何かしらの辛いことと、楽しいことのどちらかが起こる。(DAY19〜DAY22)


ATでのキャンプ風景。

翌朝は買い出しをしてゆっくりのスタートだ。ガス缶を購入した。実は途中でガス切れになり、こないだ会ったハイロードさんに予備があるからといって使っているガス缶を貰った。店には小さなガス缶しかなく、予備を含め2缶購入した。
会計時にやたらと高額なので調べてみると、このガス缶が1つ20ドルであることが判明。ここで予備缶を買う必要はなかったし、結果的に予備缶が役に立つことはなく、無駄な支出と重量となった。


定番の夕飯。スパゲッティ、ツナ (この日はスパム)、マッシュポテト、食後のホットチョコレート。

夕食はパスタが主食だったので火力は必要だ。多くのハイカーはフリーズドライを食べていた。美味しいが高価 (10〜20ドル) なので、私はあまり利用しなかった。

またまた方向音痴のせいで大逆走をして10mileしか進めない日があったり、リサプライに立ち寄ったスーパーでりんごのプレゼント (スルーハイカー特典) を貰ったり、毎日何かしらの辛いこと、楽しいことのどちらかが起きる。


早くにシェルターについたので充電式ラジオでジャズを聴く。 

大事件発生。(DAY23〜DAY26)


このあたりは木道もたくさんあった。尾瀬のようだ。

この日は24mileのハイキングとなった。シェルター (トレイル上にある小屋) が設置されている間隔は気まぐれで、12mile地点と24mile地点だった。

なんとか暗くなる前にシェルターに到着。食料を保管するベアボックス (※2) の位置を確認して夕食を済ませると、あたりは真っ暗になっていた。ズルして食料をしまわないという選択肢もあったが、小雨の降るなか真面目に食料をしまいに行った。

ベアボックスまで30m位の距離。方向音痴なのによく来られたと自分を褒めると、頭の中のコンパスがグルッとまわり帰り道がわからなくなった。

焦ってそこらじゅうを歩き回り、1時間以上経って諦めて朝を待つことにした。無駄に動いてはいけないことぐらいわかっていたのに。


ベアボックス。食料を保管し、熊から食料を守るための倉庫。シェルターから少し離れた場所に設置してあることが多い。

「誰か見つけてくれるかな?」ぐらいの呑気な気分でいたが、トレイルからどれだけ離れているかわからない森の中では誰も来てくれないわけで、自力で助けを求める必要があった。管理用のダートロードを見つけ車道まで辿り着いた。

庭で水やりをしている人に警察を呼んでもらい、保護された。シェルターの名前だけは覚えていたので最寄りのトレイルヘッドまで送り届けてもらった。警察官にペットボトルの水をもらった。

しかし再びトレイルに入るも、その先2mile (3km) 以内にあるはずのシェルターに戻れず、何度も往復している間に、どちらに歩いているかもわからなくなった。そうして暗くなる前に再び、警察のお世話になろうとトレイルヘッドへ戻ろうとした。途中に熊の親子連れが居たために、その手前で再びビバークをして朝を迎えた。


彷徨ったエリアの近くの景色。彷徨ったときはこのような水場はなかった。

翌日、警察署で「ガイドがいないと戻れない」とわがままを言っていると、シェルターにいたハイカーから警察へ連絡があり、トレイルヘッドまで迎えに来てくれることになった。その1人が教会で会った前述のエバさんだった。警察官は優しく、壊れたサンダルを買い替えてくれたり、サンドイッチをご馳走してくれた。

シェルターに戻ると数人のハイカーが出迎えてくれた。親切にも最寄りのトレイルタウンでゼロデイを取るように、予約と配車の手配をしてくれた。家族にも連絡済みとのこと!

以降この事件はハイカーとのおしゃべりのネタになるが、助けてくれたハイカーの1人が人命救助したとSNSにアップしたので、「それ知っている。」と答えたハイカーも多かった。


道迷い後にハイカーに予約してもらったロッジ。

ハイになっていたので、空腹感も疲れもなかったが、せっかくだから休息することにした。グリーンウッドレイクは湖沿いのリゾート地でこじんまりとした素敵な町だった。夕食には奮発して豪華な肉料理を食べた。

以後、スマホはどんな時も手放さず、パンツに結びつけることにした。当然のことながら、この事件中の写真は存在しない。家族に連絡をして事情を話すと、警察官が優しくて安心したようだった。

※2 ベアボックス:食料を保管しておくための倉庫。ATではシェルターの近くなどに設置されていることが多い。ベアボックスは、食料を熊から守るためではなく、熊を守るために設置されている。人間の食べる食料の味を占めた熊は、人を襲い、射殺されてしまう。


トレイル上で最も豪華なランチ。50ドル以上した。

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20代の頃から山歩きをはじめ、尾瀬や丹沢、南北アルプス、八ヶ岳などでのテント泊を楽しむ。最長で5泊くらいだったが、いつしかもっと長くことはできないものかと考えるように。そこで出会ったのがロングトレイルだった。2021年には、みちのく潮風トレイルをスルーハイキング。2022年に、アパラチアン・トレイル (AT) を約4カ月間歩く。

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