TRIP REPORT

パシフィック・クレスト・トレイル (PCT) | #06 トリップ編 その3 DAY21~DAY45 by Teenage Dream(class of 2022)

2024.09.25
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文・写真:Teenage Dream 構成:TRAILS

ハイカーが自らのロング・ディスタンス・ハイキングの体験談を綴る、ハイカーによるレポートシリーズ。

2022年にパシフィック・クレスト・トレイル (PCT) をスルーハイキングした、トレイルネーム (※1) Teenage Dreamによるレポート。

全8回でレポートするトリップ編のその3。今回は、PCTスルーハイキングのDAY21からDAY45までの旅の内容をレポートする。

※1 トレイルネーム:トレイル上のニックネーム。特にアメリカのトレイルでは、このトレイルネームで呼び合うことが多い。自分でつける場合と、周りの人につけられる場合の2通りある。


パシフィック・クレスト・トレイル (PCT:Pacific Crest Trail)。メキシコ国境からカリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州を経てカナダ国境まで、アメリカ西海岸を縦断する2,650mile (4,265㎞) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。

砂漠のサボテンの花を見ながら歩く。(DAY21〜27)


トレイルエンジェルの車でトレイルヘッドへ。

お宅にも泊めてもらったトレイルエンジェルのケニーさんの車に乗り込んで、トレイルヘッドへ向かう。助手席に2人も乗って、後部座席には4、5人は乗っている。警察に捕まらないことを頭の5%で祈りながら山へ戻って行った。

砂漠はサボテンの花の全盛期でそこらじゅうでサボテンから花が咲いていた。このまま根っこから切ればサボテンの花束ができるな〜、なんて環境保護とは真逆の発想でサボテンの写真を撮った。


サボテンの花がたくさん咲いていた。

ここのセクションは砂漠の渓谷を歩くトレイルで、川が削り取った岩石の谷を歩く。難易度の低いちょっとした水平歩道のようなトレイルだった。

谷底には温泉が湧いていた。アメリカの渓谷を望みながら温泉に入ると、今までに感じたことのない開放感を感じた。

川の終点には大きなダムのようなものが建設されていて、鉄砲水を防ぐような感じになっていた。


砂漠地帯のトレイルを歩いていく。

このトレイル歩きがとても楽しい。砂漠の貴重な川沿いを歩いていく。

そこで早々にテントを設営しているグループを発見して、声をかけてみると日本人ハイカーのやすよさんだった。この年(2022年)に歩いた日本人PCTハイカーのなかで、おそらく唯一の女性のハイカーで、スティックスというハイカーと一緒に歩いていた。

英語が上手なやすよさんを間に挟んで、スティックスと会話をしたのがとても楽しかった。自分は英語が苦手だけど、わからない単語を教わりながらネイティブの方と喋るのはとても良い経験になって、自信がもてる。

なんだかんだで次の町まで一緒に歩くことになった。やすよとスティックスは、朝の出発は遅いが、歩くのが異常に早い。僕は朝に早く出発して、遅く歩いていた。

ミュージック・フェスティバルで「アメリカ」を体験する。(DAY27〜Y35)


足の痛みの休養も兼ねて、ベイカーズフィールドのミュージック・フェスティバルへ。

ワイトウッドへ到着すると、先日会った板谷さんが町にいた。一緒に朝食を食べて、町の外れにあるトレイルエンジェルの農家のお宅へお邪魔することになった。

ワイトウッドはちょうど砂漠の中間地点のような場所で、PCTに疲れたハイカーが農家でたむろしていた。なぜかそこのクーラーボックスに大量にあった激安ビールを飲み合い、ショットガン (※2) という飲み方を教わり、ボブ・マーリーの「Three Little Birds」を合唱した。

スティックスはベイカーズフィールドの砂漠で開催されるミュージック・フェスティバルへ行くということで、スティックス、やすよ、僕、その場に居合わせて仲良くなったチリの4人で、ミュージック・フェスティバルへ行くことになった。ヒッチハイクとUberを駆使し、まずはチリの家に行き、そこからフェスティバルの会場へと向かった。足の痛みも強いので、休養期間としてちょうど良いかもしれない。

移動や食事、チケットなどで支出も増えたが、このちょっとした冒険は砂漠セクションで一番の思い出になった。


「アメリカ」を体験したミュージック・フェスティバル 「Lightning in a Bottle」のトリップ。

チリの家でアメリカンな生活を体験し、アメリカンなミュージック・フェスティバルで、アメリカのライトサイドとダークサイドが混在する無茶苦茶なルールと法律で音楽を楽しんだ。

砂漠しかなく、他に逃げ場のない感じもとてもよかった。日本では絶対に成立しない世界観は、この国の非効率だけど直接的にどうにかなる楽観的な感覚を感じた。


トレイルに戻る前に装備を洗った。

ロサンゼルスの観光を楽しみつつ、ゆっくりとトレイルへ戻ることにした。『ワイルドスピード』やその他多数の映画で見たロザンゼルスの町並みには、常に興奮しっぱなしだった。

最後にはミュージック・フェスティバル砂漠の砂嵐で、砂だらけになった装備を洗うことにした。

※2 ショットガン:お酒の飲み方のひとつ。まず グラスにテキーラとジンジャーエールを1対1で注ぐ。それを手でフタをして、勢いよくグラスをテーブルに叩きつけ、吹き出す泡をこぼれないよう、一気に喉に流しこむ飲み方。

大好きな映画で見たサンアンドレアス断層の景色。(DAY36〜42)


トレイル中に見かけたボランティアのみなさま。崩壊したトレイルを修復中。

トレイルへ戻って歩き直す。足の痛みはまだあるが、自分のペースで歩きやすいようにのんびり歩こう。と、そんな気持ちになる。

別にスルーハイキングが全てではないし、自分が特別だと思ってもいない。行けるところまで、自分と等身大な距離を歩こう。でもできるだけ頑張ってみよう。

やすよとスティックスとは1日に歩く距離が違うのでここでお別れとなった。相変わらず誰かと歩くのは楽しいが、お別れが寂しい。


一度、トレイルを離れて西海岸へ。そこにいたアザラシのことを、チリは魚泥棒と呼んでいた。

さらに砂漠セクションのなかで一番楽しみにしていたところが、ここのバスケスロックス。ここはPCTの中でも標高が特に低い場所であり、サンアンドレアス断層 (※3)が露出している貴重な場所でもある。この異質な地形にはインディアンの遺跡が残る歴史的な場所でもある。


バスケスロックスの一番有名な景色。

個人的には映画が好きなので、この場所はハリウッドも近くSF映画のロケ地としてもかなり有名な場所だ。『スタートレック』、『猿の惑星』、『ビッグバン・セオリー』などなど‥・数え切れない名作映画、ドラマのロケ地となった。映画でも見慣れた場所に辿り着け、映画の世界に入り込むことができて感動した。

同時にサンアンドレアス断層が露出した場所でもあるため、地質学的にもとても貴重な場所だ。ここで2~3時間も探索をした。

※3 サンアンドレアス断層: カリフォルニア州南部から西部にかけて約1,300kmにわたって続く巨大な断層。1906年に、サンフランシスコでマグニチュード8.3という空前の巨大地震を起こした原因にもなった、地震リスクにもなっている断層。

水の汚染の噂に、ハイカーみんなが恐怖を感じる。(DAY43〜45)


ハイカータウンの光景。

ハイカータウンは砂漠の真ん中に位置する小さな町。ハリウッドの美術をしていた方が、ハイカータウンを作ってハイカーをもてなしているらしい。

みんなここで夕方まで昼寝をして、日没後にサイリウム (ライブなどでも観客が使ったりする光る棒)を持って歩き出すらしい。しかし、その雰囲気が好きになれなくて1人で歩き出した。

たしかに暑いけど、日本の蒸し暑さに比べたらマシだと思う。星を見ながら砂漠を歩くのはとても楽しかった。砂漠は夜は涼しく、風が通り抜ける。足に砂がさらさらとまとわりつくが、不快ではなかった。

でも1人で歩き出したのは良いが、途中で眠たくなって寝てしまった。気がつけば朝になっていて、結局他のサイリウムを持ち歩いているハイカーに抜かされていった。どうもこの時に周りにいたハイカーとは仲良くなれなかった。

ここのセクションはモハベ砂漠を横断する場所でもあり、砂地が続く。砂漠にはサソリやサソリモドキ、毒のありそうな蜘蛛がたくさんいた。でもこの砂漠のセクションは日本では絶対にない、新感覚のフィールドでとても楽しかった。


モハベ砂漠のなかを歩く。

次の町のテハチャピへ辿り着くと、ハイカーたちが深刻そうな顔で話し合っていた。どうやら次のセクションを歩いたハイカー達が入院したり、PCTを諦めたり、深刻な体調不良になっているらしい。

原因はまだわからないが、トレイルエンジェルが用意してくれた水が汚染されているだとか、ノロウィルスだとか、藻類ブルーム (※4)だとか、様々な憶測が流れていた。

この先のセクションは水が少なく、水が汚染されているとしたらかなり深刻だ。もし、水が汚染されていたとしても浄水フィルターを通せばほぼ問題ないが、藻類ブルームだとしたら深刻だ。藻類ブルームは浄水器も煮沸も殺菌も効果がない。もしその藻類ブルームの影響を受けた水を飲んだら、ハイキングどころではない中毒症状になってしまう。

テハチャピにいた7~8割のハイカーは、トレイルエンジェルが用意してくれたバスに乗って、次の町のケネディメドウへ行ってしまった。

残りのハイカーは12L以上の水を運んでこのセクションを歩くことにした。藻類ブルームだと仮定し、貯水プールの水は飲まないことを決めて、12Lの水を大切に飲みながらなるべく夜のハイキングをすることにした。

この時一緒に出発したハイカーから勇気をもらったのをよく覚えている。「これは私のアドベンチャーよ。」僕は日本一周を自転車でしている時にどんなに辛いことがあっても「これも旅や、と思いなさい」と言ってくれた人のことを思い出した。

たしかに、水が無いのも、砂漠が辛いのも、仕事をやめてPCTへ来たのも全部は自分の冒険だ。行けるところへ、できるだけ行ってみよう。
そう考えながら、12Lもの大量の水が入った人生で一番重たいバックパックを担いでこのセクションへ入って行った。

※4 藻類ブルーム:正式名は、有害有毒藻類ブルーム (HABs)。水の生態系の影響や、飲料水の汚染など、深刻な環境問題のひとつとなっている。藻類ブルームによって汚染された水を飲むと、発熱、嘔吐、頭痛、肝臓障害などを引き起こす可能性がある。


12Lの水を担ぐためにいらない装備を切り詰めるハイカー達。

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子どもの頃から父と一緒にロボットコンテストに出場するほどのモノづくり好きで、機械加工やレザークラフトに夢中になる。大学時代には自転車で日本一周をしながら登山もし、卒業後はアウトドア総合メーカーへ就職。プロダクトデザイナーとしてさまざまなプロダクト開発に携わる。2021年に独立し、アウトドアメーカー『MIYAGEN Trail Engineering』を創業。同時に、念願だったパシフィック・クレスト・トレイル (PCT) をスルーハイキング。

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