コロラド・トレイル | #05 トリップ編 その2 DAY4~DAY6 by Tony(class of 2023)
文・写真:Tony 構成:TRAILS
ハイカーが自らのロング・ディスタンス・ハイキングの体験談を綴る、ハイカーによるレポートシリーズ。
2023年にコロラド・トレイル (CT) をスルーハイキングした、TRAILS crewのトレイルネーム (※1) Tony (トニー) によるレポート。
今回はトリップ編のその2として、コロラド・トレイルのスルーハイキングのDAY4からDAY6までの旅の内容をレポートする。
サンダーストームを避けるため、なかなか進めず。 (DAY4)
ベイリーの町で、食料の補給、シャワー、洗濯、ガジェットの充電など、一通りのルーティンを済ませた。
町に大きなスーパーはなく、スーベニアショップやガソリンスタンドに併設されているストアで、最低限のスナックと定番の袋麺を手に入れることができた。それと宿泊したロッジのハイカーボックス (※2) に入っていたパスタなどで、なんとか次の町までの食料を補給することができた。
ハイカーボックスには食料やギア、紙の地図、ウェアなど、さまざまな物が入っている。その中に、なんと真新しいスリーピングバッグが入っていた。
よく見てみると、対応温度域は50°F (10℃) のスリーピングバッグだった 。おそらくコロラド・トレイルの序盤に、この対応温度のスリーピングバッグだと足りないと気づき、新しい物を買い足したのだろう。
ハイカーボックスに入っているものには、それぞれのストーリーがある。そしてまた必要なハイカーのもとに巡っていくのだろうと思い、そっとボックスのフタを閉めた。
午後からまた天気が崩れる可能性が高い、とロッジのオーナーのジョンとシェリーから情報を得て、午前中にはトレイルヘッドに戻るべくヒッチハイクを始めた。ほどなく、1台の車が止まりトレイルヘッドまで送り届けてくれることになった。
乗せてくれたのはロスという名前の青年だった。数年前に北海道のニセコに行ったことがあり、日本からの来客だととても喜んでくれた。「水や食料は足りてるか」、「身体の調子はよいか」など日本人ということだけで、気にかけてくれ、とても親切にしてくれた。本当にありがたい。
ロスは帰り際に「何か困ったことがあったら連絡してくれよ」と言い残し、トレイルヘッドにいた他のハイカーを乗せて、またベイリーの町へと戻っていった。
次に下りる予定の町までは、63mile (約100km)。サンダーストームは気になるが、順調にいけば3日ぐらいで到着する予定だ。
まだ身体が3,000mという標高に慣れていないのだろう。少しの登りでも息が切れてしまうので、ゆっくり呼吸を整えながら足を進める。
見晴らしが良いところでしばらく休憩していると、どんどんと空が暗くなってきた。来たな、サンダーストーム。
休憩も早々に出発し、眼下に見える森まで一気に駆け下り、森の中でストームが過ぎ去るのを待った。
恐怖心はまだあるものの、サンダーストームの対処方法も少し慣れてきた。少しだけ余裕もでてきていたが、むやみやたらに、この先に進んで2日目のように、進んだ先に身を潜める場所がなかったらと思うと、なかなか先へ進む決断ができない。
思うように歩くことができないもどかしさに、諦めにも似た気持ちも入り混じって、感情を複雑にさせたが、「相手は自然だもんな」と言い聞かせ、そこでシェルターを広げて夜を明かしことにした。
今日は一気に進むぞ!と思ったが、またもサンダーストームと遭遇。 (DAY5)
昨日は予定よりも距離を稼ぐことができなかったため、5時に起きて、歩き出すことにした。
昨晩の内に水で戻しておいたオートミールを温め直し、そこにココアをぶち込んで糖分を補給する。そこにエナジーバーも追加し、身体を一気にハイキング・モードにして歩き出す。
歩き出してすぐに、ロスト・クリーク・ウィルダネスへと入った。ここはわりとフラットなエリアなのでmile数を稼ぐことができる。昨日、歩ききれなかった分、気持ちが先行してどんどんと進んでいく。
途中、何人かのデイハイカーに会って話を聞くと、「このエリアはクマの目撃情報が多いらしいから気をつけてね」と言われた。遠くの方へ目を凝らしたり、風に乗ってくるニオイなどに、五感を働かせ警戒しながら、スピードを少し抑えつつ歩いていく。
「お邪魔しまーす」と言いながら自然の中を歩く。いつだって僕達ハイカーはお邪魔する側なのだ。
しばらく歩くと、キャンプグラウンドが見えてきた。トレイルとキャンプグラウンドの分岐点のところに、小さな段ボール箱が置いてあることに気がついた。
間違いないな。顔がニヤけて、若干小走りになる。トレイルマジック(※3) だ。
どうやら週末にキャンプに来ていた人が、トレイルマジックをしてくれていたようだ。新鮮なオレンジを一つだけ箱から拝借し、また歩き出す。
夕方の16時、明日、町に下りるためにもう少しだけ先まで歩いて、この先のパスを越えようと思った矢先、遠くのほうで雷鳴が轟いた。本日も安定のサンダーストームだ。
まだ3時間ぐらいは歩ける時間帯なので、今日はサンダーストームをやり過ごした後にもう少しだけ歩こうと、例のごとく傘を差しながら森の中に身を潜める。
サンダーストームが近づき、雷の光と音の間隔がどんどんと短くなり、雨音も激しくなっていく。途中、ハイカーが悲鳴を上げながら森の中に入ってきて、急いでシェルターを設営していた。
1時間半ほどでサンダーストームが去ってくれた。雨も落ち着いたところで、自分と同じようにエスケープしていたハイカーのシェルターまで声をかけに行ってみた。お互いに何事もなくてよかったねと話をした。
この時に出会ったのはトレイルネームがSkirtという、ATをスルーハイクした経験を持つ女性のハイカーだった。彼女に、「僕は今日はもう少し歩きたいから、そろそろ行くね」と伝えると、「本当に気をつけてね」と念押しをされた。
すると、10分ぐらい進んだところで、また雷がバリバリ!とすごい音でとどろき、雨が降り出した。なんと‥。
しょうがなくエスケープした場所まで引き返すと、「Welcome Back!」と満面の笑みでSkirtが待っていた。
CDTと合流するポイントで上がる。 (DAY6)
翌朝、6時に起きた時には既にSkirtの姿はなかった。シェルターの入口にピーチが置いてあるのに気がついた。彼女の気遣いに心がほぐれた。
早々にシェルターを撤収し、荷物をパッキング。さぁ今日は、昨日、越えることができなかったジョージア・パスを目指して、長い登りからのスタート。目当ての町に下りるために残りの26mileを歩き切ろうと、気合を入れ直す。
パスがある標高3,600mまで、何度もスイッチバックを繰り返して、標高を上げる。日本のトレイルと違って、アメリカのトレイルはゆっくり標高を上げることが多い。僕は靭帯 (じんたい) を負傷した経験があり、そんな膝 (ひざ) にはやさしいスイッチバックはありがたい。
時間をかけながら標高を上げ、ジョージア・パスを越えた。横には標高4,000mにもなるマウント・グヨットがそびえ立っていた。青空を突き抜けるように立つマウント・グヨットは、「これがロッキー山脈」「これがコロラドか」と土地が持つ自然の雄大さを肌身に感じさせてくれた。
しばらくすると、今までコロラド・トレイルのトレイルサインだけだったはずが、いつの間にかコンチネンタル・ディバイド・トレイル(以下、CDT)のトレイルサインが、一緒に並んでいることに気がついた。
コロラド・トレイルは、ルートの大半がCDTと同じルートを通るルート設定となっている。やはり3大トレイルのトレイルサインをトレイル上で見られることは、とてもテンションが上がる。
他にも、アメリカン・ディスカバリー・トレイルとも接続しており、まだコロラド・トレイルを歩き始めたばかりなのに、次の旅の妄想が頭の中を駆け巡る。無理矢理、頭をコロラド・トレイルに切り替え直し、歩を進めた。
ボーっと歩いているとロング・ディスタンス・ハイキングならではの光景に、思わずトレイル脇に駆け寄った。100mileの目印だ。
なんの変哲もない、ただの石を並べて作った目印ではあるものの、ある種の目標をクリアしたような、そんな気分が上がる一瞬だった。
残り数mileを残して、日が落ち、あたりが暗くなりはじめ、今日中に町に下りるかを少し悩み始めた時に、ちょうどよいテントサイトを見つけてしまった。
いつもサンダーストームに振り回されてきた分、今日ぐらい自分で決めさせてくれよと思い、明日、朝イチで町に下りることにした。
TAGS: