TRIP REPORT

ジョン・ミューア・トレイル | #04 トリップ編 その1 DAY0~DAY3 by NOBU(class of 2022)

2024.10.11
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文・写真:NOBU 構成:TRAILS

ハイカーが自らのロング・ディスタンス・ハイキングの体験談を綴る、ハイカーによるレポートシリーズ。

今回は2022年にジョン・ミューア・トレイル (JMT) をスルーハイキングした、TRAILS crewのトレイルネーム (※1) NOBUによるレポート。

全6回でレポートするトリップ編のその1。今回は、JMTスルーハイキングのDAY0からDAY3までの旅の内容をレポートする。

※1 トレイルネーム:トレイル上のニックネーム。特にアメリカのトレイルでは、このトレイルネームで呼び合うことが多い。自分でつける場合と、周りの人につけられる場合の2通りある。


John Muir Trail (ジョン・ミューア・トレイル):アメリカ西部のヨセミテ渓谷から米国本土最高峰のホイットニー山まで、シエラネバダ山脈を南北に貫く211mile (340㎞) のロングトレイル。ハイカー憧れのトレイルで、「自然保護の父」として名高いジョン・ミューアが名前の由来。この旅では、JMTの本ルートより南のコットンウッドレイクのトレイルヘッドからスタートし、NOBO (北向き) でヨセミテを目指した。

気温43℃の猛暑の中、バスのエアコンが故障。(DAY0)


ロサンゼルスからランカスターを経由してローンパインへ。

9月6日、晴天。今日はロサンゼルス (LA) から、NOBO (北向き) のスタート地点近くにあるローンパインの町まで移動する日だ。

ローンパインまではランカスター経由で、電車とバスを乗り継いで行く。まず自分が乗ったのは9:39にユニオンステーションを発車するランカスター行きの電車。定刻通り出発し、12:00にランカスター駅に到着。

この日は猛暑で、気温43℃。風が吹いても暑い。

順調に乗り継ぎができたかと思ったら、いきなりハプニングに遭う。信じられないことに、この猛暑の影響でバスのエアコンが故障しているという。ここからローンパインまで3時間もかかるというのに。


エアコンが故障して、車中がサウナのようなバス。

車内はとんでもない地獄の暑さ。手持ちの温度計も車内は40℃を超えていた‥。

あまりの暑さに、度々バスは停車して、乗客みんなが氷のブロックを買いにいくという始末だ。

ローンパインに到着し宿に着くと、まずは汗だくの体を冷たいシャワーで流し、洗濯を済ませた。買い出しなども済ませた後、町をふらふらと散策することにした。

乾いた土地にネオンが光る小さなローンパインの町。とても好きな雰囲気だ。


ローンパインの町に到着。

夕飯は「ローンパインに来たら絶対に行くべき」と口コミにあった、タコスのキッチンカーで。安くて最高に美味い!いよいよ明日から念願のシエラネバダの大自然の中へ。期待に胸膨らませ就寝した。

爆音でヒップホップがかかる車に乗りトレイルヘッドへ。(DAY1)


ヒッチハイクで、旅のスタートを盛り上げてくれたカサンドラ。

9月7日、5:30に起床。パッキングを終えて、6:30にヒッチハイク開始。しかしホイットニー・ポータルに行く車ばかりで、なかなかコットンウッド・レイクに向かう車を見つけられない‥。

20分ほど道路脇で待っていると遠くから、爆音のヒップホップをかけた車がやってきた。乗っていたのは黒人の女性で、彼女もホイットニーに向かうところだったが、自分の行き先を説明すると、なんとトレイルヘッドまで送ってくれることになった。ありがたい。

彼女の名前はカサンドラ。ヒップホップをかけていたので、僕もストリートダンスに傾倒していた話をしてみたら、すごく面白がってくれた。車のなかでは、彼女の友人のラッパーが歌っている曲を超爆音で流して、トレイルヘッドまでの約40分間のドライブを楽しんだ。この時間は、自分の旅のスタートを彩る、とてもメモリアルな時間となった。


コットンウッド・レイクの景色。

トレイルヘッドに到着し、9:00にハイキング開始。パインツリーの香りを嗅ぎながら歩き出すと、高揚感に満ち溢れた。遂に僕のJMTが始まった!!

最初は木々に囲まれた景色だったが、少し標高が上がると、岩が多くなっていった。岩場を抜けると、突然開けた場所に出た。すると眼下一面に広がっている湖が見えた。

コットンウッド・レイクは、トレイル沿いにNo.1からNo.5まで、湖が連続して現れる。並ぶ湖を横に見ながら歩いていくこのトレイルの景観は、振り返ってみると、旅全体の中で自分が最も好きな景色のひとつとなった。

コットンウッドから、まずはPCTのルートに入り、その先でいよいよJMTに入る。(DAY2)


ギターレイクの景色。

9月8日、6:00起床。今朝の気温は6℃。手持ちの保温着をすべて着込んで、朝食を取っていたが、寒がりな自分は凍えていた。しかし昨日の疲れは全くなく、快調にスタート。この先は、パシフィック・クレスト・トレイル (PCT ※2) のルートと合流し、その先でJMTのルートに入っていく。

PCTに入ると、たくさんのハイカーとすれ違った。中にはJMTをSOBO (南向き) で歩き終えてきたというハイカーもいた。トレイルを歩いていると、さまざまなハイカーと会話する度に、元気をもらうことができる。会話をすることは生きることであり、人は他者によって支えられ生きていることを自覚した。


MYOG (MAKE YOUR OWN GEAR) したタープで野営。

クラブツリー・メドウを進むと、いよいよJMTに合流する。調子よく歩を進めて、ギターレイクに到着した。湖のほとりでは、マリサとベンという2人の男女が休んでいた。この2人は、自分がプランニングしていたのと同じように、明日は早朝からホイットニーを攻めるらしい。

今晩の野営地は、ギターレイクから1kmほど登った先にあった絶景ポイント。明日は朝3:30頃に出発してナイトハイクに挑戦する予定だ。

※2 PCT:Pacific Crest Trail (パシフィック・クレスト・トレイル)。メキシコ国境からカリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州を経てカナダ国境まで、アメリカ西海岸を縦断する2,650mile (4,265㎞) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。

ホイットニー山頂から望む、満月と星空とサンライズ。(DAY3)


僕と同じように山頂でのサンライズを狙うハイカーたち。

9月9日、3:00起床、3:30出発。ナイトハイクでホイットニー山頂のサンライズを狙う。

数多くのスイッチバックを越える。決して楽とは言えないハイクアップだったが、荷物をデポして身軽だったので、ノンストップで山頂に行くことができた。山頂の気温は2℃。グローブを持ってなかったので、手がかじかんで凍りつきそうだった。

この日はちょうど満月だった。沈んでいく満月に、夜明け前まで輝き続ける星空。ホイットニーの山頂から望むその光景は、信じられないほどの息を呑む美しさだった。


早朝のマウント・ホイットニーの山頂。

そして、6:30にサンライズ!涙が出た。標高4,421mまで自分の足で登って見る景色は格別だった。このために来たんだと、心から思えた。

山頂では昨日ギターレイクで会ったマリサとベンにも再会し、一緒に感動を分かち合うことができた。

心のガソリンはMAX。よし、下山開始。


マウント・ホイットニーの看板をもって記念撮影。

ホイットニー下山のスイッチバックを下りきったところで、キャミー、ハンナ、アレックスの3人組に出会った。とてもクールな格好のハイカーたちだ。話を聞くと、この3人もJMTをノースバウンドで歩くらしい。

しばらく調子よく歩いていたが、すれ違うハイカーたちと話をしていると、全員が明日の天候を心配している。明日は天気が荒れるのか。今日のうちに進めるだけ進まねば、と今日の目標の野営ポイントまで急ぐ。


この日はがんがん歩いて、距離も稼いだ。

16:30に目標の場所に到着。今日、歩いた距離は32km。自分としてはかなりがんばった。

タープを張って食事をしていると、僕とはだいぶ距離があったはずの、キャミー、ハンナ、アレックスがやってきた。ホイットニーの下で会った3人だ。すごいスピードと体力‥、感服だ。しかも、3人はまだ先を目指して歩き続けるらしい。

荒天に備えて、タープ周辺に石で風防をつくり、耐候性を上げるためにタープをできるだけ低く張った。

夜になると少し風が強くなってきた。徐々に不安が増してくる。不吉な予感がする、夜が始まった。


荒れるかもしれない翌日の天気を心配しながら、寝床に就く。

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NOBU

NOBU

2022年にジョン・ミューア・トレイル (JMT) をスルーハイキングした、ロング・ディスタンス・ハイカー。JMTをきっかけにMYOG (Make Your Own Gear) にハマる。学生時代はダンス (LOCK) に明け暮れ、ストリートカルチャーにどっぷり浸かる。学生時代からTRAILSに出入りしており、2022年10月に正式ジョイン。

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