TRIP REPORT

ヘキサトレック (Hexatrek) | #05 トリップ編 その2 DAY15~DAY25 by Beyoncé(class of 2023)

2024.11.06
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文・写真:Beyoncé 構成:TRAILS

ハイカーが自らのロング・ディスタンス・ハイキングの体験談を綴る、ハイカーによるレポートシリーズ。

今回は2023年に開通間もないフランスのヘキサトレック (Hexatrek) をスルーハイキングした、トレイルネーム (※1) Beyoncéによるレポート。

全8回でレポートするトリップ編のその2。今回は、ヘキサトレックのスルーハイキングのDAY15からDAY25の旅の内容をレポートする。

※1 トレイルネーム:トレイル上のニックネーム。特にアメリカのトレイルでは、このトレイルネームで呼び合うことが多い。自分でつける場合と、周りの人につけられる場合の2通りある。


ヘキサトレック:Hexatrek。フランスを中心にアルプスやピレネーの高山地帯、ヨーロッパの田舎町などを通る3,034kmのトレイル。2022年にオフィシャルに開通したばかりで、世界でも日本でもまだ情報が少ないトレイル。スルーハイキングに要する期間は3~5ヶ月。Beyoncéは、北端のヴァイセンブルク (Wissembourg) からスタートして南端のアンダイエ (Hendaye) を目指すSOBO (サウスバウンド) で歩いた。

黒い点の正体‥。(DAY15〜17)


ヘキサトレックの村々をつなぐ道。

15日目。まだお腹を下している。いつ体調が良くなるのだろうかと不安を抱えながら8時前に出発。今日は小山を越えて村を5~6ヶ所通る予定だ。

2つ目の村でブーランジェリー (パン屋) へ。昼前に到着したこともあり、ショーウィンドウはガラガラ。唯一残っていたソーセージのパンとコーラを購入し、気さくな店主に水をもらいバッテリーの充電をさせていただいた。ありがたい。

その後は仮眠をとりながら夕方まで歩き、5つ目の村にあるキャンプ場で一泊することにした。自転車を借りてスーパーでサラダや野菜ジュース、チキンローストを買って食べたが、すぐに下痢をした。町や村を訪れる醍醐味のひとつである食事が満足できないのは、トレイル上ではかなり辛い。しつこくなる前に言っておくと、下痢は19日目まで続いた。


スーパーで買った食料。

翌日は雷雨。雨の中歩いて体調が悪化するのを避けるため、ゼロデイを取った。そのおかげもあって、翌々日になると体調は幾らか回復した。

道はロード (舗装路) と林道の繰り返し。その途中、ゴロゴロした石が敷かれた急な下りで転倒し、手をついたときに石で手を負傷した。出血があったので絆創膏を貼り、その上にダクトテープを貼り応急処置。下痢したり怪我したり、これが負の連鎖というヤツか‥。


転倒して出血した後の応急処置。

歩いていると、自国のニュージーランドで国立公園の管理をしているというアレンと会った。休憩がてら一緒にレストランに入り、お互いにコーヒーとビールを注文。アレンはもう少し休むと言い、天気が心配だった私は一人先へ進んだ。


馬を撫でるアレン。

夕方に渓谷沿いにテントを張って休んでいると、太ももあたりに黒い点を発見。よく見るとマダニだった。そして近くにももう一匹。咬まれる前に退治して遠くにぶん投げた。そういえばアレンがマダニに注意したほうが良いとかなんとか言っていたな‥。

500km歩き、スイスへ。そしてマダニとの格闘は続く。(DAY18〜20)


町のフリーキャンプサイト。

18日目。当初、この体調不良の原因は「水」だと推測していたが、昨夜のマダニの件のせいで「水」だけでなく「マダニ」もあるかもしれないと思い始めた。また一つ不安を増やしてしまった。

昨日に引き続き、渓谷沿いを歩く。その間にスタートから500km歩いたことに気が付いた。しかしそんなことよりも、このステージ1を早く抜けたいという気持ちが勝っていた。

14km歩き、道が二手に分かれているポイントに到着。スイス側を歩くかフランス側を歩くかの違いだ。朝に出会ったオランダ人カップルによると、前者はクレスト(崖) があるルート、後者は森の中だそう。森の中を歩くことにうんざりしていたので、スイス側を歩くルートにした。

しかし、スイス側にも森があり、雨露のついた植物に身体を冷やされながら歩く。その後、林道、放牧エリア、ロードを通過し、町のフリーキャンプサイトに到着。フランス出身ハイカーのアルマンと出会い、夕食時にスーパーでのパスタやサラミ、チーズの選び方を教えてくれた。


Creux du Van(クルー・デュ・ヴァン)の景色。

翌日、アルマンは準備が遅かったので先に出発。少しのアップダウン、そして900mのアップを通過しCreux du Van (クルー・デュ・ヴァン) という円形状の崖が見えてきた。ヘキサトレック始まって以来の、雄大な景色に少し感動した。小休憩を取り、下り道を歩く。

水場のポイントとなっていたレストランが閉店していた。近くにいた警備員に事情を説明し「水をください」とお願いすると、快く受け入れてくれた。その後、終盤の300mのアップを終え、見晴らしの良い場所でテント泊。標高1,500m地点あたりなので、若干寒かった。

翌朝、着替えをしているとお尻に見たことのある黒い点を発見。またマダニだ。ただ、前回と違うのがマダニは動かないまま皮膚にベタっとくっついていた。「まずい、咬まれてる!」と思い、すぐにマダニの両端から少々皮膚を抉るようにつねって押し出そうとした。しかし、マダニは動かない。むしろ焦ったマダニが慌てて皮膚に入り込もうとしているように見えたので、最終手段としてマダニを引っ張って取り除いた。


マダニを除去した直後。

10時前にサント・フロアという町でマダニに効く薬を買い、16時にバロルブという町に到着。もう少し歩けたが、ステージ1から2へ向かうためのフェリーの時間などを考慮し、キャンプ場で一泊することにした。

シャワーを浴びる前に背中を掻いた時、何かコリっとした感覚を指で感じた。何か嫌な予感がしてスマホで背中の写真を撮ると、2cmくらいありそうな巨大マダニがポツンと画面に映っていた。自分では対処できそうにもなかったので、キャンプ場にいたスイス人女性にマダニを取ってもらえないかと声を掛けた。すると、もの凄い手際の良さでピンセットでマダニを除去し、火であぶって退治し、最後に私の背中に液体の薬をぶちまけた。

どうやらこの辺りはマダニが多いから注意したほうが良さそうだと、アレンと全く同じことを教えられた。

フェリーでフランスとスイスの国境を越える。(DAY21〜DAY23)


キャンピングカーで朝食をいただく。

朝一でスーパーへ行った。ここはスイスなので物価高を考慮して最小限のリサプライをした。キャンプ場へ戻り、キャンピングカーで旅をしているというオランダ人老夫婦に招待され、朝食をいただいた。ありがとう。

昼過ぎに出発し、林道、草原、牧場集落を通過。30km地点でテントを張ろうとしたが、その場に何十頭も牛がいたので中止にした。ヘキサトレックには、このように地図だけでは読み取れない、テントを張る場所を探す苦難もある。大量の牛がいてテントが張れないことは地図には載っていない‥。仕方なくもう少し歩いて、静かな場所に行くと辺りはもう真っ暗だった。


La Dôle(ラ・ドール)からの眺望

翌朝、起きてみるとテントの周りに少なくとも50匹以上のハサミムシが地面やテントを這っていた。最悪の寝起きだ。しかし、そんな悪い事続きのステージ1も明日が最後。昼にはLa Dôle (ラ・ドール) という見晴らしの良い場所に到着し、そこからLac Léman (レマン湖) を確認できた。レマン湖はステージ1と2をつなぐ湖で、ステージ間の移動はフェリーとなっている。

そこから一気に下り、夕方にはレマン湖そばにあるニヨンという比較的大きな街に到着した。街では野宿できそうになかったのでゲストハウスで一泊することに。そこで、ステージ1終了の前祝いに少し高いクラフトビールを飲んだ。

23日目。9時半前にフェリー乗り場に到着し、ステージ1が終了。ステージ2以降、マダニや大量の牛がいないことを切に祈り、ステージ1そしてスイスを後にした。


フェリーで国境越え。

数十分ほどで対岸のフランスに着いてからは、約40kmロード歩きが待っていた。そこでヒッチハイクを駆使して一気に距離を伸ばした。途中に寄ってもらったマクドナルドでお腹を満たした。その後は暗くなるまで歩き、人気のない目立たない場所でテント泊をした。町の近くでは寝床探しに一苦労がある。

本場のヨーロッパのアルプスへ。 (DAY24〜25)


いよいいよステージ2のアルプスのエリアに入る。

昨夜は寝るのが遅かったので、遅めの出発。林に入って少しすると、一気に上りに差しかかる。徐々に視界が開け、山々が見えてきた。さらに遠くにはモンブランも見え、アルプスにやってきたことを実感。思わずハイジの歌が頭をよぎった。

稜線歩き、トラバースなどをしながら緑豊かなトレイルを歩いていく。景色をゆっくり見る余裕があったら良かったが、アップダウンが激しく、時々つま先立ちでないと進めない上りもあった。アルプスの洗礼を受けたような気がした。


岩が屹立するアルプスの景色。

25日目。昨日のアップダウンでヒザを痛めたが、いつも通り出発。2022年に歩いたPCT (※2) でもそうだったように、この痛みには徐々に慣れていくだろう。

昨日ほどではないが、アップダウンが続く。トレイルではロードバイカーや観光客を見かけることが多くなった。それに伴い、時々現れる山小屋はどこも賑わっていた。その誘惑に負け、物価が高いにもかかわらずビールやコーヒーを注文した。

その後もアップダウンを繰り返す。アルプスに入ってからは一日の累積標高が3,500mを越えてきた。テントを張り終わると一気に眠気が襲ってくるが、遠くにいる牛の鈴 (カウベル) の音が睡眠の邪魔をする。ステージ2でも牛は健在らしい。

※2 PCT:Pacific Crest Trail (パシフィック・クレスト・トレイル)。メキシコ国境からカリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州を経てカナダ国境まで、アメリカ西海岸を縦断する2,650mile (4,265㎞) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。


山小屋で一休み。

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WRITER
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バックパッカー、海外世界遺産の旅などを経て、山歩きを始める。その後、自然の中を長く歩く「ロングトレイル」のカルチャーを知り、強く興味を惹かれる。そして2022年にパシフィック・クレスト・トレイル (PCT) をスルーハイキング。翌2023年には、開通して間もないフランスのヘキサトレック (Hexatrek)、3,034kmをスルーハイキング。おそらくは、日本人で初めてのヘキサトレックのスルーハイカーである。

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