TRIP REPORT

IN THE TRAIL TODAY #17|シエラの美しい湖の景色を歩く、2週間のセクションハイキング

2024.11.13
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話・写真:アイ 取材・構成:TRAILS

What’s IN THE TRAIL TODAY / TRAILSは、トレイルで遊ぶことに魅せられたピュアなトレイルズたちの日常の中で発生した、 “些細でリアルなトレイルカルチャー” を発信するハンドメイドのコミュニケーションツール『ZINE – IN THE TRAIL TODAY』をスタートさせました。そのZINEにまつわるストーリーを『IN THE TRAIL TODAY』という連載でお届けしていきます。

* * *

今回紹介するトレイルはジョン・ミューア・トレイル (JMT ※1)。

2024年に、JMTをスルーハイキングした梨本愛 a.k.a. アイが、お気に入りのセクションを教えてくれました。

アイさんは2024年の『LONG DISTANCE HIKERS DAY』 (※2) にも参加してくれたハイカー。2024年のNEW YEAR HIKERSのひとりとして、TRAILSの記事にも登場しているハイカーです (記事はコチラ)。

アイさんは会社で長期休暇を取って、JMTを歩きました。そしてJMTを歩き出してすぐに「すべてがきれいすぎる」と感動し、すぐにプラン変更して、ゆっくりJMTの景色のなかで過ごしながら歩くことにしました。

そんなアイさんがおすすめしてくれたのは、ダック・パスのトレイルヘッドからSOBO (南向き) で歩く134km (83mile) のセクションハイキングです。JMTのなかでもアイさんがお気に入りの景色があり、ハイカーのオアシスであるVVR (※3) などにも立ち寄れるセクションです。

※1 JMT:John Muir Trail (ジョン・ミューア・トレイル)。アメリカ西部のヨセミテ渓谷から米国本土最高峰のホイットニー山まで、シエラネバダ山脈を南北に貫く211mile (340㎞) のロングトレイル。ハイカー憧れのトレイルで、「自然保護の父」として名高いジョン・ミューアが名前の由来。

※2 LONG DISTANCE HIKERS DAY:日本のロング・ディスタンス・ハイキングのカルチャーを、ハイカー自らの手でつくっていく。そんな思いで2016年にTRAILSとHighland Designsで立ち上げたイベント。

※3 VVR: バーミリオン・バレー・リゾート。ハイカーのオアシスとも称される、JMTのトレイル沿いにある宿泊施設。テントサイトを始め、食料やギアの販売、シャワー利用やレストランなどのサービスも提供している。ハイカー向けに、スマホなどの充電やWi-fi利用もできるようになっている。


2024年にJMTをスルーハイキングしたアイさん。

有休をうまく使ったらJMTに行けるかも?と思ってから着々と準備を進めた。


JMTでの野営風景。

—— アイさんは2022年、2023年と「LONG DISTANCE HIKERS DAY」(以下、LDHD) にも遊びに来てくれてますが、JMTを歩こうと思ったきっかけって、なんだったの?

ハイキングを始めたのはコロナの頃からで、もともと山じゃなくて、湖の周辺とかフラットなところをキャンプしながら、ハイキングするのが好きだったんです。

その後、Instagramで一昨年 (2022年) にPCT (※4) を歩いているハイカーたちの写真を見て、こういうところを歩きたいなと漠然と思うようになって。

少しずつ調べていくうちに、PCTは長すぎるかもしれないけど、JMTだったら仕事の有給休暇とかを使えば行けるかもと思うようになったんです。その年 (2022年) の冬くらいには、もう本気で行きたい!という気持ちになっていました。

その後にLDHDに参加しました。TRAILSでトリップレポートの連載をしているNOBUさん (※5)とか、ここで初めて実際にJMTを歩いたハイカーの話を直接聞くことができました。


今回のおすすめセクションにあるミューア・トレイル・ランチ。

—— とはいえ、会社で長い休暇をもらうのは、大変だよね?

そうなんです。1ヶ月も会社で休みをもらうことになるので、上司にJMTの説明をして、「ここを歩きたいんです!」と相談をしました (笑)。

とてもいい上司で、どうやったら仕事をまわしながら、うまく休みを取れるかを一緒に考えてくれたんですよ。それで具体的な行程のプランを考えたり、会社に相談をしたりと、前もってひとつずつ準備を進めていきました。

あと準備としては、JMTを歩く前年に、事前テストもかねて、信越トレイルをスルーハイキングしてみました。トレイルを歩いて、テントで泊まって、というのを繰り返していく感じを試しました。


憧れのJMTに向けて、着々と準備を進める。

※4 PCT:Pacific Crest Trail (パシフィック・クレスト・トレイル)。メキシコ国境からカリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州を経てカナダ国境まで、アメリカ西海岸を縦断する2,650mile (4,265㎞) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。

※5 NOBU: TRAILSにて、現在JMTのスルーハイキング・レポートの連載を掲載しているハイカー。記事はコチラ

急いで歩くのをやめた。だって、すべてがきれいじゃないですか。


最初はPCTへ憧れたアイさん。

—— JMTをスルーハイキングしてみて、どうだった?

当たり前ですけど、めっちゃよかったです。人工物がいっさいないところを、長く歩くことができるのが最高ですよね。毎日、毎日、あのすごい景色のなかにいる感じ。

実は最初は日程的にストイックなプランを立てていたんです。でも歩き出してすぐに、ゆっくり歩いた方が絶対に楽しい!と思ったんです。

だって、もうすべてがきれいじゃないですか。その景色のなかで、昼寝をしたり、ゆっくりコーヒーを飲んだりして歩いた方が、絶対にいいなと思って。

—— 現地で、すぐにプラン変更をすることにしたのね?

そうですね。最初の2日間は高山病が出てしまって、頭痛、吐き気がひどかったのもあります。高山病は3日目くらいで解消しましたが、きつい思いをして歩くのはもったいないと思ったんです。なので、歩き出してすぐにプラン変更をしました。

あと最初に降りたマンモスレイクの町で、バスの中にトレッキングポールを忘れてしまったんです。それで余計に町で日数がかかることも確定して、それもあって、ちゃんと計画通りにいこうとか、もうそんな気分じゃなくなってました。


JMTの景色を楽しみきるために、急いで歩くことはやめたアイさん。

—— 天候悪化で町に停滞しているタイミングもあったよね?

サウスレイクからビショップの町に降りたあたりで、そこから数日が雷と雪の予報になっていて。町から山の方を見上げてみたら、山に雪が積もっているのも見えました。ここは無理してはダメだなと思って、それで4日間も町に滞在することになりました。

でもそのおかげで町もゆっくり楽しめました。のんびり散歩したり、ごはんを楽しんだり、公園でコーヒー飲んだり。特にビショップのパン屋さんがとても気に入って、そのパン屋さんは毎日通ってました。


ビショップで毎日通ったパン屋「Erick Schat’s Bakkery」。

インディペンデンスもいい町でした。すごく小さな町で、のどかすぎてよかったです。一応、ガソリンスタンドの脇にコンビニがあって、宿が1~2軒、あとレストランやキッチンカーが数軒あり、最低限はなんとかなります。コーヒーのキッチンカーがあって、そこのコーヒーはとてもお気に入りになりました。

おすすめのセクションは、ダック・パスTHからの134km (83mile) のセクション。


今回のおすすめのセクションは、マンモスレイクからアクセスする。

—— 今回おすすめしてくれるのは、マンモスレイクの町からダック・パスのトレイルヘッドにアクセスし、そこからJMT本線に合流する134km (83mile) のセクション。なぜここを選んだの?

 
ダック・パスのトレイルヘッド (TH) からの道は、最初はJMT本線に合流するためのアクセスルートとしてしか捉えてなかったんです。でも歩いてみたら、JMT全体のなかでも、かなりお気に入り上位に挙がるような景色で、すごくよかったんです。

ダック・レイクとか、最高に青くて本当にきれいで。草原がばーっと広がっていて、そのなかで小さな川がちょろちょろ流れている。なんか夢の中にいるような、天国みたいな景色だなって感じられたんです。JMT本線に合流してからのレイク・ヴァージニアもめっちゃきれいでした。


美しい青色のダック・レイク。

このあたりのトレイルは、樹林帯で木々に囲まれている感じとかは、ちょっと日本ぽいなと思う安心感がありつつ、上を見上げてみると「アメリカ!」という感じの、ここにしかないとても大きな木がそびえる景色があって。そんなトレイルの雰囲気も好きなセクションです。

このセクションは、VVRに寄れるのもポイントですね。食料のリサプライもできますし、充電もでき、Wi-fiも使えます。シャワーもありますし。すべてがハイカーのための場所という感じが最高でした。フェリーに乗ってアクセスするのも楽しかったです。


VVRでゼロデイをとり、ゆっくりと過ごす。

—— 最後に、アイさんが思うセクションハイキングの魅力とは何でしょう?

私にとっては理由として断トツなのは、仕事を続けながら、海外のロング・ディスタンス・ハイキングにチャレンジできる、ということです。

今回はかなり会社に無理を聞いてもらって、しかもかなり事前に上司と相談をしながら1ヶ月の休みを取りましたが、今後も会社と相談しつつ1~2週間くらいの休みを取れればいいなと思っています。

来年は2週間くらいの休みがとれれば、PCTのテハチャピのあたりの砂漠地帯を、セクションハイキングしたいなと考えています。JMTではトレイルエンジェル (※6) とかのトレイルカルチャーにはほとんど触れられなかったので、そういったカルチャーに触れられそうなところを歩いてみたいなと思っています。

※6 トレイルエンジェル: ハイカーをボランティアでサポートしてくれる人のこと。たとえば、自宅やガレージを開放して宿泊スペースや食事を提供してくれたり、トレイルヘッドまでの送迎をしてくれたりする。


レイク・ヴァージニアの景色。

TRIP INFORMATION


JMTのダック・レイクからサウス・レイクまでのセクション。

■トレイル名
ジョン・ミューア・トレイル (JMT)
■セクション名
ダック・レイク 〜 VVR 〜 サウス・レイク
■歩く距離・日数
134km・8日 ※VVRでのゼロデイ含む
■旅全体の日数
13~15日
■WEBサイト
Pacific Crest Trail Association (https://www.pcta.org/)
YOSEMITE CONSERVANCY (https://yosemite.org/)
■ベストシーズン
7月~8月
■パーミッション / ブッキング
Wilderness Permits for John Muir Trail Hikers (https://www.nps.gov/yose/planyourvisit/jmtfaq.htm)
■予算目安
20〜25万円程度 (総額)
[内訳]
エア代:13〜15万円程度
宿:一泊1万円前後
現地交通費:2万円程度
その他(食費など): 2万円程度
■アクセス方法
[空港] サンフランシスコ国際空港(アメリカ合衆国):日本から約10時間
[空港から近くの町へ] マンモスレイクまでバスで約10時間
[IN:町からトレイルへ] トレイルヘッドまでバスで30分
[OUT:トレイルから町へ] ビショップまでヒッチハイク
■宿泊(町)
モーテルなどの各種宿泊施設。
■宿泊(トレイル)
トレイル沿いのテント適地。
■補給方法(水、食料、燃料など)
水は、トレイル上の水場から浄水して使用。食料は、マンモスレイクの大型スーパーで入手可能。

ZINE#02 SECTION HIKING

アメリカの3大ロングトレイルをはじめ、ニュージーランド、スペイン、北欧ラップランド、ヒマラヤなど、世界中のロングトレイルを紹介。いずれのトレイルも1〜2週間のセクションハイキングをするという方法にフォーカスし、上記『TRIP INFORMATION』も掲載している。

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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