TRIP REPORT

IN THE TRAIL TODAY #09|無理なく余裕を持って楽しむJMTのセクションハイキング5days

2021.03.03
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話・写真:小川亮 取材・構成:TRAILS

What’s IN THE TRAIL TODAY? | トレイルで遊ぶことに魅せられたピュアなトレイルズたちの日常の中で発生した、 “些細でリアルなトレイルカルチャー” を発信するハンドメイドのコミュニケーションツール『ZINE – IN THE TRAIL TODAY』。そのZINEにまつわるストーリーを『IN THE TRAIL TODAY』という連載でお届けしていきます。

* * *

長旅をあきらめていた人にも、ロング・ディスタンス・ハイキングの世界への扉は開かれています。セクション・ハイキングという旅の視点を得ることによって、たくさんの人にロング・ディスタンス・ハイキングの旅に出かけてほしい。そんな強い想いから生まれたZINE#02『SECTION HIKING』と、ZINE#03『SECTION HIKING 2』

今回紹介するトレイルは、世界中のハイカーが憧れるジョン・ミューア・トレイル (JMT ※)

2012年に、JMTをスルーハイキングした小川亮 a.k.a. RYO (以下、リョウ) が、お気に入りのセクションを教えてくれました。

そのリョウが、JMTとPCTが重なるトレイル上でたまたま出会ったのが、TRAILS編集部crewの根津でした。フォトグラファーである彼は、その時に根津のポートレートを撮ってくれました。2018年に開かれた彼の個展には、編集部の小川も遊びに行き、それもあってTRAILSとも親交が深まっていったのです。

※ JMT:John Muir Trail (ジョン・ミューア・トレイル)。アメリカ西部のヨセミテ渓谷から米国本土最高峰のホイットニー山まで、シエラネバダ山脈を南北に貫く211mile (340㎞) のロングトレイル。ハイカー憧れのトレイルで、「自然保護の父」として名高いジョン・ミューアが名前の由来。

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2000年にエベレスト街道を歩き、2012年に憧れのJMTヘ。ミューア・ハットにて。

アメリカを旅しながら、そのなかでJMTも歩いた、というのがリョウらしい旅のスタイル。ボナルーのフェスに行ったり、JMTを歩く前にヨセミテで1週間キャンプをして過ごしたり、そんなメロウな放浪感がある旅です。

そんなリョウがおすすめしてくれたのは、ヨセミテからスタートする58mileのセクションハイキングです。


きっかけはネパールの写真集と加藤則芳さんの本。


—— JMTを歩こうと思ったきっかけって、なんだったの?

学生時代にネパールの山岳民族を撮った写真集を見て、ここに暮らす人たちに興味を持ったのが山をはじめたきっかけです。それで2000年にエベレスト街道を歩きに行きました。その後、加藤さんの『ジョン・ミューア・トレイルを行く』を読んでJMTの存在を知って、いつか行きたいなと思っていたんです。

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加藤さんの本を読んで憧れ、約10年の歳月を経て実現した。

—— スルーハイキングしたのは2012年だけど、行きたいと思ってから実現までに10年くらいかかったんだね。

当時って、ULなんて言葉すら知られてなくて、20〜30kgくらいの荷物を背負って縦走したり、バックパッキングしたりするのが普通だったじゃないですか。僕自身、2〜3日のテント泊でもけっこうキツいと感じていました。

加藤さんも、最初の挑戦ではスタートから約40km地点のトゥオルミー・メドウでリタイアしていたし、JMTはよっぽど大変なんだろうなと。

あと当時は長期の休みが取れなかったのも大きいですね。ただ、2012年に会社を辞めて時間的に余裕ができたタイミングだったので行くことにしたんです。


JMTを歩く前に、ヨセミテのキャンプ4で1週間のキャンプライフ。


—— 歩きはじめる前、ヨセミテのキャンプ4に1週間くらい滞在していたんだよね。

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ヨセミテのキャンプ4では、たくさんのクライマーが、日々課題に取り組んでいた。

ヨセミテにいるだけで満足しちゃうくらいすごく良かったんです。ウィルダネスではないけれどスケールも大きかったし、目の前に岩場があってクライマーが課題にトライしていて、そんな光景の中に自分もいられることがすごく心地良くて。

あとそこからも、デイハイクできるコースがたくさんありました。パーミットの取得の都合もあって、JMTをすぐに歩き出さずに、キャンプ4で1週間くらいめっちゃゆっくり過ごしてましたね。

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ヨセミテは、自由な空気にあふれていた。


おすすめのセクションは、ヨセミテ・バレーからの58mileのセクション。


—— 今回おすすめしてくれるのは、居心地が良かったヨセミテ・バレーから歩きはじめる58mile (93km) のセクション。なぜここを選んだの?

スタート地点とゴール地点のアクセスの良さです!

いやもちろん、自然も素晴らしいですよ。美しい川の流れ、針葉樹の甘い香り、花崗岩の山肌……。カセドラル・ピークやドノヒュー・パス、サウザンド・アイランド・レイクなど、有名なスポットもあります。

でも、限られた休みのなかで、時間を無駄なく使う上ではアクセスはすごく重要です。

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JMTのハイライトのひとつ、サウザンド・アイランド・レイク。

—— たしかに、空港からの移動時間は極力減らして、ハイキングを存分に楽しみたいよね。

時間や予定に追われて歩くことになると、日頃の山歩きや社会生活と変わらなくなってしまいますからね。

あとこのセクションは、エスケープルートがあるのもポイントです。旅にトラブルはつきもの。バスや飛行機が遅れることもあるし、ケガをする可能性だってある。そんな時に、エスケープルートがあると安心ですよね。

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あくせくせず、のんびり歩く。なにかあったら、途中で下りたっていい。


トレイルだけでなく、トレイルを歩く人に興味があった。


——— とあるアメリカ人ハイカーとすごく仲良くなったと言ってたけど、それも、時間に追われず楽しみたいというスタンスがあったからこそだよね。

そうかもしれないですね。もともと、どんな人がどういう思いでJMTを歩いているんだろう? っていうのは興味があったんです。

僕は旅行が好きでいろいろ行ってはいますが、基本的に、現地にいる人とかかわることが多いじゃないですか。でも、こんな山の中の一本道に、世界各国のハイカーが集まってきて、なんとなく同じ目標を持って歩いて、そこでつながっていくのが面白いなぁと思っていて。

JMTで仲良くなったのは、サンフランシスコ在住のライアンっていうハイカーです。

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テント場でたまたま出会ったライアン (右奥) とは、今でも親交がつづいている。

—— 自分から仲良くなろうと思って話しかけたの?

そこらへんはよく覚えていないんですが、スタート直後のテント場でたまたま隣り合わせになったんです。その時は、JMTをなぜ歩いているのか? とか、あとは映画や音楽の話をしましたね。

日本の登山での感覚でいうと、その後はもう会うことがないと思うんですけど、ライアンとは、それ以降も追いついたり、追いつかれたりしつつ、何度も会うことになって。これが、僕の中ではかなり新鮮だったんですよね。

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テントから見る湖。使用したテントは、ビッグアグネスのフライクリークUL1。

しかも、JMTを歩き終えて、サンフランシスコに戻ってからも一緒にごはんを食べたりして。帰国フライト当日には、ホテルまで迎えに来てくれて空港まで送ってくれました。

ライアンもそうですが、出会うハイカーたちとは、みんな同じ目標をめざしてトレイルを共にした感覚がありました。それも良い関係になれた理由のひとつだと思います。

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カセドラル・ピーク沿いを走るJMT。


自由な放浪感こそが、JMTを特別たらしめている理由。


—— セクションハイキングの魅力ってなんだと思う?

自分の好きなようにコースとプランを決められるのが、セクションハイキングの魅力じゃないですかね。僕はスルーハイキングの後半、本当はもう少しゆっくり歩きたかったけど、食料の都合もあって急がざるを得ませんでした。

でもセクションであれば、最初にヨセミテでゆっくりしてもいいし、補給地で1泊なり2泊なりしてもいい。そうすれば、あくせくすることなく、わずらわしさから解放されて自由な空気を感じることができます。

トレイルでの生活や、ハイカーを含めた自由な放浪感こそが、JMTを特別たらしめているんだと思うんです。それを味わう上でも、のんびりした旅がおすすめですね。

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JMTらしさを体感する上でも、セクションハイキングでのんびり歩くのがいい。このハーフドームもおすすめ。


TRIP INFORMATION


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■トレイル名
ジョン・ミューア・トレイル (JMT)
■セクション名
ヨセミテ・バレー 〜 レッズ・メドウ
■歩く距離・日数
93km・5日
■旅全体の日数
7日
■WEBサイト
Pacific Crest Trail Association (https://www.pcta.org/)
YOSEMITE CONSERVANCY (https://yosemite.org/)
■ベストシーズン
7月~8月
■パーミッション / ブッキング
Wilderness Permits for John Muir Trail Hikers (https://www.nps.gov/yose/planyourvisit/jmtfaq.htm)
■予算目安
20〜25万円 (総額)
[内訳]
エア代:13〜15万円程度
現地宿代:1泊1万円 (目安)
現地交通費:2万円程度 (移動手段による)
その他(食費など):2万円程度
■アクセス方法
[空港] サンフランシスコ国際空港(アメリカ合衆国):日本から約10時間
[空港から近くの町へ] ヨセミテ・バレーまでアムトラックとバスで約8時間
[IN:町からトレイルへ] トレイルヘッドまで徒歩
[OUT:トレイルから町へ] レッズ・メドウまで徒歩
■宿泊(町)
モーテルなどの各種宿泊施設。
■宿泊(トレイル)
トレイル沿いのテント適地。
■補給方法(水、食料、燃料など)
水は、トレイル上の水場から浄水して使用。食料は、トゥオルミー・メドウにある小さなグロサリーストア (食料品店) で入手可能。


ZINE#03 SECTION HIKING 2


ジョン・ミューア・トレイル(JMT)やアメリカの3大ロングトレイルをはじめ、ニュージーランド、北欧ラップランド、ヒマラヤなど、世界中のロングトレイル8つを紹介。いずれのトレイルも1〜2週間のセクションハイキングをするという方法にフォーカスし、上記『TRIP INFORMATION』も掲載している。

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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