take less. do more. 〜 ウルトラライトとMAKE YOUR OWN GEAR by グレン・ヴァン・ペスキ | #03 ULガレージメーカーとしてのあゆみ
文・写真:グレン・ヴァン・ぺスキ 訳:勝俣隆, TRAILS 構成:TRAILS
そのグレンによる「ウルトラライト (UL) × MYOG」に関する連載をスタートする。
なぜ「ウルトラライト × MYOG」か?両者は分かちがたく結びついており、その本質を理解することが、現在のハイカーやMYOGer、ガレージメーカーが共有すべき新たな知恵になるはずだからだ。
グレンは、ウルトラライトとMYOGに関する「リビング・ディクショナリー (生き字引) 」の筆頭であり、その本質を伝える語り手として、グレン以上の人はいない。それは、いち早くULガレージメーカーを立ち上げた先駆性、プロダクトや思想の革新性や独自性において、他と一線を画しているためである。
今回の第3回では、グレンがULガレージメーカーとしてスタートした後、どのようなあゆみをたどったか。初期のプロダクトにフォーカスしながら、そのエピソードをお届けする。
ULTRALIGHT GARAGE MAKER MOVEMENT
TRAILSのプロダクト「ULTRALIGHT CLASSICシリーズ」や「MYOGer NIGHT」に込めた、僕たちが熱狂した実験的でイノベイティブなウルトラライト (UL)というカルチャー。それは2000年代以降に起きた、トレイルカルチャーにおける「メーカームーブメント (MAKER MOVEMET ※3) 」であり、僕たちハイカーに道具の進化にとどまらない知恵をも与えてくれた。新たに「ULTRALIGHT GARAGE MAKER MOVEMENT」を合言葉に、シーンを盛り上げるブースターのひとつとして記事シリーズをお届けする。
ウルトラライトとは、持っている物すべてが機能的に働き、不必要なものは何ひとつない状態。
ウルトラライトとは何かということを考えたとき、日本のお寺を訪れたときのことを思い出します。それは禅のようなものかもしれません。
つまり、極限まで無駄を省くということです。それでいながら、持っている物すべてが機能的に働き、不必要なものは何ひとつない状態です。
必要なものはすべて持ち、不必要なものは持たない。そうやって最もシンプルな状態でハイキングをする方法です。
ウルトラライト・ハイキングには、禅の要素がたくさんあると思います。禅の実践には、今この瞬間に生きることへのフォーカスがあります。ハイキングにおいては、装備や重量が少ないと、大自然の中にいるときの障壁が取り除かれます。荷物が重いと、背負っている重さや肩の痛みのことばかり考えてしまいます。そうすると木々や蝶々や山々に意識を向けられず、二度と訪れない今その瞬間を楽むこともないでしょう。
私の装備は多くはありません。スプーンと箸の重さを比べて、数グラムでも削れそうなら、箸を選ぶでしょう。
私がはじめたGVP Gearは、他のメーカーよりも軽くあろうとしていました。ビジネスとして成り立たせるには、お客さんが必要です。そうするとお客さんが求めるものを、作らなければなりません。
その必要は私にはありませんでした。自分が好きなように、ギアを極限までシンプルにできるのです。それが私の作っていたギアです。
G4以降は、どんどんバックパックを小さく軽く。G6にあたるウィスパーは約100gに。
G4以降は、使う装備がどんどん小さく軽くなっていったので、それに従ってバックパックも小さく軽くなりました。G4 (70L) からG5 (46L) へ。そしてG6にあたるWhisper (ウィスパー、33L) へ。
すべて自分用に作ったものを販売していました。自分用に作り、もし誰か必要な人がいたら買ってもらえばよかったのです。
G4からG5へは、基本的に同じ形を踏襲していますが、より細身になり小型化しました。あとは素材をさらに軽量化しています。
自分が今まで作ったバックパックのなかだと、今はMurmur (マーマー) が一番気に入っています。私にとってMurmur は、今のハイキングスタイルに適したバランスなんです。Murmurでだいたいどんなハイキングも行けます。
Whisper (G6) は100 gであったのに比べて、Murmurは220gと重くなっています。しかしMurmurの方が、生地は耐久性が少し上がっていて、サイドポケット、パッドホルダー、スターナムストラップ、大きなメッシュポケットなど、Whisperよりもはるかに機能的です。
100g以下の史上最軽量のバックパックを目指して、MYOGした実験「ミューア」。
私の場合、Murmurを使ったときのベースウェイトが4.5ポンド(2.0kg)ですが、もう少し軽くはできます。ただサイドポケットがないWhisperより、サイドポケットが付いているMurmurを気に入っています。軽量化は私にとって大事なことです。しかしサイドポケットは重くはなりますが機能的です。
少し話は変わりますが、重さ3オンス (85g) という超軽量なバックパックを作る実験をしたことがあります。私が作れる最軽量なバックパックを作ってみたかったのです。
軽量なバックパックを作るには、テンションがかかる接合部分をケアする必要があります。では、その接合部分をなくしまうことができたら?と考えたのです。
ジョン・ミューア (※4) は、毛布をロール状にして肩に担いでいたと、ある本で読みました。そこで「ミューア」と名付けたバックを作ったのです。ただのチューブ型の形状で肩に担ぐだけ、というものです。小さなメッシュポケットも付けました。本体には、片側に寝袋を、もう一方にはウェア類などを入れるように設計しました。
片方を肩に乗せて、もう片方を反対側の肩に乗せるような持ち方です。生地にストレスもかかりません。両サイドをつなげるストラップも付けた気がします。スタッフサックを長くしたような形状でした。
自宅ガレージでの試作から生まれたトレッキングポール 「Lightrek (ライトレック) 」。
バックパックだけではなく、トレッキングポールも制作するようになりました。2004年から販売した「Lightrek」が最初のトレッキングポールです。
長さ調節のないカーボン製のトレッキングポールです。でも、これはよく折れました。カーボンの素材はイギリスから仕入れていました。10ミリの棒を輸入して、それを自分でトレッキングポールの長さにカットして作っていたのです。
Lughtrekの後に、LTシリーズ (L3、LT4) を作りました。LTシリーズをつくったのは、Lightrekより、もう少し耐久性のあるものが必要だと思ったからです。
またLTシリーズではシェルターを設置するときに、長さ調整ができるような仕様にしました。長さ調整のためのロックシステムの機構については、たくさんのパターンの設計を考えました。父も手伝ってくれて、父が旋盤で試作品を加工してくれていました。
その頃は、カーボンポールのカットも自宅のガレージでやっていました。当時は、家のガレージにたくさんのカーボンポールが並んでいました。
新しい素材の実験。ヨットのセール生地をアウトドア・ギアで初めて使用。
高校卒業後にアメリカ横断の自転車の旅をしたときにMYOGしたときは、最も薄い生地はウレタンコーティングされた 2.2 oz のナイロンでした。当時はそれでタープを作っていましたが、生地を大きく使うタープやシェルターは、生地の重量によってプロダクトの重量が大きく変わってきます。そのため私は、縫い目をバイアステープで結んだり、重いナイロンのウェビングの代わりにグログランテープを使ったりして、すべてのパーツに関して、軽量にできる解決策を探しました。
Gossamer Gearの最初のタープ「Spinn Twinn (スピン・ツイン)」を販売したのが2008年です。
タープの生地には、スピンネイカーを使用しました。ヨットのセイル (帆) に使われる生地であったスピンネイカーを、アウトドア業界で初めて使ったのがGossamer Gearでした。今では当たり前のようにアウトドアギアで使われているものです。
このタープの開発をしている頃、私はフロリダの小さな会社から生地を購入していました。軽量なバックパックを作りたいんだと、その会社に相談したところ「セイリング用の生地はどう?」と教えてもらったのです。その後、いろいろな業者に電話をかけて、サン・ディエゴのセイリング会社からサンプルを入手しました。
ツインタープは、初期モデルはスピンネイカーで設計されていて、「Spinn Twinn」という名前を付けていました。このタープは、2人用として設計していて、1人で使う場合は広く使えるようにと考えていました。
キューベンファイバー (現在のダイニーマ・コンポジット ・ファブリック [DCF]) の登場により、タープの重量が非常に軽くなりました。そのため水除けのためにビヴィを使わなくてもよいくらいタープを大きくしても、軽量にできました。
「take less. do more.」このグレンによるウルトラライトの哲学を理解するヒントとして、今回のエピソードでは「極限まで無駄を省く。それでも持っている物すべてが機能的に働き、不必要なものは何ひとつない状態」と語られた。
初期のバックパックの試行錯誤にも強く反映されている。「ミューア」という100g以下の史上最軽量を目指したバックパックを、MYOGした実験は象徴的だ。
1998年にスタートしたULガレージメーカーGVP Gearは、2004年にGossamer Gearへと名前を変える。この前後に、今回登場したSpinn TwinnやLightrekが開発された。ここでも絶え間なく軽量化のための新たな素材の実験や、ガレージでの試行錯誤が行なわれていた。
次回は、個別のプロダクトにフォーカスをして、そのプロダクトに込めたウルトラライトとMYOGのフィロソフィーを語ってもらう。
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