UL MAKER MOVEMENT

take less. do more. 〜 ウルトラライトとMAKE YOUR OWN GEAR by グレン・ヴァン・ペスキ | #03 ULガレージメーカーとしてのあゆみ

2024.12.12
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文・写真:グレン・ヴァン・ぺスキ 訳:勝俣隆, TRAILS 構成:TRAILS

Gossamer Gearのファウンダーであり、ウルトラライト (UL ※1)、MAKE YOUR OWN GEAR (MYOG)、およびULガレージメーカー (※2) のゴッドファーザーである、グレン・ヴァン・ペスキ (以下、グレン)。

そのグレンによる「ウルトラライト (UL) × MYOG」に関する連載をスタートする。
なぜ「ウルトラライト × MYOG」か?両者は分かちがたく結びついており、その本質を理解することが、現在のハイカーやMYOGer、ガレージメーカーが共有すべき新たな知恵になるはずだからだ。

グレンは、ウルトラライトとMYOGに関する「リビング・ディクショナリー (生き字引) 」の筆頭であり、その本質を伝える語り手として、グレン以上の人はいない。それは、いち早くULガレージメーカーを立ち上げた先駆性、プロダクトや思想の革新性や独自性において、他と一線を画しているためである。

今回の第3回では、グレンがULガレージメーカーとしてスタートした後、どのようなあゆみをたどったか。初期のプロダクトにフォーカスしながら、そのエピソードをお届けする。

※本稿は2019年にTRAILSが行なったグレン・ヴァン・ペスキへのインタビューを再編集・再構成したものです。

※1 ウルトラライト (UL): ここではウルトラライト・ハイキング (Ultralight Hiking) を指す。

※2 ガレージメーカー:英語ではCottage manufactures (コテージ・マニュファクチュアラー) とも呼ばれる。


自ら制作したバックパックとトレッキングポールでハイキングするグレン・ヴァン・ぺスキ。

ULTRALIGHT GARAGE MAKER MOVEMENT
1990年代後半以降に起きた、トレイルカルチャーにおける「メーカームーブメント 」とも言える世界的なULガレージメーカーの勃興。それを現在においても、一過性のものではなく長期的に成長していくカルチャーとして健全にブーストしたいという思いのもとTRAILSが掲げるのが「ULTRALIGHT GARAGE MAKER MOVEMENT」。このテーマににまつわるレポートを本記事シリーズで発信する。

ウルトラライトとは、持っている物すべてが機能的に働き、不必要なものは何ひとつない状態。


軽量化のために箸を使うグレン。

ウルトラライトとは何かということを考えたとき、日本のお寺を訪れたときのことを思い出します。それは禅のようなものかもしれません。

つまり、極限まで無駄を省くということです。それでいながら、持っている物すべてが機能的に働き、不必要なものは何ひとつない状態です。

必要なものはすべて持ち、不必要なものは持たない。そうやって最もシンプルな状態でハイキングをする方法です。

ウルトラライト・ハイキングには、禅の要素がたくさんあると思います。禅の実践には、今この瞬間に生きることへのフォーカスがあります。ハイキングにおいては、装備や重量が少ないと、大自然の中にいるときの障壁が取り除かれます。荷物が重いと、背負っている重さや肩の痛みのことばかり考えてしまいます。そうすると木々や蝶々や山々に意識を向けられず、二度と訪れない今その瞬間を楽むこともないでしょう。

私の装備は多くはありません。スプーンと箸の重さを比べて、数グラムでも削れそうなら、箸を選ぶでしょう。

私がはじめたGVP Gearは、他のメーカーよりも軽くあろうとしていました。ビジネスとして成り立たせるには、お客さんが必要です。そうするとお客さんが求めるものを、作らなければなりません。

その必要は私にはありませんでした。自分が好きなように、ギアを極限までシンプルにできるのです。それが私の作っていたギアです。

G4以降は、どんどんバックパックを小さく軽く。G6にあたるウィスパーは約100gに。


G4の後に制作したG5。

G4以降は、使う装備がどんどん小さく軽くなっていったので、それに従ってバックパックも小さく軽くなりました。G4 (70L) からG5 (46L) へ。そしてG6にあたるWhisper (ウィスパー、33L) へ。

すべて自分用に作ったものを販売していました。自分用に作り、もし誰か必要な人がいたら買ってもらえばよかったのです。

G4からG5へは、基本的に同じ形を踏襲していますが、より細身になり小型化しました。あとは素材をさらに軽量化しています。


G5を背負って、ウェミナッチ・ウィルダネスをハイキング。

自分が今まで作ったバックパックのなかだと、今はMurmur (マーマー) が一番気に入っています。私にとってMurmur は、今のハイキングスタイルに適したバランスなんです。Murmurでだいたいどんなハイキングも行けます。

Whisper (G6) は100 gであったのに比べて、Murmurは220gと重くなっています。しかしMurmurの方が、生地は耐久性が少し上がっていて、サイドポケット、パッドホルダー、スターナムストラップ、大きなメッシュポケットなど、Whisperよりもはるかに機能的です。

100g以下の史上最軽量のバックパックを目指して、MYOGした実験「ミューア」。


手前からG4、Whisper、Murmur。

私の場合、Murmurを使ったときのベースウェイトが4.5ポンド(2.0kg)ですが、もう少し軽くはできます。ただサイドポケットがないWhisperより、サイドポケットが付いているMurmurを気に入っています。軽量化は私にとって大事なことです。しかしサイドポケットは重くはなりますが機能的です。

少し話は変わりますが、重さ3オンス (85g) という超軽量なバックパックを作る実験をしたことがあります。私が作れる最軽量なバックパックを作ってみたかったのです。

軽量なバックパックを作るには、テンションがかかる接合部分をケアする必要があります。では、その接合部分をなくしまうことができたら?と考えたのです。

ジョン・ミューア (※3) は、毛布をロール状にして肩に担いでいたと、ある本で読みました。そこで「ミューア」と名付けたバックを作ったのです。ただのチューブ型の形状で肩に担ぐだけ、というものです。小さなメッシュポケットも付けました。本体には、片側に寝袋を、もう一方にはウェア類などを入れるように設計しました。

片方を肩に乗せて、もう片方を反対側の肩に乗せるような持ち方です。生地にストレスもかかりません。両サイドをつなげるストラップも付けた気がします。スタッフサックを長くしたような形状でした。

※3 ジョン・ミューア: 開発の危機にさらされたウィルダネス(原生自然)を守るため、自然保護活動に生涯を捧げ、アメリカの国立公園の理念やシステムの確立に大きく貢献した。その功績により「自然保護の父」と呼ばれている。彼の名が冠されたジョン・ミューア・トレイル (JMT) は、世界中のハイカーの聖地となっている。

自宅ガレージでの試作から生まれたトレッキングポール 「Lightrek (ライトレック) 」。


最初に開発したトレッキングポール「Lightrek」。

バックパックだけではなく、トレッキングポールも制作するようになりました。2004年から販売した「Lightrek」が最初のトレッキングポールです。

長さ調節のないカーボン製のトレッキングポールです。でも、これはよく折れました。カーボンの素材はイギリスから仕入れていました。10ミリの棒を輸入して、それを自分でトレッキングポールの長さにカットして作っていたのです。

Lughtrekの後に、LTシリーズ (L3、LT4) を作りました。LTシリーズをつくったのは、Lightrekより、もう少し耐久性のあるものが必要だと思ったからです。

またLTシリーズではシェルターを設置するときに、長さ調整ができるような仕様にしました。長さ調整のためのロックシステムの機構については、たくさんのパターンの設計を考えました。父も手伝ってくれて、父が旋盤で試作品を加工してくれていました。

その頃は、カーボンポールのカットも自宅のガレージでやっていました。当時は、家のガレージにたくさんのカーボンポールが並んでいました。

新しい素材の実験。ヨットのセール生地をアウトドア・ギアで初めて使用。


Spinn Twinn(スピン・ツイン)。

高校卒業後にアメリカ横断の自転車の旅をしたときにMYOGしたときは、最も薄い生地はウレタンコーティングされた 2.2 oz のナイロンでした。当時はそれでタープを作っていましたが、生地を大きく使うタープやシェルターは、生地の重量によってプロダクトの重量が大きく変わってきます。そのため私は、縫い目をバイアステープで結んだり、重いナイロンのウェビングの代わりにグログランテープを使ったりして、すべてのパーツに関して、軽量にできる解決策を探しました。

Gossamer Gearの最初のタープ「Spinn Twinn (スピン・ツイン)」を販売したのが2008年です。

タープの生地には、スピンネイカーを使用しました。ヨットのセイル (帆) に使われる生地であったスピンネイカーを、アウトドア業界で初めて使ったのがGossamer Gearでした。今では当たり前のようにアウトドアギアで使われているものです。

このタープの開発をしている頃、私はフロリダの小さな会社から生地を購入していました。軽量なバックパックを作りたいんだと、その会社に相談したところ「セイリング用の生地はどう?」と教えてもらったのです。その後、いろいろな業者に電話をかけて、サン・ディエゴのセイリング会社からサンプルを入手しました。


Twinn Tarpを使って野営するグレン。

ツインタープは、初期モデルはスピンネイカーで設計されていて、「Spinn Twinn」という名前を付けていました。このタープは、2人用として設計していて、1人で使う場合は広く使えるようにと考えていました。

キューベンファイバー (現在のダイニーマ・コンポジット ・ファブリック [DCF]) の登場により、タープの重量が非常に軽くなりました。そのため水除けのためにビヴィを使わなくてもよいくらいタープを大きくしても、軽量にできました。


当時の愛車のナンバープレート。

「take less. do more.」このグレンによるウルトラライトの哲学を理解するヒントとして、今回のエピソードでは「極限まで無駄を省く。それでも持っている物すべてが機能的に働き、不必要なものは何ひとつない状態」と語られた。

初期のバックパックの試行錯誤にも強く反映されている。「ミューア」という100g以下の史上最軽量を目指したバックパックを、MYOGした実験は象徴的だ。

1998年にスタートしたULガレージメーカーGVP Gearは、2004年にGossamer Gearへと名前を変える。この前後に、今回登場したSpinn TwinnやLightrekが開発された。ここでも絶え間なく軽量化のための新たな素材の実験や、ガレージでの試行錯誤が行なわれていた。

次回は、個別のプロダクトにフォーカスをして、そのプロダクトに込めたウルトラライトとMYOGのフィロソフィーを語ってもらう。

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Glen Van Peski

Glen Van Peski

ゴッサマーギア (Gossamer Gear)のファウンダーであり、ウルトラライト (UL)、 MYOG、およびULガレージメーカーのゴッドファーザー。「take less. do more.」という言葉に、彼のウルトラライトのフィロソフィーが詰まっている。グレンはUL史において、ウルトラライトギアの最初期のULバックパックの「G4」、100g台のSUL (Super Ultralight) のバックパック「Whisper」、カーボンを採用したそれまでにない超軽量トレッキングポール「LT」、アウトドアプロダクトとしてそれまで使われてこなかったスピンネイカーを使用したバックパック「G5」やタープ「Squall tarp」等、いくつもの画期となるマイルストーンを刻んだギアを開発し続けてきた。ウルトラライトのコミュニティーへの伝説的な貢献から、トレイルネームは「Legend」と呼ばれている。

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