ULTRALIGHT CLASSIC

開発ストーリー #04 | UL黎明期のバックパックの実験的なデザイン思想にインスパイアされた『Simple × Classic × Super Ultralight』

2024.02.09
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既存の常識にとらわれない自由で大胆な設計思想、g単位で理に適う最軽量な素材を探しアグレッシブに採用する実験的アプローチ。クレイジーな失敗作にも寛容なウルトラライト黎明期のアティテュードは、革新的かつ普遍的な名品を生み出してきた。そして、極限を探求したこれらのプロダクトたちは、ハイカーにトレイルライフにおける知恵の習得さえ求め、ハイカーの知識・スキル向上を後押ししてきた。

TRAILSは『Simple × Classic × Super Ultralight』をコンセプトにしたプロダクト「ULTRALIGHT CLASSICシリーズ」をスタートした。

TRAILSはメーカーではない。このシリーズを通じて、僕たちが熱狂した実験的でイノベーティブなULカルチャー再燃のきっかけをつくり出せたらと思う。

* * *

今回のリリースにあたって、「ULTRALIGHT CLASSICシリーズ」および2つのULバックパックが誕生するまでの開発ストーリー (全6回) を、紹介するこの連載企画。

#04では、「ULTRALIGHT CLASSICシリーズ」の開発背景に込められた、「TRAILSが熱狂した黎明期のUL」について紹介したい。

ロング・ディスタンス・ハイキングから生まれたULの「Simple (必要十分)」という思想。

“ 僕たちTRAILSは、「ULTRALIGHT CLASSICシリーズ」をつくるにあたり、エマ・ゲイトウッド、レイ・ジャーディンという2人のロング・ディスタンス・ハイカーが教えてくれたULの原点、自分にとっての「Simple (必要十分) 」を追求するアティテュードに何度も立ち返った ”

 
TRAILSの「ULTRALIGHT CLASSICシリーズ」の出発点は、この名前にもある通り、ウルトラライト (UL) である。

今やULは日本でもかなり認知されてきたが、ULと称されるギアやウェア、あるいは軽量なギアを使用することだけをULと捉えられているところもある。

あらためておさらいすると、ウルトラライト (UL) は、ロング・ディスタンス・ハイキングをするための思想や方法論として生み出されたものである。

数週間〜数カ月におよぶ歩き旅において、ギアの軽量化は重要な要素だ。身体への負担が少ないほど、長い距離、長い時間を歩きつづけることができるからだ。


ロング・ディスタンス・ハイキングにおいて、いかに身体への負担を減らすかが重要だった。

■ ULにおけるSimple (必要十分) の原点

 

1955年にATをスルーハイキングした時の、エマ・ゲイトウッド。(Atlas Obscuraのウェブサイトより。https://www.atlasobscura.com/articles/appalachian-trail-emma-gatewood)

ULにおいて伝説として語られるのが、エマおばあちゃんとして知られるエマ・ゲイトウッドだ。

彼女は1955年に当時67歳で、女性として初めて約3,500kmのアパラチアン・トレイル (AT) をスルーハイキングした。彼女はテントの代わりにシャワーカーテン、寝袋の代わりに毛布、バックパックの代わりに自作の布袋、登山靴の代わりにスニーカーと、身のまわりにあるシンプルな道具だけで歩いた。装備は、水、食料も含めて9kg以下であったという。「3,500kmも旅するのに、これでいいんだ」と思わされる独創的なスタイルだ。

自分にとってのSimple (必要十分) とは何かを体現した、ギアに対する常識にまったくとらわれない創意工夫の富んだスタイルは、今なおインスパイアされるものがある。

彼女は、次のような言葉も残している。

“ 幸せになるためには多くは必要ありません。必要なのは、丈夫な靴と冒険心だけ。”

■ MYOG = 自分に最適化したSimple (必要十分) の追求

 

バックパックを片方がけするレイ・ジャーディン。(レイ・ジャーディンのウェブサイトより。https://www.rayjardine.com/ray-way/Backpack-Kit/index.php)

1990年代に入って現在のULのベースとなる、思想と方法論を世の中に提示したのが、レイ・ジャーディンである。彼独自の「レイ・ウェイ」という方法論、およびその方法論にもとづく『MAKE YOUR OWN GEAR (MYOG)』のギアは、現在のULの源流である。

もともとクライマーだった彼は、1980年代後半からロング・ディンスタンス・ハイキングに傾倒。積み重ねた実践のなかで、極限まで軽量化する試行錯誤をつづけ、「レイ・ウェイ」というULの方法論のベースとなるものを確立させた。

その内容は、彼が1992年に出版した『Pacific Crest Trail Hiker Handbook』(後に、『Beyond Backpacking』『Trail Life』と改題) という本にまとめられた。この本は、その後、多くのULガレージメーカーやハイカーを誕生させる起爆剤となる。

「レイ・ウェイ」の重要なファクターが、自分に合った道具を自分で作る『MYOG』である。ロング・ディスタンス・ハイキングにおいて、既製品ではなく自分に最適化させたギアを作ることで、自分にとって本当に必要なものは何なのか (必要十分) を知ることの大切さを説いた。彼は、著書で次のように書いている。

“ 私は道具を捨ててミニマリストになれと言っているのではありません。現代の装備の大部分は、ハイキングやキャンプにおける楽しみや安全において不可欠なものではないと思うのです。”

MYOGをベースに、自分にとってのSimple (必要十分) を追求する実験的な考えやアティテュードが、後のULガレージメーカーのプロダクトに大きな影響を与えた。そういったMYOGの根源的な精神が宿ったプロダクトに僕たちも魅了され、「ULTRALIGHT CLASSICシリーズ」においても、自分たちのは「Simple (必要十分) 」をとらえ直す指針となってくれた。

UL黎明期に生まれたULバックパックの「Classic (普遍)」。

“ 僕たちの「ULTRALIGHT CLASSICシリーズ」の開発は、現在のULの「Classic (普遍) 」である、レイウェイのバックパック、GoLite / Breeze、GVP gear / G4に宿る、ULバックパックの本質を探究し、それをいかに再編集しアップデートできるかという作業であった ”

 
1990年代後半、「レイ・ウェイ」に端を発するULの思想および方法論は数多くのハイカーに影響を与え、ULをベースにしたガレージメーカーも誕生し、あらたなULバックパックもリリースされていった。

その先駆けとも言える『GoLite / Breeze』と『GVP gear / G4』は、TRAILS INNOVATION GARAGEにも設立当初からディスプレイされており、僕たちもずっとリスペクトしてきたバックパックだ。

今回TRAILSがリリースしたULバックパックも、この2つのバックパックが原型といっても過言ではない。

■ 『GoLite / Breeze』と『GVP gear / G4』


左から、Ray-Way Backpack、GoLite / Breeze、GVP gear / G4。

『GoLite / Breeze』は、レイ・ジャーディンが設計協力したGoLite初期のULバックパック。レイ・ウェイバックパックのマスプロダクト版。

レイ・ジャーディンが設計した、雨蓋 (トップリッド) やフレーム、ウエストベルトの省略、背面パッドの簡素化をはじめとしたSimple (必要十分) なバックパックは、既存のバックパックとは大きく異なるデザインであった。このデザインはULバックパックのClassic (普遍) な形として定着した。レイ・ウェイバックパックおよびBreezeは、現代のULバックパックの原型となっている。

多くのガレージメーカーが、このバックパックをベースに自分たちなりにアップデートさせ、新たなULバックパックが生み出されていった。TRAILSの「ULTRALIGHT CLASSICシリーズ」も、このシンプル極まるひとつの「正解」を出発点に、今だから実現できるマテリアルや機能を搭載したULバックパックに発展させることを試みた。

『GVP gear / G4』は、GVP gear (後のGossamer Gear) の創業者グレン・ヴァン・ぺスキ氏が、レイ・ジャーディンのバックパックを参考にして発展させた、グレン氏の実験精神が詰め込まれたバックパックだ。

特徴的なのは、ひとつのものに複数の機能を持たせること (マルチユース) により、持つギア自体を減らしてシンプルになれるというULの発想が、バックパックの各所に詰まっていることだ。

たとえば、バックパックの背面側にスリーブを設けてスリーピングパッドを挿入できるようにし、スリーピングパッドを背面パッドとして使用できるようにした。また、ショルダーハーネスはベルクロで開閉ができ、クッション材の代わりに携行しているソックス等を入れられるギミックなど、僕たちもその発想に強く惹かれた。


G4を象徴する仕様でもあるショルダーハーネス。ここにソックス等を入れてクッション性を持たせる。

また、このG4は、誰もがこのバックパックをつくれるように、型紙を公開している。通常はメーカーが、自分たちの設計のノウハウが詰まった型紙を公開することなど考えられない。こういったオープンソース的なイノベーティブなアクションも、僕たちがULに魅了させられる大きな理由だ。

ガレージメーカーによる「Super Ultralight(超軽量)」の探求。

“ 僕たちは、g単位で理に適う「Super Ultralight (最軽量)」を目指した、実験的でクレイジーなプロダクトに魅せられてきた。TRAILSの「ULTRALIGHT CLASSICシリーズ」では、自分たちが今だから実現できるマテリアルや機能を搭載した「Super Ultralight」なバックパックを追求したいと思った ”

 
GoLiteを皮切りに、Gossamer Gear、Mountain Laurel Designs (MLD)、Zpacks, Six Moon Designs、Ultralight Adventure Equipment (ULA) など、数多くのULガレージメーカーが誕生。アグレッシブで実験的なULギアが、次々に世の中にリリースされた時代であった。

TRAILSも、この時代の実験的なULバックパックには大いに影響を受けた。デザイン面や機能面だけでなく、そのイノベーティブなアティテュードに熱狂した。

■ ULガレージメーカーが次々に誕生


左から、Gossamer Gear / Murmur、Zpacks / Z1、MLD / Prophet。

MLDは、それまでアウトドアギアに使われてなかった、新しい素材を積極的に採用。DCFを最初にバックパックに使ったメーカーである。Prophet (42L)は、極薄のシルナイロンをメインボディに大胆に採用し、重量はわずか220gだ。

ZpacksのZ1 (43L) もほぼすべての部位に薄いシルナイロンを採用し、使用するコードやテープも大胆に細いものを採用するなどした、実験的なバックパック。Prophetを下回る176g という異次元の軽さを実現させた。もちろんシルナイロンのバックパックは、藪や岩にひっかければ比較的簡単に破れてしまう耐久性の弱点はあったが、ULハイカーたちはそのチャレンジを歓迎していた。

その失敗を恐れない新しいものへのチャレンジ精神、それゆえハイカーにも知恵や工夫を要求するモノづくりは、ULの発展に大きく寄与した。


MLD / Exodus (左) とULA / AMP。

ちなみに、Zpacksはいまも薄手のキューベン (現DCF) を積極的に採用しているULメーカーだが、当初 (2000年代前半) はカスタムオーダーですべてキューベンで作ってほしいというハイカーからのオーダーに対して「まだ耐久性の保証ができないから、ポケット部分だけにさせてくれ」というやりとりもあった。g単位で軽量化を目指しながら、耐久性との狭間でぎりぎりを狙う、実験を繰り返していたことがわかるエピソードだ (これは、TRAILS編集長・佐井と旧知の仲である、lastchancegearのヒロシさんの話。彼のブログ「鴫内野外道具製作所」でも触れられている)。


Zpacks / Z1 (ポケットのみキューベンにしたカスタムモデル・左) とZpacks / Blast。

このように、1990年代後半〜2000年代初頭にかけて、さまざまなULメーカーが誕生し、トライアンドエラーを繰り返しながらしのぎを削っていた。それまでバックパックに使用されていなかった極薄のシルナイロン、ヨットのセールなどに用いられていたスピンネイカー、キューベンファイバーなど、新素材を実験的に採用したのもこの時代であり、それらの素材は現在ではマスプロメーカーも含めて一般化した。


シリンダー型のパック3つを重ねるという、ユニークな形状で当時注目を集めたLuxuaryLite / Stack Pack。ベアキャニスターを携行することを想定した、超軽量カーボン・フレームパック。フレーム搭載ながら、超軽量を探求した実験的なバックパック。

極限の探求、知恵の交換により熱狂するハイキングコミュニティ。

“ 極限を探求したUL黎明期のプロダクトたちは、ハイカーにトレイルライフにおける知恵の習得さえ求めた。ハイカーもそれを歓迎し、実験と検証を繰り返し、シーンは熱量に包まれていた。「ULTRALIGHT CLASSICシリーズ」のULバックパックを通じて、その熱量を取り戻して、さらにULカルチャーを発展させたいと思った ”

 
Gossamer Gearのグレン・ヴァン・ぺスキも、MLDのロン・ベルも、Zpacksのジョー・ヴァレスコも、もともとハイカーでありMYOGerだった。

当時、ULハイカーとして知られていたビル・フォーンシェルは、自身のUltra-Lite Skunk Worksというブログで、実験性に富んだMYOGを次々と発表していた。彼は、誰よりも早くハイキングギアにキューベンを採用したと言われているハイカーでもある。

ULガレージメーカーだけでなく、ハイカーたちのULへの熱狂が、ムーブメントのエネルギー源となっていた。ハイカーたちの実験精神や創意工夫、失敗があったらからそ、ULカルチャーはさらなる発展を遂げたのである。

■ BPLのフォーラムにおけるハイカーの熱狂


BPL (Backpacking Light) のウェブサイト。このデザインは昔のもので、現在は異なる仕様になっている。(https://backpackinglight.com/より)

2000年には、ライアン・ジョーダンが、BPL (Backpacking Light) というコミュニティサイトを立ち上げた。1つの大きな特徴は、“フォーラム” という機能で、BPLのメンバーは自由にフォーラムを立ち上げることができる。

ここでULハイキングやULギアにまつわるたくさんのフォーラムが生まれ、あらたなULギアをフィールドでテストしたり、スペックや機能を自分たちで科学的に検証したりと、自由でオープンな議論で大いに盛り上がっていた。


BPLのフォーラムにて、Zpacksのバックパックについて意見交換し合うユーザーたち。(BPLのフォーラムより。https://backpackinglight.com/forums/topic/20035/)

これまでは、ULの起原からすると当然ではあるが、ULの対象となるのは (実践するのは) ロング・ディスタンス・ハイカーだった。しかし、BPLを通じてULをきっかけにハイキングやハイキングギアの世界に入ってくるハイカーも増えたのだ。

ULの裾野が一気に広がったことにより、あくまでロング・ディスタンス・ハイキングのための手段であったULは、徐々に超軽量なギアを作る、楽しむ、というULにすること自体が目的のULへと変わっていった。

一見ネガティブにも思えるような変化だったが、実際はそうではなかった。ULがロング・ディスタンス・ハイカーという一部の限られた人たちだけではなく、広く門戸が開かれたことによって、ULにさらにイノベーションが生まれ、より進化していったのである。

先に挙げたMYOGerのように、実験的に作ったMYOGをフォーラムで共有し、他のハイカーと議論をする人もいれば、ULメーカーがリリースしたULギアのレビューを、投稿する人もいた。しかもメーカーの人がそのレビューに回答することも多く、メーカーもハイカーも入り乱れて、当時のフォーラムはULに対する凄まじい熱量にあふれていた。

■ 日本のハイカーによるULギアの実験


JMTでの川崎一さん。

そのムーヴメントは、アメリカだけではなく日本でも起こっていた。まずTRAILSでもお馴染みの川崎一さん、寺澤英明さんと、彼らのブログを紹介する。

2000年代、川崎一さんの「狩野川のほとりにて」というブログ (現在は閉鎖) は、アメリカのULハイキングやガレージメーカーについての情報をいち早く発信。さらに、ULハイカーに熱狂的な人気があった寺澤英明さんによるブログ「山より道具」は、海外通販でULギアを仕入れては試し、そのレビューを書いていた。ちなみに寺澤さんは、軽量化において「100gの軽量化に対して$100払ってもいい (1ドル120円くらい)」という、軽量化への価値観を語っていた。g単位での軽量化を追求する本気度が表れているパンチラインだ。


寺澤英明さんのブログ「山より道具」(https://ulgoods.exblog.jp/)。寺澤さんは、海外通販でULギアを仕入れては、まずは自宅の庭で試していていた。

いずれのブログも日本のULカルチャー黎明期に多大な影響を与えたし、彼らのブログを通じてULを知ったという日本のハイカーも少なくない。

メーカーだけではなく、こういったUL自体に熱狂し、純粋に楽しむハイカー (ユーザー) の存在が、ULをさらに進化させたのは間違いない。

なんの忖度もないギアレビュー、耐久性度外視で超軽量であることに振り切ったMYOG、MYOGの失敗事例、新しい素材や機構のフィールドテストの結果などなど、とにかくさまざまな情報共有がなされた。結果、ハイカーのなかで超シンプル、超軽量なギアでトレイルライフを送る知恵とスキルが共有され、ULがひとつのカルチャーへと引き上げられた。

さらに日本では、日本におけるULの伝道師としても知られる土屋智哉さんが、2008年にZpacks / Z1でJMTをスルーハイキングしたのちに、ULをテーマにしたショップ「Hiker’s Depot」をオープン。さらに2011年には『ウルトラライトハイキング』(山と溪谷社) を出版したことも、日本でのULカルチャーの発展に大きく寄与した。

このUL黎明期の熱狂の渦中に、TRAILS誕生前の佐井聡・和沙もいた。そしてULのフィロソフィーと、新しいものが生まれてくる時の熱量と革新性に魅せられていた。この時のULとの邂逅 (かいこう) から、トレイルカルチャー・ウェブマガジン「TRAILS」は産声を上げた。

そして現在のTRAILSは、ウェブマガジンだけではなく、『ULTRALIGHT CLASSICシリーズ』のULバックパックを通じて、現在の “大人” になり成熟したULのなかでは薄れてしまったように思える、このULカルチャーにおける熱量の再燃のきっかけを作りたいと思ったのである。

耐久性・快適性が向上した反面、停滞した軽量化への実験性を復活させたい。

“ 時代とともに、ULバックパックは耐久性や快適性の高いものになっていった。一方、g単位で理に適うSuper Ultralight (最軽量) を目指すアティテュードは薄れているように感じていた。だからこそ、今あらためてUL黎明期に存在した、耐久性や快適性を担保しつつ極限まで軽量性を追求するバックパックをつくってみたくなった ”

 
2000年代に、手段としてのULが目的化し極端な軽量化が進んでいったが、2000年代終盤から2010年代初頭にかけて、徐々に耐久性と快適性を重視する方向への変化が見られるようになる。

■ 耐久性と快適性を向上させたULバックパック


左から、Six Moon Designs / Swift、ULA / CIRCUIT、Hyperlite Mountain Gear / Windrider。

Gossamer Gear / Mariposa, Six Moon Designs / Swift, ULA / CIRCUIT、Hyperlite Mountain Gear / Windriderなど、フレームを搭載し、比較的しっかりとしたウエストベルトをつけ、使用する生地もデュラブルにしたバックパックが台頭しはじめた。

それまで軽量化を追求してきたULバックパックは、耐久性や快適性を高めたモデルへとアップデートされていったのである。

その背景にあったのは、ハイカーからのフィードバックや、コアなULハイカーだけでなくULがより多くの層に広く普及したことによる時代の要請でもあったからだろう。軽さも大事だけど、耐久性も欲しい、快適性もあるに越したことはない、そう考える人が多くなるのは当然ではある。

アメリカの3大トレイルを中心に、ロング・ディスタンス・ハイキングをする人も年々増えたこともあり、より多くの人にとって使いやすい、汎用的なULバックパックが増えたとも言える。

たしかに、バックパックとしては完成度が上がり、進化しているのだろう。でも、耐久性や快適性を担保しつつ極限まで軽量性を求めるという実験性は、停滞しているようにも思えた。g単位で理に適う最軽量を目指していたUL黎明期のアティテュードは消え去ってしまったのだろうか。

『Simple × Classic × Super Ultralight』というコンセプト


 
どんな業界、どんなプロダクトでもそうだが、使う人が増えれば増えるほど、「誰でも使えるようにすること」にフォーカスが当てられる。それはすなわち、知識や経験やスキルが少なくても、使えるようにするということでもある。

便利になればなるほど(つまり、無くてもいいがあったら便利な機能が増えていくこと)重量は増え、使い手よりもバックパックに依存する部分が多くなり、ハイカーの工夫や知恵が必要なくなっていく。

UL黎明期のULギアは、単に超軽量というだけではなく、その使い手であるハイカーにある一定の知識や経験やスキルを求めてきた。それが結果としてハイカーの知識・スキル向上の後押しにもなっていた。これがULの本質でもあると思うし、あるべき姿ではなかろうか。

TRAILSは、『ULTRALIGHT CLASSICシリーズ』のULバックパックを通じて、あらためてULの本質を追求してみたい。

今回の記事で伝えてきたような、自分たちが熱狂したULのなかにある本質的な要素とは何なのか? それを突き詰めたときに生まれたコンセプトが、『Simple × Classic × Super Ultralight』であった。

そしてこのコンセプトをベースにすべてのデザイン、仕様を形にしていった。大事にしたのは、ULの思想・方法論の原点にあるものを意識しつつ、現在だからできる素材や機能のアップデートをすることだ。

リリース時にも明言したが、TRAILSはメーカーではない。今回リリースしたULバックパック『LONG DISTANCE HIKER』『ULTRALIGHT HIKER』が、実験的でイノベーティブなULカルチャー再燃のきっかけとなることを願っている。

<️開発ストーリー 第1弾>
LONG DISTANCE HIKERとULTRALIGHT HIKER
#01 | 腰荷重と肩荷重の2モデルで最軽量のULバックパックを作りたい
#02 | 『腰荷重 × 最軽量』快適性と軽さを追求したスタンダードなULバックパックを開発した
#03 | 『肩荷重 × 最軽量』必要十分の極限を求めたアグレッシブなULバックパックを開発した
 
<️️開発ストーリー 第2弾>
“ULTRALIGHT CLASSIC” Seriesが誕生するまで
#04 | UL黎明期のバックパックの実験的なデザイン思想にインスパイアされた『Simple × Classic × Super Ultralight』
#05 | Hariyama Productionsをプロトタイプビルダーとしてプロジェクトに迎えたわけ
#06 | プロトタイピングとテストを繰り返して探った快適さと軽量化の境界線

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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