TRIP REPORT

コロラド・トレイル | #06 トリップ編 その3 DAY7~DAY9 by Tony(class of 2023)

2025.02.14
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文・写真:Tony 構成:TRAILS

ハイカーが自らのロング・ディスタンス・ハイキングの体験談を綴る、ハイカーによるレポートシリーズ。

2023年にコロラド・トレイル (CT) をスルーハイキングした、TRAILS crewのトレイルネーム (※1) Tony (トニー) によるレポート。

今回はトリップ編のその3として、コロラド・トレイルのスルーハイキングのDAY7からDAY9までの旅の内容をレポートする。

※1 トレイルネーム:トレイル上のニックネーム。特にアメリカのトレイルでは、このトレイルネームで呼び合うことが多い。自分でつける場合と、周りの人につけられる場合の2通りある。


コロラド・トレイル (Colorado Trail):コロラド州のデンバーからデュランゴまで、アメリカのロッキー山脈を通る486mile (782km) のトレイル。標高3,000m~4,000mの、厳しくも美しい高山地帯の景色を楽しみながら歩くことができる。

リスに襲われる。(DAY7)


シェルターの周りにいたリス。

昨晩は、久しぶりに恐ろしいサンダーストームから逃れられた夜だった。しかし目覚めは悪かった。

昨日、調子よいフラットな野営地を見つけて、ご機嫌に就寝した。それからしばらくすると、シェルターの周りから、聞き馴染みのある鳴き声が大量に聞こえだした。

シェルターから外を覗くと、1匹のリスが穴から顔を出している。よく見ると、周りに無数に穴が空いていて、その穴の中から威嚇する鳴き声が激しく聞こえていた。

しばらく様子を見ていると、シェルターの隙間からリスが侵入し、エナジーバーを奪われてしまった。その後も四方八方から襲ってくるリスと、1時間ほど格闘した。ここにいると危険だと真剣に悟った。このままでは寝ている間に、本当に食料がなくなってしまう。

もう諦めて、雨の中でシェルターを撤収をし、別の場所で再び設営をすることにした。

野生のリスは恐ろしい‥。


標高2,800mの景色。次の街への起点となるトレイルヘッドに近づく。

野営地からトレイルを3mileほど歩いて、ゴールドヒルのトレイルヘッドに到着した。ここを通っているハイウェイ9からは、サミットステージというフリーバス (無料のバス) でブリッケンリッジの街まで行くことができる。

しかし時刻表を見ると、ちょうどバスが出発したばかりだったので、街までの4mileの道のりを歩いて向かうことにした。


コロラド州随一のスノーリゾート、ブリッケンリッジ。

ブリッケンリッジの街に到着すると、まずはリサプライをすることにした。

ブリッケンリッジはコロラド州随一のスノーリゾートだ。パタゴニアやコロンビアなどアウトドアメーカーの直営店が多く、ショップにはハイカーボックス (※2) も常設されている。ハイカーはまず街中の「ハイカーボックス周り」から始める。それでも足りない場合はスーパーマーケットで購入する。

僕もハイカーボックス周りを終えてから、スーパーマーケットのSafewayへと向かった。コロラド・トレイルの旅で初めての、品揃えが豊富で大きいスーパーマーケットにテンションがあがる。8年前のPCT (※3) のときも、Safewayはお世話になった愛着のある店だ。


次の街までの3日分のリサプライ。

円安・物価高の影響もあって、今回の旅ではできるだけ節約をしたかったので、食事は極力自炊することにしていた。

レストランでハンバーガーを1つで30ドルもするが、食材で購入すれば15ドルほどで2つ分の購入できたりする。肉などのすぐに調理できるものは、ディスカウントされているものを購入することも重要な節約術だ。

※2 ハイカーボックス:ハイカー (特にスルーハイカー) が不要になった食料や道具を入れる箱のこと。ハイカーは、必要なものは自由に持ち出すことができる。

※3 PCT:Pacific Crest Trail (パシフィック・クレスト・トレイル)。メキシコ国境からカリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州を経てカナダ国境まで、アメリカ西海岸を縦断する2,650mile (4,265㎞) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。

8年前のPCTのバディと、ミラクルな再会。(DAY8)


用事を済ませた後、ブリッケンリッジの街を散策。

シャワーや洗濯、リサプライと、ひと通りの街でのルーティンを終わらせた翌朝、ホステルで他のハイカーと一緒に朝食を食べていた。日本に住んだこともあるハイカーで、大いに話が盛り上がって、おかげで予定のバスを一本逃した。そしてそのハイカーと一緒に、次の便でトレイルに戻ることにした。

ホステルのオーナーに別れを告げ、バス停に向かっている途中に、急に「トニー!!」と呼ぶ声がした。

「ん!?」と、あたりを見回すと、走る車の窓から男性が手を振っている。車を路肩に停めてそこから降りてきた男性は、なんと僕がPCTをスルーハイキングしたときのハイキング・バディのZooだった。

ZooとPCTを歩いたのは、8年前の2015年。あまりに突然の再会に、驚いて困惑した。ずっと連絡をとっていなかったのに、よく僕に気づいていたくれたな‥。


8年前のPCTのバディ”Zoo”との、ミラクルな再会。

今回のレポートの初回でも書いたが、Zooはコロラド出身で、僕がコロラド・トレイルを歩きたいと思う、そのきっかけをくれたハイカーだ。

8年前。PCTで焚き火をしながら、彼が話してくれたコロラドの話に惹き込まれて、いつか歩いてみたいと強く思った。Zooも「PCTの次はコロラド・トレイルだ!トニー、コロラドで待ってるよ!」と、あの時に約束を交わしたのだ。

僕が「なんでここにいるの?」と聞いたら、Zooは「仕事で車を運転していたら、トニーが目の前の道を歩いてたんだよ!」と。


8年前のPCTで一緒に歩いていた時のZooと僕。

まさかの8年ぶりのミラクルな再会。

しばらくZooと感動の再会に盛り上がっていると、「身体の調子はどうだ?」「腹は減っていないか?」「リサプライはしたか?」「酒はたくさん飲んだか?」と、ZooはPCTでいつも僕を気にかけてくれていた時のまま、何も変わっていなかった。

Zooは、この後に仕事があるということで、コロラド・トレイルを歩き終えた後に、また再会する約束をして、トレイルヘッドまで車で送ってくれた。


再び、トレイルを歩く。

Zooと別れた後、再びトレイルに戻った。そして、一気に標高が上がっていく。1,000mほど登っていき、3,800mの高所に出た。

自然に浸るために2時間も立ち止まるハイカー。(DAY9)


じっと同じ場所で、景色を見続けるハイカー。

前日の夜はしっかり眠れたものの、朝起きると体が少し重かった。昨日の高低差はさすがに体にはダメージがあったようだ。

しばらく歩いていくと、その先の遠くにひとりのハイカーが立っているのが小さく見えた。どうやら休んでいるわけでもなければ、誰かと話しているわけでもない。ただ、ひとりでじっと立っていた。

そのハイカーのところまでたどり着くと、ブリッケンリッジのホステルで会ったオビワンだった。

オビワンに「ずっとここで立っていたよね?」と聞くと、「トニー、この素晴らしい景色を見てくれよ。ずっと見てられるだろ」と答える。オビワンは2時間くらい歩いては、じっと立ち止まって1〜2時間くらいずっと景色を見る、というのを繰り返してるのだそうだ。


オビワン (写真右) は別の場所でもじっと止まって景色を見ていた。

「そこの岩が、温かくて形もいいから座りやすいよ」とオビワンに誘われ、一緒に1時間ほど景色を楽しむことにした。

オビワンに、なぜそんなに長い時間、景色を見ているのかと聞くと、「こんな素晴らしい景色の中、ハイキングができるなんて幸せすぎると思わない?」と言う。そして「昨日の夜は寝るのがもったいないくらいの星空だったから、寝落ちするまでテントからずっと星空を眺めていたよ」と続けた。

そんなオビワンと話していると、トレイル上で日々起こるちょっとしたトラブルも、なんてことはないと思えてしまった。そんなことよりも、この景色の中でハイキングが続けられること、自然と一体になれるこの時間が幸せなのだ。


コロラド・トレイルのトレイルサイン。

オビワンとは、次の街で再会する約束をして、それぞれのペースで再び歩き出した。数mileほど歩いたところにファイヤーサークルがある野営地を見つけて、そこでキャンプをすることにした。

その夜は、オビワンが言っていた言葉を思い出した。出会う自然、出会う人々、そのひとつひとつを大事に歩いて行こう。焚き火をしながら、この日は長めに星空を眺めてから、眠りについた。


翌日はコロラドトレイル沿いで最も大きい町のひとつレッドヴィルへ下りる。

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利根川 真幸

利根川 真幸

2015年にPCT (パシフィック・クレスト・トレイル) をスルーハイキング。2023年にはCT (コロラド・トレイル) をUL × MYOG (MAKE YOUR OWN GEAR)のスタイルでスルーハイキングした、ロング・ディスタンス・ハイカー。トレイルネームはTony (トニー)。2023年10月にTRAILSにジョインし、『TRAILS INNOVATION GARAGE』の店長に。

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