アパラチアン・トレイル (AT) | #09 トリップ編 その6 DAY65~DAY92 by Daylight(class of 2022)
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文・写真:Daylight 構成:TRAILS
ハイカーが自らのロング・ディスタンス・ハイキングの体験談を綴る、ハイカーによるレポートシリーズ。
2022年にアパラチアン・トレイル (AT) のスルーハイキングにトライした、トレイルネーム (※1) Daylightによるレポート。
全8回でレポートするトリップ編のその6。今回は、ATのDAY65からDAY92までの旅の内容をレポートする。
※1 トレイルネーム:トレイル上のニックネーム。特にアメリカのトレイルでは、このトレイルネームで呼び合うことが多い。自分でつける場合と、周りの人につけられる場合の2通りある。
アパラチアン・トレイル (AT: Appalachian Trail)。アメリカ東部、ジョージア州のスプリンガー山からメイン州のカタディン山にかけての14州をまたぐ、2,180mile (3,500km) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。今回は、中間地点のハーパーズフェリーがスタート地点。北端まで歩いた後、公共交通機関等でスタート地点に戻り、南端を目指す。
私のATオススメポイントの大岩だらけのマフーサク峠。(DAY65〜77)
メイン州に入る。14州に及ぶATだが、それぞれの州に個性がある。
スラックパック (※2) で21mile (34km) のハイキングをした翌日、キャデラックでトレイルヘッドまで送ってもらった。引き続きアップダウンの激しいトレイルが続く。たった11mile (18km) 進むのに8時間かかった。翌日も10mile (16km) を12時間だ。そして、ついにメイン州に入った。
州越えしてから数mileで、マフーサク峠という大岩だらけの1mileもない短いトレイルに入る。岩の大きさは車や小さな家くらいある。岩と岩の隙間は跳び越えるのが怖い所もあり、バックパックを手に持って岩の下を潜っていく場所もある。7月になろうとしているのに日陰には残雪がある。風は冷たい。
マフーサク峠 (Mahoosuc Notch)。自分で写真を撮れず、画像は以下のHPより(https://thetrek.co/appalachian-trail/navigating-the-notch-the-hardest-mile-of-the-appalachian-trail/)
そんな所を1時間半、楽しんだ。自然のアスレチックコースだ。ボルダリングを趣味にしていて良かった。若いハイカーは「24分で通り抜けたよ。でも額をぶつけた」と言い、女性ハイカーは「3時間かかった。怖かった」と感想を話してくれた。
このマフーサク峠は、あまり情報がない場所であるが、私のATオススメポイントだ。
ATでは野営にハンモックを使用。ハンモックは地面が濡れてても大丈夫なので雨との相性も良い。
ボールド・ピート山の西と東のそれぞれの山頂に登頂した。霧が濃くてトレイルがはっきりしない山域で、ケルンの目印を探しながら歩いた。
この山域は岩に苔が付いている程度で、風を防ぐものがない。風が強く体温を奪うので、フル装備で歩いた。
霧が濃く道がわからない。ケルンを探し、GPSを頼りにルートを見つける。
※2 スラックパック:デイ・ハイキングに必要な装備だけ持ち、残りの荷物は宿や送迎サービスに預けて身軽に歩く方法。
ケネベック川を越えてモンソンヘ。(DAY78〜82)
この先に見える、中央のピークのどちらかがカタディン山か?
出会ったハイカーによると、ここから北のゴールであるカタディン山が目視できるらしい。もうそんな場所まで来ているのだ。ケネベック川を渡り、100マイル・ウィルダネス (※3)を越えれば、フリップ・フロップ (※4) の前半戦が終了する。
ケネベック川は渡船で渡るのがルールだ。9時から2時の運行である。川を渡る前に泊まる場所は、川の4mile手前にあったシェルターに決めた。湖が見える素敵な場所だ。近くのキャンプ場のレストランで10ドルでパンケーキの朝食が食べられるという情報があリ、そちらのキャンプ場に移動したハイカーもいたが、自分はシェルターに留まり、このシェルターからの景色を独り占めすることを選んだ。
シェルターからの眺め。独り占め。
渡船するための河岸には9時前に到着したが、誰もいなかった。9時過ぎに対岸に届く大声で「Good Morninng!」と叫ぶと対岸に人が現れてカヌーがこちらへ向かって来た。キャラタンクの街まで行きたいと伝えると、木の棒で砂の上に地図を描いて教えてくれた。
※3 100マイル・ウィルダネス:ATの北のゴールである、カタディンまでの最後の100mileのルート。森や山、湖、川など、広大な地域にウィルダネス (原生自然) が広がるエリア。
※4 フリップ・フロップ:一方向にずっと歩くのではなく、「とんぼ返り」という言葉の意味の通り、途中地点で折り返して、別の方向に歩くスルーハイキングの方法。今回の場合は、ATの中間地点から歩いて北上し北端に到着した後、中間地点まで別の交通手段で戻り、今度は南端を目指してスルーハイキングすること。
いざ100マイル・ウィルダネスへ。 (DAY82〜DAY89)
モンソンの街にあるスルーハイキング用品がなんでも揃う店。食料品も充実。
100マイル・ウィルダネス。訳すと160kmの未開地。北の基点のカタディンまでの、最後の100mileのルートである。この区間には立ち寄りできるトレイルタウンが無い。そのウィルダネスへの入り口が、モンソンという街である。
スルーハイカーは必ず立ち寄って、食料補給等の準備をする。私の泊まったホステルにはトレイル用品、食料品を買える店が併設している。ここで念願の新しいバックパック (ハイパーライト・マウンテン・ギア) を購入した。自分へのご褒美である。また、シューズ、薬など、日本からの荷物を受け取った。
食料補給には裏技があって、有料で食料をトレイル上の特定のポイントまで持ってきてくれるサービスがある。缶ビールを頼むハイカーや、6〜7日分の食料は持てないからと値段は高いがこのサービスを利用するハイカーもいる。私は節約のためも大いにあるが、やはり無補給の体験の方を選んだ。
第2便のシャトルに同乗したハイカーたち。みんな、あっという間に先に行ってしまった。
豪華な朝食を済ませ、トレイルヘッドへ向かうシャトルの第2便に乗った。他のハイカーはあっという間に見えなくなった。ペースが上がらず、いきなり初日の宿泊予定地点まで行けそうにもない。休憩しているハイカーに訊くとこの先に池があり、そこでステルスキャンプをするとのことで、同宿することにした。
彼らは3人グループでそれぞれ別に歩き、予定している休憩地点、宿泊地点で合流するスタイルで歩いている。私は先に歩き始め、すぐ抜かれ、休憩している彼らに挨拶をして先に進み、また抜かれ、同じシェルターで出会うといったことを2、3日繰り返した。その中の1人に「楽しいのか?」と聞かれ、返事に困った。「楽しむ」というテーマを後半に実践しようと考えた。
休憩している彼らを追い越したすぐ後に、岩場で足を滑らせて額を切ってしまった。追いついた彼らに消毒してもらい、絆創膏を貼ってもらった。予備の絆創膏までもらった。鏡がないので撮影した一枚が残っていた。彼らは私より1日早くゴールするようなので、今日でお別れだ。
転んで額を切ってしまう。結構な血が流れた。
100マイル・ウィルダネスは思った以上にキツかった。始めの30mile (48km) がキツいと言われたが、その後も結構キツかった。しかも見晴らしが悪い上、南下してくるハイカー (SOBO) のピークとのことで、ちっとも孤独感を味わえなかった。
ついにカタディン山登頂! (DAY90〜92)
最終キャンプサイト。メイン州ではこの屋根の形からシェルターのことをリーン・トゥ (差し掛け屋根) と言う。
100マイル・ウィルダネスを歩き終えて、食堂で腹ごしらえをしていると、顔馴染みのハイカーに出会い、彼と行動を共にすることにした。
電話が使えないため、登頂した後の宿の手配ができないのだ。彼は一度ミリノケットの宿に泊まり、翌日ここまで戻り、カタディン山の直下にあるキャンプサイトへ向かうということだ。混み具合や天候を考えた計画のようだ。
キャンプサイトから山頂までの往復は8〜10時間かかるとレンジャーが教えてくれた。宿からの迎えの時間が決まっているので、遅れると次の日になってしまう。翌日の早朝、余裕をもって暗いうちに出発した。
良い天気で、誰もいない中を順調に登って行った。そして、8時頃に登頂!周りには誰もいない。
神聖な場所なので、声は出していない。
しばらくすると、別の方向からハイカーがやって来て、彼に写真を撮ってもらうことができた。
山頂を満喫して、下山を始めるとすぐに遅れて来たハイカーたちに、「おめでとう !(Congrats!)」とか「やったね! (You made it!)」と祝福されながらキャンプサイトまで歩いた。
昼頃に下山して、その後はのんびり昼寝を楽しんだ。
北端のカタディンに着いた達成感で嬉しい。この後フリップ・フロップで、中間地点のパーズフェリーに戻る。
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