TRIP REPORT

スキーハイキング | #17 トニー、サニー、イエスのBCクロカン & MYOGハンモック・トリップ 2DAYS(トリップ編 その1)

2025.03.19
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『SKI HIKING (スキーハイキング)』は、「歩くスキー」であるBCクロカンにフォーカスした記事シリーズ。

BCクロカンは、滑りながら歩けるその機動力の高さで、スノーハイキングの旅を拡張してくれる (TRAILSがBCクロカンに惹かれた理由はコチラ)

今年はTony (トニー)、Sunny (サニー)という前年のメンバーに、新たにYes (イエス) が加わり、TRAILS Crewらしく「MYOG (※1)」 がテーマとなった。

今回の記事では、いよいよMYOGしたギアを持って出発した「トリップ編 その1」をお届けする。はたして、MYOGしたハンモックはうまく機能するのか。豪雪の予報のなか、どんな旅になるのか。

ULハンモックやULツリーストラップを自作するMYOG SCHOOLと、また自宅でそれらを自作するMYOG kitもリリースしたので、そちらもチェックしてみてください。(ULハンモック SCHOOL / ULハンモック MYOG kit / ULツリースストラップ SCHOOL / ULツリーストラップ MYOG kit)

※1 MYOG: MAKE YOUR OWN GEARの略。ギアの自作を指す。特にここでは、ロング・ディスタンス・ハイキングとウルトラライト (UL) ハイキングの文脈におけるギアの自作を指す。


MYOGしたハンモック、ツリーストラップ、タープでの、雪中ハンモック・キャンプ。

Tony (トニー)
TRAILS INNOVATION GARAGE(以下、GARAGE) の店長。2015年にPCT (パシフィック・クレスト・トレイル) 、2023年にはCT (コロラド・トレイル) をスルーハイキング。
Sunny (サニー)
GARAGEの「MYOG番長」。2016年にPCT (パシフィック・クレスト・トレイル) 、2019年にCDT (コンチネンタル・ディバイド・トレイル) をスルーハイキング。
Yes (イエス)
学生時代からTRAILSに出入りし、2024年にJMT (ジョン・ミューア・トレイル)を歩いた後、正式にTRAILS Crewにジョイン。JMTではタープやビヴィをMYOG。

昨年の豪雪の悪夢は、気持ちよく忘れていた。


笑顔で出発するTony (トニー:左)、Sunny (サニー:右)。両サイドにはMYOGしたスキーケース。

昨年のTRAILS CrewのBCクロカン・トリップでは、シーズンで一番の豪雪にぶち当たり、ルート短縮を余儀なくされ、吹雪のなかのスノーキャンプとなった。

しかし昨年の苦労を経験しているトニーもサニーも、残念ながら「去年はめっちゃ雪が多くて、楽しかった」という記憶しか残っていない。

大変なことは忘れ、都合の良い楽しいことだけを覚えているものだ。


左からYes (イエス)、Tony (トニー)、Sunny (サニー)。

イエスも加わった今年の3人は、目的地に向かうバスのなかで、ただ楽しいことだけを頭に浮かべてスタート地点に向かっていた。この時点では、「夜の鍋が楽しみですな」と能天気な会話をしていた。

しかし、現地に到着すると「今期 最強寒波」という現実に直面することとなる‥・。

今回、実は出発を1日ずらして「今期 最強寒波」の直撃は避けられた。しかし前日は、1日の降雪量は50cm以上、風速も5mを超える悪天候であった。

これだけの寒波を簡単にかわせるはずもなかった。地元の人に聞けば、「近年稀に見る大雪」というレベルだった。

どっさり積もったさらさらの粉雪に、悪戦苦闘。


スタート地点は腰まで埋まるほどの深雪。

スタート地点にたどり着くと、目の前にうず高く雪の壁ができあがっている。これじゃあ、どこから山に入れるかわからない‥。

なんとか森に入れる場所を見つけて、歩き始める。しかし一歩足を踏み出す度に、「ずぼっ」っと腰のあたりまで体が埋まる。

イエス:「このまま先に進めますかね?」

トニー:「想定以上に雪が積もってるね。しかも、新雪ですごい埋まるね‥。」

イエス:「でも、とりあえず少しずつでも進んで、行けるところまで行きましょうか。」


BCクロカンの板を装着。


森の中のトレースを見つけて、BCクロカンの板を滑らせていく。

それでもなんとか少しずつ進んでいくと、わずかに歩きやすくなった場所に出た。

そこでようやくここでBCクロカンの板を装着。森のなかをBCクロカンで滑るように歩いていく。

しかしそれも束の間、すぐにまた腰まで埋まるような雪に、なかなか前に進むことができなくなる。


横向きになって、ラッセル (※2) しながら丘を登る。

またしばらく進むと、トラバースして進める斜面に出た。トニーが「ここから道路の方に出れば、スムーズに進めるかもしれないよ」と言って、地図を確認しながら進む。

すると先頭を歩いていたトニーの体が、急に沈み込み、胸のあたりまで雪に埋まってしまった。自分で這いあがろうとしても出られない。

サニーが笑いながら「だいじょぶっすか?」と声をかけて手を差し伸べるも、そこは粉雪の吹き溜まりになっていて、なかなか体が抜けずに、5分ほどの雪の中で格闘することになる。

※2 ラッセル: トレースのない深い雪のなかを、かき分けて進むこと。または雪を圧雪して、道を切り開く作業。

豪雪による進捗の遅さのため、早めに野営地の設営にとりかかる。


牛歩の歩みだが、少しずつ森の奥に入っていく。

3人で交代でラッセルしながら、少しずつ着実に森の中を進んでいく。しかしこの雪の状態を考えると、野営地の整地にも時間がかかるはずだと判断したトニーは、この近く野営できる場所を探そうと、ハンモックポイントを探すモードに、3人とも切り替える。

サニー:「今年も雪にやられちまいましたね。楽しい思い出しか残ってなかったけど、去年もこんなんだったと思い出しましたよ (笑)」

トニー:「ほんとだよね、自分も楽しいことしか覚えてないもんね。」


野営地の候補を見つけ、スキー板で踏んで整地を始める。

ハンモックキャンプの候補地を見つけると、さっそく整地にとりかかる。スキー板を履いたまま、みんなで地面を踏み固める。

しかし踏めども踏めども、さらさらの新雪は固まらない。業を煮やしたトニーが、いきなり地面に横になって、そのまま体をローラーに転がり始めた。


地面を転がるトニー。

しかしその跡を確かめたイエスに「トニーさん、ほとんど圧雪できてないっすよ (笑)」と突っ込みを入れられて、また仕方なく足で地道に踏み固める作業に戻った。

だいぶ整地が完成してきたところで、時計を見れば17時近くなっていた。整地をするのに、なんと2時間も要したのだ。

ようやく、ここからハンモックを張り始める。


2人で肩を組んで、整地の仕上げをするサニーとイエス。

MYOGしたハンモックで、雪中キャンプの準備を始める。


MYOGしたDCFのタープから、設営を始めるイエス。

いよいよ雪中ハンモックの設営。目星を付けていた木をうまく使いながら、3人のハンモックをこの後の宴に最適なトライアングルで張っていく。

バックパックからMYOGしたハンモック、ツリーストラップ、タープを、各々が取り出して設営を進める。ハンモックを張って、また地面の高さを調整するために、雪を掘って、という作業を繰り返す。


トニーは3人のなかで一番小さいサイズのタープ。


MYOGしたツリーストラップ。ロープはダイニーマ®︎ロープ 2.8mm Amsteel® Blue、テープはUHMWPEウェビング 25mmを使用。

トニーがMYOGしたタープは、180cm x 220cmと3人の中でも、一番ミニマムなサイズ。

ハンモックのタープとして使うにはかなり小さいが、うまく工夫して使えないかと、実験の意味も込めて、このタープを持参した。なるべくハンモックとタープの距離を近くして、体をカバーできるように設営。

MYOGしたツリーストラップも、製作の際にステッチを多めに重ねたことで、十分な強度を確保できていそうだ。またツリーストラップは、木へのダメージを考慮し、Leave No Trace (※3) の基準も参照して、25mmの幅のテープを使用した (Leave no Traceのガイドラインでは19mm以上の幅のストラップを使うことを推奨している)。


シルポリ20DでMYOGしたハンモックを実験してみる。

まずは強度テストのためにMYOGをした、シルポリ20Dで作ったハンモックを張って、トニーが乗ってみる。

トニー:「あ、だめだ!やっぱり生地が滑りすぎて、体が全然安定しないわ。」

薄手の生地による耐久性については、短いテストでは問題がなかった。それよりも、想定していたもう一つのポイントである、PUコーティングされた表面が滑ることが問題であった。ツルツルと滑りすぎて、まったくきちんとしたポジションをとれない。

ハンモックの生地はアンコーテッド (コーティングなし) のものが常識ではあるが、改めて実験してみると、身をもってその理由がわかる。通気性や伸縮性の観点からもアンコーテッドがハンモック向きであることは理解できるが、生地にほどよいグリップ感もないとハンモックには使いづらい。


Hexon 1.0 リップストップ・ナイロン 20Dの薄手のハンモック生地でMYOGしたサニーのハンモック。

トニーの実験をよそに、「やっぱダメだったすねー (笑)」と、サニーは余裕でハンモックに揺られて、休憩をしていた。

サニーが作ったのは「計画編 その1」でも紹介した、薄手のハンモック生地Hexon 1.0 リップストップ・ナイロン 20DでMYOGしたハンモック (Hexon各種の生地特徴はコチラ) 。幅120cm × 長さ270cmで作ったハンモックは、今回のなかで最軽量の143gだ。

※3 Leave No Trace (リーブ・ノー・トレース):環境へのインパクトを最小限に抑えながらアウトドアを楽しむための行動基準。その指針はシンプルな7原則としてまとめられている。アメリカのハイキング・カルチャーにおいて、ハイカーが守るべきルールとして浸透している。現在は、その考え方や指針は世界中に広まってきている。 (詳細は「Leave No Trace」のWEBサイトを参照。 https://lnt.org/)。ハンモックを使用する際のガイドラインも示されている。https://lnt.org/wp-content/uploads/2018/10/Hammock-Camping.pdf

MYOGハンモック設営完了!スリーピング・システムのチェック。


イエスのハンモック・システム。

イエス:「自分の雪中ハンモック・システム完成です!」

サニー:「DCFのツートンカラーで作ったタープも、いい感じにクレイジーでいいね。」

イエスのハンモックで使った、Hexon 1.6 リップストップ・ナイロン 40Dの生地厚は、ライトウェイトハンモックでよく使われるもののひとつ。軽量さと快適さのバランスを重視したチョイスに、イエスも「生地の肌触りも、ホールド感もばっちりです」と満足気。


トニーのハンモック・システム。

トニーのハンモック・システムも完成。実験の結果、使うことができなかったシルポリ20Dのハンモックに代わり、Hexon 1.2 リップストップ・ナイロン 30Dで作ったハンモックで張り直していた。

トニー:「このオレンジの生地は、雪の中でも鮮やかでかっこいいね。」

イエス:「トニーさんはタープのサイズをミニマムにしたから、雪の吹き込みが心配ですね。」

トニー:「そうなんだよね。この後に、その対策をちょっと考えてみるわ。」


サニーのハンモック・システム。さっそくスリーピングバッグに包まる。

隣ではサニーがスリーピングバッグに入り込んで、寝るときの状態をチェックしている。

サニー:「自分がMYOGしたタープは240 cm x 300 cmで、それでもちょっと長さが短いけど、スリーピングバッグをぐるっと巻いちゃえば、多少の雪の吹き込みは大丈夫かな」

イエス:「僕もスリーピングバッグに入ってみよ!今日の最低気温の予想はマイナス7℃ですよね。アンダーキルトは薄めですが、ダウンマットも組み合わせてみたんで、これなら背面の冷えも大丈夫そうです」


アンダーキルトにダウンマットを組み合わせたイエス。

すると「ちょっとこれ見て!」とトニーが2人に声をかける。

トニー:「GARAGEに置いてある佐井さん(編集長)の私物Nunatak のRaku。惜しくも廃盤になってしまい試すことができていなかったので、今回はコレでいかせてもらいます(笑)。」

イエス:「イエティ (雪男) じゃないっすか!(笑)」


Nunatak のRakuを着たトニー。

トニー:「これ着るだけで、めっちゃあったかいわ。実際、そのまま行動できるから、すごく機能的だし。スノーキャンプにばっちりのギアだわ。」

このギアの威力を体感していたトニー。それでハンモックに寝てみてくださいよ、とサニーに促されて、そのままハンモックに寝てみる。

トニー:「これは防寒的にも問題なしだわ!」

イエス:「みんなハンモックキャンプの準備ができたので、じゃあ、メシの準備しますか!」


Nunatak のRakuを着込んで、ハンモックに寝るトニー。

昨年と同様の豪雪に見舞われながらも、なんとか雪中ハンモック・キャンプの設営までこぎつけた3人。

次回のトリップ編・その2では、夜の宴会から2日目のスキーハイキングの様子をお届けする。

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

[about TRAILS ]
TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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