パシフィック・ノースウエスト・トレイル (PNT) | #08 トリップ編 その5 DAY32~DAY41 by Zoey(class of 2022)

文・写真:Zoey 構成:TRAILS
ハイカーが自らのロング・ディスタンス・ハイキングの体験談を綴る、ハイカーによるレポートシリーズ。
2022年にパシフィック・ノースウエスト・トレイル (PNT) をスルーハイキングした、トレイルネーム (※1) Zoeyによるレポート。
全8回でレポートするトリップ編のその5。今回は、PNTスルーハイキングのDA32からDAY41での旅の内容をレポートする。
今年のLONG DISTANCE HIKERS DAY (LDHD)でも、ZoeyによるPNTの発表があるので、そちらもぜひチェックしてみてください(LDHD 2025の詳細はコチラ)。
※1 トレイルネーム:トレイル上のニックネーム。特にアメリカのトレイルでは、このトレイルネームで呼び合うことが多い。自分でつける場合と、周りの人につけられる場合の2通りある。
パシフィック・ノースウエスト・トレイル(PNT)。正式名称は「The Pacific Northwest National Scenic Trail」。アメリカとカナダの州境付近、ワシントン州、アイダホ州、モンタナ州の3州をまたぐ1,200マイル(1,930キロ)のロングトレイル。歴史は古く、1970年にロン・ストリックランドによって考案された。そして約40年の歳月を経て、2009年にNational Scenic Trailに指定された。現時点において、もっとも新しいNational Scenic Trail。
TRAILSのアンバサダーであり、PNTの管理団体のディレクターであるジェフは、次のように言っている。「PNTにはロング・ディスタンス・ハイキングの良きレガシーが残っている。またPNTでは、他ではできない孤独を経験することができる。またハイカーは真の自立を実践することによる喜びを、感じることができるんだ。」
ハーフポイント到着。PNTでは珍しいトレイルマジック。(DAY32〜DAY35)
牛は近くで見ると目が怖い。
リパブリックから次の街オーロヴィルまでは間隔が短く、人の手が入った舗装路を歩く機会が増える。
早朝に歩いていると、トレイル脇の民家からおばあちゃんが出てきて、クッキーを頂いた。その後、夕方にはハイカーに開放されている教会にてピザを頂く。
PNTではトレイルマジックはなかなか無いので、これらの機会は貴重でとても印象深い。
さらに、突然、雹 (ひょう)に見舞われた時には、近所の家の軒下に避難させてもらい、かつ水まで頂いてしまった。
空を見ると雲の位置が高くすっかり秋の空。
季節の変わり目に日本との共通点を感じ少しほっとした。
放牧されている馬を見たり牛と睨み合ったり、人里も楽しい。
街で唯一のモーテルでZとshepherdに再会した。
サクサク進み、PNTの中間地点の街オーロヴィルに辿り着く。
モーテルにチェックイン後、ほっと一息つきベッドに横になり思う。あと半分でPNTが終わるなんて実感が湧かない。
ただ毎日歩き続けているだけだけど、少しずつ確かに進んでいる。これからの半分も同じように楽しめたらいいと思う。
オーロヴィルは大きい街だ。モーテルにはハイカーボックス (※2) もあり、ハイカーに理解がある。
オーロヴィルでの別れる前の1shot。2人とも元気そうで嬉しい。
前回の別れ以降、Zとshepherdは僕のフットプリント (足跡) を見ながら歩いてきたらしい。
僕はこの街でモーテルに2泊し、先に出発するZとshepherdを見送った。毎回2人のことを書いているが、それ程印象に残っているハイカーだということでご容赦頂けたら。
また会えたらいいなと別れる度に、いつも思っていた。
しかし結果的にはオーロヴィル以降再会することは叶わず、この街以降は二人のフットプリントを追いかけながら、PNTを終えることになる。
寂しい気もするが、それぞれのペースがあるので仕方ない。
まぁ、そんなものだろう。
※2 ハイカーボックス:ハイカー (特にスルーハイカー) が不要になった食料や道具を入れる箱のこと。ハイカーは、必要なものは自由に持ち出すことができる。
快速のトリプルクラウナーBambooとの出会い。(DAY36)
新たに出会ったPNTハイカーのBambooとレストランにて朝食。
出発当日、朝ご飯を食べに行くためモーテルから出ると、PNTハイカーのBambooと出会った。そのままモーテル近くのレストランで一緒に朝食の時間を過ごす。
彼は僕より少し後に歩き始め、猛烈な速さでここまで辿り着いている。昨日は夜通しで46mile (74km) も歩いたそうだ。9月の始めに予定があるらしくそれまでには終えたいらしい。
彼はトリプルクラウナー。その速さと底知れぬスタミナにも納得だBambooはゆるい雰囲気を醸し出しており、話しやすかった。
少しでも早く歩き始めたい僕は、食事の後すぐにモーテルに戻り先に出発した。
日陰のないロードウォークは灼熱。
2日街でだらだら過ごし回復したはずが、あまりの暑さにすぐにバテる。舗装路はトレイルと違ってフラットで歩きやすいが、日陰がない。
暑さにやられかかっている中、トラックのドライバーさんが声をかけてくれ、冷たい水を頂いた。その彼の自宅に招待してもらい、奥さんも交えてチキンとサラダを食べながら談笑する。
トラックのドライバーさんの自宅でチキンやサラダなどを頂く。
自宅横がPNTのルートになっており、ハイカーを見かけるたびに声をかけて食事や水を提供しているらしい。
様々な人に立て続けにいろいろしてもらい、運を使い果たすんじゃないかと思った。でも、これがアメリカのトレイルカルチャーの歴史の深さなんだろう。
ジェフの記事で強く印象に残っていた、秘境パサイテン・ウィルダネス。(DAY37〜DAY39)
ジェフの記事に出てきたパサイテン・ウィルダネの写真。
少しづつ人の気配が薄まっていき、山深い自然の中のトレイルに戻ってきた。
これからパサイテン・ウィルダネスに入り、標高2000m〜2400mくらいのところを数日かけて歩く。
TRAILSのジェフの記事で、印象深かったエリアだ (ジェフの記事はコチラ)。
僕は予期せぬストームに鉢合わせした時のことをイメージし、長期停滞に備えて予定より4〜5日分多い食料を用意していた。
さらにこの時のために3つのモバイルバッテリーをパッキングしてある。
これで万事安全なはずだが‥。
正直オーロヴィルを出て割とすぐにバックパックのあまりの重量に後悔しかけている。
これではまるで、人間充電所ではないか。
カテドラル・パスでの風景。楽園のような土地。
パサイテン・ウィルダネスは、不安もあるが楽しみでもある。
このエリアで一番印象的だったのはカテドラルパスであった。迫力のある岩山に間に挟まれ、まさに秘境といった場所だった。
地面に緑が生い茂り、小さな水の流れに沿って池があり、あたりに花が咲いている。
走るマーモットのような動物のおしりが見えた。よく見ると蝶々もひらひら辺りを漂っている。
楽園みたいなとても穏やかな場所だった。
PNTのパサイテン・ウィルダネスから見たレンメル山。
その後、トレイルボランティアの方たちとも何度かすれ違った。挨拶するとみんな爽やかな笑顔だ。
こんな山深いエリアに工具を持ち込み、トレイル上の倒木を切って、撤去する力仕事をこなすのは大変だろう。
カテドラル・パスから続く素晴らしい景色の場所を過ぎると、見渡す限り倒木だらけのエリアに入る。
短パンで剥き出しの足に擦り傷を作りながら、またいで進むが思ったように進まない。
「これこそ冒険だ!」
と気持ちを盛り上げながらガシガシ歩く。トレイルをまっすぐ進むのも一苦労。周りの景色を見る余裕があまりない。
倒木エリアは思うように進めない。
後日、多発する嵐や山火事による倒木で、ボランティアの方達の作業が追いついていないと聞いた。
印象的な美しい景観と倒木の中を進むワイルドな道が混在するこのエリア今まで深く考えず歩いてきた道は、ボランティアの人たちの並々ならぬ労力の上で成り立っていることを痛感した。
その日の夜、山火事跡のエリアから抜け出せず、焼け焦げた木に囲まれながら眠った。強風が吹き木が倒れてきたらひとたまりもない。
荒れたままの土地で過ごした一晩は生きた心地がしなかった。
現在のまだ発展途上のPNTを歩ける幸運。(DAY40〜DAY41)
PCTと重なるエリアは、全ての景色が素晴らしかった。
フォレスティ・パスの規則的なスイッチバックをすぎ、徐々に標高を上げていく。
いよいよPCT (※3) と重なる区間に入る。
僕は立ち寄らなかったが、少し寄り道すればカナダ国境にあるPCTのモニュメントにも立ち寄れるらしい。
少し進むと続々と現れるPCTの景色に圧倒された。
ノースバウンド (北向き) で歩くPCTハイカーと何度もすれ違う。もうすぐスルーハイクを終える彼らの表情からは、誇らしさと安堵感が感じられた。
僕は歩き終えた時に、どんな気持ちになるんだろうか。
PCTのエリア内でテント泊をした翌朝、外から咳き込む声が聞こえ誰かと外を覗くとBambooだった。
昨夜は、雨が降っていたのにカウボーイキャンプで凌いだらしい。かっこいいと思ったが、何をもってしてかっこいいのか、もはやよくわからない。
この日以降、何度もBambooとトレイル上で出会った。彼はいつも飄々 (ひょうひょう) としていて、話していると気持ちがいい。
数える程しか会っていないのに、自分のことを知っている人が近くにいるとなぜか安心する。
PCTのホプキンス・パスあたりで見た夕暮れ。
PCTの区間からPNTへの分岐点に入った途端に、倒木が増え始めた。
人の気配も徐々に薄くなり、徐々にアドレナリンが放出されるのを感じる。
「ようやく帰ってきたぞ!PNT!」
と心の中で呟いた。
ワイルドな道も楽しめればいい!
PCTとPNTでは知名度の差もあると思う。どっちが良いとか比べようもない。
PNTも、これからたくさんの人に知られて、ボランティアの方々、ハイカーの数が増えればまたトレイルの様子も変わるだろう。
発展途上のPNTをこのタイミングで歩けてとても幸運だ。
※3 PCT:Pacific Crest Trail (パシフィック・クレスト・トレイル)。メキシコ国境からカリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州を経てカナダ国境まで、アメリカ西海岸を縦断する2,650mile (4,265㎞) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。
PCTと重なる区間を離れてPNTでみた景色。デビルズドームあたり。
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