信越トレイル ハイキング&トレイルメンテナンスツアー | ハイカーのライフワークのカタチ
文・写真:根津貴央 構成:TRAILS
唐突であるが、僕は、自然だけを楽しむのであれば別にロングトレイルを歩かなくても登山で充分だと思っている。
じゃあなぜ僕がロングトレイルが好きで、ロングトレイルを歩くかといえば、山だけではなく里も楽しめるからだ。
人に触れ、食に触れ、暮らしに触れ、文化に触れる。
結果、「信越トレイルが好きになった!」だけではなく「飯山の街が好きになった!」「信越地方が好きになった!」となる。トレイルだけではなくその地域への愛着がわくのがロングトレイル(あるいはロングディスタンスハイキング)なのだと考えている。
そういう点において、今回のイベントはロングトレイルの歩き方、楽しみ方として、あるべき姿を見せてくれたのではないだろうか。
今年も、信越トレイルに遊びに行ってきた。今回は、ハイカーズデポ&TRAILSのクルーだけでなく、一般応募で集まってくれたお客さんと一緒だった。1日目はブナの森が美しい信越トレイルの関田山脈エリアをデイハイキングして、地元飯山のスイーツも楽しみながら大人の遠足といった感じのゆるやかな遊び方をした。2日目は、信越トレイルのトレイル整備に参加し、冬の積雪により崩れた階段の修復作業など、トレイルづくりを手がけた。またちょうどこの記事が公開されるタイミングで、POINT6から信越トレイルモデルのソックス(ST LIGHT CREW)の発売が発表された。このソックスは、販売利益の25%は信越トレイルの保護、保存のために信越トレイルクラブに寄付される。こちらは次ページで詳しく紹介したい。
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■DAY1 信越トレイルを歩く
信越トレイルのブナ天然林にそびえる『鬼ぶな』
信越トレイルといえば、ブナ。みずみずしい緑と降り注ぐ木漏れ日のなかを歩くのは、とにかく気持ちがいい。
特に今回のコース(関田峠〜牧峠周辺の約5㎞)は豪雪地帯。雪の重みで根元が大きく湾曲しているブナが多く、厳しい冬を耐え抜いたブナの生命力がおどろくほど力強く伝わってくる。
樹齢200年のブナも珍しくないそうで、巨木が多いのも特徴だ。そしてラストに僕たちを待ち構えていたのが『鬼ぶな』と呼ばれる巨木ブナ。参加者一同、その大きさに圧倒されて息をのむ。樹齢はなんと300年以上とのこと。
信越トレイルの峠から里山の集落へ。日本の里を味わうのもロングトレイルの楽しみ。
トレイルを歩いて終了!ではない。いや、ここからが本番、ここからがクライマックスといっても過言ではない。信越トレイルは新潟県と長野県の県境を通るトレイルだが、昔はこの里山を超えて山の反対側へとお互い行き来する生活道が通っていた。信越トレイルにある峠は、その生活道のなごりである。
僕たちは、峠から麓の柄山(からやま)集落に下りて、飯山市の天然記念物『柄山大ケヤキ(熊野神社のケヤキ)』の下で休憩をとることに。集落のなかに鎮座している巨大なケヤキと祠。神聖な空気ただようこの空間にいるだけで、なんだか心が洗われる感じだ。休憩後は里歩き。豪雪地帯ならではの造りをした家並みを見ながら、今晩の宿である『なべくら高原・森の家』へ。山だけではなく里も楽しむ。これがロングトレイルの魅力のひとつでもあるのだ。ちなみに、この里のルートは『なべくら高原・てくてくMAP』として森の家などで無料配布されているので、要チェック。
飯山の郷土料理、うまし!地元のメシは歩き旅の醍醐味。
トレイルを歩くだけでなく、その道の周りにある食文化を堪能するのは歩き旅の愉悦である。道はそれ自体では存在せず、かならず生活や文化とつながっているのだから。それこそロングトレイルの原点に触れる、旅の楽しみでもある。
テント泊で自炊!もいいけれど、今回はより深く信越トレイルを味わうべく、郷土料理を食すことに。『いいやま湯滝温泉』で提供してくれた料理は、とにかく絶品。戦国時代から伝わる郷土食の笹ずしをはじめ、田植え煮物(凍み大根の煮物)やエゴ(海草の寒天)など、飯山の食を堪能した。
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■DAY2 ロングトレイルを作る
「歩く」側だけでなく「つくる」側のことを知ると、トレイルへの愛着が深くなっていく
ロングトレイル大国アメリカでは、数多くのボランティアスタッフがトレイル整備にたずさわっている。実際、僕がパシフィック・クレスト・トレイル(PCT)やアパラチアン・トレイル(AT)を歩いたときも、何度もメンテナンススタッフと出会った。
信越トレイルの整備も、多くのボランティアスタッフによって成り立っている。そして、ハイカーズデポ & TRAILSのイベントも2013年にスタートして今年で5回目を迎えた。どういうきっかけで始まり、どんな想いでつづけているのかは、こちらの記事(ロングトレイルの作り方(後編)/ 信越トレイルのこれから)を改めて読んで見てほしい。
今回は、6名の参加者とともに急斜面に木段を作った。全員、トレイル整備は今回がはじめて。トレイル整備に関わると、まず体感するのは、自分が整備した道を歩いてくれる人がいることの嬉しさである。今回の参加者からは次のような感想をもらった。「簡易の階段を作るだけで、こんなにも歩きやすくなるんだ!とビックリしました。歩く人の役に立っているんだなあと実感できました」
「整備とかは行政でやってると思ってたんですが、ボランティアの人がやってるんだなと。僕がそこに関われるのはすごくステキなことだと思いました」
また参加者のなかでは、アメリカでのトレイル整備やボランティアのカルチャーに触れ、それを日本で自分でもやってみたかったという人たちもいた。
「アメリカに長い期間いたこともあって、ボランティアの存在は知っていました。以前から、トレイルを歩くだけでなく、トレイルを整備するノウハウみたいなものを学びたかったんです」
「アパラチアン・トレイルを歩いたあと、あらためて加藤則芳さんの本を読んだら、土地に対する愛情にあふれているなと。僕も歩く道と、土地と、自然と、そこを管理している人たちのことを、より知りたいと強く思うようになったんです。そういう意味でも、この2日間は有意義でした」
加藤則芳さんが描いた、未来の信越トレイル。延伸ルートの計画が進行中。
生前、加藤則芳さんは語っていた。
「信越トレイルへの私の思いはさらに続きます。関田山脈から東西に距離を延ばすことで す。東は秋山郷から苗場山、白砂山へ、西は笹ヶ原高原を通って雨飾山から白馬岳までと、信越国境すべてを貫く壮大な『信越トレイル』を夢見ているんですよ。」(「信越トレイル公式ガイドブック『信越トレイルを歩こう!』」より引用)
信越トレイルクラブ事務局のスタッフいわく、その信越トレイルを苗場山へとつなぐ延伸計画が進行中とのこと。現状、ルートもまだ完全には確定はしておらず、開通日も決定はしていないが、非常に魅力的なルートになるそうだ。
これまで5年にわたり整備に参加してきたハイカーズデポ & TRAILSは、来年以降ぜひともそこにたずさわりたいと目論んでいる。
『新しい道づくり』なんて、そうそう関われるものではない。いちハイカーとして、僕も非常に興味があるし、チャンスがあるなら手伝いたい。そして、できることならたくさんのハイカーに参加してほしいとも思う。
歩く道を歩く人みずからが作る。こんな日が来ることを願ってやまない。
【後編:トレイルで遊び続けるために、自分たちができること〜POINT6から信越トレイルモデルのドネーションソックス発売】
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