TRAILS REPORT

NIPPON TRAIL #02 四国お遍路 〜歩き旅のカルチャーが息づく道

2017.10.27
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文:根津貴央 構成:TRAILS

NIPPON TRAILの第2回は、四国お遍路。いわずと知れた、日本の巡礼道だが、舗装路も多く、バスツアーの観光客も多い。はたして本当に歩いて面白いのか。TRAILSでは、区切り打ちと呼ばれるセクションハイキングで札所をつなぎ、阿波(徳島)、土佐(高知)、伊予(愛媛)の各セクションを巡る旅のプランをつくった。高知では、歩くだけでなく、パックラフトで四万十川を渡って次の札所を目指す計画をした。最後のゴールは、名湯の道後温泉。ぜんぶで10日間130kmの行程をゆく旅。そこには自然を楽しむだけでない、街や人や食、四国という場所にしかない素敵な出会いが折り重なる旅があった。四国お遍路には、歩き旅のカルチャーがまちがいなく息づいていた。

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スペイン巡礼道を歩いた世界の旅人が、次に目指す四国お遍路



お遍路道を歩いているとき、ある台湾人の男性に出会った。聞けば、2016年にスペイン巡礼道(カミーノ・デ・サンティアゴ)を歩いたとのこと。もともと登山などのアウトドアには馴染みがなかったらしいが、スペイン巡礼道で歩き旅の魅力にハマり、次の旅先として日本の巡礼道を選んだという。なんでも、ここを歩き終えたら台湾で待っている彼女にプロポーズするんだ!と言っていた。

いろいろ調べてみると、スペイン巡礼道の後にお遍路道を選ぶ人は多い。そして、今回の旅の発起人であるTRAILSの小川もまた、きっかけはスペイン巡礼道だった。

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「学生のときに、大阪にある国立民族学博物館(みんぱく)に行ったら、たまたまスペイン巡礼道の展示をやっていて。バックパックを担いで、聖なるものも俗なるものも入り混じりながら、長い歩き旅する日々に憧れを抱きました。でも、巡礼の道といえば日本には遍路道がある。であれば先に自国の道を歩いてみようと思ったのです」

※「四国お遍路」とは、弘法大師ゆかりの四国八十八箇所の霊場を巡礼すること。本稿では、その定義どおり、そこを歩く行為を「お遍路」と表記し、その道自体については「お遍路道」あるいは「遍路道」と表記する。



長いだけではない。お遍路道にはロングトレイルの旅の要素がつまっている



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僕が5年前に北米のロングトレイルを歩いていたとき、アメリカ人ハイカーに「日本にはロングトレイルはあるのか?」とよく聞かれた。その頃の僕は、何をもってロングトレイルというのかが明確になっていなかった。だからいつも答えに窮していた。逆にアメリカ人から「お遍路は?」と言われたりもした。

当時は僕のなかで巡礼の道とロングトレイルが結びついていなかったが、よくよく調べてみるとかなりの共通点があることがわかった。

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戦前の四国お遍路の絵葉書。鉄道省発行。鉄道、汽船の交通網の発達とともに、「モダンお遍路」が流行する。(TRAILS所蔵)

アメリカのトレイルエンジェルのように、歩き旅をする道があれば、その周りにそれをサポートしたいという人の習慣や文化ができあがってくる。お接待とは、お遍路さん(お遍路を歩く人)に食べものや飲みものを無償で施す行為で、遍路道のまわりには文化として根づいている。高知に住む友人にこのことについて聞いてみたら、こう答えてくれた。

「遍路道のお寺で近くで育った私は、お接待という文化は子どもの頃から当たり前のことでした。お遍路さんに出会ったら、お茶を出したり何か食べてもらったりして、自分たちの分まで詣でてもらえるようにと接するのです」

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また、お遍路は歩き方の自由度も高い。巡礼の道ゆえに、一度ですべてを歩くことが重要なのかと思われがちだがそうではない。通し打ち(一回で八十八箇所すべての札所を巡拝すること)、区切り打ち(何回かにわけて巡拝すること)と歩き方にも種類がある。順打ち、逆打ちと、巡拝の方向もどちらでもよい。それに1番札所からでなく、どこから始めても、どこで終わりにしてもよい。海外のロングトレイル風に言えば、ノースバウンドだって、サウスバウンドだって、セクションだってかまないよ、という感じだ。

ちなみに僕たちは今回、区切り打ちという、いわゆるセクションハイキングのスタイルで、徳島、高知、愛媛の3つのエリアを歩いた。

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上図の実線が歩き(一部パックラフト)の移動。点線が公共交通機関の移動。
【今回の行程】 [Section1]: 徳島2days 1〜10番札所/[Section2]: 高知5days 33〜30番札所、37〜38番まで四万十川パックラフト & 鉄道・バス、見残し海岸でZero day/[Section3]: 愛媛3days 44〜51番札所まで歩き、道後温泉がゴール




遍路宿は、旅人同士の出会いと、トレイルの情報交換でにぎわう



初日に泊まったのは、徳島の5番札所の前にある「おんやど森本屋」。この宿では、逆打ち(札所を逆順に巡拝すること。順番通りは順打ちと呼ぶ)のお遍路さんに出会った。あと1日で踏破とのことで、そのあとフェリーで本州に渡って高野山まで足を運ぶのだそうだ。

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宿坊、御宿(おんやど)、民宿、テント泊など、泊まり方もいろいろ選べる。宿に泊まれば、お遍路さん同士の情報交換ができたり、おいしいローカルフードが食べられるのもうれしい。

遍路宿には多くの巡礼者が泊まっていて、「あそこの寺の手前の坂がキツイ」「あの道でマムシが出たから注意したほうがいい」など、さまざまな情報交換がなされていた。お互いの身の上話もしたりして、ゲストハウスやシェアハウスみたいな雰囲気があり、自然とコミュティ感がただよう。若い人も、おじさんもおばさんも、1つの空間をシェアしている。アメリカのロングトレイルでいうハイカーコミュニティのような感じだ。これが観光旅行で泊まったとしたら、旅人同士、あるいは宿や地元の人たちと話すことは、これほどはないだろう。お遍路さんだからこそ生まれる一体感、連帯感だ。

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お遍路で使った帽子は、ZpacksのPointy hat(ポインティーハット)。「なんだ?その笠は?」とよく話しかけられた。「ハイブリッドキューベンという素材を使ってて」「は?」、「アメリカのメーカーが作ってて」「アメリカ?」みたいな会話をくり返した。

宿に限らず、道すがらたくさんの人と話をした。地元の人だったり、お遍路さんだったり、納経所の方だったり。「今日はどこから来たんですか。」「どこまで行くのですか。」「あそこのお寺はいいでしょう?」「この先にはこんなところがあるからぜひ寄ってみて。」「今日は暑いから気をつけて。」歩いていると、ほんとうによく声をかけられる。みんなお遍路道が好きで、この町を誇りに思っているのが伝わってくる。こうやって触れ合いながら歩いていると、決められた道を計画通りに進んでいるのだが、不思議と人との会話が次の道を紡いでくれているような感覚になる。

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徳島特有の「いぶし瓦」で立派な家並み

徳島エリアが終わりを迎える頃、お遍路道は川の土手にあがった。小高いところに行ってみると、徳島特有の「いぶし瓦」で屋根で覆われた、立派な家屋の並びが眼前に広がっていた。端午の節句が近かったこともあり、その屋根の合間から大ぶりな鯉のぼりが悠々と空を泳いでいた。ふとこの土地の空気が身体に沁み込んでくる感触をおぼえ、僕たちはずいぶんと長い間、それに見入っていた。



四万十川のパックラフトでの川旅も交えながらお遍路道をつなぐ



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お遍路の道中、四万十川をパックラフティング。37番札所の先の土佐昭和からプットイン。次の38番札所までの間を川でつなごうとこころみたが・・。

高知は四国でもっとも面積が広いが、札所の数はもっとも少ない。そのため、お寺の間の距離が必然的に長くなり、高知は「修行の道場」とも呼ばれている。「カツオの道場」だとばかり思っていたのだが、意外にも苦しそうなセクションだ。

特に37番岩本寺〜38番金剛福寺までは、歩き道だと85㎞、21時間もかかる。ここをどうクリアするか地図を眺めて考えていたら、四万十川が流れていることに気がついた。そうだ、一部のエリアをパックラフトでつなげてみればいいんじゃないか!? 

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左上:窪川駅近くの37番岩本寺。他写真:お遍路旅に組み込んだ四万十川の川旅の様子。

あらかじめ37番札所近くの宿に舟やパドルなどの川道具を送っておいた。そして川のパートが終わったら近くの商店などから送り返すことにした。長い旅になると、補給のための食料や燃料などを、途中の街や宿に送っておく方法は、ロングハイキングでよく使われる。それと同じ感覚で、歩き旅とパックラフトによる川旅を組み合わせ、自分たちなりのお遍路スタイルをこころみた。

土佐昭和から漕ぎ出したが、江川崎に近づくに連れ、流れが遅くなり、漕ぐのがかなり大変になった。なんとか日没前に長生沈下橋そばのキャンプ場に到着。四万十川を眺めながらのんびり河原キャンプを楽しんだ。翌朝、目が覚めると、昨日よりも風が強くなっていた。川下から吹く強い逆風に、この日の行程は途中で断念・・。バスと鉄道を乗り継ぎ、四国最南端の足摺岬(あしずりみさき)を目指した。思い描いたことはすべてできなかったが、昔は川も生活や物資輸送のための「道」であったことを考えれば、ロングハイキングに川のルートを組み合わせる面白さは、他のエリアでもできるはずだ。



道という道をつなぐことで、長い歩き旅のトレイルが形づくられる



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舗装路から山道、自然散策路までいろんな道をつないで、ひとつの長いトレイルとしてつながる。海外でも、舗装路やジープロードなどをつなぎながら歩く、ロングトレイルは多い。

今回、徳島、高知、愛媛と歩いてきて思ったのは、道の多様さ。

街中の生活道を通ったり、車道の脇の細い歩道を通ったり、田んぼの脇道を通ったり、ときに川もトレイルとして渡ったり……とにかくありとあらゆる道をつないでいる。これまでにこんなタイプのトレイルを歩いたことはなかった。

舗装路の区間が長ければ辟易してしまうこともあるけれど、あるゆる道をつないで、自然のなか、町のなかを歩いて旅しつづけることが楽しい。寄り道やふとした気づきが増え、道端での買い食いなんかがが多くなるのも、こういったロングハイキングならではの面白みだ。アルプス縦走などでは体験できない、メロウだけど滋味深い旅の味わいがある。

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今回ラストのお寺は、愛媛・道後温泉の近くにある51番石手寺(いしてじ)。あとはゆっくりと道後温泉につかって、すかっとビールを飲むだけだ。これで今回の10日間にわたるお遍路区切り打ちを終わりだ。

徳島からはじまり、高知を経由して、愛媛へ。3県あわせて20ほどのお寺を巡った。お遍路道は、ロングトレイルに必要な要素を教えてくれた気がする。長く道を維持されてきたこと。長い歩き旅を可能にしてくれる、宿やテントサイト。お接待や旅人同士などにおいてできあがっている周辺的な文化。そして、退屈そうなトレイルだって、自分のアイディア次第で、素敵な旅にできるんだ、ってこと。

そんなNIPPON TRAILのいろいろな魅力にあらためて気づかされた旅だった。百人いれば百通りのお遍路がある。次は四国お遍路の締めくくりに「お礼参り」として訪れる習慣のある、高野山へ向かってみようと思う。高野山から熊野古道を歩く旅だ。「修行の道場」を「カツオの道場」と思っていた僕に、結願が果たせるかはわからないけれども。

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ゴールは道後温泉!130kmを歩ききった後につかった温泉は、いわずもがな最高の愉悦だった。





review

生半可な気持ちで歩いてはいけないのではないか。日頃から信仰心の少ない僕は、お遍路道に対して少し敷居の高さを感じていた。

でも、それはまったくの杞憂だった。お遍路は、あらゆる人を無条件に受け入れてくれる。
苦しい思いをして功徳を得たいという人、自分探しをしたい人、癒しを求めている人、何かしらの祈願のためという人はもちろん、僕みたいにただ単に歩き旅を楽しみたい人も。

僕は “楽しむ” ということを重視しているので、歩くにあたって目的を掲げたり、見返りを求めたりすることはない。ただ、結果的にさまざまなことを得ることはある。

その点で言うと、お遍路道は、道だけではなくその土地、地域、人、文化、歴史を肌で感じることができる素晴らしい道である。

僕がロングハイキングの何が好きかって、歩いた地域に愛着がわくことである。登山の場合はその山を好きになることが多いだろう。富士山に登って静岡が好きになったとか、高尾山に登って東京が好きになったという話はあまり聞かない。でも、ロングハイキングをすると、通過した町や立ち寄った町が好きになるのだ。そこがおもしろい。

ジュリアン、アグアドルチェ、セイアドバレー、カスケードロックス、スカイコミッシュ……耳慣れない名前ばかりだろうが、いずれも僕が好きなアメリカの田舎町。ロングハイキングをすることがなかったら、これらの町を知ることは一生なかっただろう。

お遍路道を歩けば、観光では味わえない四国の知られざる魅力がきっと手にできるはずだ。



[MOVIE: 四国お遍路 NIPPON TRAIL #02]






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WRITER
根津 貴央

根津 貴央

1976年、栃木県宇都宮市生まれ。幼少期から宇宙に興味を抱き、大学では物理学を専攻。卒業後、紆余曲折を経て広告業界に入り、12年弱コピーライター職に従事する。2012年に独立し、かねてより憧れていたアメリカのロングトレイル「パシフィック・クレスト・トレイル(PCT/総延長4,265km)」のスルーハイクのために渡米。約5カ月間歩きつづける。2014年には「アパラチアン・トレイル(AT/総延長3,500km)」の有名なイベント「Trail Days」に参加し、約260kmのセクションを歩く。同年より、グレート・ヒマラヤ・トレイル(GHT)を踏査する日本初のプロジェクト『GHT Project(www.facebook.com/ghtproject)』を仲間と共に推進中。現在はアウトドア系のメディアを中心に執筆活動を行なう。著書に『ロングトレイルはじめました』(誠文堂新光社)がある。

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