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リズ・トーマスのハイキング・アズ・ア・ウーマン#15 / 日本人ハイカーはどう思われてる?<前編>アメリカ人ハイカーとPCTAの視点

2018.10.31
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(English follows after this page.)

文:リズ・トーマス 写真:リズ・トーマス、舟田靖章 訳・構成:TRAILS

アメリカ人ハイカーは、ジョン・ミューア・トレイル(JMT)やパシッフィク・クレスト・トレイル(PCT)などアメリカのロングトレイルに来る、日本人ハイカーをこころよく受け入れているのだろうか。そんな疑問を持ったリズが、日本人ハイカーと接したことのある人たちに、この質問を訊いてまわりました。

そこで答えてくれた内容は、いつかはアメリカでロングディスタンスハイキングをしたいと思っている人にとって、アメリカに行く前に知っておくべきことを教えてくれる、すぐれた教科書にもなっています。

そして今回の記事では、日本人ハイカーの例として、日本人初のトリプルクラウンの舟田靖章くんが登場します。ほとんど日本人が歩いていなかった頃に、アメリカのロングトレイルで舟田くんはどのように見られていたのでしょうか。そんなことを、うかがい知ることができるレポートとしても、とても興味深い内容です。


アメリカ人は、日本人ハイカーをどう思ってる?


ロングディスタンスハイキングに出かけるのは、勇気がいります。そして外国のロングトレイルを歩くのは、もっと勇気がいることです。それにもかかわらず、毎年、多くの日本人が、ジョン・ミューア・トレイル(JMT)やパシッフィク・クレスト・トレイル(PCT)を歩いています。

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Mt McLaughlinとRed Lava Trailのあたりは、PCTの最も象徴的な場所のひとつ。

でもアメリカ人は、外国から来ているたくさんのハイカーに対して、どのように思っているのでしょうか。最近、アメリカ人は外国人が好きではない、といったニュースも目にします。私は、このようなことはハイカー・コミュニティーでは起こっていない、と願っているのですが。

しかし私はきちんと知る必要があります。アメリカ人は、外国人ハイカーがPCTを歩くことを好意的に思っているのか。あるいは、アメリカ人はアメリカ人だけでトレイルを歩きたいと思っているのか。アメリカという国は、日本人ハイカーを歓迎しているのだろうか。これらの疑問に答えるために、トレイルに関連するところで、日本人と交流したことのあるアメリカ人に、インタビューをしてみました。

話を聞いたのは、トレイルの情報提供している団体、トレイルエンジェル、そしてアメリカ人ハイカーたちです。


PCTスルーハイカーの3分の1が、外国人ハイカー


まず最初に、PCT協会(Pacific Crest Trail Association)に話を聞いて、アメリカ人ハイカーは日本人ハイカーをどう思っているか、を理解することから始めました。PCT協会のウェブサイトは、PCTを歩く夢を持っているハイカーが、最初に訪れる場所だからです。PCT協会は、フォレスト・サービスとともに非営利でPCTを管理している団体です。フォレスト・サービスのウェブサイトもまた、ハイカーたちがPCTを歩くパーミット(許可証)の申請のために訪れる場所です。

PCT協会にいるトレイルの情報のスペシャリストであるジャック・ハッケルが、話をしてくれました。ジャックは「2017年は、PCTスルーハイカーのだいたい3分の1が、外国人でした」、と教えてくれました。だからこそ、PCT協会は、外国人ハイカーたちを歓迎することに注力をしているのです。

PCTA
PCT協会(Pacific Crest Trail Association)のウェブサイト。PCTを歩きたいと思っているハイカーは必ずチェックするサイト。

例えば2018年のハイキングのシーズンに、PCT協会はパーミット(許可証)の申請開始日を変更しました。以前は申請許可を受け入れていたのは2月でしたが、最近は(前倒しされて)11月に変更になりました。

これは外国人ハイカーにとって非常に助かることです。ビザをとる期間が十分にとることができ、高額な国際線の航空券を購入するのにも時間的な余裕ができます。ジャックも言っていましたが、ビザを取得したり、航空券を購入したのに、ハイキングのパーミッションが取れなかったら、ハイカーに恥かしい思いをさせてしまうことになるかもしれませんしね。


アメリカでハイクする前に、外国人ハイカーが知っておくべきこと


LIZ15_1_2_Washington
PCTのワシントンのエリアにある、サインの立てられた分岐点。

外国人ハイカーは、アメリカに行く前にきちんと知っておくべきことはないかと、不安を抱えています。それは、どのようにビザを取るかといったことから、アメリカのレストランでのチップの習慣にいたるまで、あらゆることです。PCT協会も、そういった心配があることをわかっています。なので、PCT協会のウェブサイトには、アメリカに来る前に外国人ハイカーが知っておくべき情報が、たくさん載っています。( https://www.pcta.org/discover-the-trail/backcountry-basics/international-hikers/ )

PCTをすべて歩くか、一部分か、またはJMTを歩くかに関わらず、アメリカとそれ以外の国(日本を含む)でのハイキングの違いを、きちんと知ることが大事だとPCT協会は言っています。

アメリカでハイキングすることは、ウィルダネスにいることを含みます。町や、小屋や、ティーハウスからかなり離れたところに、何日もいることがあるのです。またアメリカ西部の多くのエリアでは、焚き火は禁じられています。ハイカーはPCTやJMTにいるとき、たくさんの人が収容できるきちんとしたキャンプ場に泊まることも、ほとんどありません。トイレやシャワーもめったに利用できません。アメリカでは、自分だけで、好きなようにキャンプをするのが普通です。


ウィルダネスにおける“Leave No Trace”のルールを覚えておこう


LeaveNoTrace__
Leave No Traceのウェブサイト。最低限、「7つの原則(The Seven Principles)」は覚えておくべき。

アメリカのハイキング・スタイルは、独立と個人の責任が重要視されているのです。その理由として、アメリカは土地が広く、ウィルダネスが町から遠いところにあるという事情があります。他の国でのハイキングと比べても、トレイル上に何かよくないことが起こったとしても、助けてもらうこともかなり難しいのです。

“Leave No Trace”というウィルダネスの倫理があります( http://www.lnt.org/ )。それは個人が、自然および自分自身に対して責任を持つ、という考えに基づいています。アメリカでは、Leave No Traceというウィルダネスの倫理は、山におけるルールです。

日本のハイカーはLeave No Traceをリスペクトする傾向にあります。Leave No Traceのルールは、アメリカ人が独自につくった考え方で、多くの外国人ハイカーにとっては初めて出会う考え方です。

Leave No Traceにおける重要なルールには、以下のようなものがあります。すべてのゴミを持ち帰ること。人間が出す排泄物を適切に処理すること。焚き火による影響(インパクト)を削減すること。キャンプする場所の選び方によって、自然が変わってしまう可能性があるのをきちんと意識すること、などです。

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PCT協会は、シエラで渡渉する際は、他のハイカーと”buddy-up”をすることを推奨している。

PCT協会は、外国人ハイカーたちも、アメリカのハイカーと同じように、Leave No Traceのウィルダネスの倫理を学ぶべきであり、またきちんと実践しなければらない、という強い思いを持っています。

他のハイカーと同じように日本人ハイカーに対しても、雪に覆われたシエラのセクションや、危ない渡渉をする前に、他のハイカーと “buddy-up(少人数のグループを組むこと)“ を行なうことを、PCT協会は推奨しています。

PCTにチャンレンジするすべてのハイカーは、雪のなかのハイキングや渡渉について、事前に経験をしておき、自信あるスキルを身につけておくべきでしょう。それに加えて、多くの外国人ハイカーにとっては経験のない、水のない砂漠地帯でのベスト・プラクティスについても、よく知っておくべきです。

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PCT協会は、雪に覆われたシエラを歩くときは、ハイカーになるべくグループとなって、注意して歩くことを推奨している。

私の印象では、PCT協会は日本人をはじめ国外のハイカーが来てくれるのを、積極的に歓迎しているようでした。しかし同時にPCT協会は、旅がうまくいくように、情報、スキル、経験を、他のハイカーと同じように日本人ハイカーにもきちんと確認することを求めているのです。


日本人ハイカーが一般的でなかった頃に現れた舟田靖章


2011年、舟田靖章さん(トレイルネーム:ヤス、ロックステディ、V8)が、パシッフィク・クレスト・トレイル、コンチネンタル・ディバイド・トレイル、アパラチアン・トレイルのすべてを歩き、日本人初のトリプルクラウンとなりました。

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写真中央のハットをかぶっている男性が舟田靖章。日本人初のトリプルクラウン。

TRAILSでは、2014年に、彼の体験についてインタビューした記事を掲載しています(TRAIL TALK #03 舟田靖章 http://thetrailsmag.com/archives/1769 )おそらく舟田さんにインスパイアされた人も含め、それ以降に、日本人ハイカーの中では、アメリカのロングトレイルを歩くことが、次第に一般的なことになってきました。

私はヤス(舟田靖章)と一緒にPCTを歩いたことがあります。しかし、私は少し日本語が話せるので、日本語が話せないアメリカ人が彼と交流するのとは、また違った体験だったと思います。

日本語を話せないアメリカ人ハイカーが、ヤスをどう捉えていたかを知るために、マイク・アンガーに話を聞きました。マイクは、コンチネンタル・ディバイド・トレイル(CDT)をヤスと一緒に歩いています。CDTはカナダからメキシコまでロッキー山脈に沿って通る3,100マイル(約5,000km)のトレイルです。マイクはPCTの一部でヨーロッパ人ハイカーたちと歩いたことがありましたが、ヤスは初めて一緒に歩いた日本人ハイカーでした。マイクはその経験がどのようなものだったか、という見解を話してくれました。

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CDTはシーズンの早い時期と後半の時期は、このように高山帯は雪に覆われることがよくある。

ヤスとマイクがハイキングした2010年時点のCDTは、今ほどトレイルとしてきちんと登録された道が、あるわけではありませんでした。その道のりの多くが、クロスカントリーであり、道標もないトレイルでした。ハイキングシーズンの早い時期と遅い時期では、高山帯は雪に覆われていることもよくあります。CDTはいまだに、他のロングトレイルよりも辺境のトレイルなのです。


アメリカ人にとっての「舟田靖章」という体験


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ヤス(舟田靖章)がアメリカのロングトレイルを歩いた頃は、日本人ハイカーはほとんどいなかった。

マイクとヤスは、トレイル上で、いろいろなハイカー・グループと一緒になりました。オーストラリアやニュージーランドのハイカーもいましたが、そのほとんどはアメリカ人でした。もともと計画していたわけではないですが、ヤスとマイクを含む8人のハイカーは、一緒にカナダ国境からスタートしました。3,100マイルの旅の道中、グループはさらに小さなグループに分かれたり、一人だけ先に進んだりします。これはロングトレイルにおいては、普通のことです。

マイクがヤスの説明として最初にあげたのは、「彼は今まで会ったなかで、最も地図読みのスキルがある人の一人だ」、ということでした。「ボブ ・マーシャル・ウィルダネスにいたとき、ヤスが先を歩いていて、僕は(ヤスと離れて)その後方をずっと歩いていたんだ。そのときは、雪がたくさん残っていたんだ。ヤスは片手に地図とコンパスを持って歩いたんだと思う。僕たちは、ヤスの足跡を辿って歩いていった。ときどき雪で足跡が途絶えて消えてしまっていただけど、雪の中からまたヤスの足跡はトレイルの正しい方向へとつながっていたんだよ。」

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CDTをハイキングする光景。

私は、日本で地図やコンパスの読み方を学んだことで、ヤスがこんなにすごいナビゲーターになったのか、と不思議に思いました。日本は山が急峻で、木がたくさんあります。だから、ナビゲートのための視界がないことによって、否応なくハイカーは地図とコンパスを上手にあつかえるようになるのではないか、と思いました。

アメリカ西部では、森林限界より高いところでは、ナビゲーションがとても充実していて、目的地への視界がよく、進むべき方向が簡単にわかります。マイクは、「ヤスは地形を読むことができて、どこへ行くか定めて、進んで行くんだ」と言っていました。

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ヤスは、バックパック、キルト、タープなどを”MYOG (Make Your Own Gear)”していた。

マイクはヤスのギアについても感動していました。「2010年には自分でギアを作る(MYOGする)人が多くなかったけど、ヤスは、ギアをとても真剣に作った最初の(頃の)ハイカーだ。彼は5kg未満(sub-10 pound)のキットを持っていたんだ。バックパック、キルト、タープを、自分で作っていたよ。あとフリースのミトンも自分で作っていたな。」

マイクと話しているうちに私は気になりました。何がヤスのギアを自作する気持ちをかり立てるのだろうか、と。どこで彼はそのスキルを学んだのでしょう。私は日本の小学校にいたとき、家庭科の授業が学校のカリキュラムにあることに、強い衝撃を受けました。男の子も女の子も、縫(ぬ)いもののやり方を習っていたのです。これはアメリカではまったく一般的ではありません。ヤスはきっと学校で縫いものを習ったんだ、と私は思いました。


外国人がほとんど行かない、アメリカの辺境を歩くCDT


LIZ15_1_10_CDT remote trail
CDTはとりわけ辺境を通っているトレイル。

CDTは、外国人ツーリストがほとんど行かないような、辺境のエリアを通っています。そのエリアに住む人たちも、ツーリストを見かけることはめったにありません。私は、その町の人たちはどのようにヤスと接するのだろう、と思いました。都会に住んでいる多くのアメリカ人ハイカーでさえ、CDT沿いにある小さな町は、自分が住んでいるところと文化的にまったく違うところだと感じます。

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CDTのワイオミング州のセクション。ここはカウボーイの住む中心エリアでもある。

マイクには、ヤスが何か問題を抱えていた、というような記憶はありません。マイクは「ヤスはワイオミング州は基本的に一人で歩いた」、と言っていました。ワイオミング州といえば、CDTで最も辺境のエリアの一つであり、カウボーイがいる地域です。「僕はランダーからパイの町までの間は、ヤスを見かけなかったよ。」その距離は、1,600キロ以上あります。「ヤスはその区間のほとんどを、一人でハイキングしたかったんだ。でもその一方で、彼はトレイルの最後は、僕たちと一緒にいたいと思っていたよ。」

【つづく: 後編「日本人ハイカーはどう思われてる?〜トレイルエンジェルの思い」 11月下旬公開予定】

TRAILS AMBASSADOR / リズ・トーマス
リズ・トーマスは、ロング・ディスタンス・ハイキングにおいて世界トップクラスの経験を持ち、さまざまなメディアを通じてトレイルカルチャーを発信しているハイカー。2011年には、当時のアパラチアン・トレイルにおける女性のセルフサポーティッド(サポートスタッフなし)による最速踏破記録(FKT)を更新。トリプルクラウナー(アメリカ3大トレイルAT, PCT, CDTを踏破)でもあり、これまで1万5,000マイル以上の距離をハイキングしている。ハイカーとしての実績もさることながら、ハイキングの魅力やカルチャーの普及に尽力しているのも彼女ならでは。2017年に出版した『LONG TRAILS』は、ナショナル・アウトドア・ブック・アワード(NOBA)において最優秀入門書を受賞。さらにメディアへの寄稿や、オンラインコーチングなども行なっている。豊富な経験と実績に裏打ちされたノウハウは、日本のハイキングやトレイルカルチャーの醸成にもかならず役立つはずだ。

(English follows after this page)
(英語の原文は次ページに掲載しています)

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Liz Thomas

Liz Thomas

2011年にアパラチアン・トレイルを女性の最速タイムで踏破した記録(当時)を持っていることで知られている。彼女はトリプルクラウンを達成しただけでなく、米国に15以上あるトレイルでのスルーハイクを経験し、今まで15,000マイル以上ものトレイルを歩いてきた。また、彼女はその経験をロング・ディスタンス・ハイキングのコミュ二ティに還元することにも熱心で、American Long Distance Hiking Assosication-West(ALDHA-West)のバイスプレジデンドも務めている。彼女がハイキングを本格的に始める前は、イエ-ル大学の森林環境学部で環境科学の修士課程を修了し、彼女が手がけた、ロング・ディスタンス・ハイキング・トレイルとその保護およびコミュニティに関するリサーチは、名誉あるDoris Duke Conservation Fellowshipの賞を受けた。スポンサーはAltra, Gossamer Gear, Probar, Vermont Darn Tough socks, Mountain Laurel Designs, Sawyer filters, Montbellで、アンバサダーとして活躍している。
http://www.eathomas.com/

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