TRAILS REPORT

ハイカーが参加する信越トレイル延伸プロジェクト presented by TRAILS

2019.06.21
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取材・構成:TRAILS 写真:TRAILS, 信越トレイルクラブ, ツアー参加ハイカー

日本のロングトレイルのパイオニアである信越トレイルが、いま苗場山へ向けてルートを伸ばす計画が進んでいる。この新しい延伸ルートができると、現在80kmの信越トレイルが、全長約120kmのトレイルとなる予定だ。

今月の初旬、この信越トレイルの延伸における候補ルートを、実際にハイカーに歩いてもらい、そこで出た意見をルート選定に活かす、というモニターツアーを行なった。

この企画はTRAILS編集部からの提案を、信越トレイルクラブが受け入れてくれたことにより実現した。かねてより僕たちは、トレイルづくりにハイカーの声を活かす仕組みを作りたい、と考えていた。それがひとつの形となったのだ。

この延伸モニターツアーは、メインの企画・運営をTRAILSが行ない、信越トレイルクラブ、および信越トレイル周辺の市町村や観光団体でつくられる「信越トレイル連絡会」との共催により行なわれた。

本レポートでは、信越トレイル延伸の最新ニュースとともに、ハイカーが参加した延伸ルートモニターツアーの様子をお届けしたい。

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延伸モニターツアーに参加した15名のハイカーと、信越トレイル、TRAILSの運営スタッフ。


苗場山に向けて信越トレイルが伸びる


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信越トレイルの延伸計画の地図。天水山から苗場山の区間に、新しい信越トレイルができる予定だ。

信越トレイルは、2008年に現在の斑尾山から天水山までの、80kmの区間が開通した。この全線開通から10年が経った。そして今、2020年に苗場山まで信越トレイルを伸ばす計画が進んでいる。

信越トレイルの延伸の話は、今に始まったことではない。信越トレイルにロングトレイルのフィロソフィーを吹き込んだ加藤則芳氏は、生前にこのように言葉を残していた。

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故・加藤則芳氏。日本にロングトレイルのカルチャーを根付かせた最大の功労者の一人。ロングトレイルに関する著書も多く残した。

「信越トレイルへの私の思いはさらに続きます。関田山脈から東西に距離を延ばすことです。東は秋山郷から苗場山、白砂山へ、西は笹ヶ原高原を通って雨飾山から白馬岳までと、信越国境すべてを貫く壮大な『信越トレイル』を夢見ているんですよ。」(「信越トレイル公式ガイドブック『信越トレイルを歩こう!』」より)

より長いトレイルになることは、加藤則芳氏の夢でもあったのだ。その壮大な信越トレイルの夢が、今まさに進行している。


あたらしいトレイルづくりにハイカーが参加する


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地図を見ながら、延伸ルートについて、ハイカーと信越トレイルのスタッフが意見を出し合う。

延伸のルートの検討は、現在、最終段階に入っている。しかしまだ複数のルート候補があり、最終ルートが決まっていないセクションがある。

今回のモニターツアーでは、その最終候補に残った2パターンのルートを、2日に分けてハイカーたちに実際に歩いてもらった。そこで感じたハイカーの生の声を、そのまま信越トレイルのスタッフに届ける、というのが今回のイベントの趣旨だ。その声は信越トレイルの延伸部会にも持ち込まれる。

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延伸ルートの地図を見ながら、土地や地形の特徴を理解したり、さらによいルートの可能性を探しながら歩く。

今回のモニターツアーの参加者は、今年のLONG DISTANCE HIKERS DAY(詳細はコチラ)で、信越トレイルの発表を聞いた方を対象に募集をした。そのためこのツアーに集まった参加者は、ロングトレイル、ロング・ディスタンス・ハイキングを実際に経験しているハイカーや、それに強い興味を持っているハイカーばかりだ。だからこそ、トレイルに対して、真剣でリアリティのある声が生まれてくるのだ。

ハイカーにとっては、できあがったトレイルを歩くだけでなく、新しいトレイルをつくる過程から参加することができる。ロングトレイルをつくる側の人たちにとっては、ロング・ディスタンス・ハイキングを実践するリアルなハイカーから、計画中のルートについて、真剣な意見を聞くことができる。そのように、ハイカーと信越トレイルの双方にとって、貴重な機会となるイベントとなった。


苗場山のふもとに広がる、奥信越の大地や集落を歩く


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遠くに苗場山を眺めながらハイキングする。かつての苗場山の噴火によりできた、ダイナミックな地形が広がる。

今回のツアーの初日、ハイカーたちは、天水山のふもとにあるJR飯山線・森宮野原駅に集合した。ハイカー一行は、森宮野原から秋山郷の結東周辺までのセクションを歩いた。

このエリアが、大きく2つの候補ルートが残っているセクションとなっている。そのどちらのルートが、延伸としてよりよいルートであるかを、みんなでハイキングしながら意見を出していく。

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かつて生活道として利用してた、ブナ林のなかのトレイルを歩く。

関田山脈の天水山から苗場山までのあいだは、長野県栄村と新潟県津南町にまたがる「奥信越」と呼ばれるエリアをとおっていく。秘境として有名な秋山郷も、この奥信越のエリアにある。

地形としては、かつての苗場山や鳥甲山(とりかぶとやま)の噴火によってできた溶岩の大地や、日本有数の河岸段丘(階段状の地形)の景色が広がるエリアとなっている。これらの地形的な希少性により、ジオパークにも指定されている。

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旧道の跡には、道祖神や石仏など、かつての旅人の道標が残っているところも多い。

文化的には、前述した秋山郷の集落が点在するエリア。この秋山郷を世に広めた鈴木牧之(すずき・ぼくし)は、江戸後期の商人・随筆家であり、越後の雪国の生活や習俗を描いた『北越雪譜』や『秋山紀行』などの著作を残している。この牧之が歩いたであろう古道を始め、長野の善光寺までつながっていた旧善光寺街道など、古くからの道もこの地域には眠っている。

この延伸予定の奥信越のエリアは、現在の里山のなかを通る信越トレイルの景色とは、またちがった信越の景色を旅できるトレイルとなりそうだ。


ハイカーと信越トレイルのスタッフが、延伸について意見を出し合う


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信越トレイルは、舗装路もつなぎながら、全長約120kmの長大なトレイルとなる予定。

現在の関田山脈の森のなかを通る信越トレイルとは、また違った景色がある延伸区間。今回歩いた2パターンの候補ルートについて、ハイカーからは「こっちのルートのがよかった」、「ここのルートは、もっと林のなかを長く通すことはできないか」など、実にさまざまな意見があがってきた。

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候補ルートをハイキングした後は、みんなでその日のルートの感想や意見を出し合うミーティングが行なわれた。

「途中に集落に寄れる方がよい」、「苗場山の溶岩によってできた地形を感じられるのがよい」、「向かいに現在の信越トレイルの関田山脈を見渡せる所がよかった」、「途中に舗装路があるのも、何も考えずに歩くことに集中できてよいと思った」などなど、あたらしい信越トレイルへの期待を背景に、みんな真剣に意見を出し合っているのが印象的であった。

さまざまな意見が出たが、ハイカー全員に共通していたのは、信越ならでは土地のストーリーを感じながら歩き旅をしたいという、土地に根ざした旅の欲求だったように感じた。

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特別な許可を得て、普段はテント場として開放していないグラウンドを、試験的に使用させてもらった。(秋山郷結東温泉 かたくりの宿)

冒頭にも書いたが、TRAILSはトレイルづくりにハイカーの声を活かす仕組みを作りたい、と考えていた。それは僕たちが想像した以上に、ハイカーにとっても、トレイルをつくる側の人にとっても、有意義な意見交換の場となった。また間違いなく、ハイカーと信越トレイルのスタッフの間には、新しい道をつくろうとする、今までにないグルーブが生まれていた。

あるハイカーは、次のように言っていた。「今回の2日にわたるハイキングとミーティングで、歩いた方同士で、信越トレイルについていろいろ悩むことができたことが、一番の成果だと思います。これを機に、信越トレイルの方々が、さらにルート選択を悩むことになってしまっても、それは非常に素敵なことで、良い結果を生みだすために必要な工程だと思いました。」

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ちょうど田植えされ、水が張られた田んぼの脇を歩いていく。こんな景色も新しい信越トレイルの景色になるかもしれない。

また信越トレイルのスタッフも、今回のモニターツアーについて、「自分たちがまったく見ていなかった側面についても、いろいろ意見をもらうことができました。ハイカーからの数々の気づきによって、私たちにとっても本当に学びの多い2日間になりました」と語っていた。

ハイカーは、トレイルを歩くことが大事な役割であり、それによりトレイルは息吹を吹き込まれる。しかしそれだけでなく、今回のようにトレイルとハイカーの関係が、より深く親密になる機会が増えれば、きっとトレイルをとりまくカルチャーも豊かになっていくはずだし、そうなることを僕たちも望んでいる。

今年の夏には、信越トレイルの延伸ルートは決定する予定だ。そして2020年には新しい信越トレイルが誕生する。今からその期待は膨らんでいく。

 

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佐井聡(1979生)/和沙(1977生)
学生時代にバックパッカーとして旅をしていた2人が、2008年にウルトラライトハイキングというスタイルに出会い、旅する場所をトレイルに移していく。そして、2010年にアメリカのジョン・ミューア・トレイル、2011年にタスマニア島のオーバーランド・トラックなど、海外トレイルでの旅を通してトレイルにまつわるカルチャーへの関心が高まっていく。2013年、トレイルカルチャーにフォーカスしたメディアがなかったことをきっかけに、世界中のトレイルカルチャーを発信するウェブマガジン「TRAILS」をスタートさせた。

小川竜太(1980生)
国内外のトレイルを夫婦二人で歩き、そのハイキングムービーをTRAIL MOVIE WORKSとして発信。それと同時にTRAILSでもフィルマーとしてMovie制作に携わっていた。2015年末のTRAILS CARAVAN(ニュージーランドのロング・トリップ)から、TRAILSの正式クルーとしてジョイン。これまで旅してきたトレイルは、スイス、ニュージーランド、香港などの海外トレイル。日本でも信越トレイル、北根室ランチウェイ、国東半島峯道ロングトレイルなどのロング・ディスタンス・トレイルを歩いてきた。

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TRAILS は、トレイルで遊ぶことに魅せられた人々の集まりです。トレイルに通い詰めるハイカーやランナーたち、エキサイティングなアウトドアショップやギアメーカーたちなど、最前線でトレイルシーンをひっぱるTRAILSたちが執筆、参画する日本初のトレイルカルチャーウェブマガジンです。有名無名を問わず世界中のTRAILSたちと編集部がコンタクトをとり、旅のモチベーションとなるトリップレポートやヒントとなるギアレビューなど、本当におもしろくて役に立つ情報を独自の切り口で発信していきます!

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