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リズ・トーマスのハイキング・アズ・ア・ウーマン#21 / Outdoor Retailer Summer 2019〜ロング・ディスタンス・ハイキングのULギア

2019.08.02
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(English follows after this page.)

文・写真:リズ・トーマス 訳:藤田快己 構成:TRAILS

6月23〜25日にかけてコロラド州のデンバーで開催された『Outdoor Retailer Show(アウトドア・リテイラー・ショー)』(※)。今回、TRAILS編集部では、アンバサダーのリズにお願いして、このイベントの取材をしてきてもらいました。

世界最大級のアウトドアギアの見本市であるこのイベントには、約3万人ものアウトドア業界の関係者が集まります。そして、各ブランドが最新のデザイン、技術、アウトドアギアのイノベーションを披露します。

今回のORショーで、リズは2020年にリリースされるギアの中で、特にロング・ディスタンス・ハイキングと、ウルトラライト・ギアに興味がある人向けのプロダクトを探してくれました。いったいどんな新製品があったのでしょうか。

※Outdoor Retailer Show:世界最大級のアウトドアギア見本市。アメリカにて年3回開催。会場は、以前はユタ州・ソルトレイクシティだったが、2018年からコロラド州・デンバーに。ORあるいはOR showと呼ばれることが多い。

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会場のコロラド・コンベンション・センターと、デンバー・ブルー・ベア。


ULギアブランドによるMinimalist Partyの復活


久しぶりにMinimalist Party(ミニマリスト・パーティー)(※)がORに戻ってきました。以前はEvernew(エバニュー)によって開催されていました。2013年にはこのパーティーに、日本からはULギアショップとしてはハイカーズデポ、メディアとしてはTRAILSが唯一参加していました。そして、今年のホストはSix Moon Designs(シックスムーン・デザイン)。

参加者の中には、ウルトラライトギアとスルーハイキングに力を入れているブランドの代表者もいました。具体的には、Anti-Gravity Gear(アンチグラビティ・ギア)、Atlas Guides(アトラス・ガイド / スルーハイキング用のアプリ開発会社)、Gossamer Gear(ゴッサマー・ギア)、Hennessey Hammocks(ヘネシー・ハンモック)、Mountain Laurel Designs(マウンテン・ローレル・デザイン)、Pa’lante Packs(パランテ・パックス)、Sawyer Products(ソーヤー・プロダクツ)、TOAKS Titanium(トークス・チタニウム)です。

※Minimalist Party:2010年のORからスタートしたEvernew主催のイベントで、ウルトラライトギアのブランドやガレージブランドなどを中心とした、ミニマリストたちのパーティ。第1回目は、Gossamer Gear創設者のGlen Van Peski(グレン・ヴァン・ぺスキ)による、ウルトラライト・バックパッキングのプレゼンテーションも行なわれた。

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Granite Gear(グラナイト・ギア)のブースに集結したスルーハイカーたち。

出展料の高さから、Hennessy HammocksとTOAKSを除いて、ウルトラライトギアに注力する多くのメーカーは自社ブースを持てていませんでした。このパーティーに参加するメーカーは典型的なスルーハイカーからすれば名の知れたメーカーのように思いますが、ORに出展している他のメーカーに比べると、とても小さいのです。

これも、昔から小さなガレージブランドが連携する1つの理由です。規模が小さいメーカーが成長するためには、一緒になり、リソースを共有する他ないのです。

今年の展示会では、ウルトラライトギアが例年に比べてかなり少なくなっていました。また、今年のショーのテーマ(全体を通して適用されるテーマ)の中にも、ウルトラライトギアは入っていませんでした。

こういった背景もあり、ウルトラライトギアのブランドはそれぞれ協力しあって、ロング・ディスタンス・ハイキングに適したプロダクトを開発し、この産業を盛り上げようとしているのです。


ORでも進むアウトドアウェアとライフスタイルウェアの融合


各ブランド、軽量化の追求は閾値(限界値)に達している印象でした。その代わり、今年フォーカスされたのは “快適性と多目的性” です。

ショーに行く前に、今年のメインテーマは “多目的” になることを何かで目にしていたので、とても楽しみにしていました。ロング・ディスタンス・ハイカーにとって、多目的ギアを持つことは悪いことではありません。というのも、バックカントリーにおいて、1つのギアが複数のニーズに対応できるからです。このようなマルチユースは、ウルトラライトハイキングにおいて、1つのセオリーです。

でも、私がORで見かけた多目的ギアの多くは、日常生活でもアウトドアでも使えるという作られ方でした。ただ日常生活で使用するギアが、アウトドアギアの機能もあわせ持つというのは、素晴らしい進展だと思います。

よくあるのが、アウトドアブランドがライフスタイルウェアを作るときに一般的なファッション製品で使われることの多い、綿もしくはレーヨンを用いることです。

ただ、もし雨に降られたときや、直接仕事場や家からアウトドアのフィールドに出かける際、着替えをしなくてはなりません。そのため、これからは、アウトドア用の生地を採用したライフスタイルウェアが増えていくでしょう。

とはいえ、自然の中のロング・ディスタンス・ハイキングにおいて、私はまだこういった多目的ウェアを身につけることを考えていません。ただ、都市部のロング・ディスタンス・ハイカーにとっては、このライフスタイルとアウトドアスタイル、両方を兼ね備えたウェアは、アーバン・ハイキングにおいては便利だなと思います。(アーバン・ハイキングの記事はコチラ

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「NO MORE NOISE」「COMFORT」「FLEXBILITY」が、Whisper Rainshellならではの強みです。

今回、私がもっとも気に入った多目的ウェアは、Merell(メレル)のWhisper Rainshell(ウィスパー・レインシェル)です。これは、スウェットシャツの素材で作られているレインウェアで、あのガサガサするレインウェア特有の音がしません。

それでも、まだ多くのウルトラライト・ハイカーは、スタイリッシュさに欠けていたとしても、アウトドアのために作られたウェアを好んで着るでしょう。


リサイクルとサイスティナビリティを掲げるORショーの取り組み


今年のORで注目されたもう1つ別の大きなテーマが、サステナビリティ(持続可能性)でした。200を超えるブランドが、Plastic Impact Alliance(※)に署名し、この展示会において、使い捨てプラスチックの使用を削減することを誓いました。この結果、いつも会の終わりに捨てられてしまうプラスチックカップやペットボトルの量が大きく減りました。

同様にして、多くのブランドがリサイクル素材で作られたバックパックを、2020年のラインナップに加えるという話を聞きました。Patagonia(パタゴニア)は、つねにリサイクル素材の最先端にいますが、彼らの一番新しい取り組みでは、古い漁網をベースボールキャップのプラスチックつばに作り替えています。

他にも、Camelbak(キャメルバック)、PacSafe(パックセーフ)、Eagle Creek(イーグル・クリーク)もリサイクルされたプラスチックを使って、バックパックやバッグ、大型かばんを作っています。

※Plastic Impact Alliance:業界をより持続可能なものにすることを目的に設立された団体で、すでに225以上のアウトドアブランドが加盟。2019年6月開催のORにて、使い捨てのペットボトルを削減することを宣言し、アウトドア産業を活性化することを約束した。

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GUのリサイクル包装の誓文に署名しました。

今回のORで発表されたリサイクルプログラムの中で私が気に入ったのは、スポーツエナジージェルのGU(グー)が作ったものです。彼らは、リサイクル会社と手を組み、エナジーバーやジェルの空になった袋をプラスチックにできるようにしました。

袋にへばりついたジェルをきれいにする必要もありません。GUがあなたのもとに、郵送用の伝票を送ってくれるので、それを使ってジェルの空の袋を送料無料でリサイクル会社に送ることができます。特にいいなと思うのは、どのメーカーのジェル袋にも対応している点です。

リサイクルやプラスチック削減は、ロング・ディスタンス・ハイキングと直接的に関連があるわけではありませんが、アウトドアを楽しむ者として、自然への悪影響を少しでも抑えることに貢献するのは重要なことです。


アウトドアウェアのイノベーション


ORに出典した数多くの有名ブランドの中で、Marmot(マーモット)はギアの軽量化を推し進める主要な企業といえるでしょう。彼らは、113グラムの2レイヤー・レインジャケットを発表しました。商用で入手可能なもっとも軽いレインウェアとされるZpacks(ジーパックス)のVertice Jacket(バーティスジャケット)をも下回る軽さです。

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ロング・ディスタンス・ハイカーのナオミと、さまざまなブースとギアを見てまわりました。

Patagoniaも、ロング・ディスタンス・ハイカーの必須アイテムとなっている軽量ウインドシャツHoudini(フーディニ)のダブルジップ・バージョンをリリースしました。

ターゲットは、速くて体重が軽いウルトラマラソンのランナーで、ウインドシャツを脱ぐ時間さえもない人たちです。Double Zip Houdiniには、背中側にポケットがついていて、いちいち足を止めずに簡単にウインドシャツを脱ぐことができます。

また、表面の2つのジッパーによって、換気を促進させ、温度が調整されます。こういった機能に惹かれるロング・ディスタンス・ハイカーはいると思いますが、2つのジッパーによって、今までの1つのジップのHoudiniに比べて重くなってしまう点は気になります。


ハンモックのイノベーション


TRAILSから特に見てきて欲しいと頼まれたのは、ハンモックにおけるイノベーションでした。この展示会に出展していたメジャーなハンモックブランドは、ENO(イーノ)、Bliss Hammock(ブリス・ハンモック)、Hennessy Hammock(ヘネシー・ハンモック)です

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Hennessy Hammockの新製品に寝てみました。

アパラチアン・トレイルのスルーハイカーによって設立されたENOは、ロング・ディスタンス・ハイキングやトレイル関連の団体を長らくサポートしてきました。Hennessy Hammockもロング・ディスタンス・ハイカーの間では有名なメーカーです。私がアパラチアン・トレイルを2回スルーハイクしたとき、およびヴァーモントのロング・トレイルにおいて使用したシェルターは、Hennessy Hammockです。Bliss Hammocksは聞いたことがありませんでしたが、彼らはバックヤードハンモック(裏庭用ハンモック)と、あまり重さを気にしない人向けのキャンピングハンモックを作っているようでした。

ENOのブースでは、新しくリリースされたENO Skyloft(イーノ・スカイロフト)が全面的にプッシュされていました。これは、乗っても背中を真っ直ぐに保つことができるハンモックです。

ハンモックを好まない人は一定数います。彼らは “タコス” のように背中が丸まることが嫌いなのです。それが、このENOのハンモックでは背中が丸まらないようにデザインされています。しかしそのぶん、他のモデルと比べて重くなっていて、約1,300グラムあります。彼らのSub7が184グラムであることを考えると、対照的な重さです。おそらく、多くのロング・ディスタンス・ハイカーはこの184グラムの方を好むでしょう。

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Hennessy Hammockブースの前で、アニッシュ(ヘザー・アンダーソン)とナオミと。

Hennessy Hammockは、ブランド初となる “4シーズン用ハンモック” として4Season Expedition Zip(4シーズン・エクスペディション・ジップ)と4Season Explorer XL(4シーズン・エクスプローラー XL)をリリースしました(いずれも大型のフォームパッド[断熱マット]が付属)。

これは、彼らのもっとも人気なハンモックモデルを、冬のキャンプでも使えるように改良したものです。このハンモックは、今までのかさばるアンダーキルトを使うことなく、また、より安価に入手可能なようにデザインされています。

気温が4℃まで下がっても快適に使えるとのことですが、私はHennessy Hammockを、いつも-4℃の環境で、アンダーキルトなし、スリーピングマットのみで使っていたので、人によってはさらに寒い場所でも使えるかもしれません。

展示会で、試しに4Season Expeditionに乗ってみましたが、身体の下から熱が生み出されているような感覚でした。とはいえ、19℃以下にはならないであろうクーラーの効いた展示場という環境ではありましたが。


デジタルギアのイノベーション


ギアの軽量化という点でもっとも大きな変化のある分野が、デジタルギア(電子製品)だと私は思います。世の中でバックパッキングのギアを求める人は、ごく限られた人です。そして、その中でもウルトラライト・ギアを求める人はほんのわずかです。一方で、誰しもデジタルギアは使いますし、みんな、より軽く、よりコンパクトで、よりパワフルなものを求めています。

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Keenfestパーティー

この前提が頭にあったので、ORでより明るく、より軽いヘッドライトを見つけたときには、特に驚きませんでした。Biolite(バイオライト)は、40時間駆動可能で、マイクロUSBで充電できる45グラムの新しいヘッドライトを発表しました。

このプロダクト、The Headlamp 200(ザ・ヘッドランプ 200)は独自構造を採用し、走っている時やバックパッキング中にヘッドライトの揺れを抑えることができます。さらに、白の集光、白の点滅、赤の拡散、赤の点滅に切り替え可能です。個人的には、さまざまな機能が搭載されすぎているヘッドライトは好きではないので、4つというのは、機能的でありながら多すぎることもなくちょうどいいな、と感じました。

200ルーメンのモードでは、かなり長時間にわたって発光します。今まで見た中で最軽量の部類に入り、エマージェンシー用ライトやLEDキーホルダーとはまったく異なります。このヘッドライトは、実際に使ってみる予定で、バックパッキングでどう機能するのかが楽しみです。


さいごに


今年のORは、私が期待していたほど、ウルトラライトのイノベーションは取り上げられていませんでしたが、今後楽しみにしているのは、ミニマリスト(ULガレージメーカー)同士が協力し合うことで、どこまでできるようになるのか、という点です。

小さなブランドの協働は、より大きなものを生み出すことを可能にさせる気がしています。力を合わせることで、アウトドア業界の中で影響力を持ち始めるでしょう。

もう1つ私が次の11月のORで楽しみにしているのが、より涼しい気候にあわせた製品が多くなること。ギアはつねに強くなり、より機能的になります。それに加えて、ロング・ディスタンス・ハイカーとしては、軽量化が進むことを願っています。

TRAILS AMBASSADOR / リズ・トーマス
リズ・トーマスは、ロング・ディスタンス・ハイキングにおいて世界トップクラスの経験を持ち、さまざまなメディアを通じてトレイルカルチャーを発信しているハイカー。2011年には、当時のアパラチアン・トレイルにおける女性のセルフサポーティッド(サポートスタッフなし)による最速踏破記録(FKT)を更新。トリプルクラウナー(アメリカ3大トレイルAT, PCT, CDTを踏破)でもあり、これまで1万5,000マイル以上の距離をハイキングしている。ハイカーとしての実績もさることながら、ハイキングの魅力やカルチャーの普及に尽力しているのも彼女ならでは。2017年に出版した『LONG TRAILS』は、ナショナル・アウトドア・ブック・アワード(NOBA)において最優秀入門書を受賞。さらにメディアへの寄稿や、オンラインコーチングなども行なっている。豊富な経験と実績に裏打ちされたノウハウは、日本のハイキングやトレイルカルチャーの醸成にもかならず役立つはずだ。

(English follows after this page)
(英語の原文は次ページに掲載しています)

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Liz Thomas

Liz Thomas

2011年にアパラチアン・トレイルを女性の最速タイムで踏破した記録(当時)を持っていることで知られている。彼女はトリプルクラウンを達成しただけでなく、米国に15以上あるトレイルでのスルーハイクを経験し、今まで15,000マイル以上ものトレイルを歩いてきた。また、彼女はその経験をロング・ディスタンス・ハイキングのコミュ二ティに還元することにも熱心で、American Long Distance Hiking Assosication-West(ALDHA-West)のバイスプレジデンドも務めている。彼女がハイキングを本格的に始める前は、イエ-ル大学の森林環境学部で環境科学の修士課程を修了し、彼女が手がけた、ロング・ディスタンス・ハイキング・トレイルとその保護およびコミュニティに関するリサーチは、名誉あるDoris Duke Conservation Fellowshipの賞を受けた。スポンサーはAltra, Gossamer Gear, Probar, Vermont Darn Tough socks, Mountain Laurel Designs, Sawyer filters, Montbellで、アンバサダーとして活躍している。
http://www.eathomas.com/

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