TRAILS REPORT

ハイカーの信越五岳(SFMT)100mile | #02 100マイルを楽しむためのカラダづくり

2019.09.12
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文:根津貴央 写真・構成:TRAILS

「ロング・ディスタンス・ハイキングの延長として、100マイルを旅してみたい」。

そんな思いから、TRAILS編集部crew & ハイカーの根津が、SFMT(Shinetsu Five Mountains Trail / 信越五岳トレイルランニングレース)100マイルの走り旅をすることになりました。

第2回目の今回は、レース本番に向けた準備編。やるべきことは山ほどあるわけですが、ロング・ディスタンス・ハイキングと、ロング・ディスタンス・ランニングの一番の違いは、歩くか走るか。

当然、歩くのと同様、走るには走るためのスキルと知識が必要になる。100マイルともなればなおさらです。

というわけで、今回は100マイルを走るためのカラダづくりとして、根津がどんな準備をしてきたかをお届けします。

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多摩丘陵の「よこやまの道」にて。西東京在住ということもあり、高尾山や多摩丘陵にはよく足を運んだ。



レース2カ月前の自分のスペックを計測。



弘樹さん(石川弘樹さん)やトモさん(井原知一さん)をはじめ、僕の周りにいる100マイラーの話を聞いている限り、100マイルは気合いでなんとかなるものではないし、しっかりした準備が欠かせない。準備をしてこそ完走できる、ということはわかっていた。

ただ、闇雲に走り込んだところで意味はない。現状を把握した上で正しい対策を練る必要がある。そのためにやるべきは、自分の身体能力を測ること。大事なのは、自分の今を客観視することだ。

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TREATでのランニング測定。ここで、現時点の僕の走る能力をさまざまな角度から測定した。

そう考え、以前からたまに足を運んでいたパーソナルトレーニング & 治療院『TREAT』のムーチョこと矢田 大(ヤダ ヒロム)くんを訪ねた。

※矢田 大:鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師の国家資格を持つトレーナー。長らく、一般アスリート、トップアスリート、アーティストのコンディショニングや治療、ランニングワークショップに携わる。生涯スポーツをテーマに掲げ、東京・聖蹟桜ヶ丘に『TREAT』を開業。トレイルランナーでもあり、2018年に100マイルレース『OSJ KOUMI100』を完走。

測定したのは、VO2MAX、AT値、AeT値、RMRと、まあ英語ばかりでピンとこない人も多いだろうが、とにかく自分のさまざまな能力を測った。優先順位の高い数値については、このあとで説明したい。ちなみにこんな感じで結果が出る。

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左がRMR(安静時代謝量)の結果で、右がVO2MAX(最大酸素摂取量)の結果。

正直、僕はロング・ディスタンス・ハイカーでもあるし、山にいったり、時には走ったりしているので、それなりに体力はあると思っていた。突出はしていないとしても、人並み以上だろうと。

結果はというと……
ムーチョ曰く「まあ、今の根津さんのカラダは、ふつうのおっさんですね(笑)」とのこと。

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測定のためにトレッドミル(ランニングマシン)で走る。本気で走らないといけないので(ワークアウトがマスト)、かなりキツイ。



ふつうのおっさんのスペックとは?



マジか……(涙)
さすがに愕然としたが、もうデータで出てしまっているので、これは動かしようのない事実であり揺るがないエビデンスである。


ちなみに、今回測定したなかでも重要な指標としては、AeT値とAT値。日本語に訳すと、AeT値は有酸素性作業閾値のことで、AT値は無酸素性作業閾値のこと。

人間は代謝によってエネルギーを生み出すのだが、そこにこの2つの指標が大きくかかわってくる。

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今回、優先順位が高いのは、中央部分に記載されている「Heart Rate(bpm)」。つまりは心拍数だ。

動きはじめて心拍数が上がっていくと、最初は血液中および筋肉中の糖質や脂質を使用する(人によって割合が異なる)が、AeT値(有酸素性作業閾値)を越えると脂質代謝優位になる。

さらに心拍数が上がりAT値(無酸素性作業閾値)に近づくにつれて糖質代謝の割合が増え、AT値を越えるとまた糖質代謝優位に変わる。

つまり、こういうこと。
運動開始 → AeT値(脂質代謝優位) → 徐々に脂質代謝優位から糖質代謝優位へ → AT値(糖質代謝優位)

ざっくり結論を言うと、AeT値とAT値の間の心拍数で走ることが、もっともエネルギー効率のいい走りであり、ずっと気持ちよく走りつづけられるというわけ。(より詳しく知りたい人は、専門書を読んだり、ネット検索をしてみてください)

当然ながら弘樹さんやトモさんは、AeT値が低く、AT値が高い。つまり、効率のいい走りができるエリアが広い。トレーナーのムーチョの場合、AeT値が125 bpmで、AT値が174 bpm(2019/9/11 計測)。一方僕はというと、

AeT値:132 bpm
AT値:146 bpm

明らかにAeT値とAT値の差が少ない。すなわち、フツーのおじさんなのだ。



100マイルの走り旅を楽しむために、いま僕がやるべきこと。



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SFMTに向けて山に走りにいく回数も増えた。

■その1 / 長く走れるカラダづくり

自分のスペックを直視して、まずはAeT値を下げ、AT値を上げるためのカラダづくりを重点化することにした。

AeT値を下げるためにやったのが、LSD(Long Slow Distance)。これはAeT値より低い心拍数で長い距離を走るというもの。

そしてAT値を上げるべく取り組んだのが、ペース走。これは自分のAT値の心拍数で走るというもの。

正直、やるべきことを挙げたらキリがない。とはいえ準備期間は限られている。あれもこれもと手を出してすべて中途半端になっては元も子もない。

こうして僕は、優先順位を決め、AeT値とAT値の改善から取りかかることにした。

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平日は山に行けないので、昼休みにオフィス近くで走ったり。

さらに、効率的な走りには、効率的なフォームも欠かせない。実は僕は、股関節の伸展が弱点(股関節が伸展しない)であることを、TREATのムーチョに指摘されて初めて知った。股関節が伸びないと、着地時の地面からの反発力を効率的に推進力に変えることができない。

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TREATにも週1くらいで通っていた。これは股関節を伸展させるためのニーハグウォール。

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走る動作に欠かせない下半身と上半身の連動性を高め、背筋と臀部を強化するための、スプリットスタンス・ケトルベル・ロウという動き。

■その2 / 疲れにくい登り方と下り方

いくらいいフォームで効率的に平地を走れるようになったとしても、登りと下りが下手くそで、無駄に筋力を使って脚が終わる……なんてことは、よくあること。

だから、いかに登りと下りをうまく走るか(省エネで走るか)も重要。持久力のある大臀筋を使えるようになることが一番の近道だ。

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お尻を使えるようにするためのRDL(ルーマニアンデッドリフト)。

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普段から眠気にめっぽう弱いため、試しに深夜に走ってみたこともあった。



カラダを鍛えるのではなく、カラダという道具を使いこなす。



100マイルを走るのに、こんなにトレーニングしないといけないのか? と思った人もいるかもしれない。

でも僕は、そもそもトレーニングだと思っていないし、がんばって鍛えよう、なんて気持ちはさらさらない。

僕は “カラダは道具” だととらえているので、「道具を理解したい」「道具を使いこなしたい」だけなのだ。

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自分のカラダが思ったほど使えてないことを知った。そして徐々に使えるようになってくると、カラダという道具は掘りがいがあって本当におもしろいと感じた。

僕はこれまで主にハイカーとして山を歩いてきたが、地図を読めなければ山を自由に歩けないし、テントの使い方がわからなければ山の中で泊まることができない。

山遊びが好きな人は、道具もちゃんと理解して使いこなしている。だとしたら、カラダだって同じじゃないだろうか?

カラダという道具を使いこなせるようになればなるほど、山遊びは楽しくなる。僕は100マイルを走る旅をしたくて、こうやってカラダという道具をきちんと知り、それをより使えるようにする準備をしていった。

次回は、ハイカーの信越五岳(SFMT)100mile | #03 100マイル33時間のトリップ・プラン。レース前日公開です!

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WRITER
根津 貴央

根津 貴央

1976年、栃木県宇都宮市生まれ。幼少期から宇宙に興味を抱き、大学では物理学を専攻。卒業後、紆余曲折を経て広告業界に入り、12年弱コピーライター職に従事する。2012年に独立し、かねてより憧れていたアメリカのロングトレイル「パシフィック・クレスト・トレイル(PCT/総延長4,265km)」のスルーハイクのために渡米。約5カ月間歩きつづける。2014年には「アパラチアン・トレイル(AT/総延長3,500km)」の有名なイベント「Trail Days」に参加し、約260kmのセクションを歩く。同年より、グレート・ヒマラヤ・トレイル(GHT)を踏査する日本初のプロジェクト『GHT Project(www.facebook.com/ghtproject)』を仲間と共に推進中。2018年4月、TRAILSに正式加入。著書に『ロングトレイルはじめました』(誠文堂新光社)がある。

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