take less. do more. 〜 ウルトラライトとMAKE YOUR OWN GEAR by グレン・ヴァン・ペスキ | #07 カーボン製ULトレッキングポールの汎用化をすすめた「ライトトレック (LT)・ポール」。

(English follows after this page.)
文・写真:グレン・ヴァン・ぺスキ 訳・構成:TRAILS
なぜ「ウルトラライト × MYOG」か?両者は分かちがたく結びついており、その本質を理解することが、現在のハイカーやMYOGer、ガレージメーカーが共有すべき新たな知恵になるはずだからだ。(本連載に込めたコンセプトは、第1回の記事を参照。記事はコチラ)
グレンは、ウルトラライトとMYOGに関する「リビング・ディクショナリー (生き字引) 」の筆頭であり、その本質を伝える語り手として、グレン以上の人はいない。それは、いち早くULガレージメーカーを立ち上げた先駆性、プロダクトや思想の革新性や独自性において、他と一線を画しているためである。
今回の第7回では、Gossamer GearがULハイキングにおいて、軽さと丈夫さを両立させ、カーボン製トレッキングポールの汎用化を推し進める一翼を担ったライトトレック・ポール (LTシリーズ) の開発ストーリーを語ってもらった。
カーボンは軽量だが壊れやすく、チャレンジングなガレージブランドでさえ実用性の不安から消極的だったが、失敗も重ねながらライトトレック・ポールの開発を進めた。現在その後継のLT5は、多くのULハイカー、ロング・ディスタンス・ハイカーの定番のULトレッキングポールとなっている。
※1 ウルトラライト (UL): ここではウルトラライト・ハイキング (Ultralight Hiking) を指す。
※2 ガレージメーカー:英語ではCottage manufactures (コテージ・マニュファクチュアラー) とも呼ばれる。
ULTRALIGHT GARAGE MAKER MOVEMENT
TRAILSのプロダクト「ULTRALIGHT CLASSICシリーズ」や「MYOGer NIGHT」に込めた、僕たちが熱狂した実験的でイノベイティブなウルトラライト (UL)というカルチャー。それは2000年代以降に起きた、トレイルカルチャーにおける「メーカームーブメント (MAKER MOVEMET ※3) 」であり、僕たちハイカーに道具の進化にとどまらない知恵をも与えてくれた。新たに「ULTRALIGHT GARAGE MAKER MOVEMENT」を合言葉に、シーンを盛り上げるブースターのひとつとして記事シリーズをお届けする。
※3 メーカームーブメント (MAKER MOVEMET): 2000年代以降、インターネットや新しいテクノロジーの普及とともに、ツールの民主化が広がり、製造業全般に世界中で起きたイノベイティブな潮流。これをクリス・アンダーソン (元・WIRED誌の編集長) が自身の著書『MAKERS 21世紀の産業革命が始まる』で、「メーカーズムーブメント (メイカーズムーブメント)」という概念で定義した。
初期のテストでは、3組のうち壊れなかったのは1本だけだった。
BPLメンバーとの、トレッキングポールのプロトタイプのテスト。
吹雪に耐え、極寒の川を渡渉し、私たちはベアトゥース山脈からよろめきながら出発しました。2004年、まだ立ち上げて数年しか経っていないBackpackingLight (BPL ※4) チームとの旅でした。
この旅で持参した3組のライトトレックポール (Lightrek pole) のうち、壊れずに無傷で残っていたのはたった1本だけでした。 この時は、軽量化をしすぎたのです‥。
吹雪や渡渉のなかトレッキングポールのテストをした。
私がハイキングの荷物の軽量化に取り組み始めた頃は、トレッキングポールといえばアルミ製が一般的でした。この時はレキ (LEKI) が市場のリーダーで、どこの店でもレキが売られていました。
アルミ製のトレッキングポールは重く感じませんでしたが、他の荷物の軽量化を進めていくと、求めているものよりも重いと感じるようになりました。
※4 Backpacking Light: バックパッキングライト。頭文字をとって通称BPLと呼ばれている。2000年にライアン・ジョーダンによって立ち上げられた、 UL (ウルトラライト) ハイキングの情報を発信する米国のウェブサイト。ハイカーが集う各種フォーラム (掲示板) では、UL黎明期からグラム単位でのきりつめた軽量化のアイディアなども盛んに議論されていた。
最も軽くするため、最初は長さ調整機構もなしでよいと考えた。
2005年に制作されたULのビデオに登場するライトトレックポール(「lighten_up!」より。https://vimeo.com/790518038)
インターネットが普及し始めた初期の頃だったので、材料の調達は大変でした。
カーボンファイバーを使えば軽いポールが作れると考えました。そしてイギリスで外径10mmのカーボンファイバーのシャフトを売ってくれる人を見つけました。これがレキのティップ (ポールの先端) にぴったりはまるものだったのです。
これで、長さ調節なしのトレッキングポールを製作しました。なぜならばロック機構を考える必要がなく、一番軽くする方法だと思ったからです。
初期のライトトレック・ポールは自宅のガレージで作りました。イギリスから調達したカーボンファイバー・シャフトを、金ノコで必要な長さに切断しました。ベアトゥース山脈の遠征に持っていった130cmのトレッキングポールは、1組 (2本) でたったの4.5オンス(128g)でした。
グリップの素材を見つけるのにも苦労をした。
グリップの素材を見つけるのは苦戦しましたが、なんとかオクラホマでグリップをまとめて売ってくれる人を見つけました。
見つけたのは、釣り竿に使う黒いグリップでした。そこで、シャフトを必要な長さにカットして、エポキシ樹脂でグリップを接着し、レキのティップもエポキシ樹脂で付けました。
トレッキングポールに立派なリストストラップ (手を通す部分) を取り付ける方法は思いつかなかったのですが、それでも構いませんでした。
初期のライトトレック・ポール。
代わりに、グリップの根元に小さなループ状のコードをエポキシ樹脂で固定し、そこに細いリストストラップを取り付けられるようにしました。こうすることで、写真を撮る時なども、グリップから手を離すだけで、ポールが下に落ちないようになります。こうして、2004年4月からライトトレック・ポールの出荷を開始しました。
※4 PCT:Pacific Crest Trail (パシフィック・クレスト・トレイル)。メキシコ国境からカリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州を経てカナダ国境まで、アメリカ西海岸を縦断する2,650mile (4,265㎞) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。
長さ調整機構や、グリップ、ティップの素材の試行錯誤を重ねる。
ウィンドリバーレンジでのテスト風景。
固定長のポールは持ち運びに少し不便だったので、ごく短い期間だったのですが、2ピース・バージョンの「LT2」を製造しました。
こちらも長さは固定で調整はできませんでしたが、2つのピースに分けることができ、使用するときは小さなゴムブッシング (ゴム製の円筒形のパーツ) で固定することができるようにしました。細い直径のシャフトを使用していたので、私が使っていた130cmのポールは、2本で6.5オンス (184g) という軽さでした。
2006年頃、トレッキングポールの生産は、ゴッサマーギアの通常業務が行われている、テキサス州オースティンに移しました。
シェルターのポールとしてもテスト。
その後、中国製の美しいタン (ブラウン系のカラー) とグレーのグリップを見つけました。見た目も手触りも良いものでした。最初に届いた500個入りの箱を開けると、私たちの仕様を満たすために、グリップが一つ一つ手作業で作られたものでした。
しかし手作業で作られたもののため、完璧に同じ形・サイズのものではありませんでした。箱の中を確認し、似たようなグリップをペアにしていくことが、私たちの最初の作業となりました。
トレッキングポールのティップ (先端) 部分。
トレッキングポールの販売数が増えるにつれ、ティップの調達が課題となってきました。最初は、地元のREIなどのアウトドアショップで4~5個ずつ店頭で購入していました。その後、オンラインで入手できるところを探しました。やがてレキから問い合わせがくるようになってしまい、ティップとスノーバスケットを中国から自力で調達するようになりました。
ゴルフクラブで使用していた、より強度の強いカーボンシャフトとの出会い。
PCT (※5) のセクションでのテスト風営。
ちょうどその頃、サンディエゴに住んでいるUL (ウルトラライト) ハイカーが私たちのところに電話をかけてきて、トレッキングポールのグリップを買わせてほしいと頼んできました。
当時のゴッサマーギア社長であるグラント・シブル は「もちろん」と答え、そのグリップで何をしているのか尋ねました。その人はケビンという名前で、彼はなんとカーボンファイバー製ゴルフクラブシャフトの大手メーカーである「アルディラ (ALDILA)」で働いている人であることがわかりました。
ケビンは、自作のトレッキングポールを作るために、様々なシャフトの設計を試していたのです。彼は自作したポールのサンプルを送ってくれました。最先端の設備で設計・製造されたそのシャフトは、当時私たちが入手できていたものよりも、軽量でしかも丈夫なものでした。
梱包されたライトトレックポール。
2007年まで、アルディラは私たちのトレッキングポールのシャフトを作ってくれました。これが 「LT3」という製品になりました。
長さはまだ固定だったので、私たちは注文が入る度に、お客さんが指定した長さにカットする作業をしていました。そのうち、一般的な長さである 115 cm、120 cm、125 cm を事前に作って、在庫するようになりました。
新しいシャフトの直径に合わせて、既存のグリップに穴を開ける必要があったため、この製造は大変な作業でした。
ケビンはシャフトの設計を革新し続け、重量を増やすことなく強度と柔軟性を高めました。設計は多少変更されましたが、このときのポールは、130 cmのペアは 4.8 オンス (136 g) と軽量なものでした。
父の協力、ULガレージメーカー同志の協業などからアップデートを重ねる。
2008年発売のLT4。
2008 年には、「LT4」を発売しました。これは 2ピースの長さ調整ができるポールです。この開発には時間がかかりました。
父のクリスが旋盤 (金属などの材料を加工する機械) で、初期のプロトタイプのアルミ インサート (めねじの補強などに使われるパーツ) をいくつか作りました。ちょうどよい直径のゴムブッシング (ゴム製の円筒形のパーツ) を見つけましたが、1個ずつ片側のフランジ (パイプ同士を接続するための円盤状のパーツ) を削除する必要がありました。
設計が完成すると、トレイルデザイン (Trail Designs ※6) のルスが製造してくれました。初期のガレージメーカーたちは互いに助け合いながらやっていることが多くありましたが、これもその例のひとつです。
トレッキングポールの組み立ては依然として大変な作業でした。シャフトをトリミングして洗浄し、ゴムブッシングを仕上げ、アルミ製のロックインサート (固定用の補強パーツ) をエポキシで固定します。そしてエポキシが固まるまでシャフトを垂直に保っておく必要があったため、専用のラックを作る必要もありました。
私たちは数日をかけて、一度に100本作成しました。長さが長くなりロック機構も追加されたため、重量は 1 組で約8オンス (227 g) になりました。
LT4 (以下のHPより https://www.trailspace.com/gear/gossamer-gear/lightrek-4/)
開発の過程で、いくつかバリエーションも生まれました。見た目を変えるためにカモフラージュ柄のシャフトを一度だけ試作したこともあります。またトレッキングポールの上部にインサートを追加し、カメラをグリップに取り付けられるようにする実験もしました。バンジーコード付きの3ピースのポールも試作しました。重さは1本で3.5オンス (99g) でした。
順調に進んでいたのですが、アルディラが売却され、新しいオーナーは小さなバックパッキングのギアメーカーのために、トレッキングポールのシャフトを作ることに興味を持ちませんでした。アルディラを、最後にもう一度注文を受けると言ってくれたので、私たちはできる限りの数量を注文し、その間に別の調達先を探し始めました。
その後、アウトドア・リテーラー (※7) で出会った韓国の会社と協力し、私たちの仕様に合ったポールを製造してもらえることになりました。それが、現在、販売している「LT5」(LT5 Three Piece Carbon Trekking Poles) です。
※6 トレイルデザイン: ULの名品であるカルデラコーンなどをつくったメーカー。カルデラコーンは、ゴトクを兼ねたチタン製の円錐型の風防とアルコールストーブ(固形燃料も使用可能)が一体になったストーブ・システム。
※7 アウトドア・リテーラー (Outdoor Retailer): 米国の最大規模のアウトドアギア見本市。TRAILSのウェブマガジンでも、過去にリズ・トーマスによる同イベントのレポートがある。https://thetrailsmag.com/archives/24822
現在、販売している「LT5」(LT5 Three Piece Carbon Trekking Poles)。
現在では当たり前になっているカーボン製のトレッキングポール。
どんなギアでも自作し得るというMYOGのチャレンジ精神、まだ世の中にはない必要十分の形を求める探究心、失敗を重なるなかで改良を重ねる現場精神。それらの積み重ねのなかから、新たな時代のULスタンダードとなる、カーボン製トレッキングポールを誕生した。
また当時のULガレージメーカー同士の知恵と技術の交換という、ムーブメントの有機的なつながりから、新しいULギアが生まれていることも忘れてはならないことである。
(English follows after this page / 英語の原文は次ページに掲載しています)
- « 前へ
- 1 / 2
- 次へ »
TAGS: