UL MAKER MOVEMENT

take less. do more. 〜 ウルトラライトとMAKE YOUR OWN GEAR by グレン・ヴァン・ペスキ | #04 ULバックパックのエポック「G4」のデザイン思想

2025.01.17
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(English follows after this page.)
文・写真:グレン・ヴァン・ぺスキ 訳・構成:TRAILS

Gossamer Gearのファウンダーであり、ウルトラライト (UL ※1)、MAKE YOUR OWN GEAR (MYOG)、およびULガレージメーカー (※2) のゴッドファーザーである、グレン・ヴァン・ペスキ (以下、グレン)。

そのグレンによる「ウルトラライト (UL) × MYOG」に関する連載の第4回。

なぜ「ウルトラライト × MYOG」か?両者は分かちがたく結びついており、その本質を理解することが、現在のハイカーやMYOGer、ガレージメーカーが共有すべき新たな知恵になるはずだからだ。(本連載に込めたコンセプトは、第1回の記事を参照。記事はコチラ

グレンは、ウルトラライトとMYOGに関する「リビング・ディクショナリー (生き字引) 」の筆頭であり、その本質を伝える語り手として、グレン以上の人はいない。それは、いち早くULガレージメーカーを立ち上げた先駆性、プロダクトや思想の革新性や独自性において、他と一線を画しているためである。

今回の第4回では、ULバックパックのエポックとなった唯一無二の名品である、G4のデザイン思想について、グレンに綴ってもらった。

現在のULバックパックの源流として挙げられるのは、レイウェイ(※)のバックパック、GoLiteの「Breeze」(1998年)、そしてGVP gearの「G4」(1998年)の3つだろう。この3つにULバックパックの原点が詰め込まれている。これらのバックパックをいかに発展・進化させるかが、ULバックパックの歴史であるといっても過言ではない。

そのひとつであるG4に込められたウルトラライトの思想とMYOGの精神を、グレン自身にひもといてもらった。

※1 ウルトラライト (UL): ここではウルトラライト・ハイキング (Ultralight Hiking) を指す。

※2 ガレージメーカー:英語ではCottage manufactures (コテージ・マニュファクチュアラー) とも呼ばれる。

ULTRALIGHT GARAGE MAKER MOVEMENT

TRAILSのプロダクト「ULTRALIGHT CLASSICシリーズ」や「MYOGer NIGHT」に込めた、僕たちが熱狂した実験的でイノベイティブなウルトラライト (UL)というカルチャー。それは2000年代以降に起きた、トレイルカルチャーにおける「メーカームーブメント (MAKER MOVEMET ※3) 」であり、僕たちハイカーに道具の進化にとどまらない知恵をも与えてくれた。新たに「ULTRALIGHT GARAGE MAKER MOVEMENT」を合言葉に、シーンを盛り上げるブースターのひとつとして記事シリーズをお届けする。


※3 メーカームーブメント (MAKER MOVEMET): 2000年代以降、インターネットや新しいテクノロジーの普及とともに、ツールの民主化が広がり、製造業全般に世界中で起きたイノベイティブな潮流。これをクリス・アンダーソン (元・WIRED誌の編集長) が自身の著書『MAKERS 21世紀の産業革命が始まる』で、「メーカーズムーブメント (メイカーズムーブメント)」という概念で定義した。

G4の始まり。32kgの荷物を背負ったシエラの旅。


1996年、息子のブライアンとボーイスカウトでシエラを旅した。 (Photo: リード・ミラー)

G4のバックパックのデザインの起源は、私が初めて自分で作ったバックパックG1から始まります。

息子のブライアンが入ったボーイスカウトはとても活発に活動しているチームでした。そしてバックパッキング・トリップの集大成として、カリフォルニアのシエラネバダを 1 週間の旅に行くことになっていました。

私自身は、自分のボーイスカウト時代から持っている古い ケルティ (Kelty) のフレーム パックとキャンプギアは使うのをやめました。それらは高校卒業後の 1976 年にマサチューセッツからカリフォルニアまで、6,700 kmを自転車で旅したときから使っていたものです。

そこでブライアンと私は、地元の REI のストアにギアを揃えに行きました。

当時は、インナーフレームのバックパックが最新のデザインでした。私たちがシエラを1 週​​間旅することを店員に伝え、新しいバックパック、ダウンの寝袋、インフレータブルのスリーピングマット、ストーブ、燃料、ポット、皿、カップなどを買いました。

ボーイスカウトのチームで、一緒にトレーニングのためのハイキングに何回か行って、新しいギアに慣れることができました。最初のシエラのハイキング出発したとき、私の荷物を詰めたバックパックの重量は32kgでした。

私が息子の荷物と分担して、2人用のテントと調理用のギアを担いであげてましたが、それでもブライアンのバックパックは子供にしては重かったです。何日かかけて長い距離をハイキングするために、荷物は重くなっていました。そして、ボロボロに疲れた男の子 (と大人) がたくさんいました。

レイ・ジャーディンの本をきっかけに、ウルトライトについて考え、MYOGを始める。


グレンとリード・ミラーによるギアの改造の実演。(写真は2005年のPCTのキックオフのもの)

その頃、スカウトマスターと友人のリード・ミラーが、レイ・ジャーディン (※4) の『The PCT Hiker’s Handbook』(1992年に出版。2000年に『Beyond Backpacking』、2008年に『Trail Life』に改題) を読んでいました。

この本は1992年に初版が出版されました。リード・ミラーはPCT (パシフィック・クレスト・トレイル ※5) のセクション・ハイキングしようとしたとき、レイ・ジャーディンがどのようにしてベースウェイト (食料と水を除くすべての装備の重量) を10ポンド (4.5 kg) で旅していたのか、その詳細を熱心に読みました。私もこの本を手に入れ、私たちは何時間もかけて、そこに書いてある提言を熟読しました。


レイ・ジャーディンの『The PCT Hiker’s Handbook』 (写真は1996年刊の2ndエディション。1stエディションは1992年刊)。

旅の前にREIで買ったインナーフレームのバックパックは、中身が空の状態で3.4kgもありました。スプレッドシートにすべての装備をリストアップしてみたら、このバックパックがダントツで一番重いアイテムでした。

ギア一式を軽量化する必要があることはわかっていましたが、まずはバックパックは軽量化のための最初のギアとしてよいのではないかと思いました。

私の母は、子供全員が料理、パン焼き、裁縫の仕方を身につけてから、家を出るべきだという考えを持っていました。そのため、私はすでに裁縫の仕方を習っていて、実際、高校生のときにフロストライン (Frostline)とホルバー (Holubar) のMYOGキット (※「Sew it yourself kit」として販売されていたもの) で、いくつかのギアを自分で縫って作ったことがありました。


「Sew It Yourself」のキットを販売していたホルバーの1970年代のカタログ。アメリカのDIYカルチャーの広さと歴史を感じる。画像は以下のサイトより。https://www.outinunder.com/sites/default/files/Holubar%20Kits%20Catalog.pdf

そこで、生地とバックル、そしてレイ・ジャーディンの本に載っていた「アルパイン・リュックサック」の型紙を注文しました。本に載っていたバックパックは、大きさが足りないように思えたので、結局ゼロから作り直してリュックサックを縫いました。

完成したのは、ウェビングテープとバックルがたくさん付いていて、とても大きなバックパックでした。これがG1です。それでも、REI のインナーフレームのバックパックよりも、かなり軽量でした。しかし、一方で多くの機能が欠けていました。


レイ・ジャーディンの本で紹介されていたThe Rain Shedの「アルパイン・リュックサック」。画像は以下のサイトより。https://www.therainshed.com/shop/Patterns–Kits/KITS/RS150-Alpine-Rucksack-Kit/p/RS150—Alpine-Rucksack—500-Cordura-Kit-x67223771.htm

トレーニングのハイキングに作ったバックパックを持っていくうちに、どう改良したらよいか考え、2 つ目 (G2)、3 つ目 (G3) のバックパックを作りました。

※4 レイ・ジャーディン:1990年代に現在のULのベースとなる、思想と方法論を世の中に提示した。彼独自の「レイ・ウェイ」という方法論、およびその方法論にもとづく『MAKE YOUR OWN GEAR (MYOG)』のギアは、現在のULの源流として位置付けられる。彼が1992年に出版した『The PCT Hiker Handbook』(後に、『Beyond Backpacking』『Trail Life』と改題) という本にまとめらている。この本は、その後、多くのULガレージメーカーやハイカーを誕生させる起爆剤となった。

※5 PCT:Pacific Crest Trail (パシフィック・クレスト・トレイル)。メキシコ国境からカリフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州を経てカナダ国境まで、アメリカ西海岸を縦断する2,650mile (4,265㎞) のロングトレイル。アメリカ3大トレイルのひとつ。

軽量化の原則:マルチユースと、目的に適した最軽量の素材の採用。


グレンが3つ目にMYOGしたバックパック「G3」。(1997年)

バックパックを軽量化するための重要な原則の1つは、マルチユースです。1つのギアで、2つ、または3つの機能を果たすことができれば、不要なギアは家に置いておけます。

私はこの原則を 4つ目のパックパックG4の設計に適用しました。スリーピングパッドのZレスト (Z-Rest) は、折りたたんでバックパックの背面のスリーブに挿入すると、バックパックのフレームになります。


Zレストを背面に入れて、フレームの機能を持たせる設計。

寝る時用のフリースのソックスは、夜は足を温かく保つ機能がありますが、日中はショルダーハーネスに入れれば、ハーネスのパッドになります。日中は必要のない防寒用のグローブとビーニーは、ウエストベルトのパッドになります。


就寝時の防寒用ソックスを日中はショルダーハーネスに入れて、ショルダーパッドとして使用できる設計。

バックパックを軽量化するためのもう 1 つの重要な原則は、使用目的に適した最も軽い素材を使用することです。

初期の G4は、主に 2.2オンスのリップストップ ナイロンを使っていて、負荷や摩擦が激しい部分だけ、より耐久性の高い4.0ozのオックスフォード生地を使いました。

またウェビングテープの代わりに、事足りる箇所はナイロンリボンを使用しました。バックパック上部の開閉部は、サイドにフックとループが付いた、シンプルなロールトップにしました。

G4の詳細設計。ギアの機能維持や、より「歩く」ことにフォーカスするためのデザイン。


ウルトラライトの思想が詰め込まれた「G4」。

G4には、これらに加えて、細かなデザイン上の特徴がいくつかあります。バッグの底部が膨らんでいる形をしていますが、これは寝袋をスタッフサックに押し込まずにパッキングできるようにと設計したものです。

軽量な寝袋をパッキングするときは、そのパフォーマンスを最大限に高めることが重要です。そのための 1 つの方法は、過度に圧縮しないようにすることです。

雨が予想される場合でも、寝袋をゴミ袋で保護しておけば、寝袋が膨らんだまま収納するスペースがバックパックのなかでは確保されているので、最良なパフォーマンスを維持できます。

効率的に歩くという点では、バッパックを何度も開け閉めしなくてもよいのは大事なポイントです。G4 には、メッシュの大きなサイドポケットを付けています。このサイドポケットを使えば、夜露や雨で濡れたテントを、他のギアを濡らすことなく収納できます。また昼食時などに、さっとテントを出せるので、茂みの上に広げて、手軽にお日様の下で乾かすこともできます。

またPCT の砂漠地帯のセクションでは、大きなサイドポケットに2リットルのボトルを片方に 2 本ずつ (合計 4 リットル) 入れることもできます。


G4を使ったギアリスト。重量だけでなくコストの効率性も把握できるようになっている。

背面のスリーピングパッドのスリーブは、パッドとバックパック本体の間にウォーターリザーバーを入れられる構造になっています。そのため水を補給できる場所に着いたら、バックパックを開けることなく、リザーバーをさっと簡単に取り出して、水を補給することができるのです。

また荷物の中で、最も重く、密度の高いのが水です、その水を、背中に近いところに入れることで、実際の体感の重量を最小限に抑えることができます。

また大きなフロントのメッシュポケットには、衛生用品、ファーストエイド、スナックなど、取り出しやすいアイテムを入れることができます。メッシュのため視認性も高く、欲しいアイテムを素早く簡単に見つけることができます。

自分のためのデザイン (Make Your Own Design)。


公開されているG4のパターン。Quest Outfittesでは、G4のキットを販売した。現在も同サイトで継続的に販売している。https://www.questoutfitters.com/patterns-packs2-cart.htm#G4_ULTRALITE_BACKPACK

自分のためのデザインを作る (Making your own design) ということは、さまざまな選択ができるということです。

例えば、私は通常よりも広いハーフインチ (13mm) の縫い代を採用しました。この幅があれば強度を高めるための、ダブルステッチ (2本の糸を平行に縫う縫い方) がきちんとできるようになります。それにより生地のほつれを防ぎ、ステッチの強度を担保できるようになります。

ふちどりテープ (生地の端を綴じるためのテープ) には、ウェビングテープではなく、より軽量なナイロンのグログラン・リボンを使用しました。またその後は、フレンチシーム (袋縫い ※テープなどを使わず、縫った部分を袋状に隠して仕上げるやる方) を採用して、グログラン・リボンの重量も軽減する実験をしました。

これらの軽量化の原理を適用した結果、G4の重量は約350gになりました。ちなみに当時の販売価格は70ドルです。

今日の基準からすると粗雑に見えますが、当時としては画期的なものでした。私は、誰もが自分でG4を作れるように、設計図をインターネットで無料で公開しました (現在もコチラのページでご覧になれます)。今でも、印刷されたパターン (改良された説明書付き) やキットを Quest Outfitters から購入することができます。

Quest Outfittersで最も購入されているパターンの1つが、G4です。私が使用した材料は、今日の選択肢と比較すると昔ながらのものですが、当時のパックの標準であった重いコーデュラの生地と比べるとはるかに軽量でした。

今も私がスピーカーとして講演すると、終わった後によく使いこまれた愛用のG4について、話をしてくれる人が時々いるのです。


自らMYOGしたバックパックでハイキングするグレン。ウィンドリバー・レンジにて。

グレンの「G4」は、レイ・ジャーディンの「教科書 (『The PCT Hiker’s Handbook』)」を徹底的に読み込み、そこからウルトラライトの原則と方法を自ら解釈して、MYOGすることから始まった。

最初のG1からG4まで、MYOGとテストを繰り返し、「マルチユース」と「目的にあった最軽量な素材の採用」というウルトラライトの重要な原則を導き出し、それをG4に適用した。

エンジニアらしく、ギアリストにはすべてのギアの重さ、コストを整理し、正確なファクトの把握を徹底しているところにも、ULバックパックの誕生の秘訣が垣間見られる。

またハイキング自体にいかにフォーカスできるか、という設計が取り込まれている点も、ウルトラライトの原則のひとつだろう。

次回は、G4の次に制作した「G5」の開発エピソードを語ってもらう。

(English follows after this page / 英語の原文は次ページに掲載しています)

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Glen Van Peski

Glen Van Peski

ゴッサマーギア (Gossamer Gear)のファウンダーであり、ウルトラライト (UL)、 MYOG、およびULガレージメーカーのゴッドファーザー。「take less. do more.」という言葉に、彼のウルトラライトのフィロソフィーが詰まっている。グレンはUL史において、ウルトラライトギアの最初期のULバックパックの「G4」、100g台のSUL (Super Ultralight) のバックパック「Whisper」、カーボンを採用したそれまでにない超軽量トレッキングポール「LT」、アウトドアプロダクトとしてそれまで使われてこなかったスピンネイカーを使用したバックパック「G5」やタープ「Squall tarp」等、いくつもの画期となるマイルストーンを刻んだギアを開発し続けてきた。ウルトラライトのコミュニティーへの伝説的な貢献から、トレイルネームは「Legend」と呼ばれている。

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