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パックラフト・アディクト | #32 モンテネグロ周遊 <前編>タラ渓谷と地底湖をめぐる旅

2020.05.01
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(English follows after this page.)

文・写真:コンスタンティン・グリドネフスキー 訳:安藤駿 構成:TRAILS

TRAILSのアンバサダーであるHikeVenturesのコンスタンティンから、バルカン半島の国「モンテネグロ」でのトリップレポートが届きました。

モンテネグロといえば、以前コンスタンティンが、ヨーロッパのグランドキャニオンと言われるタラ渓谷をくだる3泊4日の川旅 (詳しくはコチラ) を紹介してくれました。

モンテネグロは、タラ川だけでなく、他にもパックラフティングを楽しめる川がたくさんあるようです。今回のレポートは、以前のタラ川のトリップの続編とも言える内容。タラ川を仲間とくだった後に、ホワイトウォーターとして有名な「モラチャ川」をくだるプランを立てたところから、トリップストーリーが始まります。

のっけからハプニングがあったようですが、それも旅の醍醐味。その山あり谷ありの模様を、前編と後編にわけてお届けます。

まず前編は、タラ川からモラチャ川へと向かう道中の話です。

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タラ橋から見たタラ川と周辺の山々。



東欧の大渓谷・タラ川のトリップを終えて、バスでモラチャ川へ。



2019年の夏、コンスタンティンと彼の仲間たちは、10日間でモンテネグロにある複数の川をくだるリバー・トリップに出かけた。まずタラ川をくだり終え、次に目指すは……。

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①タラ川 (Tara River):モイコヴァツ (Majkovac) からスタートし、5日間のツーリング。 ②モラチャ川 (Moraca River):モイコヴァツ近郊の地点からスタートし、首都ポドゴリツァ (Podgorica) まで下るプラン。しかし渇水により今回は断念。 ③リム川 (Lim River):プラヴ (Plav) からスタートしモイコヴァツ近くの地点まで下るプラン (詳細は後編にて)。

私たち (シモン、ジーヴァ、シャシュク、イルマールと私) は、モンテネグロの首都・ポドゴリツァの町からモラチャ川のプットイン・ポイントへと向かうバスに乗っていました。

私たちのモンテネグロでの10日間の夏のアドベンチャー・トリップも後半戦に入っていました。

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タラ川のパックラフティング・トリップを終えて、次なるポイントへ向かう。

その日は真夏で気温も40度を優に超えていました。ここ数週間のあいだ、モラチャ川のエリアはあまり雨が降っていませんでした。局所的な大雨があって、川の水量を上げてくれたようでしたが、一部分だけだったようです。

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タラ川のゴール地点。5日間にわたってホワイトウォーターと渓谷美を存分に楽しんだ。

しかし幸いにも、タラ川のほうは水位が高くなっていたのです。2年前に漕いだときよりも、かなり水位が上がってくれていました (2017年のタラ川については過去の記事を参照)。おかげで今回は、2年前よりも上流のモイコヴァツから漕ぎはじめることができました。

タラ川には、デビルズ・キャニオンというクラス V (※) の大きな瀬があります。デビルズ・キャニオンに行くには特別なパーミッション (許可) が必要で、実はそのパーミッションを取るのに6時間もがかかってしまいました。急ぎめの行程でしたが、それでもなんとか私たちはタラ川を5日間で漕ぐことができたのです。

※クラス:瀬 (川の流れが速く水深が浅い場所) の難易度。クラス (グレードや級とも表現される) が I〜VI (1〜6級) まであり、数字が大きいほど難易度が高い。

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意図したわけではなかったのですが、私たちは2種類の別々のパドリング・パーミット (川を漕ぐための許可証) を取得しなければなりませんでした。

1つは、ナショナルパークに入るための1日分のパーミッションでした。残り3日分のパーミッションについては、また翌日に戻ってきて取得するように、レンジャーに説明されたのです。なぜそんな面倒なことをしなければならないのか? 結局それはわかりませんでした。レンジャーたちが説明したくなかったのか、 あるいはうまく説明ができなかったのか……。

この一件によって、私たちのあいだで “ Why Montenegrin people !? ” というお決まりフレーズが生まれました。



巨大なアーチ状の橋として有名なタラ橋。



タラ川での5日間の川旅を楽しんだ一行は、スケジュールにゆとりがあったため、モラチャ川に向かう前に「タラ橋」に立ち寄ることにした。

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全長365m、地上高172mのタラ橋。歴史ある建造物として一見の価値あり。

タラ川を漕いだ後もまだ十分に時間が余っていたので、タラ橋 (Đurđevića Tara) に遊びに行きました。タラ橋は全長が365mもの長さがあり、川から高さ172mのところに架かっている橋です。

橋は5本のアーチで支えられています。この橋が完成した1940年当時、タラ橋はアーチ状の橋としてはヨーロッパ最大のものでした。そしてこの橋は、クルマでタラ渓谷を渡ることができる唯一の場所でもあるのです。

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タラ橋からタラ川を眺める日本人のシモン。彼は、休暇を奥さんとトルコで過ごす予定で、そのタイミングで遊びに来た。

私とイルマールが初めてタラ川を漕いだ時は (※訳注:2017年のトリップ) 、この橋を下から見上げていました。でも今はその上を歩きながら、川を見下ろしています。灰色の高い山々に囲まれたなか、緑に覆われた谷を削るように、銀色の線のタラ川が流れています。

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タラ橋からタラ川を見下ろす。これだけ離れているにもかかわらず透明度の高さが一目瞭然。



洞窟のなかにある神秘的な湖を、パックラフトで探索する。



タラ橋の近くには、実は洞窟と地底湖が存在する。友だちからのアドバイスにより、今回は地底湖をパックラフトで楽しむことにした。

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洞窟を目指して、探検隊のごとく連なって歩いていく。

私たちは、タラ橋の観光だけで終わらせず、洞窟の中にある地底湖を探検しに行くことにしました。タラ川のなかでも最も美しい滝の上部に、その洞窟があるのです。

初めてこの洞窟に訪れた時は、滝の美しさに目を奪われて、その上に神秘的な美しい湖が隠れているなんて、まったく思ってもみませんでした。

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ついに洞窟に到着。あたりは静かで、神秘的な雰囲気がただよっている。

でも今回は、ちゃんとパックラフトを持って、洞窟があるところまで歩いて上がってきました。そしてみんなで1つのパックラフトを交代で使って、その地底湖のなかを漕いで遊びました。

実は地底湖に行けたのは、アニカのおかげでした。彼女のアドバイスがなければ、私たちはまちがなく今回もこの洞窟を見逃していました。

アニカはパックラフト・トーレン (ドイツにあるラフティングガイドの会社) にいる女性で、何度もこの川のあたりに来たことがありました。彼女はガイドでお客さんを連れてきたりもしていて、このエリアの川をよく知っていたのです。

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洞窟内部の湖をパックラフティング。



ホワイトウォーターが楽しめるモラチャ川。



タラ橋や地底湖を堪能したコンスタンティンたちは、今回の旅の目的地のひとつ「モラチャ川」へと向かった。そこはどんな川なのか?

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水位をはじめとした川の情報はもちろん、パドリングに関するさまざまなコンテンツが掲載されているチェコのサイト。 (http://rivers.raft.cz/より)

モラチャ川は比較的小さな川ですが、ホワイトウォーターを楽しめる川として、とても人気があります。モラチャ川は、モンテネグロ北部に水源があり、美しく深い峡谷を通り、首都ポドゴリツァへと流れています。

モラチャ川の上流部16kmのセクション (レディス村〜モラチャの修道院) はクラス IV〜Vの難易度の高いセクションですが、修道院から下流は徐々に漕ぐのが簡単になってきます。修道院からの18kmはクラス III~III+ のレベルで、首都までの残り22kmはクラス I~IIのレベルです。

モラチャ川のホワイト・ウォーターセクションをくだることができる主な時期は、4〜6月 (または10月) です。しかし、私たちが訪れたのは7月の終わり。それがそもそもの間違いでした。

私たちは、この旅を計画している時、チェコのカヤックサイトを見つけました。このサイトには、ヨーロッパのいろいろな川の情報が載っていて、川の水位の最新情報もありました。このサイトに、モラチャ川の情報も掲載されていました。

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スロベニア人の友だち、ジーヴァ。スロベニアとモンテネグロはかつてユーゴスラビアの一部であったにもかかわらず、彼女はタラ川のエリアに一度も行ったことがなかった。

このサイトを見て、タラ川の水位が次第に下がっていることを知りました。私たちがタラ川を漕ごうとしていた時期は、水位はほとんど平均を下回っていたのです。でも水位が実際にどれくらいの状態なのか。それがパックラフトだったらまだ十分に漕げる水位なのか。その時の私たちには、判断できませんでした。

タラ川でのトリップで最後に泊まったキャンプ・グラブというキャンプ場で、モラチャ川をよく知る地元のパドラーに出会いました。彼にモラチャ川の水位を訊ねると、嬉しいことに、タラ川の水位と同じくらいだから、パックラフトをするには十分ではないか、と教えてくれたのです。

それで、冒頭に書いたように、私たちは首都ポトゴリツァからモラチャにある修道院に向かうバスに乗っていたのです。



新たな川旅の舞台に決まったリム川へ。



目前にして、なんとモラチャ川の水位が低すぎることが判明。無理やり漕ぐか、あきらめるか……コンスタンティンたちは判断を迫られた。

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モラチャ川をあきらめて、バスでリム川へ。左端がシャシュク、その隣がイルマール。この二人のロシア人の友だちとは、一緒に何度も旅をしている。

しかし実際にモラチャ川を見てみると、まったく絶望的な水位でした。

「十分な水位があるとは思えない」と私はシモンにこぼしました。彼も同意見でした。ずっと後になって、その地元のパドラーは、私たちがモラチャ川の難易度を聞いたのだと誤解したのだろう、と気づきました。川のレベルとは、難易度ではなく水位のことだったのに……。映画『ロスト・イン・トランスレーション』のような言語問題を表す話です。“ Why Montenegrin people !? ”

これからどうしようか? バスを降りてポトゴリツァに戻る次のバスに乗ろうか? それとも途中で浅くてスタッグしてしまうリスクを承知で、川を漕いでみようか? それかなにかまったく違うことをしようか?

軽い話し合いのあと、私たちはもう少し先のところにある、リム川を漕いでみることにしました。私たちがさらに信頼するようになったチェコのウェブサイトには、十分な水位があると書かれていたのです。幸運なことに、乗っていたバスの行き先は、リム川のスタートポイントであるプラヴの街でした。

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リム川のスタートポイントとなるプラヴ。山と湖に囲まれた自然豊かな街。

私たちは現実を受け止め、このプランを採用しました。バスの運転手に残りの代金を払いこのバス旅を楽しみました。バスは元々の目的地であったモラチャの修道院を通り過ぎて、はるか北にある、たった5日前にこのタラ川のトリップを始めたモイコヴァツへと進み、人口の多いリム渓谷沿いの山々を越えて、東モンテネグロのプラヴの街へと向かうのでした。

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タラ川のゴール地点で撮った集合写真。

ホワイトウォーターを楽しみにしてたモラチャ川が、まさかの水位不足で漕げなくなってしまったコンスタンティンたち。

でも、大渓谷にまたがる巨大なタラ橋に興奮したり、さらには洞窟を探して、その中の湖を漕いだりと、仲間たちと一緒になんだかんだで楽しんでいる姿が印象的でした。

また、すぐさまプランが変更できるのは、自然豊かなモンテネグロならでは。果たして次なる目的地のリム川は、無事くだることができたのでしょうか? 後編をお楽しみに。

TRAILS AMBASSADOR / コンスタンティン・グリドネフスキー
コンスタンティン・グリドネフスキーは、ヨーロッパを拠点に世界各国の川を旅しまくっているパックラフター。2012年に、友人と一緒に『HikeVentures』を立ち上げ、パックラフトによる旅を中心に、自らの旅やアクティビティの情報を発信している。GoPro Heroのエキスパートでもあり、川旅では毎回、躍動感あふれる映像を撮影。これほどまでにパックラフトにハマり、そして実際に世界中の川を旅している彼は、パックラフターとして稀有な存在だ。パックラフトというまだ新しいジャンルのカルチャーを牽引してくれる一人と言えるだろう。

(English follows after this page)
(英語の原文は次ページに掲載しています)

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WRITER
Konstantin Gridnevskiy

Konstantin Gridnevskiy

1978年ロシア生まれ。ここ17年間はオランダにある応用科学の大学の国際旅行マネジメント課にて、アウトドア、リーダーシップ、冒険について教えている。言語、観光、サービスマネジメントの学位を持っていて、研究は、アウトドアでの動作に電子機器がどう影響するか。5年前からパックラフティングをはじめ、それ以来、世界中で川旅を楽しんでいる。これまで旅した国は、ベルギー、ボスニア、クロアチア、イギリス、フィンランド、フランス、ドイツ、日本、モンテネグロ、ノルウェー、ポーランド、カタール、ロシア、スコットランド、スロバキア、スロベニア、スウェーデン、オランダ。その他のアクティビティは、キャンプ、ハイキング、スノーシュー、サイクリングなど。2012年に、友人と一緒に『HikeVentures』を立ち上げ、自らの旅やアクティビティの情報を発信している。
WEB: www.hikeventures.com/

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