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パックラフト・アディクト | #32 モンテネグロ周遊 <後編>リム川〜シュコダル湖〜コトル湾

2020.05.06
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(English follows after this page.)

文・写真:コンスタンティン・グリドネフスキー 訳:安藤駿 構成:TRAILS

モンテネグロのリバートリップの後半戦。モンテネグロに、パックラフトを楽しめるスポットがこんなにたくさんあるなんて、僕らも知りませんでした。

コンスタンティンと仲間たちは、ホワイトウォーターが楽しめるリム川の76kmのセクションを、数日かけて下る予定でした。しかし実際は、トラブルによって早々に切り上げることに。

なかなかプラン通りにいかない一行。しかし旅の打開策として、アドリア海のほうに向かいました。そしてバルカン半島最大の湖として有名な「シュコダル湖」を漕いだり、世界遺産の町「コトル」があるコトル湾に浮かぶ島を漕いだり、結果的にはかなりバリエーションに富んだトリップになったようです。

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リム川からシュコダル湖へ向かう途中の風景。



今回のTRIP MAP



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①リム川 (Lim River):プラヴ (Plav) からスタートし、76km下る予定だったが10km地点のムリノ (Murino) で終えることに。②シュコダル湖 (Lake Skadar):ゼータ (Zeta) 駅のそばの川から漕ぎ出して湖へ。③コトル湾 (Bay of Kotor):コトル湾に浮かぶ2つの小島を巡る。



リム川の起点、プラヴの町でのテント泊。



リム川は、モンテネグロで3番目に大きい川で、長さでいうとタラ川に次いで長い川です。モンテネグロからセルビア、ボスニア、ヘルツェゴビナへとリム川は流れています。

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当初は、リム川の76kmのセクションを下るプランだった。

プラヴ湖を水源とし、そこから76kmの区間では、クラスI – II から III – IV (※) までのホワイトウォーター (急流) を楽しむことができます。トップレベルのパドラーにしか楽しめないであろうクラスVの激しい瀬もひとつだけあります。

モラチャ川と同様に、リム川でパドリングが楽しめる主な時期は4〜6月です。

チェコのカヤックサイト (水位をはじめとした川の情報はもちろん、パドリングに関するさまざまなコンテンツが掲載されているWEBサイト。http://rivers.raft.cz/) によると、今 (7月) でも十分な水量があるようでした。実際、私たちがバスから川を見た時も、十分な水量があるのがはっきりと確認できました。

しかしリム川に対する最初の印象はあまり良いものではありませんでした。タラ川やモラチャ川と違って、リム川は自然の中の川ではないのです。

川の両岸には農家の家が建っていて、村や街のなかも通ります。旅がスタートしてから何日も自然の中で過ごしてきたこともあって、無理やり文明の世界に連れ戻されたような感じがしました。

※ クラス:瀬 (川の流れが速く水深が浅い場所) の難易度。クラス (グレードや級とも表現される) が I〜VI (1〜6級) まであり、数字が大きいほど難易度が高い。

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リム川のプットインポイントであるプラヴのキャンプサイト。

私たちはパドリングのスタートポイントのプラヴに到着し、川の近くにあるキャンプサイトを見つけました。ただ、残念ながらそこはかなり混んでいました。このキャンプサイトで濡れた道具を乾かしながら、一晩を過ごしました。このとき私たちはここに来たのがよい決断だったのか、まだ少し不安に思っていました。



楽しいホワイトウォーターを期待したのに、パックラフトは傷だらけに。



次の日の朝は晴天でした。私たちは荷物を川まで引きずって行き、パックラフトの準備をしました。辺りの山々の景色は美しく、水位も問題なさそう。目の前を流れる川は、この先にクラスIII – IVの瀬がある10kmのセクションがあり、さらにその先にクラスII+ の17kmのセクションが続きます。間違いなく、今日はいい日になるはずです。

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キレイだと思っていたリム川は、石やゴミがたくさんあり、困難を極めた。

しかし、漕ぎはじめてすぐに、そんな私たちの希望は消えてしまいました。遠くから見た時はキレイで透きとおっていた水は、近くで見るとかなり汚れていました。川の水からは嫌な匂いがし、ゴミもたくさんありました。タラ川でもよく見たようなクルマのタイヤではなく、ここでは満タンのゴミ袋が川底に引っかかっていました。Why Montenegrin people!?

パックラフトの船底を何度も石でこすりながらも、この急流をなんとか進んでいきました。

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途中、ドライスーツが破けてしまったジーヴァ。

だんだんと、みんながこの川に対して嫌な気持ちを感じはじめていました。ほんの数km進んだところで、ジーヴァは川のなかに入ったときにドライスーツが破けてしまいました。シャシュクはパドルが壊れました (幸運にも、私たちはスペアを持っていました)。イルマールはパックラフトがパンクしました。急いで穴を塞いで、私たちは進み続けました。

私のパックラフトも尖った石でこすってしまい、表面にこまかな傷がつき、小さな穴もできてしまいました。シャシュクにいたっては、パックラフトの底がぱっくりと切れてしまいました。かなり深い傷で、シート部分までダメージを受けてしまったようでした。無傷で済んだのはシモンだけでした。

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シャシュクのパックラフトの船底はご覧のとおり。

状況はどんどん悪くなっていました。もうすでに随分とひどい目にあいました。みんなで話し合って、とり返しのつかないダメージを受ける前に、この川からエスケープしようと決めました。

最初はビイェロ・ポリエまでの76kmを漕ぐ予定でしたが、10km漕いだ地点のムリノという小さな町で上陸することに。そこからポドゴリツァまでバスで戻ることにしました。

これは前日と全く同じルートでした。ひょっとしたらバスも同じだったかもしれません。



アドリア海近くの、バルカン半島最大の湖「シュコダル湖」へ。



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翌朝は、みんなでパックラフトのリペアタイム!

翌日、午前中はみんなパックラフトの修理をしました。次の日にはイルマールとシャシュクがロシアに帰ることになっていたので、近場で簡単に遊べそうなシュコダル湖をみんなで漕ぐことにしました。

シュコダル湖は、カルスト湖 (石灰岩が雨水に溶食されたカルスト地形にできた湖) で、大きさは南ヨーロッパ最大です。場所は、モンテネグロとアルバニアの国境沿いにあります。湖のモンテネグロ側は、国内最大のナショナルパークに囲まれていて観光客にとても人気のあるところです。

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次なる目的地「シュコダル湖」へ電車で向かう。

私たちは湖に直行せずに、まずは海(アドリア海)へ向かう電車に乗り、ゼータという小さな駅まで行きました。その駅はモラチャ川から数百m離れたところにあって、そこから湖へと漕いでいくことにしたのです。

ゼータに流れている川は、広くゆったりとした流れで今の気分にぴったりでした。その日は40度ととても暑く、持っていた水もすぐに飲みきってしまいました。幸運なことに、水はハウスボートに住む地元の人に分けてもらうことができました。ついでにそこで少し泳いで、クールダウンしました。

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雄大で開放感にあふれるシュコダル湖。



「シュコダル湖」で国立公園のレンジャーとちょっとした口論に。



シュコダル湖に着く少し前に、モーターボートに乗った2人のレンジャーが近づいてきました。「ナショナルパークに入るには、一人5ユーロ払ってくださいね」とレンジャーは話しかけてきました。ジーヴァがスロバキアから来たことがわかると「あぁ、あなたは私たちの一員だから払わなくていいですよ。でも残りの4人は払ってくださいね」と説明してくれました。

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モーターボートに乗ったレンジャーに呼び止められる。

湖まで漕いできた頃には、もう十分にフラットウォーター(流れのほとんどない静水)を漕ぐのを楽しんでいました。そしてなにより「いま一番必要なものは冷たい飲み物だ!」ということで、湖の対岸まで漕ごうという予定はそっちのけで、地図で見つけた近くのレストランに直行しました。

都合の良いことにポドゴリツァに戻る列車の駅の近くに、そのレストランはありました。しかし残念なことに、湖の周遊船に乗りに来た日帰りの観光客で、お店はごった返していました。何艇かの船がレストランの前に停留していて、他にもまだここに向かってきている船もありました。そして、ちょっと先に目をやると、50mくらい先にある公衆トイレのようなところから、臭い水が湖に流れこんでいるのが見えたのです。Why Montenegrin people!?

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レンジャーが去ってからは、のんびりと湖上パックラフティング。

これからどうしようか思って立ち止まっていたら、そんな私たちにパークレンジャーが気づいたようでした。レンジャーは「シュコダル湖ナショナルパーク」と書いてある (さっきのトイレの隣の) プレハブから近寄ってきました。

そして「ここを漕ぐなら料金を支払ってもらう必要がありますよ」と言ってきました。すでにそれは支払ったと伝えましたが、「それは入場料です。ここで漕ぐには、それとは別に1時間20ユーロを払ってもらう必要があるんですよ」と。

しかしレンジャーの説明はおそらく間違っていました。実際、彼の言った金額はカヤック自体を借りる値段であることが、ナショナルパークのサイトを見てわかりました。それを彼に口頭で伝えるだけでは理解してもらえず、そのサイトを見せてやっと彼は料金の要求を取り下げてくれました。Why Montenegrin people!? そんなこんなで、この大きな湖を巡る、私たちのささやかな冒険は終わりました。

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いろいろありながらも、シュコダル湖のパックラフティングを楽しんで次の目的地へ。



世界遺産の町「コトル」を散策。



次の日、イルマールとシャシュクがロシアに帰って行きました。シモンとジーヴァと私は、コトル湾へと向かいました。コトル湾は、ヨーロッパ最南端のフィヨルドと言われたりしているところです(実際は違うそうです)。

しかしその歴史と自然から、このエリアは世界遺産に登録されています。このエリアのコトルとペラストという2つの小都市は、とても人気があるスポットになっています。

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世界遺産にもなっているコトルの街並み。

一泊することにしたコトルの町は、古代ローマ時代のような町でした。実際、この古い町にあるものは、中世やベネチア期から残っているものがたくさんあるのです。興味深いことに、この国の名前 (モンテネグロは黒い山という意味) にまつわる話は、この場所に関連しています。近くのロブチェン山という名前も、その昔、深く暗い森に囲まれていたことに由来します。

サン・ジョバンニ要塞は、コトルで行くべき場所のひとつです。崖の上にあって、湾をのぞむ素晴らしい風景を楽しむことができます。

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サン・ジョバンニ要塞を目指して、デイハイキング。

サン・ジョバンニ要塞のある崖の上に登るには、8ユーロを払って曲がりくねった階段を登るか、あまり知られていないのですが、要塞の後ろに出る道を使うこともできます (この道自体も面白いです)。

このルートは、公式ルートと違って無料です。ルート上にはいくつか古い遺跡もありますし、しかも野生の山羊たちを見ながら歩くことができます。シモンとジーヴァと私も、みんなそれを楽しみながら歩きました。



ラストは、コトル湾に浮かぶ2つの小島へ。



最後の2日間は、ローカル・バスに乗ってペラストというところに遊びに行きました。そこで海のすぐ近くにある、2つの小さな島のまわりを漕ぐことにしました。聖ジョージ島 (St. George Island) と岩礁の聖母 (Our Lady of the Rocks) という島です。

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湾岸から小島を目指してプットイン。

その2つの島は近くにあるのですが、まったく異なる島です。

聖ジョージ島は、自然の島です。12世期ベネディクト会修道院に占領された島で、今もその修道院が所有していて、特別な許可を得ないと入ることができません。

岩礁の聖母は、人工の島です。この島には地元の言い伝えがあります。航海から無事に帰還できた船員たちが、海に石を投げ込んでできた島だと言われているのです (地元の人は、言い伝えにならって、毎年6月22日に船から石を投げ込むそうです)。

この島には美しいカトリックの教会と博物館があり、多くの旅行者が訪れます。もし私たちもこの伝統を先に知っていたら、石を持っていったでしょう。

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世界遺産の街並みを背景に、小島へと向かう。暑さも落ち着き、とても気分のいいひと時だった。

これで私たちの今回の冒険はほぼ終わりです。すべてが計画どおりに進んだわけではありませんが、それでもうまくいったと言えるでしょう。

しかも最後の最後にも、私たちは大きな雷雨が海から近づいてきたために、すぐにこの島から脱出しならればらないという事態になりました。まったく思うように物事は運ばないものですね……。

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トラブルやハプニングもありましたが、仲間たちとモンテネグロを存分に楽しむことができました。

前編・後編でお送りした、コンスタンティンと仲間たちによるモンテネグロでのパックラフティング・トリップ。

本人たちにとってみれば、苦労や困難もあったでしょうか、読んでいる側としては、行ったことのないモンテネグロの魅力がふんだんに詰まっていて、テンションが上がるレポートでした。

TRAILS編集部crew全員、「いつかコンスタンティンと一緒にモンテネグロを旅してみたい! 」と思わずにはいられませんでした。

TRAILS AMBASSADOR / コンスタンティン・グリドネフスキー
コンスタンティン・グリドネフスキーは、ヨーロッパを拠点に世界各国の川を旅しまくっているパックラフター。2012年に、友人と一緒に『HikeVentures』を立ち上げ、パックラフトによる旅を中心に、自らの旅やアクティビティの情報を発信している。GoPro Heroのエキスパートでもあり、川旅では毎回、躍動感あふれる映像を撮影。これほどまでにパックラフトにハマり、そして実際に世界中の川を旅している彼は、パックラフターとして稀有な存在だ。パックラフトというまだ新しいジャンルのカルチャーを牽引してくれる一人と言えるだろう。

(English follows after this page)
(英語の原文は次ページに掲載しています)

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WRITER
Konstantin Gridnevskiy

Konstantin Gridnevskiy

1978年ロシア生まれ。ここ17年間はオランダにある応用科学の大学の国際旅行マネジメント課にて、アウトドア、リーダーシップ、冒険について教えている。言語、観光、サービスマネジメントの学位を持っていて、研究は、アウトドアでの動作に電子機器がどう影響するか。5年前からパックラフティングをはじめ、それ以来、世界中で川旅を楽しんでいる。これまで旅した国は、ベルギー、ボスニア、クロアチア、イギリス、フィンランド、フランス、ドイツ、日本、モンテネグロ、ノルウェー、ポーランド、カタール、ロシア、スコットランド、スロバキア、スロベニア、スウェーデン、オランダ。その他のアクティビティは、キャンプ、ハイキング、スノーシュー、サイクリングなど。2012年に、友人と一緒に『HikeVentures』を立ち上げ、自らの旅やアクティビティの情報を発信している。
WEB: www.hikeventures.com/

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